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1章 葉月と樹
樹・・・Maison des fleurs(花の館)の前に立つ。
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「なぁに?慌てて…どうしたの葉月ちゃん?」
小走りに逃げていった彼女を、入れ違いに部屋に入ろうとしたジョセフィーヌ氏が
目を丸くし、そう言って、彼女の足を止めさせると、
彼女と俺を交互に見ながら
「久住君もその微妙な顔は…なぁに?」
野太い声で、小首を傾げる姿は…確かに妙だった、だが…不思議な事に、自然とその言葉は出た。
「いえ、なんでもないです。ジョセフィーヌさん…」
「あら、ジョセフィーヌと呼んでくれるの?嬉しい~」
「えっと…はい。」
そう答えた俺に、葉月と言う少女は…にっこりと笑い、ちょこんと頭を下げた。…この…ジョセフィーヌ氏も大事な人なんだ…
ジョセフィーヌ氏は、名前を呼ばれた事に、すこし照れくさそうに微笑んで、
「ほんと、嬉しい。」とにっこり笑うその姿に…
なんだか…もうそんな細かい事はいいや、という気分が、どうやら俺に…笑顔を作らせたようだった、それも満面の笑みだったのだろう、ジョセフィーヌ氏が、そして…葉月ちゃんが、少し驚いたようにキョトンとしていたから…
なんだが…可笑しかった。どうしたんだ…俺?
なにが俺に笑顔を作らせるんだ…。
まさか朝飯が美味かったからか?おいおい…何を言ってんだ。
きっと…そうきっと…
この住人のバカがつくほどの優しさが心地良いからだろうなぁ…
だが…この優しさは俺にとっては…毒かもしれない…このままここにいたら…じわじわと俺の中で広がり、動けなくなりそうだ。
…ここまでだ。
…もう…そろそろ引き上げなくては、体どころか、心まで動けなくなるかもしれない。
また、あの世界に…あの人達の中に…戻らなきゃならない。
いつまでも…逃げてもいられないと言うことだ。
行くか…
「ジョセフィーヌさん…お世話になりました。葉月ちゃん、ありがとう。」
「帰れる?ここが何処かわかる?」
ジョセフィーヌ氏の言葉に、俺はスマホを出して、
「これで…」とスマホを軽く振った。
「そう…」
「あらためて、お礼に来ます。お世話になりました。」
「いいのよ。お礼だなんて。」
俺の横顔に心配そうな視線が、あたっている事に気が付き、そちらに顔を向け
「葉月ちゃん…本当に悪かった。」
俺の言葉に、彼女は頭を大きく横に振って笑った。
アルミの玄関扉なのに…なぜだか重かった。
俺は下を向き、(帰りたくない…と思うなんて…まるでガキだなぁ。)と心の中で呟きクスリと笑うと、二人に頭を下げて、重い扉に手をかけた。
*****
ここは…花見中央駅の近くか…
玄関の扉を開けた瞬間、目の前に公園があった、そしてその公園の木々の間から駅が見え、俺は、周りを見渡した。この公園で酔いつぶれていたのか…そして…あの少女に…キスを…俺があの子にキスをしようとしていたという。
なぜ…あの子に…?
酔っていたからか…?
だが…有り得ない。そんな生易しい思いじゃなかったはずだ。
あの唇が忘れられないから…忘れたくないから…誰とも…
やっぱり…日本に帰って来るべきじゃなかった。
うな垂れた俺の足元を、公園のLEDのライトが照らし…強張っていた口元が少し緩んだ。
昨日からまったく…なにをやってんだ。俺は…
あぁ…あの靴、気に入っていたのになぁ…
なんで片方をなくすんだ。
『私の靴を履いていく?』そう言ったジョセフィーヌ氏の声を思い出し、今度は声を出して笑った。大きさは合うが…さすがにハイヒールはないよなぁ。
でも…これもないか…
そう思って見た足元は、紺色のスニーカー…但し22.5cm。
葉月と呼ばれていた少女の靴。
『あっ!!私スニーカーを持ってます。紺色だし…』そう言って、二階に駆け上がって持ってきたのは、確かに紺色のスニーカー…但し22.5cm。
『履いてください。』と差し出した途端、彼女は顔を歪め
『ど、どう見ても…小さいですね…。』
150cmぐらいの女性の靴のサイズと、185cmの男の俺の靴のサイズが同じのはずはない。だけど…なんだか、嬉しかった。
人に優しくできるここの住人が…この少女の気持ちがなんだか、嬉しかった。
どうやら俺にも、まだ人の優しさに感動できる気持ちは残っているらしい…まぁ、それが嬉しくて
『借りるね、葉月ちゃん。ありがとう。』と言えた。
俺はまた周りをゆっくり見渡した。
花見中央駅は、西側の歓楽街、東側のビジネス街と分かれているが、ここは西側か…
かなりの一等地。こんな繁華街に…こんなアパートがあって、あんな住人達が住んでいるんだ。
口元が緩み、俺は後ろを振り返り、アパートを見た。
2階立て、3部屋あり…一階は101号室だけで、ジョセフィーヌ氏が使っている。どうやら2軒分の広さがあるのだろう。201号室が女Aこと理香さん、そして202号室が少女Bこと葉月ちゃんが住んでいる。
Maison des fleurs(花の館)…か…ジョセフィーヌ氏が考えそうな名前だ。
だが外装と…アパート名が…ぜんぜん釣り合ってない。
でも…なんだかそれ以外のアパート名は合わないような気がする。
ここは…俗世間から離れた空間なのかもしれない。そして住人達も…
さぁて…俗物は花の館から…出ますか。
スマホを出し、俺が住む俗世間へと連絡を取った。
「あぁ…俺だ。」
《樹様、心配しておりました。》
「済まない。悪いが至急調べて欲しいんだ。」
《はい。》
「花見中央駅の西側あるアパートの住人を……いや…やっぱりいい。」
《樹様?》
「すまないが…花見中央駅の西側にある公園に、迎えに来てくれないか。」
『はい。』
午前6時30分…
ようやく…朝日が昇った。
小走りに逃げていった彼女を、入れ違いに部屋に入ろうとしたジョセフィーヌ氏が
目を丸くし、そう言って、彼女の足を止めさせると、
彼女と俺を交互に見ながら
「久住君もその微妙な顔は…なぁに?」
野太い声で、小首を傾げる姿は…確かに妙だった、だが…不思議な事に、自然とその言葉は出た。
「いえ、なんでもないです。ジョセフィーヌさん…」
「あら、ジョセフィーヌと呼んでくれるの?嬉しい~」
「えっと…はい。」
そう答えた俺に、葉月と言う少女は…にっこりと笑い、ちょこんと頭を下げた。…この…ジョセフィーヌ氏も大事な人なんだ…
ジョセフィーヌ氏は、名前を呼ばれた事に、すこし照れくさそうに微笑んで、
「ほんと、嬉しい。」とにっこり笑うその姿に…
なんだか…もうそんな細かい事はいいや、という気分が、どうやら俺に…笑顔を作らせたようだった、それも満面の笑みだったのだろう、ジョセフィーヌ氏が、そして…葉月ちゃんが、少し驚いたようにキョトンとしていたから…
なんだが…可笑しかった。どうしたんだ…俺?
なにが俺に笑顔を作らせるんだ…。
まさか朝飯が美味かったからか?おいおい…何を言ってんだ。
きっと…そうきっと…
この住人のバカがつくほどの優しさが心地良いからだろうなぁ…
だが…この優しさは俺にとっては…毒かもしれない…このままここにいたら…じわじわと俺の中で広がり、動けなくなりそうだ。
…ここまでだ。
…もう…そろそろ引き上げなくては、体どころか、心まで動けなくなるかもしれない。
また、あの世界に…あの人達の中に…戻らなきゃならない。
いつまでも…逃げてもいられないと言うことだ。
行くか…
「ジョセフィーヌさん…お世話になりました。葉月ちゃん、ありがとう。」
「帰れる?ここが何処かわかる?」
ジョセフィーヌ氏の言葉に、俺はスマホを出して、
「これで…」とスマホを軽く振った。
「そう…」
「あらためて、お礼に来ます。お世話になりました。」
「いいのよ。お礼だなんて。」
俺の横顔に心配そうな視線が、あたっている事に気が付き、そちらに顔を向け
「葉月ちゃん…本当に悪かった。」
俺の言葉に、彼女は頭を大きく横に振って笑った。
アルミの玄関扉なのに…なぜだか重かった。
俺は下を向き、(帰りたくない…と思うなんて…まるでガキだなぁ。)と心の中で呟きクスリと笑うと、二人に頭を下げて、重い扉に手をかけた。
*****
ここは…花見中央駅の近くか…
玄関の扉を開けた瞬間、目の前に公園があった、そしてその公園の木々の間から駅が見え、俺は、周りを見渡した。この公園で酔いつぶれていたのか…そして…あの少女に…キスを…俺があの子にキスをしようとしていたという。
なぜ…あの子に…?
酔っていたからか…?
だが…有り得ない。そんな生易しい思いじゃなかったはずだ。
あの唇が忘れられないから…忘れたくないから…誰とも…
やっぱり…日本に帰って来るべきじゃなかった。
うな垂れた俺の足元を、公園のLEDのライトが照らし…強張っていた口元が少し緩んだ。
昨日からまったく…なにをやってんだ。俺は…
あぁ…あの靴、気に入っていたのになぁ…
なんで片方をなくすんだ。
『私の靴を履いていく?』そう言ったジョセフィーヌ氏の声を思い出し、今度は声を出して笑った。大きさは合うが…さすがにハイヒールはないよなぁ。
でも…これもないか…
そう思って見た足元は、紺色のスニーカー…但し22.5cm。
葉月と呼ばれていた少女の靴。
『あっ!!私スニーカーを持ってます。紺色だし…』そう言って、二階に駆け上がって持ってきたのは、確かに紺色のスニーカー…但し22.5cm。
『履いてください。』と差し出した途端、彼女は顔を歪め
『ど、どう見ても…小さいですね…。』
150cmぐらいの女性の靴のサイズと、185cmの男の俺の靴のサイズが同じのはずはない。だけど…なんだか、嬉しかった。
人に優しくできるここの住人が…この少女の気持ちがなんだか、嬉しかった。
どうやら俺にも、まだ人の優しさに感動できる気持ちは残っているらしい…まぁ、それが嬉しくて
『借りるね、葉月ちゃん。ありがとう。』と言えた。
俺はまた周りをゆっくり見渡した。
花見中央駅は、西側の歓楽街、東側のビジネス街と分かれているが、ここは西側か…
かなりの一等地。こんな繁華街に…こんなアパートがあって、あんな住人達が住んでいるんだ。
口元が緩み、俺は後ろを振り返り、アパートを見た。
2階立て、3部屋あり…一階は101号室だけで、ジョセフィーヌ氏が使っている。どうやら2軒分の広さがあるのだろう。201号室が女Aこと理香さん、そして202号室が少女Bこと葉月ちゃんが住んでいる。
Maison des fleurs(花の館)…か…ジョセフィーヌ氏が考えそうな名前だ。
だが外装と…アパート名が…ぜんぜん釣り合ってない。
でも…なんだかそれ以外のアパート名は合わないような気がする。
ここは…俗世間から離れた空間なのかもしれない。そして住人達も…
さぁて…俗物は花の館から…出ますか。
スマホを出し、俺が住む俗世間へと連絡を取った。
「あぁ…俺だ。」
《樹様、心配しておりました。》
「済まない。悪いが至急調べて欲しいんだ。」
《はい。》
「花見中央駅の西側あるアパートの住人を……いや…やっぱりいい。」
《樹様?》
「すまないが…花見中央駅の西側にある公園に、迎えに来てくれないか。」
『はい。』
午前6時30分…
ようやく…朝日が昇った。
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