18 / 67
1章 葉月と樹
葉月・・・チクン。樹・・・クスリ。
しおりを挟む
…チクン…
そうチクン…ってしたんだった。
胸のこの辺り?うう~ん、もっと上?あれ?もっと右だったけ…
・
・
・
21歳の女性が、路上で胸を触りまくるのは…さすがに…変だよね。
でも、どうしてチクンとしたんだろう。
『樹。あたしの彼氏になれ。』
そう、理香さんが久住さんにそう言った時だ。チクンとしたのは…あの時…あっ!久住さんの事を、樹って呼び捨てだ。と思ったんだ?う~ん、でもジョセフィーヌさんのことも大吾って呼び捨てだもんね。理香さんは…
じゃぁ彼氏?!彼氏と言う言葉でチクンとした?なんで?意味がわからないなぁ…そうよ、そう…だいたい、なぜあの時、ドアを開けて二人を見た瞬間、呆然としたんだろう。
どうして…?
わからないなぁ…呆然とするような事はなかったよなぁ…う~ん、それから、そうだ。
そのあと…理香さんがこう言ったんだ。
『樹に彼女がいたほうが、久住家にとっては安心なんだよ。だけど…悪いが、葉月じゃぁ、樹と並ぶと恋人というより、兄妹って感じだ。寧ろ私のほうが、恋人ぽっく見える。』
あぁ…その時も…チクンだった。
久住さんが好きだった人は、今は弟さんの許婚だものね。理香さんの言うとおり、久住さんに恋人がいたほうが安心ってのはわかる、そうわかるんだけど…チクンなんだよね。
はぁ~
理香さんの職場から、追い出されるように出された久住さんと私は、今…黙って並んで歩いている。久住さんはあれから…ひとことも話さない。
悩んでいるのに、私に話せないと言うことは…やっぱり、私の手じゃ、久住さんは手を伸ばせないのかなぁ。
『任せてください。今の久住さんの手も、10年前の久住さんの手も…絶対離しませんから!』
本当にそう思っているんですよ。
私の手でよければ、いつだって久住さんに手を伸ばすつもりなのになぁ。
チクン…
はぁ~
どうしたんだろう私。私の手だけでは、力が足りないのなら、たくさんの人の手も借りるべきだとも思っているのに…、それが理香さんなら、より頼りになることもわかっているのに…
でも…チクンなんだよなぁ…チクン・チクン・チクン
はぁ~
*****
隣を歩く葉月ちゃんの溜め息が大きくて、俺は密かに笑った。
横目で視線の30cm下を見る…
このふわふわの茶色いお団子頭は、何を考えているのやら…、
時折難しい顔で唸ったり、両手で胸を擦ったり…大忙しだ。
それにしても、何をやってんだ?胸を触って…クスッ…
だが俺は、この少女のような子に…圧倒されたんだった。
『だから私、お誘いを受けたパーティに行きます。
その方に会える勇気が出るように、久住さんの背中を押してあげます。
笑えないのなら、こうやって頬を引っ張ってあげます。だから…まだ、心の中で、どこに行ったらいいのかわからなくて、彷徨っている10年前の久住さんがいて…不安で堪らないのなら…手を…私に伸ばしてください。もう、心を自由にしてあげるために…終わらせましょう。』
笑って伸ばしてくれた手に、俺は縋る様に手を伸ばし
『任せてください。今の久住さんの手も、10年前の久住さんの手も…絶対離しませんから!』
と、言ってくれた言葉に…そしてあの小さな手に、勇気を貰った。
とは、言っても、俺は葉月ちゃんに、久住家と関わり合いを持たせるつもりはなかった。あの時、駅で会長に会ったばっかりに…彼女をこんな事に巻き込むことになってしまった。だが、もう今更だ。理香さんの言う通り、もう逃げられない、例え今回は逃げても、しつこく会長は追ってくるだろう。だから今回俺は、由梨菜との事も…そして久住家との事も片付けて、そして葉月ちゃんと、久住家との関わり合いを、最小限に留め、もう二度と葉月ちゃんに、久住家が関わる事がないようにするつもりだ。
そうしなければ…理香さんが異常なまでに、心配していた事が起きそうで…正直不安だ。
『あいつがお前の相手だと思われたら…余計…面倒な事になる。』
『葉月は…いろいろと問題を抱えている。』
『お前同様に…いろいろとなぁ…』
余計…面倒な事にか…
俺と同様にいろいろと…問題がか…。なにが有るんだろうか、彼女に…
横目で俺は彼女を見た。
小柄な体…
ふわふわとした茶色い髪…
大きな眼を縁取る黒く長い睫…
そして、九州では割りと見られると聞くが、珍しいへーゼル色の瞳…
葉月ちゃんがまた胸を押しながら、大きく溜め息を吐いた。
どうやら…彼女の悩みも深そうだ。
クスリと俺は、彼女の考えを邪魔しないように…抑えてまた笑った。
俺も…彼女に助けて貰うばかりじゃ情けない。
理香さん達のように葉月ちゃんを守りたい。
だが今は守るどころか、むしろ厄介ごとに引きずり込んでしまった。
片付ける。必ずだ。そして俺は久住家から出る。
もう、あの家に振り回されるのはごめんだ。
金曜日まで、もうそう日にちはない、取り合えず養父と養母に会おう、あのふたりなら、助けてくれるはずだ。秋継が生まれたとき、居場所がなくなった俺に、兄という居場所を作ってくれた人達だ。きっと…助けてくれる。
俺は、俺自身の問題にたくさんの人を巻き込んでしまった。
ならばせめて…俺を助けようとしてくれる葉月ちゃんが、俺のせいで…辛い目に遇わないように…
葉月ちゃんを大事に思っている理香さんが、心配しているような事にならないように…
俺自身が、しっかりと立ち向かわければならない。
葉月ちゃん…そう思えるようになったのは…こんな力が湧いてきたのは…
みんな…君のおかげだ。
俺はまた、横目で視線の30cm下を見ると、茶色いお団子頭が、俺の視線に気が付いたのか立ち止まり俺を見た。ヘーゼル色の瞳が揺れて…
「私は…」と言ったが、俯くと黙り込み…
小さく何か言って、俺をまた見ると、今度はにっこり笑い
「金曜日はめちゃめちゃおしゃれをして…えぇっ!!!これがあの葉月ちゃんか!!と久住さんに、驚きの声あげさせて見せますから、楽しみにしていてください!」
「じゃぁ俺は…えぇっ!!これがあの葉月ちゃんか!!と言う練習をしておく。」
「いや…それって練習の必要ないですから…」
と剥れた葉月ちゃんの頬を突きながら…俺は笑い、そして葉月ちゃんも笑った。
ごめんなぁ…巻き込んでしまって…
その笑顔を曇らせないように守るから、君を守るから…
いつまでも、笑っていて…
そうチクン…ってしたんだった。
胸のこの辺り?うう~ん、もっと上?あれ?もっと右だったけ…
・
・
・
21歳の女性が、路上で胸を触りまくるのは…さすがに…変だよね。
でも、どうしてチクンとしたんだろう。
『樹。あたしの彼氏になれ。』
そう、理香さんが久住さんにそう言った時だ。チクンとしたのは…あの時…あっ!久住さんの事を、樹って呼び捨てだ。と思ったんだ?う~ん、でもジョセフィーヌさんのことも大吾って呼び捨てだもんね。理香さんは…
じゃぁ彼氏?!彼氏と言う言葉でチクンとした?なんで?意味がわからないなぁ…そうよ、そう…だいたい、なぜあの時、ドアを開けて二人を見た瞬間、呆然としたんだろう。
どうして…?
わからないなぁ…呆然とするような事はなかったよなぁ…う~ん、それから、そうだ。
そのあと…理香さんがこう言ったんだ。
『樹に彼女がいたほうが、久住家にとっては安心なんだよ。だけど…悪いが、葉月じゃぁ、樹と並ぶと恋人というより、兄妹って感じだ。寧ろ私のほうが、恋人ぽっく見える。』
あぁ…その時も…チクンだった。
久住さんが好きだった人は、今は弟さんの許婚だものね。理香さんの言うとおり、久住さんに恋人がいたほうが安心ってのはわかる、そうわかるんだけど…チクンなんだよね。
はぁ~
理香さんの職場から、追い出されるように出された久住さんと私は、今…黙って並んで歩いている。久住さんはあれから…ひとことも話さない。
悩んでいるのに、私に話せないと言うことは…やっぱり、私の手じゃ、久住さんは手を伸ばせないのかなぁ。
『任せてください。今の久住さんの手も、10年前の久住さんの手も…絶対離しませんから!』
本当にそう思っているんですよ。
私の手でよければ、いつだって久住さんに手を伸ばすつもりなのになぁ。
チクン…
はぁ~
どうしたんだろう私。私の手だけでは、力が足りないのなら、たくさんの人の手も借りるべきだとも思っているのに…、それが理香さんなら、より頼りになることもわかっているのに…
でも…チクンなんだよなぁ…チクン・チクン・チクン
はぁ~
*****
隣を歩く葉月ちゃんの溜め息が大きくて、俺は密かに笑った。
横目で視線の30cm下を見る…
このふわふわの茶色いお団子頭は、何を考えているのやら…、
時折難しい顔で唸ったり、両手で胸を擦ったり…大忙しだ。
それにしても、何をやってんだ?胸を触って…クスッ…
だが俺は、この少女のような子に…圧倒されたんだった。
『だから私、お誘いを受けたパーティに行きます。
その方に会える勇気が出るように、久住さんの背中を押してあげます。
笑えないのなら、こうやって頬を引っ張ってあげます。だから…まだ、心の中で、どこに行ったらいいのかわからなくて、彷徨っている10年前の久住さんがいて…不安で堪らないのなら…手を…私に伸ばしてください。もう、心を自由にしてあげるために…終わらせましょう。』
笑って伸ばしてくれた手に、俺は縋る様に手を伸ばし
『任せてください。今の久住さんの手も、10年前の久住さんの手も…絶対離しませんから!』
と、言ってくれた言葉に…そしてあの小さな手に、勇気を貰った。
とは、言っても、俺は葉月ちゃんに、久住家と関わり合いを持たせるつもりはなかった。あの時、駅で会長に会ったばっかりに…彼女をこんな事に巻き込むことになってしまった。だが、もう今更だ。理香さんの言う通り、もう逃げられない、例え今回は逃げても、しつこく会長は追ってくるだろう。だから今回俺は、由梨菜との事も…そして久住家との事も片付けて、そして葉月ちゃんと、久住家との関わり合いを、最小限に留め、もう二度と葉月ちゃんに、久住家が関わる事がないようにするつもりだ。
そうしなければ…理香さんが異常なまでに、心配していた事が起きそうで…正直不安だ。
『あいつがお前の相手だと思われたら…余計…面倒な事になる。』
『葉月は…いろいろと問題を抱えている。』
『お前同様に…いろいろとなぁ…』
余計…面倒な事にか…
俺と同様にいろいろと…問題がか…。なにが有るんだろうか、彼女に…
横目で俺は彼女を見た。
小柄な体…
ふわふわとした茶色い髪…
大きな眼を縁取る黒く長い睫…
そして、九州では割りと見られると聞くが、珍しいへーゼル色の瞳…
葉月ちゃんがまた胸を押しながら、大きく溜め息を吐いた。
どうやら…彼女の悩みも深そうだ。
クスリと俺は、彼女の考えを邪魔しないように…抑えてまた笑った。
俺も…彼女に助けて貰うばかりじゃ情けない。
理香さん達のように葉月ちゃんを守りたい。
だが今は守るどころか、むしろ厄介ごとに引きずり込んでしまった。
片付ける。必ずだ。そして俺は久住家から出る。
もう、あの家に振り回されるのはごめんだ。
金曜日まで、もうそう日にちはない、取り合えず養父と養母に会おう、あのふたりなら、助けてくれるはずだ。秋継が生まれたとき、居場所がなくなった俺に、兄という居場所を作ってくれた人達だ。きっと…助けてくれる。
俺は、俺自身の問題にたくさんの人を巻き込んでしまった。
ならばせめて…俺を助けようとしてくれる葉月ちゃんが、俺のせいで…辛い目に遇わないように…
葉月ちゃんを大事に思っている理香さんが、心配しているような事にならないように…
俺自身が、しっかりと立ち向かわければならない。
葉月ちゃん…そう思えるようになったのは…こんな力が湧いてきたのは…
みんな…君のおかげだ。
俺はまた、横目で視線の30cm下を見ると、茶色いお団子頭が、俺の視線に気が付いたのか立ち止まり俺を見た。ヘーゼル色の瞳が揺れて…
「私は…」と言ったが、俯くと黙り込み…
小さく何か言って、俺をまた見ると、今度はにっこり笑い
「金曜日はめちゃめちゃおしゃれをして…えぇっ!!!これがあの葉月ちゃんか!!と久住さんに、驚きの声あげさせて見せますから、楽しみにしていてください!」
「じゃぁ俺は…えぇっ!!これがあの葉月ちゃんか!!と言う練習をしておく。」
「いや…それって練習の必要ないですから…」
と剥れた葉月ちゃんの頬を突きながら…俺は笑い、そして葉月ちゃんも笑った。
ごめんなぁ…巻き込んでしまって…
その笑顔を曇らせないように守るから、君を守るから…
いつまでも、笑っていて…
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる