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1章 葉月と樹
樹・・・話を聞く。
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バタバタと階段を降りる音に、養父が驚いたように、寝室から顔を出したが、俺の顔を見て、クスクスと笑いながら
「ベランダで叫んでいたと思ったら、今度は走り回って…元気だな。」
「父さん…。」
「慌てて階段を降りるお前を見るのは、13年ぶりかなぁ。」
あまりにも明るい養父に、なかなか言葉を発する事が出来なかった俺に
「じゃぁ、話はキッチンでもいいか?…まだ飲み足りなくて、ベットで悶々としていたんだ。ちょうど良かった。」
「お付き合いします。」
俺は、すぐにそう答えたが、飲み足りないというのは嘘だと思った。きっと俺がベランダに出たときの物音に気が付いた養父は、待っててくれたんだと思う。この人は…そういう人だ。
その気持ちが、微笑みとなって顔にでたのだろうか、養父は…
「もっと酷い顔で、階段を降りてくると思っていたんだが…」と言って笑うと。
「夜中にお前と二人で飲んだ事は…由美子には内緒だぞ?」
「母さんには…内緒にするんですか?」
「あぁ、あいつもお前と飲みたがっていたからなぁ。」
その言葉に、思わず口元が綻んでしまった。養父はそんな俺を見つめ
「樹、私にできる事があるのなら言ってくれ、遠慮は無しだぞ。」
「はい。父さん。」
実の親にも、権力のそれもおこぼれ欲しさに見捨てられた自分を、どこか卑屈に思っていた。だから、この家に養子として迎え入れられた時、どんなにこの養父母に優しくされても、どこか斜めに見ていた。ましてや実の子供の秋継がいるのに、俺に優しくするのは偽善だと疑ったことさえあった。
なぜ…そう思っていたんだろう。
なぜ愛されていないと思っていたんだろう。
目の前の愛情を見ないで、どこかに、俺だけを愛してくれる人がいると、なぜ思っていたんだろう。
そんな甘えた考えを由梨奈に求めていた。17歳の子供に、人生のすべてを預けて、生きて行けるはずはないとわかっていたのに、無謀なことだとわかったいたのに、由梨奈を救い出すと口では言いながら、それよりも、由梨奈のことよりも、ただ俺を愛してくれる人が側にいて欲しかったのかもしれない。
愛を求めて、俺はなにをやってきたんだろう。
こんなに近くに、俺を見てくれる温かい眼があったのに…。
「父さん。」
だから、頼ってもいいんだ。俺を信頼し、愛してくれるこの人を…
俺に呼ばれ、顔を上げた【父】に、俺は頼った。
「父さん。教えてください。」
「…なにを知りたいんだ?」
「ウッドフォード国と久住家との関係を」
父は一瞬、目を見開いたが、軽く頷くと
「今夜は…長い夜になるぞ。」と言って、俺のグラスにビールを注いだ。
*****
『Maison des fleurs(花の館)の住人達と知り合うとはなぁ…おまえは強運の持ち主だなぁ。』
『…えっ?どういう意味ですか?』
『…おや?それ以上は知らないのか?』
『知らないって…なにかあるんですか?!あのアパートには?』
俺は、一昨日の父との会話を思い出していた。
あの言葉の意味は、理香さんとジョセフィーヌさんを指しているだけじゃないのかもしれない、ひょっとしたら父さんは、葉月ちゃんのことも知っていて…だから…秋継も…?いや有り得ない。例え父さんが葉月ちゃんのことを知っていたとしても、そう簡単に話すとは思えない。
《教えてください。》と言ってまま、口が重い俺に父は
「…高宮 葉月さんが絡んでいるのか?」
「えっ?」
「ウッドフォード国と久住家との関係を知りたいと言ったからな。」
「…やっぱり、知っていたんですね。理香さんからですか?」
「いや、彼女ではない。彼女の青褪めた顔を見て…悪いが調べたんだ。」
「理香さんが…青褪めて…」
おそらく青褪めたのは…葉月ちゃんの秘密を知ってしまったからだ。
理香さんが葉月ちゃんの秘密を、泣きそうな顔で話した事を思い出し、ビールが入ったグラスを握り締めた。
「2年前に女の子が、あのMaison des fleurs(花の館)の住人になったと聞いた時には、松下さんはそれは楽しそうだった。幼馴染の野々村君がかなりの人間不信で、松下さんしか側に寄らせなかったのに、そこに、新しい住人を入れ、それも野々村君から誘った。松下さんとしては、ほんとに嬉しかったんだと思ったよ。だが半年後だ。青褪めた顔で、仕事をする彼女を見て、一度は《どうしたんだ。》と聞いたのだが、彼女は《何でもありません。》としか言ってくれなくて、おせっかいだとは思ったが、調べさせてもらったんだ。」
そう言って、父はグラスのビールを一気に飲むと
「高宮 葉月さんは、ウッドフォード国の現国王、セオドール・エイハブ・マクファーデン陛下の娘さんなんだろう。」
「…はい。」
「おまえから、Maison des fleurs(花の館)の住人達と知り合ったと聞いた時は、ウッドフォード国の王家と、久住家との運命を感じたよ。」
「運命?その…その運命とはなんなのですか?!」
「お前も知っているだろう。ウッドフォード国に日本人の女性が嫁いだ話を…」
心臓の音が…大きくなった。まさか…まさか…
「その女性の名前は、久住 桂子。私の母である久住 華子の祖母の姉にあたる人だ。」
俺は…その言葉に眼を瞑った。
「秋継は、その事を知っていますか?ウッドフォード国の王家に嫁いだ久住 桂子さんの話を」
「私からは、話したことはない。だが母を通して、ウッドフォード国の王家に嫁いだ久住 桂子の話はおそらく聞いていると思う。いや…それより…」
「それより…?」
「秋継は…おそらく葉月さんの両親と、葉月さんにも会った事があるはずだ。」
「えっ?!…いつ!それはいつなんですか?!」
「現国王のセオドール陛下が、日本に留学をしていた頃、セオドール陛下の父親であった当時の国王から、久住家に面倒を見てくれと話があったんだ。母はそれで、よく殿下に会っていた。秋継を久住家の頭にしたいと思っている母だ。たぶん…会わせていると思う。だが付き合いは、ウッドフォード国の政変によって、途切れてしまった。」
「途切れてしまった?」
「いや、付き合いが途切れた理由は、政変だけじゃない。母が愚かにも……画策したんだ。セオドール陛下の娘さんと秋継との婚姻を…どう言ったかはわからないが、おそらく政変で荒れ果てた、ウッドフォード国内を復興させるために、久住家は金を出すとでも言ったんだろう。葉月さんの母親は、久住 華子のその考えを聞いて姿を消し…そんな浅ましい久住家にセオドール陛下は離れていったんだ。だから、ウッドフォード国の王家と、久住家との繋がりは切れたと、すっかり安心をしていたんだが…。」
ウッドフォード国の政変によって、葉月ちゃんの両親は別れたことは、確かに葉月ちゃんの人生が変わってしまった要因のひとつだと思う。だが婆様の野望も、葉月ちゃんの人生を変えてしまったんだ。苦しかった、久住の呪縛は…葉月ちゃんまで及んでいた事に、俺は苦しかった。
「私は松下さんの青褪めた顔から、葉月さんのことを知ってしまったが、あの時少し後悔したんだ。ウッドフォード国の王家と、久住家との繋がりは切れたとはいえ、この事実を母が知れば…また何か動くのではないかと思って…恐ろしくてね。」
父はカラになったグラスに眼をやって、俺の顔を見た。
「秋継が気が付いたとなれば…母も…おそらくいずれ気が付く。」
「父さん?」
「財界の一部で、噂があるんだ。由梨奈さんの父親に特捜が内偵をしていると…。もしそれが本当なら、そして葉月さんのことを知れば…母は、あの久住 華子はどう動くか想像がつくだろう。樹。」
俺は頷いた。
婆様なら、家柄に拘るあの婆様なら…葉月ちゃんを秋継の妻にしたいと思うだろう。
「ベランダで叫んでいたと思ったら、今度は走り回って…元気だな。」
「父さん…。」
「慌てて階段を降りるお前を見るのは、13年ぶりかなぁ。」
あまりにも明るい養父に、なかなか言葉を発する事が出来なかった俺に
「じゃぁ、話はキッチンでもいいか?…まだ飲み足りなくて、ベットで悶々としていたんだ。ちょうど良かった。」
「お付き合いします。」
俺は、すぐにそう答えたが、飲み足りないというのは嘘だと思った。きっと俺がベランダに出たときの物音に気が付いた養父は、待っててくれたんだと思う。この人は…そういう人だ。
その気持ちが、微笑みとなって顔にでたのだろうか、養父は…
「もっと酷い顔で、階段を降りてくると思っていたんだが…」と言って笑うと。
「夜中にお前と二人で飲んだ事は…由美子には内緒だぞ?」
「母さんには…内緒にするんですか?」
「あぁ、あいつもお前と飲みたがっていたからなぁ。」
その言葉に、思わず口元が綻んでしまった。養父はそんな俺を見つめ
「樹、私にできる事があるのなら言ってくれ、遠慮は無しだぞ。」
「はい。父さん。」
実の親にも、権力のそれもおこぼれ欲しさに見捨てられた自分を、どこか卑屈に思っていた。だから、この家に養子として迎え入れられた時、どんなにこの養父母に優しくされても、どこか斜めに見ていた。ましてや実の子供の秋継がいるのに、俺に優しくするのは偽善だと疑ったことさえあった。
なぜ…そう思っていたんだろう。
なぜ愛されていないと思っていたんだろう。
目の前の愛情を見ないで、どこかに、俺だけを愛してくれる人がいると、なぜ思っていたんだろう。
そんな甘えた考えを由梨奈に求めていた。17歳の子供に、人生のすべてを預けて、生きて行けるはずはないとわかっていたのに、無謀なことだとわかったいたのに、由梨奈を救い出すと口では言いながら、それよりも、由梨奈のことよりも、ただ俺を愛してくれる人が側にいて欲しかったのかもしれない。
愛を求めて、俺はなにをやってきたんだろう。
こんなに近くに、俺を見てくれる温かい眼があったのに…。
「父さん。」
だから、頼ってもいいんだ。俺を信頼し、愛してくれるこの人を…
俺に呼ばれ、顔を上げた【父】に、俺は頼った。
「父さん。教えてください。」
「…なにを知りたいんだ?」
「ウッドフォード国と久住家との関係を」
父は一瞬、目を見開いたが、軽く頷くと
「今夜は…長い夜になるぞ。」と言って、俺のグラスにビールを注いだ。
*****
『Maison des fleurs(花の館)の住人達と知り合うとはなぁ…おまえは強運の持ち主だなぁ。』
『…えっ?どういう意味ですか?』
『…おや?それ以上は知らないのか?』
『知らないって…なにかあるんですか?!あのアパートには?』
俺は、一昨日の父との会話を思い出していた。
あの言葉の意味は、理香さんとジョセフィーヌさんを指しているだけじゃないのかもしれない、ひょっとしたら父さんは、葉月ちゃんのことも知っていて…だから…秋継も…?いや有り得ない。例え父さんが葉月ちゃんのことを知っていたとしても、そう簡単に話すとは思えない。
《教えてください。》と言ってまま、口が重い俺に父は
「…高宮 葉月さんが絡んでいるのか?」
「えっ?」
「ウッドフォード国と久住家との関係を知りたいと言ったからな。」
「…やっぱり、知っていたんですね。理香さんからですか?」
「いや、彼女ではない。彼女の青褪めた顔を見て…悪いが調べたんだ。」
「理香さんが…青褪めて…」
おそらく青褪めたのは…葉月ちゃんの秘密を知ってしまったからだ。
理香さんが葉月ちゃんの秘密を、泣きそうな顔で話した事を思い出し、ビールが入ったグラスを握り締めた。
「2年前に女の子が、あのMaison des fleurs(花の館)の住人になったと聞いた時には、松下さんはそれは楽しそうだった。幼馴染の野々村君がかなりの人間不信で、松下さんしか側に寄らせなかったのに、そこに、新しい住人を入れ、それも野々村君から誘った。松下さんとしては、ほんとに嬉しかったんだと思ったよ。だが半年後だ。青褪めた顔で、仕事をする彼女を見て、一度は《どうしたんだ。》と聞いたのだが、彼女は《何でもありません。》としか言ってくれなくて、おせっかいだとは思ったが、調べさせてもらったんだ。」
そう言って、父はグラスのビールを一気に飲むと
「高宮 葉月さんは、ウッドフォード国の現国王、セオドール・エイハブ・マクファーデン陛下の娘さんなんだろう。」
「…はい。」
「おまえから、Maison des fleurs(花の館)の住人達と知り合ったと聞いた時は、ウッドフォード国の王家と、久住家との運命を感じたよ。」
「運命?その…その運命とはなんなのですか?!」
「お前も知っているだろう。ウッドフォード国に日本人の女性が嫁いだ話を…」
心臓の音が…大きくなった。まさか…まさか…
「その女性の名前は、久住 桂子。私の母である久住 華子の祖母の姉にあたる人だ。」
俺は…その言葉に眼を瞑った。
「秋継は、その事を知っていますか?ウッドフォード国の王家に嫁いだ久住 桂子さんの話を」
「私からは、話したことはない。だが母を通して、ウッドフォード国の王家に嫁いだ久住 桂子の話はおそらく聞いていると思う。いや…それより…」
「それより…?」
「秋継は…おそらく葉月さんの両親と、葉月さんにも会った事があるはずだ。」
「えっ?!…いつ!それはいつなんですか?!」
「現国王のセオドール陛下が、日本に留学をしていた頃、セオドール陛下の父親であった当時の国王から、久住家に面倒を見てくれと話があったんだ。母はそれで、よく殿下に会っていた。秋継を久住家の頭にしたいと思っている母だ。たぶん…会わせていると思う。だが付き合いは、ウッドフォード国の政変によって、途切れてしまった。」
「途切れてしまった?」
「いや、付き合いが途切れた理由は、政変だけじゃない。母が愚かにも……画策したんだ。セオドール陛下の娘さんと秋継との婚姻を…どう言ったかはわからないが、おそらく政変で荒れ果てた、ウッドフォード国内を復興させるために、久住家は金を出すとでも言ったんだろう。葉月さんの母親は、久住 華子のその考えを聞いて姿を消し…そんな浅ましい久住家にセオドール陛下は離れていったんだ。だから、ウッドフォード国の王家と、久住家との繋がりは切れたと、すっかり安心をしていたんだが…。」
ウッドフォード国の政変によって、葉月ちゃんの両親は別れたことは、確かに葉月ちゃんの人生が変わってしまった要因のひとつだと思う。だが婆様の野望も、葉月ちゃんの人生を変えてしまったんだ。苦しかった、久住の呪縛は…葉月ちゃんまで及んでいた事に、俺は苦しかった。
「私は松下さんの青褪めた顔から、葉月さんのことを知ってしまったが、あの時少し後悔したんだ。ウッドフォード国の王家と、久住家との繋がりは切れたとはいえ、この事実を母が知れば…また何か動くのではないかと思って…恐ろしくてね。」
父はカラになったグラスに眼をやって、俺の顔を見た。
「秋継が気が付いたとなれば…母も…おそらくいずれ気が付く。」
「父さん?」
「財界の一部で、噂があるんだ。由梨奈さんの父親に特捜が内偵をしていると…。もしそれが本当なら、そして葉月さんのことを知れば…母は、あの久住 華子はどう動くか想像がつくだろう。樹。」
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