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アシュモール人は決して一処に留まらない。
『牧人の書』は、光神の教えを記した書物だ。その中には『一処に留まり闇雲に富蓄ふるに、魂穢れる』という聖句がある。その言葉に従って荒野を渡り歩くのが真の遊牧民──アシュモールの民だ。マタルからすれば、一カ所に居を定めて住みつく西方人の生き方は、とても不自然に思える。墓場まで持っていくことの出来ない富で、生きている間しか留まることの出来ない場所を飾り立てることに躍起になっている。まるで、溜まってゆく澱にまみれて生きているように思えるのだ。
「一処に留まって、闇雲に富を蓄えた結果が、これか」
マタルはプロフィテイア大聖堂の門を眺めた。神話に記されたデイナの使徒たちの像がずらりと並んだ石造りのアーチ。その中央に陽神の──というか、この国で陽神とされているものの──像がある。
陽神は若く、筋骨隆々とした男だった。鎧を纏い、矢をつがえた弓を構えて参拝者を見下ろしている。表情はいかめしい。まるで、この門をくぐる不信心者に矢を射かけてやろうとでも言うような顔をしている。気の滅入る想像のせいか、文身が腰の後ろで疼いた。
神々の顔を見たことがある者はいないはずだ。彼らがこの世にあらわれるときには、依り代に宿るか、言葉では言い表すことの出来ない光のような姿をとるのだから。アシュモールでは、神の姿を描いたり、彫刻したりはしない。そもそもアシュモールでは、神は人間のように二本脚で歩き回る者とは考えられていない。かれらは自由で、無秩序で、人間の常識が通用しない場所に存在している。神は光の中にいて、風の中にいて、砂の中にいるものだ。陽神と光神は厳密には同じ神だが、マタルはこの国で『人間』の姿に押し込められる神には畏れを感じなかった。石像をよくよく見れば、少しホラスに似ている気もする。そう思えば、ますますもって畏れなど感じない。
門をくぐると、噴水のある広場がある。この場所で年に二度開かれる大市はデンズウィックの風物詩と言ってもいいほどの賑わいを見せる。今日も、広場は多くの参拝者──それに、田舎者を狙った掏摸やペテン師も──で賑わい、いくつかの露店が法外な値段の土産物を売りつけていた。
デンズウィックのほぼ中央に位置するこのプロフェット街は、大聖堂を中心とした街区だ。王都人以外の者が王都にやってくる理由は、商売だったり裁判だったり観光だったりと様々だが、訪れた者のほとんどが、一度はこの聖堂に足を運ぶ。ここは王都で最も古く、最も巨大で、最も荘厳な聖堂なのだ。
マタルは、天を貫くほど高く林立する聖堂の尖塔を見上げた。
自分がダイラに来たのと同じくらいの年の頃、ホラスがここにいたのだ。彼にとっては良い思い出のある場所ではないのだろうが、過去について──とりわけ、過去の苦しみについて多くを語らない彼の一面をのぞき見ることが出来る気がして、密かに緊張していた。
陽神教会の他の聖堂に入ったことは何度もあるけれど、これほどの規模のものに入るのは初めてだ。
開放された巨大な扉を、少しばかり力みながらくぐると、中の空気はひんやりとしていた。
積み上げられた石灰岩の聖堂は薄暗いが、無数の飾り窓や天窓から日の光が差し込み、身廊の奥にある立派な祭壇を照らし出している。祭壇の上には、マタルには名前もわからない金色の宝具がいくつも並べられていて、その周りを、大きな燭台が歩哨のように取り囲んでいた。アーチ型の天井は高く、足音や囁き声ひとつが大きく響くから、誰もがゆっくりと歩き、ひそひそ声で話す。感嘆の籠もった囁きが空気を満たすなか、遠くで練習しているらしい聖歌の音色が漂っている。
ダイラの王は、代々この聖堂で戴冠式を行うことになっているそうだ。預言を司る陽神は〈預言の陽神〉とも呼ばれる。戴冠に際して、新たな王は王冠と共に預言を授かる決まりなのだ。ハロルド王の戴冠式では、二千人もの人間がここに詰め込まれたらしい。
なんとも言えない静謐な雰囲気に居心地の悪さを感じたのか、腰の後ろで蜷局を巻いている文身が疼いた。
ホラスは入り口に置いてあった水盤で指を清めてから、そっと陽神の印を結んだ。マタルはまた、居心地の悪さに身じろぎした。
手近な神官に来訪の目的を告げると、信徒席に座って待つように言われたので、二人は祭壇から一番遠い席に腰を下ろした。
信徒席についた他のものたちは、頭を垂れて祈りを捧げたり、祭壇や建物の美しさにぼうっと口を開けて見入ったりしていた。マタルは、聖堂のいたるところでちょこまかと働く、若い神官たちを眺めた。
「あなたも、昔はあんなふうだったのか」
ホラスはマタルが見ているものに視線を向けた。
「ああ……そうだな。黒い帯を身につけているのが従仕──神官の中で一番下の位階だ。そこからはじめて、徐々に位が上がっていく」
それは一般的な話であって、あなたの昔話じゃない。
そう言いたかったけれど、マタルは堪えた。昔の話になると、普段から大して軽くないホラスの口は一層重くなる。
刑吏の息子が聖堂に入ることに街中の神官が猛反発したという話は、前に聞いたことがあった。アシュモールでは、刑吏は王に代わって正義を行う名誉な地位とされていたから、この国で処刑人が卑しい者とされているのには驚いた。
恐れがそうさせるんだとホラスは言う。それなら、処刑人は恐れを知らないのだろうか。『恐れ』が人を貶め、遠ざける理由になるなら、ナドカに対する仕打ちも『恐れ』のせいか? なら、どうすれば『恐れ』をなくせる? 『恐れ』をなくすために努力すべきなのは俺たち自身なのか?
考え込んでいると、ホラスがおもむろに呟いた。
「全員が敵だった」
彼は、祭壇よりも遠くを見つめるような眼差しに、微かな微笑を湛えていた。
「自分の物が盗まれるのはしょっちゅうだったし、毎日のように他人の濡れ衣で罰を受けていた。鐘塔から突き落とされそうになったり、肥溜めに落とされそうになったりしたことも一度や二度じゃない」
「陽神教の連中は……皆クソ野郎だ。あなた以外は」マタルは言った。
「俺もたまにはそう思うが、あまり大きい声で言うなよ。ここは声が響くから」ホラスは笑った。「エミリア・ホーウッドが頼りにしていたなら、俺がいた頃とは様変わりしたのかも知れない」
「どうだか」
「侍祭から助祭になると、嫌がらせはなくなった。祭司になれば審問庁へ移れることになっていたから、必死だったよ。それまでは、ただひたすら感情を殺して耐えた」
「俺には……真似できないな」
マタルが言うと、ホラスは少しだけ寂しげに呟いた。
「心の底から何かを求めるということは……自分を失う覚悟をするということだ」
「ふうん」
彼を駆り立てたのが復讐だと知っているから、褒めそやしたり感心したりするのは間違いだと思った。アシュモールはともかく、この国では復讐がもてはやされることは少ない。慰めなど必要ないこともわかっている。けれど、当時のホラスにはなかったものが今はあるのだと、伝えてもいいだろうか。
「また苛められたら言ってくれ」マタルは囁いた。「俺が全員まとめてあの世に──」
「これはこれは、兄弟サムウェル!」
あわてて口を閉じたせいで、舌を思い切り噛んだ。振り向くと、白い祭服に、肩から紫の帯をかけた祭司がこちらへ歩いてくるところだった。にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべた様子を見るに、「あの世に送る」というくだりは聞こえてはいなかったらしい。
「ブラザー・コンプトン」
ホラスは立ち上がり、聖職者同士がやる挨拶──互いに抱擁して、両頬をちょんちょんと合わせる仕草──を交わした。
抱擁を解くと、コンプトンはホラスの姿をまじまじと眺めた。
「ちっとも変わっていないじゃないか!」
前に会ってから一ヶ月でも間が開けばそう言うのだろう。実に神官らしい、妙に熟れた人懐こさに、マタルは危うく鼻を鳴らしかけた。
「あなたもですよ、ブラザー・コンプトン」ホラスは慇懃に応えた。
「気休めは要らんよ。なにしろこの五年で二回も祭服をつくりなおした。いまもまた、腹回りがきつくなってきている。痩せ衰えるよりはいいじゃないかと皆は言うが──いやはや」
そして、コンプトンはホラスの背後にいるマタルに目を向けた。途端に、愛想の仮面が剥がれ落ち、肉付きのいい顔が警戒に強ばった。
「そこにいるのが、例の──」
「わたしの助手です」ホラスがすかさず言った。
ホラスの仕事を表立って手伝うようになったのはここ数年のことだ。下働きを使う審問官はめずらしくないとは言え、アシュモール人の奴隷はさすがに目立つらしい。神官や役人の間で、マタルの噂はすぐに広まった。好意的な噂じゃないことは承知の上だ。
「頭巾をかぶりたまえ、君」そして、コンプトンはホラスに向き直った。「君の仕事は理解しているが、異端者を聖堂に連れ込むのは困る」
ホラスは動じなかった。「神の御心に叶う仕事をするために、彼が必要なのです」
コンプトンは憤懣やるかたない様子で、ホラスとマタルを見比べた。マタルは真面目な顔をしながら、わざとゆっくりと頭巾をかぶってやった。
「エミリア・ホーウッドの件です」ホラスは言った。
「ああ、そうだな」
その名を聞いた途端に顔に落ちた影を見れば、エミリアの失踪を知っているのは明らかだ。
「彼女は、よくここに詣でていたと聞きました。祈りを捧げて……もしかしたら、何か困りごとの相談をしていたのではないですか」
「ああ。最も頻繁に相談に乗っていたのはわたしだ」コンプトンは声を落とした。「場所を移そう。彼からも、内密にと念を押されているんだ」
ホラスは頷き、歩き始めたコンプトンに従った。
「宿坊の談話室でいいだろう。この時間なら人もいない」彼は振り向き、マタルに鋭い目を向けた。「その者も一緒かね」
「ええ」ホラスは言った。
「ならば、頭巾を脱がぬように」そう言うと、コンプトンは前に向き直った。
ホラスはこっそりと振り返ると、思い切り顔をしかめていたマタルに向けて「手加減してやれ」という表情を浮かべた。
そして、何食わぬ顔で前に向き直って言った。「ご協力に感謝します」
†
「彼女は……葛藤を抱えていた」
ワインと杯を運んできた従仕が遠くへ行ったのを確認してから、マシュー・コンプトンは言った。当然のように杯は二つしかなく、そのうちのひとつはコンプトンのものだ。この国でマタルが一人前の存在としての扱いを受けることはほとんどない。コンプトンはホラスの十歳上で、修行していた当初はホラスの指導係でもあった。ホラスがブライアの庇護下にあったのは公然の秘密だったから、刑吏の息子に対する嫌悪感を表面に出さないだけの機転は備えていた。ただ、だからといって執拗な嫌がらせの仲裁に入るほどの熱意は見せなかった。この男に尊敬や感謝の念を抱いたことはなかったが、それはこれからも同じだろう。その点について、先ほどの言葉は嘘ではなかった。ブラザー・コンプトンはちっとも変わっていない。
ホラスは、自分のために置かれた杯をわざと遠ざけた。コンプトンが気分を害したとしても、それはこちらには関係のないことだ。
「彼女は、自分が魔女であるかも知れないと悩んでいたんですね」
コンプトンは頷いた。「そうだ」
「初めのうちは小さな変化だった。蕾に触れただけで花が咲いてしまうだとか、夜空を見上げると特定の星だけが眩しく見えるだとか、妙な夢を見るだとか……」
いずれも、魔女の力に目覚めた者が体験する『初期症状』だ。
「初めて相談に来たのが、今年の初め、七竈の月の頃だ。〈芽吹きの祭り〉を控えていたから、月の中頃だったと思う」
典型的な事例だ。
〈芽吹きの祭り〉は春の訪れを祝うための節季払いの祭りだ。この季節に、冬の間に眠っていた大地は再び目を覚まし、草木を育む力を蘇らせる。そうした自然の力に引きずられるように、春になるたび多くの人間がナドカに変異するのだ。
「エミリア嬢とウィッカム卿の婚約が決まったのが、たしか去年の暮れだった」コンプトンは言った。
ホラスは鋭い目で祭司を見た。「関連性があると思いますか」
「わからん。ただ、わたしは最初そう思ったのだ。重大な岐路に立ったとき、人には予想だにせぬ変化があらわれることがある」
確かにそうだ。多感な年頃の子供は感情の起伏が激しい。大きな動揺や緊張が、変異のきっかけになることも多い。
「彼女が最後にここを訪れたのは?」
「ふた月ほど前だった。山査子の月の終わりだ」
「その時には、どんな相談を?」
コンプトンは深くため息をつき、手にした杯の縁を、親指で何度もなぞった。
「グロウェル矯正院の話をした。あの場所について、何か知っていることはあるかと」
「どう答えたんです?」
「苦境に陥った神の子のための、最後の砦だと教えた」コンプトンは言った。
さぞ説得力があったことだろう。かれの暗澹たる口ぶりでは、五歳の子供さえ説得できそうにない。
「なるほど」ホラスは呟いた。「彼女は納得していましたか?」
コンプトンの表情が暗くなってゆくにつれ、快活さが覆い隠していた疲労が浮かび上がってきた。肉付きのよい顔に張りはなく、首を横に振ると、ぶら下がった頬の肉が小刻みに震えた。
「だが、納得するしかあるまい?」
「それ以外に、どのような忠告を与えたんです」
コンプトンは杯の中のワインを飲み干した。
「全ての信徒に説いていることだよ、ホラス。君ならわかるだろう」彼は言い、苦々しい笑いを溢した。「祈りなさい、と言った。ただ祈れと」
ふいに降りたぎこちない沈黙のあと、コンプトンは言った。
「どうやら、彼女はその忠告には従わなかったようだが」
「エミリアは自ら姿を消したとお考えですか」
「魔女どもに唆されたのだろう。溝鼠のように、この街の至る所に巣くっている」
「彼女は、魔女について何か言っていませんでしたか。誰かが接触してきただとか、〈集会〉の名前だとか」
「いいや」
そう言いながらも、何か思うところがあるという顔をしている。
「何かあったんですね」
「関係があるとは思えないが……」
「話して下さい」
コンプトンは一瞬だけ後悔したような表情を浮かべた後、言った。
「つい二日前にこの聖堂にやって来た魔女がいた。恥知らずにも、正面から堂々と入ってきたのだよ。信じられるか?」
ホラスはわずかに身を乗り出した。
「魔女が聖堂にまで? 広場までなら、まだわかりますが」
「行方不明の仲間を探していると」コンプトンは手酌でワインを注ぎ足し、間髪入れずに杯を呷った。「みっともなく取り乱して、まるで我々が連中のひとりを拐かしたと言わんばかりの言いようだった。六人がかりで敷地の外に追い返したよ。次に来たら審問官を呼ぶと脅しておいたが、理解できていたかどうかも怪しいところだ」
ホラスは右手で唇の上を擦りながら、束の間考え込んだ。
「その者は名乗りましたか?」
「いいや。だが、〈真夜中の集会〉の者だと言っていた」彼はその名を、毒の言葉であるかのように吐き捨てた。「害虫の最たるものだ」
『害虫』という言葉をもっと冷静に、例えば『犯罪者』と言い換えるほうがホラスの好みには近いが、彼の拒否感は理解できる。アドゥオールと言う名の魔女が率いる〈真夜中の集会〉は、王都で──ひょっとしたらこの国で──最もたちの悪い〈集会〉だ。
「行方不明の仲間」ホラスは呟いた。「エミリアのことでしょうか」
「わからん」
「もう少し正確な言葉は覚えていますか。正確にはなんと言っていたんです」
コンプトンがさらにワインを注ごうとしたので、ホラスは手を伸ばして杯にかぶせた。「お願いします、我が兄弟よ」
コンプトンはワインの瓶を持ったまま、塞がれた杯を見つめていた。
エミリアが失踪して五日。彼がそのことを知ったのはほんの二、三日前だろう。だが、酒に慰めを見出すようになったのはもっと前だという気がした。とは言え、昔の彼は常飲する方ではなかったし、手の震えも──まだ──あらわれていない。エミリアが聖堂に現れなくなった二ヶ月の間、彼女を救えなかったという想いが彼を苛んできたのだとしたら、コンプトンという人間を少々見誤っていたのかも知れない、とホラスは思った。
「あの子のことも燃やすつもりなのか、と」出し抜けに、彼は言った。
ホラスは小さく息を吸った。
あの子のことも、燃やす。
「魔女が、そう言ったんですか?」
「そうだ」
「この街の近くでは、もう何年も魔女狩りは行われていないはずです。ましてや──」
ホラスの視線を受け止めたコンプトンの目は、酒に潤み、充血しはじめていた。
「取り乱していたと言っただろう、ホラス」彼は言った。
「しかし、戯言と片付けて忘れるわけにはいかない何かがあったのでは?」
コンプトンは俯いた。「いいや。本当にそれだけだ」
ホラスは、杯を覆っていた手をどけた。「そうですか」
そういうことにしておくしかなさそうだ。今のところは。
コンプトンの案内で談話室を出た。聖堂と宿坊を繋ぐ回廊は、見事な庭園を取り囲んでいた。夏の盛りの庭では色とりどりの花が咲き誇り、風に揺れていた。南天にさしかかった太陽から降り注ぐ光の中を、蝶や蜜蜂が飛び交っている。
その平和な風景にたたずむ三人の少女がいた。目を引いたのは、彼女たちが花を見るでも、虫を追うでもなく……ただ一列に並んで、太陽に顔を向けて立ち尽くしていたからだ。
華奢な身体が、水辺の蒲の穂のようにわずかに揺れていた。質素な白いナイトガウンはいずれも泥だらけで、何日も洗っていないように見える。結われていない髪は藁束のようにぼさぼさで、櫛を通したのは何年も前だと言われても信じただろう。
「彼女たちは?」
「我々が……世話をしている」
コンプトンは陰鬱な視線を少女たちに向けた。その視線を、つい先ほど見たばかりだ。彼が魔女の話をしたときに。
「彼女たちに、何をしたんです」ホラスはコンプトンの肩を掴んだ。「話して下さい!」
「わたしは……その……」
ホラスはコンプトンを放し、中庭へと向かった。コンプトンは引き留めようとはしなかった。マタルも彼に一瞥をくれてから、ホラスの後について中庭に出た。
「きみたち」
少女たちへと続く石畳の道の中程で声を掛けたが、反応はなかった。身も知らぬ黒衣の男に怯える様子はない。そもそも、気づいてさえいない。
ホラスは少女たちに近づいて、その顔を覗き込んだ。
彼女らを少女だと思ったのは、華奢な体つきをみたからだ。だが、自信がなくなった。
見開かれた目の周りを取り囲むように、幾重にも小さな皺が刻まれていた。瞳の色は三者三様だったが、それ以上にひどい白目の充血のせいで、瞳の印象はないに等しい。垢だらけの顔は荒れて、ところどころに見られる皹が汚れのせいなのか、それとも肌が割れているのかもわからない。彼女たちは掠れた囁き声で、同じ祈りの言葉を繰り返していた。うっすらと開いた唇も乾燥のせいで出血していて、そこから覗く歯の白さを異様に際立たせていた。見ただけでは、十四歳から七十歳の間のいくつであっても不思議はない。
マタルが小さく舌打ちをして、ちくしょうと吐き捨てた。
ホラスは、少女たちの手に目を落とした。
薄汚れた右手に、くっきりと焼き印が押されている。〈交差した二本の矢〉は、改心した異端者に施されるものだ。この印を与える場所は、国内に一カ所しかない。
「グロウェルだ」
ふり返ると、コンプトンが立っていた。
「彼女らは魔女だったが、矯正を修了してグロウェルからこの場所に移された。何日もそうしている。無理に中にいれようとすれば、ひどく暴れる」
「彼女たちに何をしたんです」ホラスは言った。自制しなければ、今にもこの男につかみかかりそうだった。「あの場所の厳しさは知っている。だが、こんな風になった者は見たことがない」
「太陽に目を向けさせたのだよ」コンプトンは言った。「太陽の光で、邪心を燃やし尽くしたのだそうだ」
頭の中で、何かがカチリと組み合わさった。
「あの子のことも燃やすつもりなのか」ホラスは言った。「魔女の言葉はこのことを指しているのだと、あなたは思った。そうですね?」
コンプトンは首を振ったが、視線はホラスに向けたままだった。「考えすぎだ。彼女たちは燃やされたりなどしていない。正しい人の道に戻ってきたのだ。神の道に」
「誰が彼女たちをここに連れてきたんです」
「わたしにはわからん。アストリー猊下ならご存じだろうが、君にそれを調べる権限はない。これは審問官の仕事とは関係がないのだから」
そう言われてしまうと、これ以上食い下がれない。この国の神官たちの頂点に君臨するアストリーはこの聖堂を預かる大教司であり、ブライア聖法官と並ぶ権力の持ち主だ。一介の審問官が気安く面会できる相手ではない。
ふと思い立って、ホラスはコンプトンに尋ねた。
「エミリアも、彼女たちを見ましたか?」
コンプトンの顔に、確かな罪悪感の影が過った。「ああ。最後にここを訪れたときに」
ホラスは背筋を伸ばし、深く息を吸った。
「よく、わかりました」
「そうか」彼は言った。
「いまのところは、質問は以上です」
「そうかね。役に立てたのならいいが」
「ご協力に、感謝いたします」
コンプトンは聖堂の入り口にチラリと目を向けてから、言った。
「裏門から出なさい。その助手を人目に触れさせぬ方が良い」
「お気遣いは無用に願います、ブラザー」ホラスは穏やかな、だが頑なな声で言った。「お見送りは結構です。それでは」
コンプトンの声が背中から追いかけてきた。
「君のやりかたは、皆の反感を買っているぞ、サムウェル」
振り向くと彼は、非難ではなく、疲労のこもった眼差しでホラスを見つめていた。
「君の出自を考えれば、ナドカに肩入れするのも無理はない。だが、どちらの味方につくべきかは、もう一度よく考えたまえ。ブライア猊下のためにもならん」彼は言った。「これは忠告だ」
ホラスはもう一度、静かに言った。
「ご協力には、感謝いたします」
そして、踵を返して聖堂へと続く扉をくぐった。
「なあ……俺のために、あなたが立場を悪くする必要はないんだ」
厩へと向かう途中で、マタルが小さな声で言った。
「わかっている」ホラスは言った。
マタルはしばらく黙り込んだ後、そっと悪態をついた。「クソ野郎ども」
ホラスはマタルの背中をぽんと叩いた。元気づけるつもりだったのか、本心を代弁してくれたことに感謝の意を伝えたかったのか、自分でもよくわからなかった。
馬に乗り、聖堂を後にしてからもずっと、ホラスはあの少女たちが繰り返し唱えていた言葉を思い返していた。
「光の道をお示し下さい」彼女たちは、そう言っていた。太陽に理性を潰され、正気を奪われてもなお、彼女たちには光の道が示されていないのだ。
そして「祈りなさい」とコンプトンは言った。ただ祈れと。
ホラスは、今日ほど祈りが無力だと感じたことはなかった。
「ホラス」
鋭い声を掛けられて、ホラスは顔を上げた。
「ブローチャード通りの角だ。見るなよ、横目で確かめろ」
マタルの声に従って視界の隅に意識を向けると、確かに、物陰からこちらを見つめている男がいる。眼帯をした顔に見覚えはないが、あの服、あの背格好──。
「森で我々を見張っていた男か」
「たぶんな」マタルは言った。
男が立つ路地の前を、馬車が横切る。馬車が行き過ぎたときには、男の姿は消えていた。
「ダウリングや他の男たちは、あの魔女狩りの場に隻眼の男がいたと言っていた」
マタルも気づいていたのだろう。「ああ」と呟いて頷いた。
偶然だろうか? それともこれは、二十年越しの再会なのだろうか。戦争に、喧嘩に、病によって片眼を失う人間はめずらしくない。だが、ふたりの魔女を巡って姿を現したこの眼帯の男の存在が、何かの意味を持つような気がしてならなかった。
「これは手こずるぞ」とマタルは言った。
ホラスに、反論する気力は残っていなかった。
「そうだな」
深く息をついて、空を見上げる。いつのまにか、晴天は雲に覆われていた。生ぬるい風が宣託のように、雨の匂いを街中に届けていた。
『牧人の書』は、光神の教えを記した書物だ。その中には『一処に留まり闇雲に富蓄ふるに、魂穢れる』という聖句がある。その言葉に従って荒野を渡り歩くのが真の遊牧民──アシュモールの民だ。マタルからすれば、一カ所に居を定めて住みつく西方人の生き方は、とても不自然に思える。墓場まで持っていくことの出来ない富で、生きている間しか留まることの出来ない場所を飾り立てることに躍起になっている。まるで、溜まってゆく澱にまみれて生きているように思えるのだ。
「一処に留まって、闇雲に富を蓄えた結果が、これか」
マタルはプロフィテイア大聖堂の門を眺めた。神話に記されたデイナの使徒たちの像がずらりと並んだ石造りのアーチ。その中央に陽神の──というか、この国で陽神とされているものの──像がある。
陽神は若く、筋骨隆々とした男だった。鎧を纏い、矢をつがえた弓を構えて参拝者を見下ろしている。表情はいかめしい。まるで、この門をくぐる不信心者に矢を射かけてやろうとでも言うような顔をしている。気の滅入る想像のせいか、文身が腰の後ろで疼いた。
神々の顔を見たことがある者はいないはずだ。彼らがこの世にあらわれるときには、依り代に宿るか、言葉では言い表すことの出来ない光のような姿をとるのだから。アシュモールでは、神の姿を描いたり、彫刻したりはしない。そもそもアシュモールでは、神は人間のように二本脚で歩き回る者とは考えられていない。かれらは自由で、無秩序で、人間の常識が通用しない場所に存在している。神は光の中にいて、風の中にいて、砂の中にいるものだ。陽神と光神は厳密には同じ神だが、マタルはこの国で『人間』の姿に押し込められる神には畏れを感じなかった。石像をよくよく見れば、少しホラスに似ている気もする。そう思えば、ますますもって畏れなど感じない。
門をくぐると、噴水のある広場がある。この場所で年に二度開かれる大市はデンズウィックの風物詩と言ってもいいほどの賑わいを見せる。今日も、広場は多くの参拝者──それに、田舎者を狙った掏摸やペテン師も──で賑わい、いくつかの露店が法外な値段の土産物を売りつけていた。
デンズウィックのほぼ中央に位置するこのプロフェット街は、大聖堂を中心とした街区だ。王都人以外の者が王都にやってくる理由は、商売だったり裁判だったり観光だったりと様々だが、訪れた者のほとんどが、一度はこの聖堂に足を運ぶ。ここは王都で最も古く、最も巨大で、最も荘厳な聖堂なのだ。
マタルは、天を貫くほど高く林立する聖堂の尖塔を見上げた。
自分がダイラに来たのと同じくらいの年の頃、ホラスがここにいたのだ。彼にとっては良い思い出のある場所ではないのだろうが、過去について──とりわけ、過去の苦しみについて多くを語らない彼の一面をのぞき見ることが出来る気がして、密かに緊張していた。
陽神教会の他の聖堂に入ったことは何度もあるけれど、これほどの規模のものに入るのは初めてだ。
開放された巨大な扉を、少しばかり力みながらくぐると、中の空気はひんやりとしていた。
積み上げられた石灰岩の聖堂は薄暗いが、無数の飾り窓や天窓から日の光が差し込み、身廊の奥にある立派な祭壇を照らし出している。祭壇の上には、マタルには名前もわからない金色の宝具がいくつも並べられていて、その周りを、大きな燭台が歩哨のように取り囲んでいた。アーチ型の天井は高く、足音や囁き声ひとつが大きく響くから、誰もがゆっくりと歩き、ひそひそ声で話す。感嘆の籠もった囁きが空気を満たすなか、遠くで練習しているらしい聖歌の音色が漂っている。
ダイラの王は、代々この聖堂で戴冠式を行うことになっているそうだ。預言を司る陽神は〈預言の陽神〉とも呼ばれる。戴冠に際して、新たな王は王冠と共に預言を授かる決まりなのだ。ハロルド王の戴冠式では、二千人もの人間がここに詰め込まれたらしい。
なんとも言えない静謐な雰囲気に居心地の悪さを感じたのか、腰の後ろで蜷局を巻いている文身が疼いた。
ホラスは入り口に置いてあった水盤で指を清めてから、そっと陽神の印を結んだ。マタルはまた、居心地の悪さに身じろぎした。
手近な神官に来訪の目的を告げると、信徒席に座って待つように言われたので、二人は祭壇から一番遠い席に腰を下ろした。
信徒席についた他のものたちは、頭を垂れて祈りを捧げたり、祭壇や建物の美しさにぼうっと口を開けて見入ったりしていた。マタルは、聖堂のいたるところでちょこまかと働く、若い神官たちを眺めた。
「あなたも、昔はあんなふうだったのか」
ホラスはマタルが見ているものに視線を向けた。
「ああ……そうだな。黒い帯を身につけているのが従仕──神官の中で一番下の位階だ。そこからはじめて、徐々に位が上がっていく」
それは一般的な話であって、あなたの昔話じゃない。
そう言いたかったけれど、マタルは堪えた。昔の話になると、普段から大して軽くないホラスの口は一層重くなる。
刑吏の息子が聖堂に入ることに街中の神官が猛反発したという話は、前に聞いたことがあった。アシュモールでは、刑吏は王に代わって正義を行う名誉な地位とされていたから、この国で処刑人が卑しい者とされているのには驚いた。
恐れがそうさせるんだとホラスは言う。それなら、処刑人は恐れを知らないのだろうか。『恐れ』が人を貶め、遠ざける理由になるなら、ナドカに対する仕打ちも『恐れ』のせいか? なら、どうすれば『恐れ』をなくせる? 『恐れ』をなくすために努力すべきなのは俺たち自身なのか?
考え込んでいると、ホラスがおもむろに呟いた。
「全員が敵だった」
彼は、祭壇よりも遠くを見つめるような眼差しに、微かな微笑を湛えていた。
「自分の物が盗まれるのはしょっちゅうだったし、毎日のように他人の濡れ衣で罰を受けていた。鐘塔から突き落とされそうになったり、肥溜めに落とされそうになったりしたことも一度や二度じゃない」
「陽神教の連中は……皆クソ野郎だ。あなた以外は」マタルは言った。
「俺もたまにはそう思うが、あまり大きい声で言うなよ。ここは声が響くから」ホラスは笑った。「エミリア・ホーウッドが頼りにしていたなら、俺がいた頃とは様変わりしたのかも知れない」
「どうだか」
「侍祭から助祭になると、嫌がらせはなくなった。祭司になれば審問庁へ移れることになっていたから、必死だったよ。それまでは、ただひたすら感情を殺して耐えた」
「俺には……真似できないな」
マタルが言うと、ホラスは少しだけ寂しげに呟いた。
「心の底から何かを求めるということは……自分を失う覚悟をするということだ」
「ふうん」
彼を駆り立てたのが復讐だと知っているから、褒めそやしたり感心したりするのは間違いだと思った。アシュモールはともかく、この国では復讐がもてはやされることは少ない。慰めなど必要ないこともわかっている。けれど、当時のホラスにはなかったものが今はあるのだと、伝えてもいいだろうか。
「また苛められたら言ってくれ」マタルは囁いた。「俺が全員まとめてあの世に──」
「これはこれは、兄弟サムウェル!」
あわてて口を閉じたせいで、舌を思い切り噛んだ。振り向くと、白い祭服に、肩から紫の帯をかけた祭司がこちらへ歩いてくるところだった。にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべた様子を見るに、「あの世に送る」というくだりは聞こえてはいなかったらしい。
「ブラザー・コンプトン」
ホラスは立ち上がり、聖職者同士がやる挨拶──互いに抱擁して、両頬をちょんちょんと合わせる仕草──を交わした。
抱擁を解くと、コンプトンはホラスの姿をまじまじと眺めた。
「ちっとも変わっていないじゃないか!」
前に会ってから一ヶ月でも間が開けばそう言うのだろう。実に神官らしい、妙に熟れた人懐こさに、マタルは危うく鼻を鳴らしかけた。
「あなたもですよ、ブラザー・コンプトン」ホラスは慇懃に応えた。
「気休めは要らんよ。なにしろこの五年で二回も祭服をつくりなおした。いまもまた、腹回りがきつくなってきている。痩せ衰えるよりはいいじゃないかと皆は言うが──いやはや」
そして、コンプトンはホラスの背後にいるマタルに目を向けた。途端に、愛想の仮面が剥がれ落ち、肉付きのいい顔が警戒に強ばった。
「そこにいるのが、例の──」
「わたしの助手です」ホラスがすかさず言った。
ホラスの仕事を表立って手伝うようになったのはここ数年のことだ。下働きを使う審問官はめずらしくないとは言え、アシュモール人の奴隷はさすがに目立つらしい。神官や役人の間で、マタルの噂はすぐに広まった。好意的な噂じゃないことは承知の上だ。
「頭巾をかぶりたまえ、君」そして、コンプトンはホラスに向き直った。「君の仕事は理解しているが、異端者を聖堂に連れ込むのは困る」
ホラスは動じなかった。「神の御心に叶う仕事をするために、彼が必要なのです」
コンプトンは憤懣やるかたない様子で、ホラスとマタルを見比べた。マタルは真面目な顔をしながら、わざとゆっくりと頭巾をかぶってやった。
「エミリア・ホーウッドの件です」ホラスは言った。
「ああ、そうだな」
その名を聞いた途端に顔に落ちた影を見れば、エミリアの失踪を知っているのは明らかだ。
「彼女は、よくここに詣でていたと聞きました。祈りを捧げて……もしかしたら、何か困りごとの相談をしていたのではないですか」
「ああ。最も頻繁に相談に乗っていたのはわたしだ」コンプトンは声を落とした。「場所を移そう。彼からも、内密にと念を押されているんだ」
ホラスは頷き、歩き始めたコンプトンに従った。
「宿坊の談話室でいいだろう。この時間なら人もいない」彼は振り向き、マタルに鋭い目を向けた。「その者も一緒かね」
「ええ」ホラスは言った。
「ならば、頭巾を脱がぬように」そう言うと、コンプトンは前に向き直った。
ホラスはこっそりと振り返ると、思い切り顔をしかめていたマタルに向けて「手加減してやれ」という表情を浮かべた。
そして、何食わぬ顔で前に向き直って言った。「ご協力に感謝します」
†
「彼女は……葛藤を抱えていた」
ワインと杯を運んできた従仕が遠くへ行ったのを確認してから、マシュー・コンプトンは言った。当然のように杯は二つしかなく、そのうちのひとつはコンプトンのものだ。この国でマタルが一人前の存在としての扱いを受けることはほとんどない。コンプトンはホラスの十歳上で、修行していた当初はホラスの指導係でもあった。ホラスがブライアの庇護下にあったのは公然の秘密だったから、刑吏の息子に対する嫌悪感を表面に出さないだけの機転は備えていた。ただ、だからといって執拗な嫌がらせの仲裁に入るほどの熱意は見せなかった。この男に尊敬や感謝の念を抱いたことはなかったが、それはこれからも同じだろう。その点について、先ほどの言葉は嘘ではなかった。ブラザー・コンプトンはちっとも変わっていない。
ホラスは、自分のために置かれた杯をわざと遠ざけた。コンプトンが気分を害したとしても、それはこちらには関係のないことだ。
「彼女は、自分が魔女であるかも知れないと悩んでいたんですね」
コンプトンは頷いた。「そうだ」
「初めのうちは小さな変化だった。蕾に触れただけで花が咲いてしまうだとか、夜空を見上げると特定の星だけが眩しく見えるだとか、妙な夢を見るだとか……」
いずれも、魔女の力に目覚めた者が体験する『初期症状』だ。
「初めて相談に来たのが、今年の初め、七竈の月の頃だ。〈芽吹きの祭り〉を控えていたから、月の中頃だったと思う」
典型的な事例だ。
〈芽吹きの祭り〉は春の訪れを祝うための節季払いの祭りだ。この季節に、冬の間に眠っていた大地は再び目を覚まし、草木を育む力を蘇らせる。そうした自然の力に引きずられるように、春になるたび多くの人間がナドカに変異するのだ。
「エミリア嬢とウィッカム卿の婚約が決まったのが、たしか去年の暮れだった」コンプトンは言った。
ホラスは鋭い目で祭司を見た。「関連性があると思いますか」
「わからん。ただ、わたしは最初そう思ったのだ。重大な岐路に立ったとき、人には予想だにせぬ変化があらわれることがある」
確かにそうだ。多感な年頃の子供は感情の起伏が激しい。大きな動揺や緊張が、変異のきっかけになることも多い。
「彼女が最後にここを訪れたのは?」
「ふた月ほど前だった。山査子の月の終わりだ」
「その時には、どんな相談を?」
コンプトンは深くため息をつき、手にした杯の縁を、親指で何度もなぞった。
「グロウェル矯正院の話をした。あの場所について、何か知っていることはあるかと」
「どう答えたんです?」
「苦境に陥った神の子のための、最後の砦だと教えた」コンプトンは言った。
さぞ説得力があったことだろう。かれの暗澹たる口ぶりでは、五歳の子供さえ説得できそうにない。
「なるほど」ホラスは呟いた。「彼女は納得していましたか?」
コンプトンの表情が暗くなってゆくにつれ、快活さが覆い隠していた疲労が浮かび上がってきた。肉付きのよい顔に張りはなく、首を横に振ると、ぶら下がった頬の肉が小刻みに震えた。
「だが、納得するしかあるまい?」
「それ以外に、どのような忠告を与えたんです」
コンプトンは杯の中のワインを飲み干した。
「全ての信徒に説いていることだよ、ホラス。君ならわかるだろう」彼は言い、苦々しい笑いを溢した。「祈りなさい、と言った。ただ祈れと」
ふいに降りたぎこちない沈黙のあと、コンプトンは言った。
「どうやら、彼女はその忠告には従わなかったようだが」
「エミリアは自ら姿を消したとお考えですか」
「魔女どもに唆されたのだろう。溝鼠のように、この街の至る所に巣くっている」
「彼女は、魔女について何か言っていませんでしたか。誰かが接触してきただとか、〈集会〉の名前だとか」
「いいや」
そう言いながらも、何か思うところがあるという顔をしている。
「何かあったんですね」
「関係があるとは思えないが……」
「話して下さい」
コンプトンは一瞬だけ後悔したような表情を浮かべた後、言った。
「つい二日前にこの聖堂にやって来た魔女がいた。恥知らずにも、正面から堂々と入ってきたのだよ。信じられるか?」
ホラスはわずかに身を乗り出した。
「魔女が聖堂にまで? 広場までなら、まだわかりますが」
「行方不明の仲間を探していると」コンプトンは手酌でワインを注ぎ足し、間髪入れずに杯を呷った。「みっともなく取り乱して、まるで我々が連中のひとりを拐かしたと言わんばかりの言いようだった。六人がかりで敷地の外に追い返したよ。次に来たら審問官を呼ぶと脅しておいたが、理解できていたかどうかも怪しいところだ」
ホラスは右手で唇の上を擦りながら、束の間考え込んだ。
「その者は名乗りましたか?」
「いいや。だが、〈真夜中の集会〉の者だと言っていた」彼はその名を、毒の言葉であるかのように吐き捨てた。「害虫の最たるものだ」
『害虫』という言葉をもっと冷静に、例えば『犯罪者』と言い換えるほうがホラスの好みには近いが、彼の拒否感は理解できる。アドゥオールと言う名の魔女が率いる〈真夜中の集会〉は、王都で──ひょっとしたらこの国で──最もたちの悪い〈集会〉だ。
「行方不明の仲間」ホラスは呟いた。「エミリアのことでしょうか」
「わからん」
「もう少し正確な言葉は覚えていますか。正確にはなんと言っていたんです」
コンプトンがさらにワインを注ごうとしたので、ホラスは手を伸ばして杯にかぶせた。「お願いします、我が兄弟よ」
コンプトンはワインの瓶を持ったまま、塞がれた杯を見つめていた。
エミリアが失踪して五日。彼がそのことを知ったのはほんの二、三日前だろう。だが、酒に慰めを見出すようになったのはもっと前だという気がした。とは言え、昔の彼は常飲する方ではなかったし、手の震えも──まだ──あらわれていない。エミリアが聖堂に現れなくなった二ヶ月の間、彼女を救えなかったという想いが彼を苛んできたのだとしたら、コンプトンという人間を少々見誤っていたのかも知れない、とホラスは思った。
「あの子のことも燃やすつもりなのか、と」出し抜けに、彼は言った。
ホラスは小さく息を吸った。
あの子のことも、燃やす。
「魔女が、そう言ったんですか?」
「そうだ」
「この街の近くでは、もう何年も魔女狩りは行われていないはずです。ましてや──」
ホラスの視線を受け止めたコンプトンの目は、酒に潤み、充血しはじめていた。
「取り乱していたと言っただろう、ホラス」彼は言った。
「しかし、戯言と片付けて忘れるわけにはいかない何かがあったのでは?」
コンプトンは俯いた。「いいや。本当にそれだけだ」
ホラスは、杯を覆っていた手をどけた。「そうですか」
そういうことにしておくしかなさそうだ。今のところは。
コンプトンの案内で談話室を出た。聖堂と宿坊を繋ぐ回廊は、見事な庭園を取り囲んでいた。夏の盛りの庭では色とりどりの花が咲き誇り、風に揺れていた。南天にさしかかった太陽から降り注ぐ光の中を、蝶や蜜蜂が飛び交っている。
その平和な風景にたたずむ三人の少女がいた。目を引いたのは、彼女たちが花を見るでも、虫を追うでもなく……ただ一列に並んで、太陽に顔を向けて立ち尽くしていたからだ。
華奢な身体が、水辺の蒲の穂のようにわずかに揺れていた。質素な白いナイトガウンはいずれも泥だらけで、何日も洗っていないように見える。結われていない髪は藁束のようにぼさぼさで、櫛を通したのは何年も前だと言われても信じただろう。
「彼女たちは?」
「我々が……世話をしている」
コンプトンは陰鬱な視線を少女たちに向けた。その視線を、つい先ほど見たばかりだ。彼が魔女の話をしたときに。
「彼女たちに、何をしたんです」ホラスはコンプトンの肩を掴んだ。「話して下さい!」
「わたしは……その……」
ホラスはコンプトンを放し、中庭へと向かった。コンプトンは引き留めようとはしなかった。マタルも彼に一瞥をくれてから、ホラスの後について中庭に出た。
「きみたち」
少女たちへと続く石畳の道の中程で声を掛けたが、反応はなかった。身も知らぬ黒衣の男に怯える様子はない。そもそも、気づいてさえいない。
ホラスは少女たちに近づいて、その顔を覗き込んだ。
彼女らを少女だと思ったのは、華奢な体つきをみたからだ。だが、自信がなくなった。
見開かれた目の周りを取り囲むように、幾重にも小さな皺が刻まれていた。瞳の色は三者三様だったが、それ以上にひどい白目の充血のせいで、瞳の印象はないに等しい。垢だらけの顔は荒れて、ところどころに見られる皹が汚れのせいなのか、それとも肌が割れているのかもわからない。彼女たちは掠れた囁き声で、同じ祈りの言葉を繰り返していた。うっすらと開いた唇も乾燥のせいで出血していて、そこから覗く歯の白さを異様に際立たせていた。見ただけでは、十四歳から七十歳の間のいくつであっても不思議はない。
マタルが小さく舌打ちをして、ちくしょうと吐き捨てた。
ホラスは、少女たちの手に目を落とした。
薄汚れた右手に、くっきりと焼き印が押されている。〈交差した二本の矢〉は、改心した異端者に施されるものだ。この印を与える場所は、国内に一カ所しかない。
「グロウェルだ」
ふり返ると、コンプトンが立っていた。
「彼女らは魔女だったが、矯正を修了してグロウェルからこの場所に移された。何日もそうしている。無理に中にいれようとすれば、ひどく暴れる」
「彼女たちに何をしたんです」ホラスは言った。自制しなければ、今にもこの男につかみかかりそうだった。「あの場所の厳しさは知っている。だが、こんな風になった者は見たことがない」
「太陽に目を向けさせたのだよ」コンプトンは言った。「太陽の光で、邪心を燃やし尽くしたのだそうだ」
頭の中で、何かがカチリと組み合わさった。
「あの子のことも燃やすつもりなのか」ホラスは言った。「魔女の言葉はこのことを指しているのだと、あなたは思った。そうですね?」
コンプトンは首を振ったが、視線はホラスに向けたままだった。「考えすぎだ。彼女たちは燃やされたりなどしていない。正しい人の道に戻ってきたのだ。神の道に」
「誰が彼女たちをここに連れてきたんです」
「わたしにはわからん。アストリー猊下ならご存じだろうが、君にそれを調べる権限はない。これは審問官の仕事とは関係がないのだから」
そう言われてしまうと、これ以上食い下がれない。この国の神官たちの頂点に君臨するアストリーはこの聖堂を預かる大教司であり、ブライア聖法官と並ぶ権力の持ち主だ。一介の審問官が気安く面会できる相手ではない。
ふと思い立って、ホラスはコンプトンに尋ねた。
「エミリアも、彼女たちを見ましたか?」
コンプトンの顔に、確かな罪悪感の影が過った。「ああ。最後にここを訪れたときに」
ホラスは背筋を伸ばし、深く息を吸った。
「よく、わかりました」
「そうか」彼は言った。
「いまのところは、質問は以上です」
「そうかね。役に立てたのならいいが」
「ご協力に、感謝いたします」
コンプトンは聖堂の入り口にチラリと目を向けてから、言った。
「裏門から出なさい。その助手を人目に触れさせぬ方が良い」
「お気遣いは無用に願います、ブラザー」ホラスは穏やかな、だが頑なな声で言った。「お見送りは結構です。それでは」
コンプトンの声が背中から追いかけてきた。
「君のやりかたは、皆の反感を買っているぞ、サムウェル」
振り向くと彼は、非難ではなく、疲労のこもった眼差しでホラスを見つめていた。
「君の出自を考えれば、ナドカに肩入れするのも無理はない。だが、どちらの味方につくべきかは、もう一度よく考えたまえ。ブライア猊下のためにもならん」彼は言った。「これは忠告だ」
ホラスはもう一度、静かに言った。
「ご協力には、感謝いたします」
そして、踵を返して聖堂へと続く扉をくぐった。
「なあ……俺のために、あなたが立場を悪くする必要はないんだ」
厩へと向かう途中で、マタルが小さな声で言った。
「わかっている」ホラスは言った。
マタルはしばらく黙り込んだ後、そっと悪態をついた。「クソ野郎ども」
ホラスはマタルの背中をぽんと叩いた。元気づけるつもりだったのか、本心を代弁してくれたことに感謝の意を伝えたかったのか、自分でもよくわからなかった。
馬に乗り、聖堂を後にしてからもずっと、ホラスはあの少女たちが繰り返し唱えていた言葉を思い返していた。
「光の道をお示し下さい」彼女たちは、そう言っていた。太陽に理性を潰され、正気を奪われてもなお、彼女たちには光の道が示されていないのだ。
そして「祈りなさい」とコンプトンは言った。ただ祈れと。
ホラスは、今日ほど祈りが無力だと感じたことはなかった。
「ホラス」
鋭い声を掛けられて、ホラスは顔を上げた。
「ブローチャード通りの角だ。見るなよ、横目で確かめろ」
マタルの声に従って視界の隅に意識を向けると、確かに、物陰からこちらを見つめている男がいる。眼帯をした顔に見覚えはないが、あの服、あの背格好──。
「森で我々を見張っていた男か」
「たぶんな」マタルは言った。
男が立つ路地の前を、馬車が横切る。馬車が行き過ぎたときには、男の姿は消えていた。
「ダウリングや他の男たちは、あの魔女狩りの場に隻眼の男がいたと言っていた」
マタルも気づいていたのだろう。「ああ」と呟いて頷いた。
偶然だろうか? それともこれは、二十年越しの再会なのだろうか。戦争に、喧嘩に、病によって片眼を失う人間はめずらしくない。だが、ふたりの魔女を巡って姿を現したこの眼帯の男の存在が、何かの意味を持つような気がしてならなかった。
「これは手こずるぞ」とマタルは言った。
ホラスに、反論する気力は残っていなかった。
「そうだな」
深く息をついて、空を見上げる。いつのまにか、晴天は雲に覆われていた。生ぬるい風が宣託のように、雨の匂いを街中に届けていた。
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