心臓に涙を一滴

氷野真琴

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「・・・で、それからどうなったのよ?」

「どうって・・・そのままだよ」

「はあ!?告白して、振られて、その後もあんたら会ってんでしょ?2週間経ってもなんの変化もなしなの?」

目を丸くしてこっちに乗り出した茜音あかねは、信じらんないとブツブツ言いながら座り直してグラスを一気に呷った。中身、確か結構度数高かったはずだけど・・・相変わらず顔にあまり変化はない。

「・・・変化っていってもどうしたらいいか分かんないし・・・一応次の日会った時に改めて謝ったけどその後は前のまんまだよ?避けられないだけマシなんじゃ・・・」

「馬鹿、避けるってことは向こうもある程度意識してるってことでしょうが。以前と同じってことは全くそう見られてないのよ!」

ビシッと音が出そうなほど勢いよく人差し指を鼻先に突きつけて呆れたように言われた言葉は、分かっていて見ぬ振りをしていたあたしにはとっても痛い言葉だった。

甘いはずのカクテルがやけに苦く感じた。



数日前・・・あたしは好きな人に告白して振られた。
彼は・・・伊織さんは4つ上の会社員だ。同じスポーツジムの会員で、通う時間が似て年代が近かったからすぐに仲良くなれた。仲のいい数名のグループでよく食事に行き、そういう時は大抵伊織さんの車に乗せて貰って2人で集合場所に行ったものだ。

その時までは・・・仲のいい友人だと思ってた。
でも、あの時・・・




『別に、俺は気にしなくていいと思うよ?

他になんて言われようと、お前の良いとこはお前が思うより知ってるし・・・そういうお前と、俺達は仲良くしたいんだからさ』



あの時、優しい顔の彼を見た時からあたしは惹かれてたんだと思う。不器用な生き方しかできなくて自分が嫌になってたあたしは、かなり単純になってたのかもね。







「ていうか、あんたはどうしたいのよ?」

茜音がそう聞いてきたのは、焼き鳥の串を食べた時だった。思わずきょとんとしてそちらを見ると、メニュー片手にこちらをじろりと睨めつける。

「・・・というと?」

「このまま諦めるのか、アタックし続けるのかってこと!その感じだと、まだ好きなんでしょ?」

「それは・・・そう、だけど・・・」

「このままだと本当になかったことにされるわよ。いいの?他の誰とも知らない女にとられても」

ニヤリと不敵に笑って告げられた言葉に思わず表情が消える。他の女。確かに伊織さんはとっても素敵な男性だし、今はいなくてもすぐに彼女ができるかもしれない。あたし以外の・・・人が。



そう思って彼の隣にあたしなんかより綺麗で可愛げのある女性が立つ姿を想像して・・・あたしの中にどす黒い感情が湧き出てきた。

「・・・イヤ。そんなの、許さない」

多分、今のあたしはすごく怖い顔してるんだと思う。もし彼の隣に他の女の人がいたら、その人を殺してしまいたいって思ってるから。そんなあたしを見て何考えてるか分かったのだろう、付き合いの長い茜音は呆れたようにため息をついた。

「・・・そんだけ感情強いのに、なんでアタックの準備をしなかったのか・・・いきなり言ったら振られるに決まってるでしょう」

「だって、頭の中真っ白になって・・・OK貰えるなんて思ってなかったし・・・」

「・・・ホント、馬鹿で不器用よねぇあんたって」

しみじみと言われてなんだかいたたまれなくなったあたしは、誤魔化すようにグラスを呷った。


どうやら、あたしはあの人を諦められないらしい。
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