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2、協奏のキャストライト
109、青空の商会戦線4〜兄さん、俺だよ俺
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明るい日差しが大通りの木々の緑葉の影をくっきりと地面に描く中、カントループ商会が敵商会に接近していく。
フィロシュネーは学友たちと一緒に、コソコソと見物しに行った。コソコソといっても注目されまくってるし、サイラスもついてきているけど。
「兄さんっ、会いたかったよ兄さん! 俺だよ俺」
ルーンフォークが仮面を取り、兄フェリシエンに抱きつく。
フェリシエンは、陰鬱な雰囲気の男だった。
三十代半ばの年頃で、深緑色の髪をしている。瞳の色は血の色みたいな真っ赤。ちょっと目つきが悪くて、怖そうな印象。
「ご兄弟なのですか?」
サイラスが尋ねてくる。
「シーッ、静かに」
「何をなさってるのですか?」
オリヴィアとセリーナが口をそろえる。
「兄弟の感動の再会を見守っています」
そんな理由が通る?
「なるほど」
通った!?
フィロシュネーが驚いていると、サイラスは面白がるような顔で口の端を持ち上げた。
「そういうことにしておきましょう。ところで兄君はなぜクラーケン商会に?」
「あとで教えてあげますわ……ハルシオン様に許可をいただいてから」
やり取りを交わしながら見守る視線の先で、ブラックタロン家の兄弟は感動の再会をしていた。
「弟とはそんなハートウォーミングな仲ではない。貴様、偽者だな」
「ぎゃっ」
あっ、偽者認定されてお兄さんに蹴られてる……。
そんな兄弟に割り込むのが、胡散臭さ全開のカントループ商会長――ハルシオンだった。
「やあやあ、クラーケン商会の後ろ盾である貴族さんでしょうか? いや、違いますねえ?」
周囲はどう対応したものかという困惑顔だが、本人は楽しそうだ。んっふふ、とあやしい笑い声をこぼして、フェリシエンに手を差し伸べたりしている。
「私が見たところ、あなたのおうちは空国の元貴族階級、今は落ちぶれたブラックタロン家さん! そうですね?」
ブラックタロン家は空国の歴史ある由緒正しい名家だ。でも、他国や自国に反抗的で、問題行動を代々繰り返してきた家でもある。
つい最近もヤスミールが事件を起こして亡くなり、世間の目は冷たい……。
「商会長、そんな本当のことをおっしゃらないでください!」
ルーンフォークがショックを受けている。
わかるわ、そのお気持ち。わたくしも「お胸が貧相」と言われたら悲しいもの。
フィロシュネーは深い共感を覚えた。
ハルシオンは全然気にした様子もないし、フェリシエンも表情を変えないが。
「いかにも、吾輩はブラックタロンだが」
「あなたの可愛い弟さんは私が預かっています。ご心配です? んふふ、身代金を要求したりはしないので、ご安心あれ!」
ハルシオンは陽気に大声をあげながら蹴り倒されたルーンフォークの首根っこを引っ張った。人質らしい。
「あの方々は何をなさってるのですか?」
サイラスがもう一度聞いた。
わたくしにもわからない。どうお返事をするべきかしら――フィロシュネーは悩んだ。
「ハルシオン様のなさることですから」
「なるほど」
納得された! さすがハルシオン様。
「弟は可愛くないし、心配でもない。身代金は払わないのでサクッと殺せ」
フェリシエンの声は、聞いているだけで陰鬱な気分になりそうな低い声だった。ハルシオンはそれにもめげずフレンドリーな笑顔だ。
「可愛くない弟さんはさておき、立ち話もなんですから店の中で話しませんか、ブラックタロンさん! いやあ~、私にもいるのですよ、弟が。弟さんのことはお嫌いです? 私は好きですよ。でも弟は私のことが好きではないのです、悲しいですね!」
ハルシオンはブラックタロン家の兄弟を引っ張ってクラーケン商会の店の中に入って行く。死ぬほど強引だ。
「ハルシオン様って、すごい」
話の運び方は混沌としていてよくわからないが、とりあえず店の中に入ってしまった。謎の強引さ、すごい。
「要するに、おふたりは仲良くクラーケン商会を探っておられるのですね」
サイラスはそんな結論にたどり着いたらしい。
「まあ、そうですわね」
フィロシュネーは頷いた。
話している間にヌッと黒い馬の顔が割り込んでくる。
ゴールドシッターだ。
「姫の婚約者のゴールドシッターは、姫が他の男と遊ぶので拗ねているようです」
サイラスは生真面目な顔で冗談を言って、帰っていった。
「誤魔化せましたね、姫様」
セリーナが満面の笑みで「メリーファクト商会の売り上げも過去最多記録です」と報告してくる。
「この日の活動結果としては……」
氷雪騎士団が密猟団を捕らえた。
カントループ商会がクラーケン商会とコンタクトを取った。
メリーファクト商会が、大儲け!
「うん。とてもよい成果なのではないかしら?」
あとは、カントループ商会からの報告を待ってみましょう。
フィロシュネーはニコニコしながら迎賓館へと引き上げたのだった。
フィロシュネーは学友たちと一緒に、コソコソと見物しに行った。コソコソといっても注目されまくってるし、サイラスもついてきているけど。
「兄さんっ、会いたかったよ兄さん! 俺だよ俺」
ルーンフォークが仮面を取り、兄フェリシエンに抱きつく。
フェリシエンは、陰鬱な雰囲気の男だった。
三十代半ばの年頃で、深緑色の髪をしている。瞳の色は血の色みたいな真っ赤。ちょっと目つきが悪くて、怖そうな印象。
「ご兄弟なのですか?」
サイラスが尋ねてくる。
「シーッ、静かに」
「何をなさってるのですか?」
オリヴィアとセリーナが口をそろえる。
「兄弟の感動の再会を見守っています」
そんな理由が通る?
「なるほど」
通った!?
フィロシュネーが驚いていると、サイラスは面白がるような顔で口の端を持ち上げた。
「そういうことにしておきましょう。ところで兄君はなぜクラーケン商会に?」
「あとで教えてあげますわ……ハルシオン様に許可をいただいてから」
やり取りを交わしながら見守る視線の先で、ブラックタロン家の兄弟は感動の再会をしていた。
「弟とはそんなハートウォーミングな仲ではない。貴様、偽者だな」
「ぎゃっ」
あっ、偽者認定されてお兄さんに蹴られてる……。
そんな兄弟に割り込むのが、胡散臭さ全開のカントループ商会長――ハルシオンだった。
「やあやあ、クラーケン商会の後ろ盾である貴族さんでしょうか? いや、違いますねえ?」
周囲はどう対応したものかという困惑顔だが、本人は楽しそうだ。んっふふ、とあやしい笑い声をこぼして、フェリシエンに手を差し伸べたりしている。
「私が見たところ、あなたのおうちは空国の元貴族階級、今は落ちぶれたブラックタロン家さん! そうですね?」
ブラックタロン家は空国の歴史ある由緒正しい名家だ。でも、他国や自国に反抗的で、問題行動を代々繰り返してきた家でもある。
つい最近もヤスミールが事件を起こして亡くなり、世間の目は冷たい……。
「商会長、そんな本当のことをおっしゃらないでください!」
ルーンフォークがショックを受けている。
わかるわ、そのお気持ち。わたくしも「お胸が貧相」と言われたら悲しいもの。
フィロシュネーは深い共感を覚えた。
ハルシオンは全然気にした様子もないし、フェリシエンも表情を変えないが。
「いかにも、吾輩はブラックタロンだが」
「あなたの可愛い弟さんは私が預かっています。ご心配です? んふふ、身代金を要求したりはしないので、ご安心あれ!」
ハルシオンは陽気に大声をあげながら蹴り倒されたルーンフォークの首根っこを引っ張った。人質らしい。
「あの方々は何をなさってるのですか?」
サイラスがもう一度聞いた。
わたくしにもわからない。どうお返事をするべきかしら――フィロシュネーは悩んだ。
「ハルシオン様のなさることですから」
「なるほど」
納得された! さすがハルシオン様。
「弟は可愛くないし、心配でもない。身代金は払わないのでサクッと殺せ」
フェリシエンの声は、聞いているだけで陰鬱な気分になりそうな低い声だった。ハルシオンはそれにもめげずフレンドリーな笑顔だ。
「可愛くない弟さんはさておき、立ち話もなんですから店の中で話しませんか、ブラックタロンさん! いやあ~、私にもいるのですよ、弟が。弟さんのことはお嫌いです? 私は好きですよ。でも弟は私のことが好きではないのです、悲しいですね!」
ハルシオンはブラックタロン家の兄弟を引っ張ってクラーケン商会の店の中に入って行く。死ぬほど強引だ。
「ハルシオン様って、すごい」
話の運び方は混沌としていてよくわからないが、とりあえず店の中に入ってしまった。謎の強引さ、すごい。
「要するに、おふたりは仲良くクラーケン商会を探っておられるのですね」
サイラスはそんな結論にたどり着いたらしい。
「まあ、そうですわね」
フィロシュネーは頷いた。
話している間にヌッと黒い馬の顔が割り込んでくる。
ゴールドシッターだ。
「姫の婚約者のゴールドシッターは、姫が他の男と遊ぶので拗ねているようです」
サイラスは生真面目な顔で冗談を言って、帰っていった。
「誤魔化せましたね、姫様」
セリーナが満面の笑みで「メリーファクト商会の売り上げも過去最多記録です」と報告してくる。
「この日の活動結果としては……」
氷雪騎士団が密猟団を捕らえた。
カントループ商会がクラーケン商会とコンタクトを取った。
メリーファクト商会が、大儲け!
「うん。とてもよい成果なのではないかしら?」
あとは、カントループ商会からの報告を待ってみましょう。
フィロシュネーはニコニコしながら迎賓館へと引き上げたのだった。
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