悪辣王の二人の娘 ~真実を知った聖女は悪を討つ~

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

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4、奪還のベリル

294、開けます。今、開けます……もう開けました!

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 遺跡の最奥にいたフィロシュネーは、香水時計が夜を示すのを見た。
 
(夜空の月は、今ごろ『月隠げついん』の姿をみせている?)
 扉を見つめていると、『月に至る扉』から声がした。

「おーい、おーーい」
「きこえますか?」

 アーサーとアルブレヒトだ。
 遺跡探検隊はワッと歓声をあげた。

「アーサー様のお声だ」
「アルブレヒト様……!」

 わあわあと騒ぐメンバーたちに声量をおさえるように扇を振って、フィロシュネーは扉に近付いた。

「シュネーです。お兄様、アルブレヒト様。お迎えにあがりましたわ」
「中に入ってはいけない、シュネー」
「わかっています、わたくし、知っています」
 
 視界の端っこで、ダーウッドが無言で固まっている。
 フィロシュネーは預言者の手をつかんで、自分といっしょにドアノブを握らせた。
 
 扉の向こうからは、返事の代わりにドォンっという爆発音がきこえた。なにか叫んでいる気がするが、なにを言っているのかはよくわからない。
 
「開けます。今、開けます……もう開けました!」
 
 フィロシュネーはダーウッドといっしょに扉を開けた。
 
 開いた扉の向こうから、ぶわりと煙が溢れ出てくる。煙は真っ黒で、目を痛くなって開けていられなくなる。煙たい。

「ありがとう、シュネー!」
 
 兄の声がする。
 ああ、兄が戻ってきたのだ。

 フィロシュネーは必死に目を開けて、兄を見た。
 
 煙といっしょに扉から出てきた兄アーサーは、身軽な格好だった。
 
 白銀の髪は伸びていて、後ろでひとつに束ねている。
 頬にすすがついているし、服もあちらこちらが焦げている? 

「……お、お兄様、こほっ、こほっ」

 アーサーと同時にアルブレヒトが飛び出して、ハルシオンに迎えられている。

「アル! ……その手に持った麻縄は……?」
「兄上……この麻縄は違うのです、石版を持ってくるつもりで、つい間違って」
「よくわからないけど石版と麻縄って間違えるかな……?」
 
 アーサーとアルブレヒトの二人が扉の外に出ると、扉は煙を吐き出しながら勝手に閉じていく。閉じ切る直前、隙間からは炎が見えたような。
 
「ひさしぶりだ。ああ、力を入れ過ぎてはいけないな。壊してしまいそうだ……お前たちは、あいかわらず小さい」
  
 アーサーの腕がフィロシュネーとダーウッドを抱きしめる。

 焦げたような匂いがして、がっしりとした体の体温と鼓動を感じて、フィロシュネーは胸がいっぱいになった。
 いっしょに抱きしめられたダーウッドがなにかを言おうとして嗚咽をこぼしている。泣いている。
 フィロシュネーはつられて泣いてしまいそうになった。
 
「お兄様。おかえりなさ……」
 
 言いかけたフィロシュネーの耳に、アーサーの声が聞こえる。
 その息づかいに、「兄は生きてここにいるのだ」という実感が高まる。

「忘れる前に言う。兄さんは神々と過ごした。彼らの知識は民の生活向上の役に立つと思って日記に知識を書いたが、燃やされた。神々は対立し、争い出して、……ああ、忘れていく……」

「お兄様?」

 アーサーの全身から力が抜けていって、ずるりと膝をついて倒れ込む。
 体重を支え切れずに、フィロシュネーはぺたりと尻もちをついた。

「兄さんは、……帰りたかった。こうしてお前たちを抱きしめたかった」

 ささやく吐息で微笑んで、アーサーは意識を失った。
 
「ア、アーサー様。アーサー様……?」
 
 ダーウッドがおろおろしている。

 アルブレヒトは「私も忘れていくようです。そして、眠い……」と頭を振りながら座り込み、壁にもたれかかって目を閉じた。

「紙は燃えると思ったんです。やっぱり石版がよいと……ああ、持ってこれなかった……」
 
 アルブレヒトの呟きは残念そうだった。
 
 医師が二人の様子を診て「疲労で眠っておられるだけです」と告げると、部屋には安堵と喜びの声があふれた。

「やった!」
「アーサー様とアルブレヒト様が見つかったぞ……‼」
「ご無事だ!」

 フィロシュネーは目尻に浮かんだ涙をそっとぬぐい、ハルシオンと目を合わせてにっこりと笑った。

「わたくしたち、二人をお迎えできましたわね、ハルシオン様」
「シュネーさんのおかげです」

 フィロシュネーは王位を兄に返すつもりだが、空国の王様はどちらになるのだろう。

 好奇心と心配をちらりと覚えつつ、フィロシュネーは視線を青国の預言者ダーウッドに向けた。

 アーサーをひたむきに見つめて静かにぽたりぽたりと涙を落とす不老症の預言者は、自分よりもずっと年上なのに、いたいけな子どものようにも見える。


「よかったわね……アレクシア」


 お姫様には、やっぱりハッピーエンドがいい。

 フィロシュネーはそんなことを考えながら手を伸ばし、預言者の頭をぽふりと撫でた。
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