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5、鬼謀のアイオナイト
336、姫は呪術伯を助けて、エルフ像を撃つのです
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翌日。
サイラスは泊まり込みの仕事で家を空けると言った。
「明日はぜひお出かけください。俺はあいにく仕事でご一緒できないのですが、代わりにギネスが護衛をしますから」
「お忙しそうですわね」
「まあまあです。それと、こちらのお手紙もどうぞ、届いていました」
エントランスでサイラスを見送ろうとすると、手紙が渡される。
見てみると、差し出し人はハルシオンだった。
『シュネーさん、紅国での新生活はどうですか。ご不満があれば、私はいつでもお迎えにまいります』
という文言で始まる手紙には、フィロシュネーへの依頼が書いてあった。
『呪術伯フェリシエン・ブラックタロンを紅国に派遣しています』
それは、知っている。
うんうん、と頷いて先を読んでみると。
『私を空王に選んでくれた神が、エルフの森の魔法植物を用いてフェニックスの霊薬を開発するようフェリシエンに命じよと言ったのです』
――フェニックスの霊薬?
聞いたことのない薬だ。なんだろう。
『シュネーさんは魔法薬つくりにお詳しいらしいですね。もしよかったら、手伝ってあげてください』
「……ふむ?」
(手伝うのは問題ありませんわ。ええ、ええ。もちろん)
以前、紅国で結んだ協力関係もそのまま継続しているし、個人的にもハルシオンとは仲良しだ。
「姫」
手紙を眺めていると、サイラスは耳元に唇を寄せてくる。
「な、なあに」
昨日のことがあっただけに接近にどきりとしていると、サイラスはラルム・デュ・フェニックスと思われる赤い宝石の首飾りを首にかけてくれて、内緒話をするみたいに囁いた。
「姫は、呪術伯を助けて、エルフ像を撃つのです」
「……? はい?」
「魔法植物店の店長が倒れたときに、姫の筒杖で木彫りのエルフ像を撃ってごらんなさい」
また『預言』みたいなことを言う。
フィロシュネーは首をかしげた。
「魔法植物店の、エルフ像?」
「フェリシエン・ブラックタロン呪術伯は十二時頃に魔法植物店にて、『緑の若枝』と揉めます。彼を助けてあげなさい。そのあと、店長が倒れます。そうしたら、姫はエルフ像を撃つのです」
「わ、わけがわからないわ……でも、それは預言なのね、紅国の預言者さん?」
「俺の預言は当たります」
「石を使っているからですわね?」
「石は捨てました」
「……嘘おっしゃいぃ……」
『緑の若枝』というのは、ちょっと偉そうなエルフだ。
イシルディン様、と呼ばれていたはず。呼んでいた配下エルフは、ヴァイロンという名前だった。
「嘘はよくないと思いますけど、わかりましたわ。預言に感謝します」
フィロシュネーは半眼になりつつお礼を言った。
「では、姫。俺は仕事に行ってまいります」
サイラスは姿勢を変えず、じっとしている。
彫像みたいにじーっと静止して、なにかを待っている。
(まさかとは思うけど、いってらっしゃいのキスを待っていたり?)
フィロシュネーは可能性に思い至ってそーっと指先で彼の頬に触れた。
そして、頬をきゅっとつまんでみた。
「……?」
不思議そうな顔をしている。そんな風に困惑していると、怖くない。
フィロシュネーはにっこりした。
「嘘つきさんには、よしよしはなしです。しめしめだけですの」
ぱち、ぱちと瞬くサイラスの黒い瞳は、無害な感じ。安心する。
「……さようですか。それは残念ですね」
「いってらっしゃいませ」
「いってまいります」
嘘をついていない、とは言わずに、サイラスは出かけて行った。
どことなくがっかりした様子に見えて、フィロシュネーは「よしよししてあげるべきだったかしら」と思ってしまった。
(でも、あの様子だと、石を手放す気はなさそうね)
そして、預言の日。
フィロシュネーは紅都に出かけた。
* * *
「アルダーマールにセイセリジを仕入れてほしいだと。よく言えたものだな。『まどろみの森』の植物は、我らにドワーフに化けた呪術師が貴殿だと教えてくれたのだぞ」
「吾輩は店主と商談をしているのだ。貴様らには関係ない」
「いいや。関係ある」
教えられた時間帯に魔法植物店に行くと、揉め事が起きていた。
店内は、あたたかい。魔法植物の香りで満たされている。
天井から吊るされたクリスタルのランプが微かな光を広げている。
色彩も大きさや形状もさまざまなガラス瓶がズラリと並ぶ棚。魔法植物に関する本が並ぶ棚。植物の種やガーデングッズが並ぶ商品棚。
あちらこちらに置かれた売り物の植物は、色とりどりの花弁や発光する葉っぱが神秘的だ。
店の奥にはカウンターがあり、魔法の種や薬品が瓶に詰められて置かれている。
カウンターの向こうではらはらと見守っているおじさんは、魔法植物店の店長さんだろう。おじさんの手には木彫りのエルフ像があって、ちょうどカウンターに置こうとしているところだった。
揉めてるのは、身分の高そうなエルフ『イシルディン』、配下のエルフ『ヴァイロン』。
そして、深い緑髪の『空国の呪術伯』フェリシエン・ブラックタロンだ。毛皮の塊みたいに防寒コートを厚く着込んでいて、血色の瞳はとても面倒そうにエルフたちを見ていた。
サイラスは泊まり込みの仕事で家を空けると言った。
「明日はぜひお出かけください。俺はあいにく仕事でご一緒できないのですが、代わりにギネスが護衛をしますから」
「お忙しそうですわね」
「まあまあです。それと、こちらのお手紙もどうぞ、届いていました」
エントランスでサイラスを見送ろうとすると、手紙が渡される。
見てみると、差し出し人はハルシオンだった。
『シュネーさん、紅国での新生活はどうですか。ご不満があれば、私はいつでもお迎えにまいります』
という文言で始まる手紙には、フィロシュネーへの依頼が書いてあった。
『呪術伯フェリシエン・ブラックタロンを紅国に派遣しています』
それは、知っている。
うんうん、と頷いて先を読んでみると。
『私を空王に選んでくれた神が、エルフの森の魔法植物を用いてフェニックスの霊薬を開発するようフェリシエンに命じよと言ったのです』
――フェニックスの霊薬?
聞いたことのない薬だ。なんだろう。
『シュネーさんは魔法薬つくりにお詳しいらしいですね。もしよかったら、手伝ってあげてください』
「……ふむ?」
(手伝うのは問題ありませんわ。ええ、ええ。もちろん)
以前、紅国で結んだ協力関係もそのまま継続しているし、個人的にもハルシオンとは仲良しだ。
「姫」
手紙を眺めていると、サイラスは耳元に唇を寄せてくる。
「な、なあに」
昨日のことがあっただけに接近にどきりとしていると、サイラスはラルム・デュ・フェニックスと思われる赤い宝石の首飾りを首にかけてくれて、内緒話をするみたいに囁いた。
「姫は、呪術伯を助けて、エルフ像を撃つのです」
「……? はい?」
「魔法植物店の店長が倒れたときに、姫の筒杖で木彫りのエルフ像を撃ってごらんなさい」
また『預言』みたいなことを言う。
フィロシュネーは首をかしげた。
「魔法植物店の、エルフ像?」
「フェリシエン・ブラックタロン呪術伯は十二時頃に魔法植物店にて、『緑の若枝』と揉めます。彼を助けてあげなさい。そのあと、店長が倒れます。そうしたら、姫はエルフ像を撃つのです」
「わ、わけがわからないわ……でも、それは預言なのね、紅国の預言者さん?」
「俺の預言は当たります」
「石を使っているからですわね?」
「石は捨てました」
「……嘘おっしゃいぃ……」
『緑の若枝』というのは、ちょっと偉そうなエルフだ。
イシルディン様、と呼ばれていたはず。呼んでいた配下エルフは、ヴァイロンという名前だった。
「嘘はよくないと思いますけど、わかりましたわ。預言に感謝します」
フィロシュネーは半眼になりつつお礼を言った。
「では、姫。俺は仕事に行ってまいります」
サイラスは姿勢を変えず、じっとしている。
彫像みたいにじーっと静止して、なにかを待っている。
(まさかとは思うけど、いってらっしゃいのキスを待っていたり?)
フィロシュネーは可能性に思い至ってそーっと指先で彼の頬に触れた。
そして、頬をきゅっとつまんでみた。
「……?」
不思議そうな顔をしている。そんな風に困惑していると、怖くない。
フィロシュネーはにっこりした。
「嘘つきさんには、よしよしはなしです。しめしめだけですの」
ぱち、ぱちと瞬くサイラスの黒い瞳は、無害な感じ。安心する。
「……さようですか。それは残念ですね」
「いってらっしゃいませ」
「いってまいります」
嘘をついていない、とは言わずに、サイラスは出かけて行った。
どことなくがっかりした様子に見えて、フィロシュネーは「よしよししてあげるべきだったかしら」と思ってしまった。
(でも、あの様子だと、石を手放す気はなさそうね)
そして、預言の日。
フィロシュネーは紅都に出かけた。
* * *
「アルダーマールにセイセリジを仕入れてほしいだと。よく言えたものだな。『まどろみの森』の植物は、我らにドワーフに化けた呪術師が貴殿だと教えてくれたのだぞ」
「吾輩は店主と商談をしているのだ。貴様らには関係ない」
「いいや。関係ある」
教えられた時間帯に魔法植物店に行くと、揉め事が起きていた。
店内は、あたたかい。魔法植物の香りで満たされている。
天井から吊るされたクリスタルのランプが微かな光を広げている。
色彩も大きさや形状もさまざまなガラス瓶がズラリと並ぶ棚。魔法植物に関する本が並ぶ棚。植物の種やガーデングッズが並ぶ商品棚。
あちらこちらに置かれた売り物の植物は、色とりどりの花弁や発光する葉っぱが神秘的だ。
店の奥にはカウンターがあり、魔法の種や薬品が瓶に詰められて置かれている。
カウンターの向こうではらはらと見守っているおじさんは、魔法植物店の店長さんだろう。おじさんの手には木彫りのエルフ像があって、ちょうどカウンターに置こうとしているところだった。
揉めてるのは、身分の高そうなエルフ『イシルディン』、配下のエルフ『ヴァイロン』。
そして、深い緑髪の『空国の呪術伯』フェリシエン・ブラックタロンだ。毛皮の塊みたいに防寒コートを厚く着込んでいて、血色の瞳はとても面倒そうにエルフたちを見ていた。
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