魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です

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5、夢王子と秘密の賢者

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 試験勉強とアトレイン様との文通に勤しむ学園生活は、毎日が充実していて楽しい。
 それだけじゃない。並行して推しのネクロセフ教授の助手生活も始まっている。

 今日はネクロセフ教授から「気分転換に研究室を手伝え」と声がかかった。
 教授直々のご指名だ。これはもう、癒しの極みでしかない。

「教授、おはようございますっ! 助手のパメラ、参りました!」
「大げさだな。今日は雑用を少し頼むだけだ」
「雑用でも! 教授のお役に立てるなら!」

 慌ててごまかす私を、教授は小さくため息をついて受け流す。
 この「やれやれ」感が堪らなく萌えるんだ。
 
 研究室には、薬草や魔法鉱石、それに使い古された魔導書が山のように積まれていた。
 私は火属性の魔法を使って不要になった資料を丁寧に灰にしながら、心の中でこっそり感謝した。
 
 推しのお仕事を手伝えるなんて、光栄だわ!

 思うに、推しと恋って似ているようで違う。
 ネクロセフ教授にときめくのと、アトレイン様にときめくのとは、別のときめきだ。

「ミス・タロットハート。それが終わったら庭の薬草に水をやってくれ」
「えっ、水、ですか? わ、わたし、水属性がちょっと苦手で……」
「なら、魔法を使わずにやればいい。焦らずゆっくりで構わない」

 言われてみればそうだ。
 いつの間にか、魔法ありきで考えるようになっていた。
 
 教授は如雨露じょうろを持って、魔法薬草の庭に出た。
 私は親鳥の後を付いてまわるヒナの気分で付いて行く。
 
「水はこの溜め池から汲める」
「はい、教授」
 
 隣に立って如雨露じょうろを受け取ると、風がふわりと吹いて、教授の袖が私の手に触れる。
 
 推しと袖をすり合わせて水やりなんて、夢のようなシチュエーション……!

「これでいい。研究室に戻る。鉱石棚を整理してくれ」
「は、はいっ!」

 教授と一緒に廊下を歩くのは、独特の優越感がある。
 通路の向こうから歩いてきたコレットが手を振ってきたので、私は得意満面、手を振り返した。
 すると、ネクロセフ教授がひそやかに疑問を唱える。
 
「そういえば、ミス・タロットハートはミス・グリーニアと友人なのか?」
「え、コレットですか? そうですね……一緒に勉強もしているし、友人です」
「そうか。『周囲に溶け込むどころか喧嘩しがちで、友人が作れていない』と職員会議でたまに話題になっていた。ミス・タロットハートが親しい間柄なら安心だな」

 先生方は生徒をちゃんと気にしているんだな。
 
 ネクロセフ教授が安心できるよう、コレットの友人としてがんばろうかな?
 私、元々はコレットを応援していた読者だしね。

「えっと、コレットはまだまだこれから成長する子だと思います。私以外にも他の友人もいますし、大丈夫ですよ」
「ミス・タロットハートは保護者のような言い方をするんだな」
 
 教授はくすりと笑ってくれた。
 すれ違う生徒たちに「私、助手ですから!」という得意げな顔を披露しながら、私は研究室に入った。
 
「そういえば、気付いたら増えていたが、この人形は何だ?」
「はいっ。教授のぬいぐるみです」
「作ったのか?」
「力作です!」
  
 教授の机の上には、私が作ったネクロセフ教授ぬいぐるみが飾ってある。
 
 これは研究室用だ。
 自室にはもちろん自分用がある。
 それに、自室にはセレスティンと一緒に作った私とセレスティンのぬいぐるみも増えている。
 試験が終わったら、アトレイン様やルナルたちのも作ろうと思っているところだ。
 
「……よくわからないが、人形はよくできている――と思う」

 ネクロセフ教授はほんの少しだけ目を細めて、微笑んだ。
 
 笑った。教授が笑った! 
 わぁ~~! 試験前の不安が一瞬で吹き飛ぶ尊さ……!

「……試験、がんばりなさい」
「っ、はいっ! 全力で! あ、あの、もしよかったら婚約者の方に贈呈するぬいぐるみも作りましょうか?」
「…………試験後に頼む」

 ……『頼む』!
 
 その一言が、魔法よりも強力な励ましに感じた。
 私は胸の奥にぽっと灯った光を抱えながら、研究室を後にした。

 ――教授に『がんばれ』って言われた。
 それに、『頼む』だって。
 
 これで、試験なんて怖くない。いや、もう全部尊い。
 この人生は、ご褒美だ……神様、ありがとうございます。

「パメラ。ここにいたんだな」
「あ、アトレイン様」

 恍惚としていると、アトレイン様が声をかけてきた。

「どうかしたんですか?」
「寮の入り口まで送ろうと思って。あと、これは俺からの今日の手紙だ」

 アトレイン様は新しい手紙を渡してくれた。
 私たちの文通は、楽しく継続している。

「ありがとうございます。帰ってから読みます」 
「ああ。それと、手紙にも書いたんだが、試験後の打ち上げパーティは俺と二人で巡ろう」

 とくん、と胸が高鳴った。
 デートのお誘いだ。

「……喜んで!」
「パメラはいつも笑顔が百点満点だな。とても可愛い」
「なっ……」

 にこりと笑って自然な仕草で頬にキスをされて、真っ赤になってしまう。
 最近、こんな風に「可愛い」と言われる頻度が高くなってきている気が。
 しかも言ったご本人もちょっと照れている気が。
 
「ア、ア、アトレイン様の笑顔もいつも大変麗しく、か、完璧ですよ!」
 
 いけない、動揺して変なことを口走ってるかもしれない!
 
 慌てる私の頭に手を置き、アトレイン様は嬉しそうに目を細めた。
 
「ありがとう。実は練習してるんだ」
「へっ……レイオンとですか?」

 想像すると萌える。

『殿下、もっと柔らかに』
『……こうか、レイオン?』
『麗しいですよオレの殿下! さあ、次は凛々しく! オレをきゅんとさせてください!』
『こうかな?』
『いいですねえ殿下! ではちょっと壁ドンしてみましょうか!』     
 
「パメラ? 今、何か変なことを考えてないか?」
「はっ。いえいえ、めっそうもない。いつも供給ごちそうさまです」
 
 虹灯篭のことを考えると少し心配だけど、アトレイン様が誘ってくれたのは嬉しい。
 私はにっこりと微笑み、デートのお誘いを受けた。

 ――デートをスッキリと楽しむためにも、試験、がんばろう……!   
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