流れ流され流れてく

流れ流され流れてく

昔、昔 三本の川が流れる小さな村にお爺さんとお婆さんがおりました。
村は農耕が盛んで年中農作物が収穫できる為、夫婦は豊かに暮らしておりました。
ある日の夕刻、夕飯を食べていると戸が鳴った。お爺さんが戸を開けるとそこには二人の若者がおりました。
聞くと兄弟は病気で両親を亡くし都へ仕事と住まいを探しにいく途中で、一晩泊めて頂けないかという話だった。いたわしく思った夫婦は兄弟を家に招き入れ食事を馳走しました。
高齢で人手の必要があった夫婦は兄弟にこの家に住みながら働かないかと申した所。。
兄弟は涙ながらにその申し出を快諾した。翌る日より兄弟は農耕の手伝いを始めました。

思っていた以上に大変な農作業に有り難みを感じながら兄弟は懸命に働きました。夫婦はその姿を頼もしく感じておりました。

ある日、夫婦は兄弟を川へ連れて行きました。川の浅瀬に着くと夫婦は皿を浅瀬に入れました。
川の底から土ごと掬うとその皿を水面でゆらゆら揺らし始めました。しばらく揺らしていると皿の底にはきらきら光る欠片が見えてきました。その光る欠片は何かと聞くとこれは金だと夫婦は答えました。
三本の川が流れるこの村では砂金が採れるのでした。夫婦は時折川に来ては砂金を採取し都で換金しているという。そこで兄弟も砂金採取を手伝いその日 皆で少量の砂金を採取しました。
それから毎日働き時折、砂金を採取しながら夫婦と兄弟は豊かに暮らしていきました。
ある日、夫婦は相応に貯まった砂金の換金を兄弟に頼みました。
換金は都で行われており村から都までは遠方の為、都での一泊。
初めて行った都ではあまりの賑わい、人々の活気、熱気に兄弟は圧倒され、わけもわからぬまま心嬉しい一夜を過ごしました。
そのような日々が過ぎ3年程過ぎた頃、夫婦は兄弟に正式に養子になってもらえないかと申し出しました。夫婦は兄弟を実の息子のように思っており夫婦は子に恵まれなかった為、夫婦の没後には財産全てを兄弟に分け与えたいと申しました。兄弟はその気持ちを有り難く頂戴して正式に夫婦の養子になりました。

暫くしたある日の朝、兄弟の兄の姿がありませんでした。
夫婦と弟は心配し探しました。村人総出で探しましたが兄の姿は何処にもありませんでした。憔悴の面持ちで夫婦達が家に帰ると家に貯めておいた金と砂金が無いことに気がつきました。弟は兄が金と砂金を持って出て行ったと思い、夫婦に涙ながらに謝罪の言葉を述べた。人生を賭して必ず兄を探し出し報復すると。
そう言った弟に夫婦はそんなことはせずとも良いと言いました。心苦しいし失ったものは大きいが生活はまた働き豊かになれば良いし、家や土地、広い農作地、夫婦のこれからの財産は全て弟に与えたい。故にこれからもこの家で暮らしてもらいたいと夫婦は言いました。弟は夫婦に対する申し訳ない気持ちの中その申し出を受け取り、これからの尽力を誓いました。

それから季節が三回りした頃、砂金の換金で都に行っていた弟が家に戻ると3年前姿を消した兄が夫婦と食事をしておりました。驚いた弟は心配と鬱憤の心情の中、兄に事の経緯を聞きました。
すると兄は、3年前金と砂金を持って出て行ったのは自分でありその後、都に行ったと告げた。弟はなぜ金と砂金を盗んだのかと聞くと兄は金に目が眩んだ、これだけあれば都で楽に暮らせると思い持って出て行ったと告げました。その後都に着き盛大に豪遊し賭博にはまり、2年で大金を使い果たしてしまったと。。。
学がなく能力もない兄は都では仕事に就けず最終的に見つかった仕事は豚の世話係でした。豚の世話係という仕事は当時、最底辺の仕事で世話係とは名ばかりの豚と寝泊まりを共にする、もはや家畜同然の仕事です。賃金は心許なく豚の餌である、いなご豆を食べ生き長らえていたという。そんな生死の狭間を彷徨う生活を続ける中、兄はこれまでの愚かな行いを後悔し反省していった。
豚の世話係に就き1年が過ぎた頃、兄は思いました。夫婦の家でも豚を飼っていたな。これまでの愚行を夫婦に謝り豚の世話係に就かせてもらおう。同じ世話係ならそちらの方が良い。罪滅ぼしにもならないが夫婦の助けになりたい。兄は歳月を重ね悔い改め、そして村に戻って来たのでした。
全ての事情を聞いた夫婦は、兄のボロボロの服を着替えさせて食事を馳走しました。そして夫婦は兄を許し、また以前のように農作業を手伝ってもらいたいと告げ、その申し出に兄は感謝の意を述べ愚行を繰り返さぬ事を堅く誓いこれからの尽力を告げました。
そして兄は弟にもこれまでの愚行を謝罪しました。
その経緯を聞き終えた弟は激昂し、また一緒に住み農作業をさせるなど言語道断だ、また過ちを犯すに違いないと夫婦に反論しました。
すると夫婦は言いました。人は過ちを犯すもの、大切なのはその後、過ちに対してどう向き合うか、何も反省せず記憶から消していくのか、あるいは過ちを反省し悔い改め以後の糧として行動を改善していくのか、兄は自分の愚行を反省し悔い改めて村に戻って来た。その意を信じてもう一度共に働いてほしい。兄弟共に私たちの息子なのだから。と夫婦は言いました。
それを聞いた弟は怒りが収まらぬまま仕方なく了承しました。
そして、その後兄は以前にも増して毎日必死に働きました。
仕事がある有り難み。。毎日の糧がある有り難み。。家族への有り難み。・愚行を通じて悔い改め成長できた有り難み。。反省と感謝の気持ちで兄は日々の作業に取り組んでいきました。
毎日を笑顔で過ごしている兄に対し、弟はいまわしい気持ちを抱いていました。罪人が何様のつもりで笑顔で毎日を過ごしているのか、自分のしたことが分かっているのか、あの愚行を無きものにしてしまっているのではないか。。兄の笑顔と共に弟の憎悪の念は増していきました。そんな日々が過ぎたある日の朝、皆が起きると兄の姿はありませんでした。夫婦と弟は金と砂金を確認すると全て無くなっていました。以前と同様だと夫婦と弟は兄を捜すことをしませんでした。それから暫くしてお爺さんが土を耕していると、振り下ろした桑に不可思議な感触があった為、その場を掘り起こしてみるとそこにはくち果てた兄の姿がありました。
なぜここに兄が埋められていたのか。夫婦は確信を胸に抱き弟を問い詰めました。すると弟は兄を殺めたのは自分であると告白しました。兄を許せなかったと、自分は今まで休みもせず毎日働いて尽くしてきたのに、兄ばかり保護され良い思いをしているのが許せなく我慢ならなかったと。故に以前の持ち逃げに見せかけて兄を殺めてしまったと。。盗んだ金と砂金は近くに埋めてあると告白した。それを聞いた夫婦は口を開きました。
兄を殺めて心が晴れたのか、兄を殺めたことで何を得たのか。
今この状況になっても自分のしたことは正しかったと思えるのか。
これからの豊かな人生が待っていたのに唯一の兄弟すら信じる事が出来なかったとは痛恨に耐えない。。
罪を償い悔い改めまた農作業をしたくなれば戻ってくれば良い、私達の息子なのだから。。
私たちは生きている限りここで待っていると弟に告げました。
弟は溢れた涙を止められぬまま役所へと連れて行かれました。

後日、弟に下された刑は「死刑」

暫くして弟の刑は執行されました

夫婦は兄弟が来る前の生活に戻り、また農作業をしながら金を採り豊かに暮らしましたとさ。。。