上 下
32 / 52
真剣に事件に取り組む

真理音

しおりを挟む
カツ子が今まで感じてきたものをまとめると、西門真理音は、学校の中では見えない存在の様だった。

どうやら、今の時代はこういったいじめが流行しているのだろうか?彼女はあの学校には一人も友達と呼べるものはいなかった。真理音は真理音なりに努力はしていた。けれど不器用な真理音の前に立ちはだかった壁は、なかなか崩れなかった。

学校でも、寮でも独りぼっちのまま、約2年が過ぎ、その精神的なダメージから拒食症になり、もろくなった体は悲鳴を上げ、ついに折れた。

その2年間の孤独で心も強く閉ざし、頑な心を溶かしたものがここにいた。

それが吉野要。
あの図書館でのほんの些細な出会いだったが、長く孤独の中で苦しんだ彼女の心に入り込むのはそれで充分だった。吉野要はここで数か月の実習で訪れていることを告げ、自分もまた地方出身で、こちらには友人がなく、寂しい身の上であることを打ち明け、次、又ここで会うことを約束した。

西門真理音は吉野要が病院へ来る週に3回、ここで会うことをとても楽しみにしていた。

やっと長い孤独から解き放たれた、そんな瞬間だった。

だが、なかなか会うこともままならず切ない思いをしていた。

そんなころに仲良くなった、看護実習の棚橋まどかに、手紙を持って行ってあげると言われ、せっせと毎日、手紙を書いた。

友達の居ない真理音に、やっと現れた心からわかり合える人。

じゃあ、あの三人は・・・カツ子の疑問は学校で川畑と言う教師から、行方不明になった北條紀保江、芳井りん、大塚琴美の三人が真理音と仲の良い友達だと聞かされていたが、どれほど真理音の気をたどっても、彼女たち三人にはたどり着かない。だが、学校での聞き込みは真理音とその三人は友達、いつも一緒の仲良し四人組で、真理音がけがをしたからお見舞いに言ったのだと口を揃えて言う。


けれど吉野要と棚橋まどかとその三人は必ずここで会っている。接点はここしかないはずだ。
カツ子は無茶を承知で真理音に聞くことにした。彼女の口から聞くしか、もう方法は残ってはいなかった。

だが、真理音は病院にはいなかった。

退院した後だった。
「嘘でしょ・・・・」

そのまま棚橋まどかの勤務する階に行った。

そして、本当に運よく、彼女が下の階から階段を上がってきたところに出くわした。
「棚橋まどかさん。」
「は・・・はい・・・」
カツ子のかけた声にさほど驚くこともなく返事をした。

「あの・・・私、大柴カツ子と言いますが・・・西門真理音ちゃん。退院したのかしら。
部屋にはいなかったけれど・・・もうよくなったの?」

「あ・・・ええ・完全ではないようですが・・・しばらくは自宅療養するとは言っていました。本人はここがいいと言っていましたけど、仕方ないですね。
学校とご両親で決めたみたいですよ。退院の事。ほかに何か聞きたいことありますか?」

「え?」
「おばさん、いつも私の事見てたでしょ。」

「気づいていたんだ・・・」
「そんな派手な格好してたら嫌でも目につきます。いいですよ。お話くらい。
私、今日はこれで上がれるんで・・・ご飯ご馳走してください。」

「わかった。」

「やった!じゃあ、着替えてくるんで・・・救急の玄関で待っていてくれますか。従業員出口に一番近いので。」

カツ子はその言葉通りに救急玄関で待ち合わせ、棚橋まどかのお気に入りと言うカフェに連れていかれた。

まどかはナース服の時は少し大人びて見えたが、私服になるとやはり少し幼さが残る十代の、今時の若者だった。
しおりを挟む

処理中です...