ローズマリーへようこそ

みるくてぃー

文字の大きさ
8 / 61
物語のはじまり

第8話 決着の行方

しおりを挟む
「ただいまぁ」
「お帰りなさいませお嬢様」
「お帰りなさいお姉さま」

 あの後、混乱するクラスメイトをルテアが一言で収めてくれた。さすが公爵令嬢誰も逆らえないね。

 ロベリアは文句を言わないと言った癖に私を泥棒扱いしてきたので、スイとエンの魔法で脅した上、耳元でこっそりおパ○ツの色を伝えたら大人しくなった。
 「この歳でフリフリってどうよ」と追い討ちをかけたのは若気の至りと言うもの。ぜひ見逃して欲しい。

「お嬢様、この子たちは?」
「押し掛け家族よ。名前は青い髪がスイで赤い髪がエンよ」
「「よろしく(な)!」」
 訪ねてきたエレンとエリスに二人を紹介する。



「相変わらずでございますね」
 今日学園であった経緯を二人に説明し終え、エレンが最初に放った言葉がこれだ。
 相変わらずってどういう意味よ!

「まぁ、今日は疲れたからあえてツッコまないわよ。それよりスイ、エンちょっと説明しておきたい事があるの」
 成り行きとは言え、二人が私の家族になったからにはこれからの事を説明しておく必要があると思い、今までの経緯を一通り説明した。
 最後に『誰かにバラしたらシメル』と笑顔で脅したことは言うまでもない。

「別に構わないぜ、俺たちはアリスに付いていくだけだ」
「付いていくだけだ」

「ありがとう、それとリリーは生まれて数年の子供だから虐めないでよね、二人はお兄ちゃんになったんだから」
「「妹!?」」
「お兄ちゃん?」
 うん、二人とも仲良くなってくれそうだ。
 スイもエンも口は悪いけれど根はとてもいい、ロベリアに攻撃した時だって少し怪我をさせる程度だったし、今もリリーをみて顔を赤くしてる。いいお兄ちゃんになってくれそうだ。

「そう言えば二人の属性って何なの? エンは炎だってわかるけど」
「察しのとおり俺は炎の精霊、炎と熱の魔法が使えるぜ」
「俺は水の精霊で水と氷の魔法がつかえる」
 ほぉ、熱と氷の魔法は使えるわね。この世界にオーブンなんて便利なものはないし氷は非常に貴重な物だ。
 夏の暑い季節に氷の入った冷たい飲み物なんて絶対売れる!

 えっ? 精霊を便利なキッチン道具と思っていないかって? まさか、流石の私も半分程度にしか思ってないわよ。

「お嬢様なんですかそのポーズ?」
 嬉しさのあまりガッツポーズを決めていたらエレンが不思議そうに訪ねてきた。
 エリス、お姉ちゃんのマネをしちゃいけません。



コンコン
 皆んなでお茶を楽しんでいたらメイドの誰かが訪ねてきた。ごめん名前おぼえてないや。

「どうぞ」
 エレンが私の代わりに返事をして対応してくれる。

「アリス様、旦那様が書斎でお呼びです」
 私の呼び方がお嬢様でなく名前、叔父は旦那様ときましたか。まぁもういいんだけど。

「分かったわ、すぐに行くと伝えておいて」

「お嬢様」
 メイドが出て行った姿を確認しエレンが声を掛けてきた。
 恐らく分かっているのだろうこれから起こる事が。

「大丈夫よ」
 緊張してなとい言えば嘘になる、だけどここが私の正念場。ちゃんと準備もしてきたし、この日の事は何度も頭の中でシミュレーションしてきた。頑張れ私。

「それじゃ行ってくるわ」
 私はチェストにしまっていた封筒を二通取り出し叔父の元へ向かった。




「失礼します」
 ノックと名乗りを上げ叔父の部屋へと入って行く。
 ここは亡くなったお父様の書斎、いつも夜遅くまで机に向かい仕事をされていた姿を思い出す。
 今は机から装飾品まですっかり変えられてしまい、昔を感じさせる物なんて何一つ残っていない。

「座りなさい」
 私は叔父に促され一番離れた位置のソファーに座った。

「今日学園で事件が起こったらしいな」
 叔父が一瞬私の肩に座っているスイとエンを見た気がするけど、今となっては正直どうでもいい。

「事件とはどのようなものでしょうか?」
「惚けるでない、お前の肩に乗っている精霊の事だ」
 チクるとは思っていたけど帰って速攻話すとはどれだけ根性曲がっているのよ。もう少し脅しておいたほうがよかったかしら。

「その事ですか、事件というレベルのものではございませでしたので気づきませんでした」
戯言ざれごとを」
 叔父夫婦がこの屋敷に乗り込んで来てもうすぐ一年、ここまで日が経つと私と叔父達の間には修復不可能な亀裂が入っていた。
 もともと彼方あちらに非があるのだから私としては譲るつもりもなかった……今日までは。

「本当にたいした事ではないんですよ。どこかのお嬢さんが無謀な精霊契約を行使し、自分が失敗した事に気づかないまま逃した挙げ句、精霊の名前にランスロットなんて恥ずかしい名前をつけようとしただけなんですよ。
その娘、可哀想な事に突然神風が吹いてスカートがめくれていましたわ。そう言えばあの歳でフリフリはないと思いませんか?」
「「ぷっ。」」
 私の肩で笑いを堪えるスイとエン、叔父の顔も微妙に頬がピクついている。

「ぷくっ、ま、まぁよい」
 あっ、笑いを堪えてる。関西人のボキャブラリーを舐めんな!

「それよりお前の婚約の日取りが決まった。日程は……」
「その前にそろそろ腹を割って話し合いませんか? 私もいい加減に疲れました」

「……何を言っている?」
「私とエリスの爵位を放棄すると言ってるのよ」
 今の叔父の気持ちはどんなんだろう、喜んでいる? それとも警戒している? まぁどちらでもいい。
 二人のやりとりを冷静な第三者の目で見ている私がいて正直驚いている。

「もう取り繕わなくてもいいわよ、言ったでしょ腹を割って話し合おうって」
「……いいだろう、何が目的だ」
 叔父はソファーに深く座り直し、今までと態度を変えて訪ねてきた。

「こちらから望むものは一つ、いえ二つね。取り敢えず婚約は破棄してもらうわ、私たちは屋敷をでて行くからね。
 それと、今後私と私に関わる人全てに一切関わらないと誓約書にしたためて頂戴。
 この条件を飲むのならこの誓約書をあげるわ、これには私とエリスが爵位を破棄すると書いてあるわ。次期伯爵として私の書印きでね」
 私は予め作っておいた姉妹のサインが入った誓約書を取り出し見せた。離れた位置に座っているのは奪おうとされた場合、スイとエンそれにリリーの魔法が炸裂する手筈てはずになっている。

「断ればどうなる?」
「別にどうもしないわよ。でも流石にこの屋敷には居づらいから……そうね、ここを出て友達の家にでも泊めてもらうわ。私の友達なんていないけどね」
 私の唯一友達すなわちルテア。
 当然ルテアが公爵家の令嬢だと知ってるはずなのでマズイとは思ってくれるだろう。だけど子供の戯言だと交わされた場合次の手は打ってある。
 実は事前にルテアとルテアのお母さんには断りを入れている、私だっておいそれと公爵様の名前なんて出せませんよ。

 しかしどうやら最後の切り札を使う必要もなかったみたい、効果はあったようだ。
「いいだろう条件を飲んでやる、只こちらからも一つ条件がある」

「聞くわ」
「こちらも誓約書をしたためるのだ、お前も屋敷を出て行った後、これらの話を誰にも話さないと誓約書の残せ」
 叔父がそう言ってくるのも折り込み済み、すでに私たちのサインが入った別の誓約書も準備済みだ。まだ見せるつもりはないけれどね。今見せればあまりの準備の良さに疑いかねない。まぁ、こちらとしても元々裏なんて無いんだけれど。

「もちろんそのつもりよ、父が大切に守ってきた伯爵の名に汚名を着せたくないからね。それに私が何を言ってもサイン入りの破棄の旨を書いた誓約書あるんだもの、これを見せればバカな女が叫んでいるだけにしか見えないわ」
「いいだろう、契約成立だ」

 その後、互いに誓約書を取り交わし細かな事の裏合わせを行った。

 まだ婚約もしていないのに急に学園から消えたら誰もが怪しむものね。
 これでも王都で由緒正しい学園だ、例え学園外だと言っても生徒の保護や私生活へのフォローが徹底されている。だから事前に退学の旨を伝えておかないと大騒ぎになることだってあるんだ。





 私と叔父が裏合わせをした内容はこうだ。
 数日後に両者参加しないまま婚約は正式手続きを元に執り行われる。そしてさらに数日後には相手先から婚約の破棄を言い渡されると言う筋書き。
 その後家名の不名誉という事で学園を中退、私たち姉妹は責任を取り爵位を叔父に譲った後屋敷を出る事になる。


 そして山々がすっかり赤く染まり、両親が亡くなって丁度一年が過ぎようとする日、私たちは長年住み慣れた屋敷を後にした。
 両親の想い出が詰まった大切な家を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

処理中です...