ローズマリーへようこそ

みるくてぃー

文字の大きさ
20 / 61
夢のはじまり

第20話 ある日の石窯事情

しおりを挟む
『ローズマリー営業日誌』
 11月○日、石窯が破壊されました。


——今をさかのぼること数時間前——

「ん~、ちょっと石窯の火力が弱いわね、ちょっとマキを取ってくるわ」
 開店から一ヶ月程経った頃、私たちはいつものように早朝から今日の仕込みの始めていた。

「あっ、お嬢様。私が取ってまいります」
「そう? じゃお願い出来るかしら」
 私がマキを取りに行こうとしたらエリクが率先して取りに行ってくれた。

「このままじゃ半焼きになっちゃうわね、もったいないけれどこれは私たちのおやつにでも回しましょ」
 余熱が低いため今焼いている生地が半焼き状態になっている、ここからマキを入れて火力を上げたとしても今度は逆に焼き時間が長くなってしまうので、生地の表面が焦げたりパサついてしまうのよね。
 食べる分には問題ないけど商品としてはもう使えない。

「だったらおれっちが温めてやるよ。炎熱えんねつ!」
「えっ?」
 考え事をしていたから反応が遅れてしまった。私が止める間もなくエンの魔法が石窯に炎を召喚した。

ボーーッ!

「エンのバカーー!」
 料理に魔法を使うとロクな事が起きないのは世の中のセオリーでしょうが!
 予想通り石窯から溢れ出す炎、早く消化しないと。

「うわわ、やべー」
「俺に任せろ、すぐに凍らせてやる。氷結ひょうけつ!」
「ええええーっ!?」

 ドンッ!!
 パラパラパラ。

「このおバカーーーーーっ!!」
「「ご、ごめんなさい!」」

 エンの魔法で高温になっている石窯によりにもよって氷の魔法って。
 皆さんはもうご存知だと思うけど高温の所に冷たい氷を入れるとどうなるか。そう水蒸気爆発というものが起こる。

 幸いにもスイの魔法にはギリギリ反応できたから、とっさに風を制御して威力を落としたけれど、危うく私たちの夢のおみせに押しつぶされるところだったわ。

「お嬢様ご無事で!?」
「何があったんですか!?」
 流石に今の爆発音に驚いたのかみんなが調理場に集まってきた。

「コホコホ、私は大丈夫よ。怪我もないから安心して」
 調理場全体に広がった煙中から何とか抜け出しエレン達と合流する。
 ディオンも無事のようでなによりだわ。取り敢えずこの煙りをどうにかしないと。

 私は風を操って部屋中の煙りを窓から外へと追いやる。
 何も知らない人が見たら私の風を操る姿は間抜けなのかもしれない。何もないところで両手を上下や左右に動かしているだけだもの、よく考えたら某国民的有名アニメのヤム○ャ(繰気弾そうきだん使用時)みたいで恥ずかしいわね。えっ、古いって? やぁねぇ、レディの年を詮索するなんて。


「これはさすがに修理が必要ですね」
 ディオンが石窯の様子を見ながらそうつぶやいた。

 何とか爆発の威力を抑えたけれど石窯のダメージは完全には防げなかったみたいね。

「仕方がないわね今日は臨時休業にしましょ。グレイ悪いんだけれど工業ギルドに行って修理の手配をお願い出来るかしら」
「畏まりました」

「エレン、店前に臨時休業の看板を。朝並ばれた方にはお詫びとして次回使えるサービス券と、数は少ないけれど出来上がっているケーキは無料で配ってちょうだい」
「わかりました。 」
 グレイとエレンにそれぞれ指示を出して私たちは調理場の掃除を始めた。

「ごめんなさい主人あるじ
「ごめんなさい」
 いつもの元気を失ったエンとスイが申し訳なさそうに私に謝ってきた。

 えい! ピシ、ピシ。
「「イテッ」」
「これで許してあげるわ」
 私は軽くデコピンをして二人を許してあげる。

「「えっ、これだけ?」」
「そうよ、何か問題でも?」
「だって」
「俺たち石窯を」
 二人はまだ納得できないような顔をしているけど私はこれ以上罰を与えるつもりはサラサラない。

「二人は私を手伝ってくれようとしたのでしょ? だったら怒れないじゃない」
 私だってそこまで鬼じゃないからね。やり方を間違えただけで私の事を思っての行動だから怒れるわけがない。

「「あるじぃ」」
「バカね何泣いてるのよ。さぁ片付けるのを手伝って」
「「お、おう!」」
 二人は涙を拭ってスイが水で汚れを流しエンがスチーム洗浄で綺麗にしていく。
 相変わらず便利な魔法ね。




「お嬢様戻りました。工業ギルドの方は午前中には来てくださるそうです」
 ようやく掃除を終えたところで使いに出ていたグレイが戻ってきた。

「ありがとう。それじゃこんな事になっちゃったけどいい機会だから今日はゆっくり休みましょ。開店からずっと休み無しで忙しかったからね」
 この世界に決まった休日はない。そもそも使用人や商人には基本休みはないし、休んだからと言っても特にする事が無いのが実情だ。
 じゃどうやって休んでいるのかというと、仕えているお屋敷や働いている店にもよるが、事前に休みの申請をしてシフト上問題なければ休めるというもの。だから一ヶ月中働きっぱなしなんて事はザラにあるのだ。


「お嬢様、湯浴みの準備ができおりますので先にお身体を綺麗にしてくださいませ」
 そう言えば爆発に巻き込まれたせいですすだらけだったわね。

「ありがとうエレン、助かるわ。ディオンも体を洗ってきなさい、スイ、エンあなた達も一緒にきなさい、体を洗ってあげるわ」
 ディオンも一緒にいたからね私と同じようにすすだらけになっている。
 グレイにこの場をお願いして私たちは二階にある自分の部屋へと向かった。




 湯浴みを終え魔法で髪を乾かしてから一階に戻ったら、すでに工業ギルドの人が来てくれており、早速修理を始めていた。

「どうかしら? 修理にどれくらいかかりそう?」
 修理屋さんに石窯の具合を尋ねると無数のビビは入ってはいるものの、今日中に修理が可能との事。
 それじゃ今日一日やる事がなくなってしまったわね、調理場の石窯が使えないから試作品もつくれないし、二階の居住スペースにある釜では火力不足だ。

「お嬢様、よい機会ですので街でお買い物でもされて来てはいかがでしょうか? こちらは私奴わたくしめで見ておりますので」
 何をしようかと迷っていたらグレイが街に出てはと提案してくれた。
 そういえば屋敷を出てから買い物って行った事がなかったわね、そろそろエリスの冬服も買ってあげなくちゃいけないし。

「そうね、ここはお願いしていいかしら? エレンも一緒に付いてきてもらっていい? エリスの服を見てあげたいの」
 たまには女の子3人でのお買い物もいいわね。エレンにも何か可愛い服を見てあげないと、この子ったらいつも制服かメイド服しか着ていないのよね。

 二人の準備をし三人と精霊達とで街へ出かけたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

処理中です...