ローズマリーへようこそ

みるくてぃー

文字の大きさ
23 / 61
夢のはじまり

第23話 幻の夢

しおりを挟む
 我が名は白銀シロガネ、天界に仕える聖獣である。

 我の役目は地上界様子を監視すること。
 別に地上に降りたり人間と関わりを持つ事は禁止されてはいないが、わざわざ行くのも面倒くさいので天界からただ眺めている。

 まぁ、天変地異でも起これば話は別だが、今のところそんな気配や予兆も無く日々ゴロゴロするのが日課となってしまった。気になることと言えば最近ちょっと太った事ぐらいか。

 そんな我にもある好物がある。
 見た目は白く毛並みの整った地上界で言う大きな虎。子供が一目見れば誰もが恐れ怖がるこの姿とは裏腹に、甘いものには目がない。

 ある日いつものようにゴロゴロしながら地上界を覗いていた時だった。人間の貴族が酔狂なことにスイーツショップなるものを始めた。
 まぁ、ここまでなら気にもしなかったがその店に並ぶケーキとやらにすこぶる目を奪われた。多種多彩な果物を乗せたものや、カスタードなるものを内に秘めたシュークリームという食べ物。そして雪のようなやわらかなクリームをのせたケーキという食べ物。

 それを見た時、我は一度食してみたと思いこの身で地上界へ行こうかと考え、とどまった。
 我は聖獣、ゆえに人間の街に行くには目立ちすぎるし、地上に漂う魔力では我の魔法量が供給が出来ないのだ。
 滅多にない事だが、魔法を使いすぎ地上界で魔法量を使い切ってしまった場合、我は消滅してしまう。まぁ、そんなドジな事はしないがな。

 仕方なく諦めるかと思っていた時、間抜けなことに足を滑らせ地上へと落ちてしまった。

 本来魔力で空を駆ける事が出来るのだが、最近甘いものの食べ過ぎと運動不足が祟ったせいで上手く足元が制御出来ず、魔力を強引に使い辛うじて落下の衝撃を抑えるのがやっとだった。決して太ったせいで自分の体を浮かせなかった訳ではない。

 幸いにもダメージは無いが衝撃を防ぐため大量の魔力を使ってしまった、その為どうしても魔法量を回復する必要があった。何度も言うが太ったせいではない。

 辺りを見渡し近くにあったあつえ向きの木箱で休む事にした。うむジャストフィットだ。
 しばらく休めば魔法量も回復するだろうと思っていたが、どうやら想像以上に魔力を使っていたようでずいぶん長い間寝ていた……そんな時だった。

 何者かが我に近づいてくる気配を感じ意識を覚醒させた。愚かにもそれは人間の子供、我の姿を見れば怯え立ち去るだろう、今はまだ魔力が回復していないのでもう少し休む必要がある。

 だが人間の子供は我の姿を見ても逃げる事はおろか怯える様子さえ見せない。
 ならば一吠えすれば流石に立ち去るだろうと思い雄叫おたげびをあげる。

「みゃぁー!」

 へ? みゃぁー?
 今のは我の声か? ありえん、我の声はもっとこうカッコよかったはずだ。
 あれだけ寝ていたのに魔力がまったく戻っていないのか? そう思い我が姿を見てみると。

「みゃ、みゃぁー?」
(あれ? なぜこんな小さい?)

 その時思い出した、地上では我の魔力は回復しない事に。

「みゃぁー!」
(しまったぁーー!)

 このままではマズイ、いずれ魔法量が尽き消滅してしまうではないか!
 どこかで魔法量を回復させねば、だがどうする? 一番手っ取り早いのは人間と一時契約することだが、聖獣である我と契約できる魔法量を持つ人間などいるはずがない。

 そんな我の葛藤も知らない人間の子供が、手に棒切れを持ち意気揚々に近づいてくる。

「みゃぁー!」
(我は聖獣だぞ!)

 そんな時だった、一人の人間の娘が我を助けようと現れたのだ。

 幸いにもこの娘には精霊を三人も従えている姉がいたようで、なんとか無事に危ないところを回避することができた。

 だが以前と我の魔法量を回復する術がない、三人も契約しているこの姉に一時的な契約を頼みたいところだがそれでも少々難しいようだ。

 この姿のままでは娘たちに我が身を委ねるしか方法はなく、抱きかかえながら見守るしかなかったが、どうやら助けてくれた妹のほうが魔法量が多いと言うのだ。小さき者と思いよく見ていなかったが、たしかに姉以上の魔法量を感じる。
 これならば今のこの小さな姿であれば契約もできるであろう。

 姉が我に問いかけておるが意義いぎなどあろうはずがない。
 魔法量回復するまでの間ではあるが小さき者と契約することにした。



……契約を望む者、我が名はエリス、
契約を求む者、汝の名は……白銀シロガネ!」

 契約は無事完了し、我の名前を預けた。
「よろしくねシロ」
「みゃぁーん」
(まて、シロはないだろう!)


 数日後の夜、いつものように我が主人あるじと共に寝ていると、姉の方が我を抱きかかえ部屋から連れ出した。

 これはわれがこの家に来てから毎夜この姉がおこっている事で、弱っている魔法量を外部的に補充してくれているのだ。
 中々気持ちの良い魔力についウトウトしていると姉が話しかけてきた。

「お前は本当に何者なんだろうね」
 そうつぶやききながら我に訪ねてくる、だが残念な事に今のこの姿では話す事もままならない。

「いずれここを出て行くんでしょうが、エリスが悲しむような別れ方はしないでね。シロ」
 この娘の言う通りいずれ別れの時はこよう、だが我が身の魔力が満ちるまでもうしばし此処ここに居座ってもいいだろう、何年何十年になるかはわからぬがシロを演じる事も案外悪くないのかもしれん。







「……なんて夢を見たんだけど、シロ今のどう思う?」
 私はいつものようにシロに魔力を与えながら話しかける。
 いくらエリスの魔法量が多いからって、出会ったシロの魔法量がほぼ0だったので私は毎夜こうやって外部的に供給していると言うわけ。
 エリスには内緒だよ。肉球を独り占めしてしたいわけじゃ決してない。

「みゃぁー」
「やっぱただの夢かぁ、そんなはずないもんね。そうだ! 今日あまったケーキたべる?」

「みゃぁー!」
「うふふ、いい返事ね。今持ってきてあげるからちょっと待っていてね」

「みゃぁー」

 うちの新しい家族に肉球が……コホン、もふもふが加わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...