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夢のはじまり
第28話 姉妹の思い
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「ねぇ、この服おかしくないかしら?」
「よくお似合いですよお嬢様」
私はいま、いつも着ているパテシエのコックコートではなくよそ行きのドレスを着ている。
今着ているドレスは亡き母が若い頃に着ていたドレス。
母のドレスは私が屋敷にいる間にほとんど売却されてしまったが、叔母は高価なドレスばかりに目がいっていたため、普段着ていた服や装飾が少なく華美でない服には全く見向きもしなかったので、事前にこっそりと持ち出していたのだ。
今日は朝早くからケーキの仕込みを済ませエレンに淑女フルコース(簡易エステ)をしてもらい、ドレスに着替え終わったところだ。
なぜドレスを着ているかというとズバリ私の可愛い妹エリスの入学に出席するため。
エリスは今年で12歳。この世界の学校は初等部・中等部・高等部の三つに分かれており、それぞれ二年制でエスカレーター式に上がっていく。
学校の種類も一流貴族が通う上級学園に庶民が通う下級学園、そして階級の低い貴族と本格的に勉学を学びたい庶民が通う中級学園に分かれている。
そして当然上級学園と下級学園の学費にはものすごい差があるのだ。
私が以前通っていたのは一流貴族が通う上級学園、結局高等部の一年生で退学しちゃったけれど、もしまだ通っていれば今年の春から二年生になっていた事だろう。
ついでに言うなら私を目の敵にしていた叔父の娘ロベリアとその双子の弟は、屋敷に乗り込んできたのと同時に中級学園から上級学園に編入した。
でもせっかく編入してきたのに本人はまったく学つもりがないんだからお金の無駄使いというもの。領民の税金を何だと思っているのかしら。
そして今年からエリスが通う事になっているのは中級学園。正直学費に関しては十分上級学園に通わす財力があるのだけど、上級学園の環境では伯爵家を出た私たちにとっては少々辛いところがある。逆に下級学園は文字書きなどの基本知識しか習えず、学年も初等部の二年間しかないので庶民でも十分に学びたい場合は中級学園を選ぶのだ。
「エレン、エリスの準備は出来ているのかしら?」
「はい、休憩室でシロと一緒にお待ちでございます」
学園は基本契約した精霊の同伴は認められているが、入学式や卒業式のように生徒以外の者が参加する催しには連れて行いけない事が多い。
これはエリスが通う事になっている学園も同様で、今日は私の精霊達とシロはお留守番する事になっているのだ。
その為シロとは出会って4ヶ月程だけど、いままで片時も離れた事がない二人がたとえ数時間でも離れるのは今回が初めてとなる。
「それじゃ少し早いけど出掛けるわ、お店の方をお願いね」
グレイ達スタッフに断りを入れエリスと一緒に手をつないで学園に向かう。
そう言えばエリスと二人っきりになるのっていつ以来だろう、なんだか少し懐かしくさえ感じた。
私たちは今歩いて学園に向かっているのだが、姉バカとして本音を言うならエリスにも馬車で送迎してあげたい。
私が学園に通っていた時は屋敷から距離があったのと、これでも王都では最高位の有名学園だったため通学には自家用馬車を使っていた。
だけど今の私たちには馬車なんてものは当然ないし、これから通う学園は大通りを越えた先のあるためこの店からは比較的に近い。また中級学園に通う生徒の半分は庶民で残り半分も貴族が通うとはいえ、そのほとんどが遠縁や親族なので正直それほど裕福な子供は少ないのだ。
恐らく馬車を使って通学する生徒はほんの一部のだろう、エリスには申し訳ないが徒歩で通う事になっても、特に目立ったり送迎の事で虐められる可能性は少ない。
これは私の経験なのだけれど、貴族の親って今まで子供を我儘&好き放題に育てている癖、入学前には爵位の違いだけは叩き込まれる。
親としては自身より身分の高い子息子女に無礼を働かないよう注意すると同時に、あわよくば親密な関係を築き今後の付き合いや婚姻のきっかけに繋げようと必死なのだ。
だけど今まで甘やかされて育った子供がいきなり学園という名の階級社会馴染めるワケもなく、自分より下の地位(正確には親の爵位だが)の子供を攻撃する事で、自分の小さなプライドを保つ事が出来るバカが多いのだ。
幸いにも私の場合は父が伯爵だったから上の爵位というと王族・公爵・侯爵の三つだけ。またその親族の方々を合わせてもそれほど多くなかったのと、爵位が高い子供ほどしっかり教育されているため虐められる事はなかった。
逆に知らない男どもに言い寄られる事は何度かあったが、大概自分の自慢や家の自慢話しかしてこないので正直ウザかった思いしかない。
自分が偉いのではなく全部親の地位のお陰だし、それがそのまま本人とどう関係があるのかと首根っこを捕まえて問いただしたいと、よくルテアと愚痴っていたものだ。やらないけどね。
エリスには少なくともそんな階級社会の洗礼を味わってもらいたくないし、私が心半ばで退学するような思いもしてほしくない。出来る事なら私がルテアと出会ったように心許せる友人たくさん作り、学園生活をよりよい経験にしてほしいと思っている。
エリスと共に学園に近づいて来ると次第に入学式に出席すると思われる生徒とその親が、ちらほらと見かけるようになってきた。
まぁ、分かっていた事だけど、どこの生徒も親が入学式に同伴する姿が見える。両親が亡くなって以来私は必死に親の代わりになろうと思いエリスを見守ってきた。
私の勝手で屋敷を飛び出し、私が不甲斐ないばかりにユリネとも離れ離れにしてしまった。今でも時々思う、あの時の私の選択は間違っていたのではないか、あのまま叔父に抵抗し伯爵の地位を奪い取った方が良かったのではなかったのかと。
今となってはもう後戻りはできないが、せめて親がいない寂しさだけは味あわせないように、自分を殺し両親の代として……ただ、ただエリスの幸せだけを願うために……。
「お姉さま」
校門をくぐりエリスは教室、私は入学式が行われるホールへと向かおうとした時、エリスが突然立ち止まって話しかけてきた。
「私お姉さまが、お姉さまとしていてくださってとても幸せなんですよ」
エリスが何を感じて話し掛けてきたかは分からないが、今の言葉は私の胸に鋭く何かが突き刺さった感じがした。
まるで今自分が思っていた事を見透かされたようで……何か重大な間違いを犯してしまった、そんな思いが私の中に広がった。
「私にとって掛け替えのない自慢のお姉さまです。お父様やお母様の代わりとかじゃなくお姉さまのままがいいんです。だから私は少しも寂しくないですよ」
……私は今一体どんな顔をしているのだろう。
エリスの言葉にこの上ない衝撃を受け、誰もいない所だったなら恐らく立ってすらいられないだろう。
私は必死に親の代わりを演じてきたけどそれは贖罪のつもりだったのかもしれない、だけどエリスは私に親の代わりなど望んでいなかった。
私を姉として認め姉として私を望んでいた。私の今までの考えは違うんだよって言っているように。
まさかそれを妹に教えられるなんて私もまだまだだなぁ、ずっと子供だと思っていた妹がこんなにも成長しているなんて嬉しくもあり寂しくもある。だけど中々に心地いい気分を味わった気がした。
「ありがとうエリス、私にとっても自慢の妹だよ。入学おめでとう」
私は成長した妹を抱きしめ、泣きたい気持ちを必死に堪えながら構内へと向かっていく妹の後ろ姿を見送る。
その姿は今まで見たことがないほど大きく見えた。
「それじゃ今日は一人の姉として自慢の妹の晴れ姿をみせてもらいましょう」
誰にも聞こえないような声で呟くと、小さくなる妹の姿を見つめつづけた。
いずれ会う事になるであろう天国の両親に……いつか語ってあげよう妹の晴れ姿の自慢話を。私たちは今頑張って生き続けているのだと。
だから今だけは、少しだけ泣いてもいいよね。
「よくお似合いですよお嬢様」
私はいま、いつも着ているパテシエのコックコートではなくよそ行きのドレスを着ている。
今着ているドレスは亡き母が若い頃に着ていたドレス。
母のドレスは私が屋敷にいる間にほとんど売却されてしまったが、叔母は高価なドレスばかりに目がいっていたため、普段着ていた服や装飾が少なく華美でない服には全く見向きもしなかったので、事前にこっそりと持ち出していたのだ。
今日は朝早くからケーキの仕込みを済ませエレンに淑女フルコース(簡易エステ)をしてもらい、ドレスに着替え終わったところだ。
なぜドレスを着ているかというとズバリ私の可愛い妹エリスの入学に出席するため。
エリスは今年で12歳。この世界の学校は初等部・中等部・高等部の三つに分かれており、それぞれ二年制でエスカレーター式に上がっていく。
学校の種類も一流貴族が通う上級学園に庶民が通う下級学園、そして階級の低い貴族と本格的に勉学を学びたい庶民が通う中級学園に分かれている。
そして当然上級学園と下級学園の学費にはものすごい差があるのだ。
私が以前通っていたのは一流貴族が通う上級学園、結局高等部の一年生で退学しちゃったけれど、もしまだ通っていれば今年の春から二年生になっていた事だろう。
ついでに言うなら私を目の敵にしていた叔父の娘ロベリアとその双子の弟は、屋敷に乗り込んできたのと同時に中級学園から上級学園に編入した。
でもせっかく編入してきたのに本人はまったく学つもりがないんだからお金の無駄使いというもの。領民の税金を何だと思っているのかしら。
そして今年からエリスが通う事になっているのは中級学園。正直学費に関しては十分上級学園に通わす財力があるのだけど、上級学園の環境では伯爵家を出た私たちにとっては少々辛いところがある。逆に下級学園は文字書きなどの基本知識しか習えず、学年も初等部の二年間しかないので庶民でも十分に学びたい場合は中級学園を選ぶのだ。
「エレン、エリスの準備は出来ているのかしら?」
「はい、休憩室でシロと一緒にお待ちでございます」
学園は基本契約した精霊の同伴は認められているが、入学式や卒業式のように生徒以外の者が参加する催しには連れて行いけない事が多い。
これはエリスが通う事になっている学園も同様で、今日は私の精霊達とシロはお留守番する事になっているのだ。
その為シロとは出会って4ヶ月程だけど、いままで片時も離れた事がない二人がたとえ数時間でも離れるのは今回が初めてとなる。
「それじゃ少し早いけど出掛けるわ、お店の方をお願いね」
グレイ達スタッフに断りを入れエリスと一緒に手をつないで学園に向かう。
そう言えばエリスと二人っきりになるのっていつ以来だろう、なんだか少し懐かしくさえ感じた。
私たちは今歩いて学園に向かっているのだが、姉バカとして本音を言うならエリスにも馬車で送迎してあげたい。
私が学園に通っていた時は屋敷から距離があったのと、これでも王都では最高位の有名学園だったため通学には自家用馬車を使っていた。
だけど今の私たちには馬車なんてものは当然ないし、これから通う学園は大通りを越えた先のあるためこの店からは比較的に近い。また中級学園に通う生徒の半分は庶民で残り半分も貴族が通うとはいえ、そのほとんどが遠縁や親族なので正直それほど裕福な子供は少ないのだ。
恐らく馬車を使って通学する生徒はほんの一部のだろう、エリスには申し訳ないが徒歩で通う事になっても、特に目立ったり送迎の事で虐められる可能性は少ない。
これは私の経験なのだけれど、貴族の親って今まで子供を我儘&好き放題に育てている癖、入学前には爵位の違いだけは叩き込まれる。
親としては自身より身分の高い子息子女に無礼を働かないよう注意すると同時に、あわよくば親密な関係を築き今後の付き合いや婚姻のきっかけに繋げようと必死なのだ。
だけど今まで甘やかされて育った子供がいきなり学園という名の階級社会馴染めるワケもなく、自分より下の地位(正確には親の爵位だが)の子供を攻撃する事で、自分の小さなプライドを保つ事が出来るバカが多いのだ。
幸いにも私の場合は父が伯爵だったから上の爵位というと王族・公爵・侯爵の三つだけ。またその親族の方々を合わせてもそれほど多くなかったのと、爵位が高い子供ほどしっかり教育されているため虐められる事はなかった。
逆に知らない男どもに言い寄られる事は何度かあったが、大概自分の自慢や家の自慢話しかしてこないので正直ウザかった思いしかない。
自分が偉いのではなく全部親の地位のお陰だし、それがそのまま本人とどう関係があるのかと首根っこを捕まえて問いただしたいと、よくルテアと愚痴っていたものだ。やらないけどね。
エリスには少なくともそんな階級社会の洗礼を味わってもらいたくないし、私が心半ばで退学するような思いもしてほしくない。出来る事なら私がルテアと出会ったように心許せる友人たくさん作り、学園生活をよりよい経験にしてほしいと思っている。
エリスと共に学園に近づいて来ると次第に入学式に出席すると思われる生徒とその親が、ちらほらと見かけるようになってきた。
まぁ、分かっていた事だけど、どこの生徒も親が入学式に同伴する姿が見える。両親が亡くなって以来私は必死に親の代わりになろうと思いエリスを見守ってきた。
私の勝手で屋敷を飛び出し、私が不甲斐ないばかりにユリネとも離れ離れにしてしまった。今でも時々思う、あの時の私の選択は間違っていたのではないか、あのまま叔父に抵抗し伯爵の地位を奪い取った方が良かったのではなかったのかと。
今となってはもう後戻りはできないが、せめて親がいない寂しさだけは味あわせないように、自分を殺し両親の代として……ただ、ただエリスの幸せだけを願うために……。
「お姉さま」
校門をくぐりエリスは教室、私は入学式が行われるホールへと向かおうとした時、エリスが突然立ち止まって話しかけてきた。
「私お姉さまが、お姉さまとしていてくださってとても幸せなんですよ」
エリスが何を感じて話し掛けてきたかは分からないが、今の言葉は私の胸に鋭く何かが突き刺さった感じがした。
まるで今自分が思っていた事を見透かされたようで……何か重大な間違いを犯してしまった、そんな思いが私の中に広がった。
「私にとって掛け替えのない自慢のお姉さまです。お父様やお母様の代わりとかじゃなくお姉さまのままがいいんです。だから私は少しも寂しくないですよ」
……私は今一体どんな顔をしているのだろう。
エリスの言葉にこの上ない衝撃を受け、誰もいない所だったなら恐らく立ってすらいられないだろう。
私は必死に親の代わりを演じてきたけどそれは贖罪のつもりだったのかもしれない、だけどエリスは私に親の代わりなど望んでいなかった。
私を姉として認め姉として私を望んでいた。私の今までの考えは違うんだよって言っているように。
まさかそれを妹に教えられるなんて私もまだまだだなぁ、ずっと子供だと思っていた妹がこんなにも成長しているなんて嬉しくもあり寂しくもある。だけど中々に心地いい気分を味わった気がした。
「ありがとうエリス、私にとっても自慢の妹だよ。入学おめでとう」
私は成長した妹を抱きしめ、泣きたい気持ちを必死に堪えながら構内へと向かっていく妹の後ろ姿を見送る。
その姿は今まで見たことがないほど大きく見えた。
「それじゃ今日は一人の姉として自慢の妹の晴れ姿をみせてもらいましょう」
誰にも聞こえないような声で呟くと、小さくなる妹の姿を見つめつづけた。
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