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希望へのはじまり

第44話 王家のパーティー 後編

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「それにしてもあんなに小さな子が、こんなにも綺麗になっているなんてね」
「ホント、若い頃のマリーにそっくりでしょ? ユミナったらいつもアリスの話ばかりしてるのよ」
「あら、アリスは綺麗なだけじゃないのよ。お菓子作もすごいんだから」
…………もう一度あえて言おう、なんでこうなった?

 陛下の御前から立ち去ろうとした時、フィーナ王女から呼び止められ、ステージ上に用意された王族専用のテーブルに案内された。
 まぁ、そこまでいい。いや本当は良くないのだけど、ルテアの友人である私に聞きたい事でもあるのだろう。ここは百歩譲ってルテアの為に頑張るつもりだ。

 そして現在、私は左右にフィーナ王女とレティシア王女に挟まれ、更に目の前にはカテリーナ王妃とフローラ公爵夫人、もう一つおまけにティアナ公爵夫人に肝心のルテアまでもがテーブルについている。

 まてまて、なんだこの豪華な顔ぶれは。
 しかも会話を聞いている限り全員が私の事を知っているだと!
 この中で私と面識があるのはティアナ様とルテアだけのはずだ。それなのに何故まで知っている!?

「アリスお姉さま、どうなさいました?」
「フィーナちゃん、多分アリスちゃんは喜んでるんだと思うよ。可愛い妹が二人も出来たんだもの。アリスちゃんって妹好きだから」
 こらこら、ルテアってば何適当な事を笑顔で言ってるのよ。私のジト目を軽くかわす辺り、絶対からかって遊んでるでしょ!

 おまけにここはステージ上に準備されたテーブル、つまりとにかく目立つ。
 気の弱い私にはとにかく心臓に悪いのだ。『誰だよアイツ』って感じで先ほどから来賓の方々の視線が痛いんだよ!

「ルテアお姉さま、ユミナちゃんに聞いたんですがアリスお姉さまとお友達なんですよね。私アリスお姉さまが学生時代のお話が聞きたいです」
 いやいや、フィーナ様それ逆でしょ。
 普通兄の婚約者の相手が気になって、私にルテアの事を聞くもんじゃないんですか、何故そこまで私の事を知りたがるんですか!

「そうだねぇ、アリスちゃんってすごく可愛い上にカッコイイでしょ? だから週に一度は告白されたんだよ。男性からもからも」
 何話してるのよ! 私の黒歴史をこんなところでバラさないでぇ~。

 ルテア以外に話した事がなかった私の黒歴史。何故か学生時代、年下の女の子からの告白が絶えなかったのだ。
 確かに私は妹が好きだ。そこは否定するつもりはないが、私はノーマルだから! ちゃんと男の子がすき……ごにょごにょ。

「やっぱりそうなんですか!」
 私が頭を抱えて悶えている間も、ルテア達の話は進んで行く。

「それじゃ私にもチャンスはあるんですね」
 フィーナ様達が何の話をしているのか、この時の私にはまったく話が頭に入ってこなかった……。



 私が再び再起動出来たのはそれからどれぐらい時間が経っての事か、このままじゃフィーナ様達のペースに飲み込まれそうだったので、話の話題を変える事にした。

「王妃様。お伺いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「もう、そんな堅苦しい言い方じゃなくてカテリーナでいいのよ。それで何が聞きたいのかしら?」
 いやいや、王妃様をお名前で呼ぶなんて出来ないってば。

「えっと、お父様達の話なんですが、どのような事をご存知なのでしょうか?」
 確かにお父様は伯爵であったけど、国政に関わらない王妃様と接点があるとは考え難い。それにお母様の事も知っているようだし。

「どんな事って……そうね、二人が結婚する前からよく知っているわよ。さっきも言ったでしょ、アリスが幼い頃はよくお城に来ていたのよ。マリーに連れられてね」

 王妃様の話では、私のお父様と当時まだ王子だったコンスタン様、それにジーク様の父親であるエヴァルド様とは学生時代からの仲の良い友人だったらしい。
 その関係で、当時コンスタン様と婚約をされていたカテリーナ様と、エヴァルド様の恋人だったフローラ様は、片思い同士だったお父様とお母様の事もご存知だったそうだ。

 コンスタン様達はお父様に、カテリーナ様達はお母様に、よくアドバイスと言う名の暇つぶ……コホン、相談相手をしてくださったとの事。

 (当時流行っていた)身分を超えた恋愛(の物語に二人を重ね)、さらに二人を切り裂こうとするお爺様シチュエーション(が物語とそっくり)に、とにかく燃えに燃えたたらしく、最終的に次期国王と次期公爵の巨大な権力度重なる説得により、お父様達を結婚まで辿り着かせてくださった。

 カテリーナ様達の裏の声が聞こえたのはあえて触れないでおこう。

まぁ、そんな関係が結婚後も続き、よく皆さんで集まっては、お父様達をからかって……コホン、親しくしてくださって、当時幼かった私も一緒に付きそっては、お城の庭園でアストリア様とジーク様とよく一緒に遊んでいたらしい。
 だから皆さん私の事をご存知だったんですね。

「……ん? それじゃジーク様も、初めから私の事を知っていたんですか?」
「知ってるはずよ。そうよねフローラ? アストリアも当時の事は覚えてるんだし」
「ええ、知ってるわよ。あの子昔からアリスの事を好きだったから」
 ブフッ! 飲み物を飲んでなくてよかったわ、口に入れてたら間違いなく醜態を晒してしまうところだった。
 昔からって事は今でもって事にならないかしら? ちょっと紅茶でも飲んで落ち着こう。あぁ、やっぱりお城の紅茶はおいしいなぁ。

「あれ、何驚いてるのアリスちゃん。アリスちゃんも昔は『ジークのお嫁さんになるんだって』言ってたんですよね」
 ブハッ! 

「もう、アリスちゃんは相変わらずリアクションが大きいんだから」
 あんたが言うな!
 盛大に吐き出してしまた私の粗相を、メイドさん達が慌てて拭き取って下さいます。ホントごめんなさい!

「誰から聞いたのよ!」
「あら、いけなかったかしら? 私すっかりルテアと仲良くなっちゃってね、アリスの小さな頃の話を全部話しちゃったわ。おほほ」
 犯人はあんたか! 悪びれる素振りも見せず、笑顔で答えるカテリーナ様。
 小悪魔ルテアが二人いる感じがするよ……。



「ねぇねぇ、それよりティアナから聞いたんだけど、なんだか冷たくて美味しいお菓子があるんですってね。一度食べてみたいわ」
「それ私も聞いたわ、ユミナったらすごく嬉しそうの話すのよ。なんだか悔しくてね、今度皆んなで食べに行かない?」
「あらいいわね。アリスの店なら詳しいから案内するわよ」
 私が多大なダメージを負って項垂れている間に、話は次のステージへと移っていった。
 って、ちょっとまって。確かにティアナ様は時々お忍びで来られますが、王妃様が来ちゃダメでしょ。

「お母様、私たちもご一緒したいです。ね、レティシアも一緒にいくでしょ」
 って、どさくさに紛れて王女様達まで便乗しないでくださいよ!

「お、お待ちください皆様。さすがにこのメンバーでは護衛の人数もかなり増えてしまいますし、こちらの準備もございますので……」
 二号店は貴族仕様とはいえ、護衛を何十人、いや下手をすれば一個小隊も連れてこられては営業どころではなくなってしまう。

「心配しなくても大丈夫よ、護衛は置いてくし」
 いやいやいや、何サラッととんでもない事言ってるんですか! 後ろで控えているメイドさんや騎士さん達が真っ青な顔をされてますってば!

「あの、それでしたら材料を持ち込ませて頂いて、その場でお作りすると言うのは如何でしょうか?」
 私の提案に、後ろで控えておられる皆さんが一斉に私へお礼のお辞儀をされてます。中には涙まで流されてる人までいますよ、皆さん日頃から苦労されているんですね。

「そんな事ができるの!? お店に大勢で押し掛けると迷惑がかかっちゃうしね、それじゃお願い出来るかしら?」
「畏まりました。日程のご連絡頂きましたら、伺うように致しますので」
 何とかその場を上手くまとめ上げ、ホッと一息のつかの間。
 私たちのテーブルに現れたのは……

「母上、そろそろルテアをお借りしていいですか? ちょっと俺一人じゃ来賓の相手は大変なんですよ」
 かなり軽い口調で話しかけてこられたのはルテアの婚約相手であるアストリア様。その後ろにジーク様のお姿もあります。

「あら、せっかく話が盛り上がってると言うのに」
「カテリーナ様、アストリア様がお困りの様ですし、私もお手伝いをして参りますね」
 そう言ってルテアがテーブルから立ち立ち上がると。

「だったら丁度いい機会だから、貴方もアリスをエスコートしてあげなさい」
 と、ジーク様に私を押し出されるフローラ様。…………って、はいぃ?

「わ、私ですか!?」
「そうね、アリスとはもう少し話をしていたいけれど、折角の機会だから一緒にダンスでも踊ってくればいいわ」
 そう言ってカテリーナ様まで私を追い詰める。
 さっきの話を聞いた後ではちょっとばかり恥ずかしいんですが!
 私の気持ちを知る由もなく、無理やりジーク様の隣に立たされる私。ちょっとまって、私今絶対顔が赤いってば。

「おっ、久しぶりだなアリス。相変わらず今でもカマキリは苦手なのか?」
 何気に親しい友人の様に話しかけてくるアストリア様。
 あれ? なんで私がカマキリを苦手な事を知ってるんですか?

「お前がそれを言うか? そもそもアストリアがカマキリを見つけてはアリスに投げつけるから苦手になったんだろうが」
「そうだっけ?」
「はぁ?」
 なんですと! 私のカマキリ恐怖症はあんたのせいか!

「へぇ、アリスちゃんがカマキリを苦手になったのはアストリア様のせいだったんですね。今度アリスちゃんを虐めるような事をしたら許しませんからね」
 怖いってば! 笑っていないルテアの笑顔がトラウマになりそうなぐらい怖い。おまけに背後に黒いオーラが立ち上っているものだから、流石のアストリア様も顔が引きつってます。

 それにしてもそんなに私の事を思ってくれてたんだね。ぐすん、私ちょっと感激しちゃったよ。
 でもルテアが放った最後の一言が全てを台無しにしてくれた。
「アリスちゃんを虐めていいのは私だけなんですから」
 って、やっぱり私で遊んでたのか! 私の感動を返せコンチクショー!





「先ほどのお話ではジーク様は初めから私の事を覚えておられたんですか?」
 私たちはあの後、ルテアとアストリア様の来賓対応を後ろからサポートし、
いい加減疲れきったところで誰もいないテラスへと避難した。

「あー、まぁ、そうだな」
 なんだか歯切れの悪い返事だ。つまりジーク様は覚えていたって事だよね。
 ちょっとジト目で見つめてみれば、明らかに私から顔を反らされた。

「まぁ、そんなに睨んでやるなよ。これでもアリスの事をずっと心配してたんだぞ」
「そうなんですか?」
 私の追求にジーク様が可愛そうになったのか、アストリア様がさりげなく助け舟を出してくださる。
 別にそこまで責めてるつもりはないんだけど。

「あぁ、最初の頃は妹をダシに店に付いて行ったらしいんだが、次第に妹から邪魔者扱いにされてな、今では全く相手にしてもらえないらしい。最近じゃ騎士の仕事中に城下町を巡視するとか言って、フラッと消えたかと思うと、全身傷だらけで戻ってくるわで……」
「へ? 全身傷だらけ?」
 途中まで「あぁ、思い当たる節があるなぁ」っと思っていたら、なんだか気になる言葉が出てきたんですが……。

「なんかよう分からんが、白い猫に襲われたとか言ってたな」
 ブフッ、それって絶対シロだよね! あの子ジーク様に何て事してるのよ!

「えっと、何だかいろいろありがとうございます。(あとシロの事はごめんなさい!)」
「別に何もしていないから、わざわざ礼を言われる事もないんだが……」
 ちょっと顔を赤らめて遠くの方を眺めていらっしゃる。もしかして照れてるのかなぁ?

「……それより、今後は身の回りにも注意はしておけ、いくら身近に精霊たちがいようが、何処で何をされるか分からんからな」
 先ほどまでとは打って変わり、急に真面目な顔になって私に話しかけてくださる。
 それってどう言う意味なんですか? ジーク様……。

「今はそれだけしか言えないんだ、まだ何も分かっちゃいないからな」
 私が不思議そうな顔をしていたからなのか、今度はアストリア様が答えてくださる。
 また私の知らないところで何かが起こっているとでも言うのだろうか、しかも今度は私自身に危険が迫るような……。

 いや、この平和な王都でそんな事は起こるはずもない。
 きっと未来の王妃であるルテアの友人だから、社交辞令のようなものだろう。

 室内から聴こえてくる心地の良いワルツのメロディー。
「そう言えばまだ言っていませんでしたね。アストリア様、ルテア、ご婚約おめでとうございます」
「おぅ、サンキューな」
「ありがとうアリスちゃん」
 二人とも照れながら私に答えてくれる。きっとこの二人ならいい夫婦になれるんじゃないだろうか。

 少しだけ、ほんの少しだけルテアを取られてしまった感じがして、寂しさが込み上げてしまったが、これは秋の夜の寒さのせいだ。だって私は二人の事を心から祝福している。

 二人の微笑む顔を見ていると、なぜか自然とジーク様の方を見てしまう私。この視線の意味の理由など知る由もなく。

「プリンセスアリス。私と一曲ご一緒して頂いてよろしいでしょうか?」
 私に気づいてくれたジーク様が、この視線の意味をどう受け取ってくださったのかは分からないけれど、差し出される手にごく自然と自身の手を重ねることができた。

「それじゃ俺たちも負けずに踊るとしようか」
 私たちを追い掛けるようにアストリア様とルテアが続く。

 まぁ、たまにはこういうのもいいよね。

 夜空に輝く満天の星、街は歌と笑い声で溢れ、お城では若い二組の男女がワルツのメロディーに乗せて踊る。

 この日、レガリア王国では王子と公爵家のご令嬢との婚約が発表された。
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