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希望へのはじまり
第54話 プリンセスブルーロベリア
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「お嬢様、クラウスとダニエルが辞めました」
今日の営業が終わったあと、エスニアとエリクが二号店の執務室にる私に会いに来た。
叔父との対決より一ヶ月、あれから目立った行動は起こしていないようだけど、このまま何も仕掛けてこないはずがない。そんな中、飛び込んできた来たのが一号店の料理スタッフだった二人の退社。
「そう、分かったわ。グレイ、募集の方はどうなってるかしら?」
「すでに商業ギルドにて募集を掛けております。明後日には数名が面接に来る予定です」
エスニアからここ数日の様子を聞いていたのと、二号店で菓子パンの製造を本格的に進めることもあって、すでに料理人の募集は出していた。
「エスニア、しばらく二号店からもスタッフを出すわ、新人が育つまでは何とか頑張って」
「畏まりました。それと私も調理場へ補助として入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
私の答えにエスニアが妙な事を言い出してきた。
「それは構わないけど、お菓子作りの経験はあるの?」
「お嬢様のような技術はありませんが、新人が育つぐらいまでならお役に立てると思います」
「分かったわ、それじゃよろしく」
いろいろ器用な子だとは思っていたけど、まさかお菓子作りまで出来るとは思っていなかった。
ただ一号店の店長であるエスニアが、このタイミングで持ち場を移動するのはどうかと思うが、まぁ何か考えがあっての事だろう。
むしろ問題があるとするならエリクの方だ。
最近一号店で販売しているケーキの質が落ちていると聞いてる、恐らく二人の影響を受けてしまっているのだろう。
今はまだ客足に影響が出るという程はないが、このままではいずれテコ入れをしなければならない。
「お嬢様、僕にペナルティは……」
「二人が辞めた事についてのペナルティは無いわ。だけど最近貴方が作るケーキには少し問題があると聞いてるわ。以前私に言ったわよね、『大勢の人が笑顔になるようなお菓子を作りたい』と。今の貴方は自分の夢すら忘れかけているのではないかしら?」
エリクは優しすぎるのだ。別に優しいのが悪いと言っているのではない、ただ上に立つ者としては優しいだけではダメなのだ。
「エリク、今一度自分がお菓子を作る意味を思い出して。私は別にディオンの息子だからという理由で貴方を調理長にした訳ではないのよ、一年前に貴方が作ってくれたスコーンの味は素晴らしかったわ。もっと自分に自身を持って」
私はいずれエスニアとエリクに一号店を譲るつもりでいる。
エリクの夢は自分の店を持つこと。エスニアとエリクが結婚すればその夢は一気に近づくだろう、私としても優秀な二人を手放したくないので、いっその事一号店に居着いてほしいと思っているのだ。
「……それにしても、いい加減二人は付き合っちゃえばいいのに……」ぼそっ
「コホン、そっくりそのままお嬢様にお返しいたしますわ、いい加減ジーク様とお付き合いして下さればローズマリーも安泰なのですが」
私の独り言を聞き逃さずエスニアにカウンターを食らってしまった。
幸いエリクはキョトンとしているので、どうやら聞こえなかったみたいだが。
その後エリクはエスニアに連れられて部屋を後にした。
立ち直るにはもう少し時間が必要なのかもしれない。
しかし状況は最悪のタイミングやってきた。
「お嬢様! 表通りに新しいスイーツショップがオープンしています。」
エレンが慌てて執務室へ入ってきた。
エレンには朝から遣いで出てもらっていたのだが、その帰りに人だかりが出来ていた店を見つけたそうだ。
「表通りに?」
いまローズマリーが店を構えているところは裏通り、正直お店を出すには向いていない場所だ。
もともと開店資金が不安だったからあえて安い裏通りを選んだのだが、表通りでお客様を持っていかれるのは正直痛い。
「お嬢様これはもしかして」
グレイも私と同じ事を考えたようだ。
「悪いんだけど、出来るだけ顔割れしていない子に様子を見に行かせて」
私やグレイが見に行けばいいのだが、まずは様子を見ない事には何とも言えない。
だけど十中八九間違いないだろう、いくらなんでもタイミングが良すぎる。
その日の夜、私はスタッフを集めて緊急会議を行った。
そこには一号店のエスニアとエリク、そしてリリアナも呼んでいる。
「もう皆んなの耳にも入っているかも知れないけど、この店の近くに位置する表取りに、新しいスイーツショップがオープンしたわ。そしてそこで出されているケーキはうちの店で取り扱っている商品と全く同じ、いえ、料金はこちらよりも安いわね」
見に行ってもらった内容は正しくローズマリー一号店のコピーだった。
唯一の救いはチョコレートを使った商品がレパートリーに無い事だが、逆にカフェスペースを大きく取り、うちの店に無い飲み物が存在していた。
「それではやはり先日辞めた二人がその店にいるのですね」
「えぇ、恐らく間違い無いわ。そしてその店の名前が……スイーツショップ・プリンセスブルーロベリア」
沈黙が続く。
エリクとリリアナ以外は誰もが今思っているはずだ……
ダ、ダメ、今はシリアスな場面なの! 私は必死に笑いを堪え続けた。
……プッ
沈黙の中、ついに誰かが我慢しきれず漏らした一言を皮切りに、一斉に笑い声が響き渡る。
エレンなんて目に涙を溜めながら笑っているのよ。
「お嬢様、やはりその店は」
「ええ、ルーカスの想像通りよ」
まぁ、これで気づかない方が可笑しいでしょ。
プリンセスブルーロベリアにはコーヒーがメニューにあったのだ。恐らくというか間違いなくロベリアの店だ。
しかしまぁ、よくも自分の店にプリンセスブルーロベリアなんて小っ恥ずかしい名前を付けられたものね。
あぁ、そうだった……。スイたちにランスロットなんて名前を付けようとしてたんだったわね。
「しかし暫くは客足が遠のくわね。幸い今は庶民向け店舗に重点を置いているみたいだから、二号店には影響ないでしょうが、一号店は少し苦しくなると思っていて」
「ただコーヒーの存在が気になりますね。二号店だけでも取り扱えないでしょうか?」
へぇ、鋭いわねルーカス。これは思っていた以上に期待できるかもしれない。
「今取り扱ったとしても同じ価格では出せ無いわ。それにもし価格を上げて出した場合、うちの店は高すぎると言う印象を付けてしまう恐れがあるのよ」
「確かに……では何かコーヒーに変わる何かは用意出来ないのでしょうか?」
「ん~、まぁ、あるにはあるんだけど……」
実際にコーヒーに似た飲み物を作ることが出来る、ただ……
「あるんですか!?」
「えぇ、ただコーヒーと言う名前は付いているのだけど、カフェインを含んでいないのよ」
コーヒーの代用品はいくつか存在する。でもこれらは正直コーヒーの味には劣ってしまう上、肝心のカフェインが含まれていない。
個人の見解にもよるが、カフェインがないと体には優しいのだけど、ちょっと物足りない感が残ってしまうのだ。
「カフェイン? ですか、それは一体何なのですか?」
あぁ、そうか。この世界ではカフェインの概念がないんだったわ。
「えっとね、難しい事は省くけどコーヒーや紅茶には一種の興奮作用を含んでいるカフェインと言うものが入っているのよ」
「興奮作用!? それは狂乱成分を含んでいると言うのですか?」
皆んなも聞いたことがなかったのか、私とルーカスのやり取りを興味深々に見守っている。
「心配しなくても大丈夫よ。例えば寝る前にコーヒーを飲んだら、ちょっと眠れなくなったりする程度よ。妊娠中の人は控えた方がいいかも知れないけど、ほとんど人体には影響ないわ。コーヒーはそのカフェインが紅茶などに比べて多く含んでいるのよ」
「それではお嬢様がご存知のコーヒーにはそのカフェインが含んでいないだけと?」
「えぇ、そうね」
ノンカフェインのコーヒーを出しても恐らく本場のコーヒーには勝てない。確かに体には良いが、正直そこまではこの世界の人達には理解してもらえまい。手間暇の事を考えると価格がそれほど変わるわけでもなし、品質の劣るもので勝負しても返って逆効果だろう。
「ただ、私が知っているこのコーヒーは正直誰でも作れちゃうのよ」
そして私が躊躇っているもう一つの理由がこれだ。この作り方が広まってしまうとコーヒーの価値が一気に下がってしまう恐れがあること。今は叔父に抑え込まれているが、いずれ私が爵位を継いだ時には、コーヒーの存在はアンテーゼ領に大きな恵みをもたらしてくれるだろう。それを今壊してしまうことに躊躇いがあったのだ。
「それじゃそのコーヒーの製造方法を隠し、飲み物として出さなければ問題ないのですよね? 例えばそのコーヒーをケーキに、いえスイーツに利用すればどうでしょうか?」
「あっ……」
私としたことが、コーヒーを使ったスイーツはコーヒー豆が無いと出来ないって思い込んでいた。
別にノンカフェインのコーヒーを使っても良かったんだ。
「お嬢様の事ですからご存知なのでしょ? コーヒーを使った数々のスイーツを」
「えぇそうね。知っているわ、コーヒーを使ったスイーツの数々を。それじゃまず材料を集めなきゃね、今の季節にあるかしら?」
今の季節は冬だ。いくつかの代用コーヒーは知っているが、今すぐ用意できる物だとすれば……
「それで、その材料とは?」
「たんぽぽの根よ」
「「「……」」」
一斉に全員が黙り込んだ。
「えっと、たんぽぽの根、なんだけど……」
「「「……」」」
ちょっと沈黙が悲しくなってもう一度言ってみました。
「……それは何かの冗談で?」
ルーカスが『何この真面目な場面で冗談を言っているんですか』という無言の圧力をかけてくる。
「嘘はいってないもん。本当だもん」しくしく
『『『……えぇー!!!!』』』
翌日、リリーに頼んでたんぽぽを咲かせてもらい、実際に作ってみるまで誰一人として信じてくれませんでした。
嘘は言ってないもん。しくしく。
今日の営業が終わったあと、エスニアとエリクが二号店の執務室にる私に会いに来た。
叔父との対決より一ヶ月、あれから目立った行動は起こしていないようだけど、このまま何も仕掛けてこないはずがない。そんな中、飛び込んできた来たのが一号店の料理スタッフだった二人の退社。
「そう、分かったわ。グレイ、募集の方はどうなってるかしら?」
「すでに商業ギルドにて募集を掛けております。明後日には数名が面接に来る予定です」
エスニアからここ数日の様子を聞いていたのと、二号店で菓子パンの製造を本格的に進めることもあって、すでに料理人の募集は出していた。
「エスニア、しばらく二号店からもスタッフを出すわ、新人が育つまでは何とか頑張って」
「畏まりました。それと私も調理場へ補助として入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
私の答えにエスニアが妙な事を言い出してきた。
「それは構わないけど、お菓子作りの経験はあるの?」
「お嬢様のような技術はありませんが、新人が育つぐらいまでならお役に立てると思います」
「分かったわ、それじゃよろしく」
いろいろ器用な子だとは思っていたけど、まさかお菓子作りまで出来るとは思っていなかった。
ただ一号店の店長であるエスニアが、このタイミングで持ち場を移動するのはどうかと思うが、まぁ何か考えがあっての事だろう。
むしろ問題があるとするならエリクの方だ。
最近一号店で販売しているケーキの質が落ちていると聞いてる、恐らく二人の影響を受けてしまっているのだろう。
今はまだ客足に影響が出るという程はないが、このままではいずれテコ入れをしなければならない。
「お嬢様、僕にペナルティは……」
「二人が辞めた事についてのペナルティは無いわ。だけど最近貴方が作るケーキには少し問題があると聞いてるわ。以前私に言ったわよね、『大勢の人が笑顔になるようなお菓子を作りたい』と。今の貴方は自分の夢すら忘れかけているのではないかしら?」
エリクは優しすぎるのだ。別に優しいのが悪いと言っているのではない、ただ上に立つ者としては優しいだけではダメなのだ。
「エリク、今一度自分がお菓子を作る意味を思い出して。私は別にディオンの息子だからという理由で貴方を調理長にした訳ではないのよ、一年前に貴方が作ってくれたスコーンの味は素晴らしかったわ。もっと自分に自身を持って」
私はいずれエスニアとエリクに一号店を譲るつもりでいる。
エリクの夢は自分の店を持つこと。エスニアとエリクが結婚すればその夢は一気に近づくだろう、私としても優秀な二人を手放したくないので、いっその事一号店に居着いてほしいと思っているのだ。
「……それにしても、いい加減二人は付き合っちゃえばいいのに……」ぼそっ
「コホン、そっくりそのままお嬢様にお返しいたしますわ、いい加減ジーク様とお付き合いして下さればローズマリーも安泰なのですが」
私の独り言を聞き逃さずエスニアにカウンターを食らってしまった。
幸いエリクはキョトンとしているので、どうやら聞こえなかったみたいだが。
その後エリクはエスニアに連れられて部屋を後にした。
立ち直るにはもう少し時間が必要なのかもしれない。
しかし状況は最悪のタイミングやってきた。
「お嬢様! 表通りに新しいスイーツショップがオープンしています。」
エレンが慌てて執務室へ入ってきた。
エレンには朝から遣いで出てもらっていたのだが、その帰りに人だかりが出来ていた店を見つけたそうだ。
「表通りに?」
いまローズマリーが店を構えているところは裏通り、正直お店を出すには向いていない場所だ。
もともと開店資金が不安だったからあえて安い裏通りを選んだのだが、表通りでお客様を持っていかれるのは正直痛い。
「お嬢様これはもしかして」
グレイも私と同じ事を考えたようだ。
「悪いんだけど、出来るだけ顔割れしていない子に様子を見に行かせて」
私やグレイが見に行けばいいのだが、まずは様子を見ない事には何とも言えない。
だけど十中八九間違いないだろう、いくらなんでもタイミングが良すぎる。
その日の夜、私はスタッフを集めて緊急会議を行った。
そこには一号店のエスニアとエリク、そしてリリアナも呼んでいる。
「もう皆んなの耳にも入っているかも知れないけど、この店の近くに位置する表取りに、新しいスイーツショップがオープンしたわ。そしてそこで出されているケーキはうちの店で取り扱っている商品と全く同じ、いえ、料金はこちらよりも安いわね」
見に行ってもらった内容は正しくローズマリー一号店のコピーだった。
唯一の救いはチョコレートを使った商品がレパートリーに無い事だが、逆にカフェスペースを大きく取り、うちの店に無い飲み物が存在していた。
「それではやはり先日辞めた二人がその店にいるのですね」
「えぇ、恐らく間違い無いわ。そしてその店の名前が……スイーツショップ・プリンセスブルーロベリア」
沈黙が続く。
エリクとリリアナ以外は誰もが今思っているはずだ……
ダ、ダメ、今はシリアスな場面なの! 私は必死に笑いを堪え続けた。
……プッ
沈黙の中、ついに誰かが我慢しきれず漏らした一言を皮切りに、一斉に笑い声が響き渡る。
エレンなんて目に涙を溜めながら笑っているのよ。
「お嬢様、やはりその店は」
「ええ、ルーカスの想像通りよ」
まぁ、これで気づかない方が可笑しいでしょ。
プリンセスブルーロベリアにはコーヒーがメニューにあったのだ。恐らくというか間違いなくロベリアの店だ。
しかしまぁ、よくも自分の店にプリンセスブルーロベリアなんて小っ恥ずかしい名前を付けられたものね。
あぁ、そうだった……。スイたちにランスロットなんて名前を付けようとしてたんだったわね。
「しかし暫くは客足が遠のくわね。幸い今は庶民向け店舗に重点を置いているみたいだから、二号店には影響ないでしょうが、一号店は少し苦しくなると思っていて」
「ただコーヒーの存在が気になりますね。二号店だけでも取り扱えないでしょうか?」
へぇ、鋭いわねルーカス。これは思っていた以上に期待できるかもしれない。
「今取り扱ったとしても同じ価格では出せ無いわ。それにもし価格を上げて出した場合、うちの店は高すぎると言う印象を付けてしまう恐れがあるのよ」
「確かに……では何かコーヒーに変わる何かは用意出来ないのでしょうか?」
「ん~、まぁ、あるにはあるんだけど……」
実際にコーヒーに似た飲み物を作ることが出来る、ただ……
「あるんですか!?」
「えぇ、ただコーヒーと言う名前は付いているのだけど、カフェインを含んでいないのよ」
コーヒーの代用品はいくつか存在する。でもこれらは正直コーヒーの味には劣ってしまう上、肝心のカフェインが含まれていない。
個人の見解にもよるが、カフェインがないと体には優しいのだけど、ちょっと物足りない感が残ってしまうのだ。
「カフェイン? ですか、それは一体何なのですか?」
あぁ、そうか。この世界ではカフェインの概念がないんだったわ。
「えっとね、難しい事は省くけどコーヒーや紅茶には一種の興奮作用を含んでいるカフェインと言うものが入っているのよ」
「興奮作用!? それは狂乱成分を含んでいると言うのですか?」
皆んなも聞いたことがなかったのか、私とルーカスのやり取りを興味深々に見守っている。
「心配しなくても大丈夫よ。例えば寝る前にコーヒーを飲んだら、ちょっと眠れなくなったりする程度よ。妊娠中の人は控えた方がいいかも知れないけど、ほとんど人体には影響ないわ。コーヒーはそのカフェインが紅茶などに比べて多く含んでいるのよ」
「それではお嬢様がご存知のコーヒーにはそのカフェインが含んでいないだけと?」
「えぇ、そうね」
ノンカフェインのコーヒーを出しても恐らく本場のコーヒーには勝てない。確かに体には良いが、正直そこまではこの世界の人達には理解してもらえまい。手間暇の事を考えると価格がそれほど変わるわけでもなし、品質の劣るもので勝負しても返って逆効果だろう。
「ただ、私が知っているこのコーヒーは正直誰でも作れちゃうのよ」
そして私が躊躇っているもう一つの理由がこれだ。この作り方が広まってしまうとコーヒーの価値が一気に下がってしまう恐れがあること。今は叔父に抑え込まれているが、いずれ私が爵位を継いだ時には、コーヒーの存在はアンテーゼ領に大きな恵みをもたらしてくれるだろう。それを今壊してしまうことに躊躇いがあったのだ。
「それじゃそのコーヒーの製造方法を隠し、飲み物として出さなければ問題ないのですよね? 例えばそのコーヒーをケーキに、いえスイーツに利用すればどうでしょうか?」
「あっ……」
私としたことが、コーヒーを使ったスイーツはコーヒー豆が無いと出来ないって思い込んでいた。
別にノンカフェインのコーヒーを使っても良かったんだ。
「お嬢様の事ですからご存知なのでしょ? コーヒーを使った数々のスイーツを」
「えぇそうね。知っているわ、コーヒーを使ったスイーツの数々を。それじゃまず材料を集めなきゃね、今の季節にあるかしら?」
今の季節は冬だ。いくつかの代用コーヒーは知っているが、今すぐ用意できる物だとすれば……
「それで、その材料とは?」
「たんぽぽの根よ」
「「「……」」」
一斉に全員が黙り込んだ。
「えっと、たんぽぽの根、なんだけど……」
「「「……」」」
ちょっと沈黙が悲しくなってもう一度言ってみました。
「……それは何かの冗談で?」
ルーカスが『何この真面目な場面で冗談を言っているんですか』という無言の圧力をかけてくる。
「嘘はいってないもん。本当だもん」しくしく
『『『……えぇー!!!!』』』
翌日、リリーに頼んでたんぽぽを咲かせてもらい、実際に作ってみるまで誰一人として信じてくれませんでした。
嘘は言ってないもん。しくしく。
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