ブランリーゼへようこそ

みるくてぃー

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騒乱

第29話 暗雲の立ち込める未来

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「お嬢様、少しお休みになられてはいかがですか?」
「ありがとうティナ、これだけ片付けたらお茶を頂くわ」

 私がブラン領に戻ってからそろそろ4ヶ月、その間はこの領地を管理していたハンスに教わりながら、私なりの未来予想図を作っていた。

 このブラン領は豊かな気候と海に面している関係で、農作物の生産や貿易といったもに力をいれており、メルヴェール王国の中でも特に穏やかな領地だと言っても過言ではない。
 だけどもしメルヴェール王国から離脱すればどうなる? ブラン領には農業や漁業といったものがあるので食料に困る事はないが、貿易面ではメルヴェール王国へ輸送するルートが途切れてしまう可能性があるので、大きなダメージを受けてしまう事が予想される。
 だから私は新たな輸出ルートを構築する事を考えた。

 まずブランリーゼの服はこの世界でも通用する事はすでに分かっている。ならば王都だけではなく隣国のレガリアやラグナスにも拠点をおけばどうだろう? それぞれの王都に直営店を開き、地方の領地には委託販売の話を持ちかけることができれば、こちらは店舗を構える必要もなく販売店を構築でき、店側も売れなかったとしてもノーリスクで商品の入れ替えが可能となる。
 王都のように人が多い街なら直営店を開いた方が利益を上げられるが、地方で店を開くとなると店舗の確保から人件費まで、それなりの経費が毎月必要となってしまう。ならば多少利益を減らしてでも委託という形を取れば、こちらとしてもリスクを抑える事が出来きる点は非常に大きいといえる。

 幸いレガリアには懇意にしている商会もあるし、その会長である公爵夫人とも仲がいい。そしてラグナス王国はサーニャちゃんにお願いして、幾つかの商会を紹介してもらった。
 これらの商店は独自で比較的大きな輸送手段ももたれているので、ブランリーゼの衣類だけではなく、ブラン領の特産品でもある木綿や羊毛などでつくる生地も輸送対象にと考えている。それに海路を使えば今までレガリアから入ってきた輸入品も、メルヴェール王国の西にある小国家群に輸出する事だって可能だ。
 あとは少しづつ調整していきながら問題が出ればその都度対応していけば何とかなるだろう、これで当面は貿易面でのロスは解消され、ブランリーゼの輸出が成功すれば、例えメルヴェール王都への販売拠点が無くなってしまっても、売り上げが下がる心配もなくなるはずだ。
 
 残るは不安要素は領地内の施設関係と軍事関連だが、こればかりはすぐにどうにか出来るわけではないので、やれるべき物から少しづつ手を付けているのが現状となっている。



「お嬢様、騎士団への入団希望者のリストをお持ちしました」
「ありがとうハンス、後で目を通しておくわ」
 すでに何度か名前が出てきていると思うが、ハンスはお爺様の代に使えていた執事で、王都のブラン家に仕えているルーベルトにとっては先輩でもあり先生でもある。
 現在は半ば引退気味だったところをお父様に頼まれ、ブラン領の管理業務に携わってもらっている


「それにしても自由災害騎士団とは面白い事を考えられますな」
「そうかしら? 自警団を少し発展させたようなものよ」
 現在ブラン領に騎士と呼ばれる者は30人程度しか存在していない。しかもその内の10名は王都にあるブラン家で私たち家族やお屋敷の警備をしてもらっており、更に10名ほどはブラン領の各地にある物見台で職務にあたってもらっているので、実質この街の防衛には僅か10名たらずしか残っていない。
 今までは騎士団を常時保有している費用の事を考えると、災害等が起こった場合にその地の警ら隊と臨時で雇った人達で復興を行ってきたが、今後全く騎士団がいないという状況は何かと困る事案が出てきそうなので、まずは有志で集う災害騎士団を設立した。 

「でも何で自由災害騎士団なんですか? 普通に騎士になりたい方を募集されても問題ないんですよね?」
 隣で話を聞いていたティナが、私にお茶を出しながら不思議そうに訪ねてきた。
 確かにティナの言う通り、各領地にも騎士団を保有することが認められているが、その上限は領土の人口や広さによって定められており、ここブラン領では最大200人までの騎士団を持つことが事前に認められている。
 つまり普通に不足している人数を募集したからといって、何処からも文句が出るわけではないのだが、今まで騎士団を保有していなかったブラン領が急に騎士を募集していると分かればどうなるか、私なら間違いなく疑いの目でその領地を調査させるだろう。

「もちろん普通に騎士になりたい人達も集めているわよ、だけど今まで騎士団を持たなかったブラン領が、急に騎士を募集し出したら王都から睨まれてしまうでしょ。これが山賊や海賊といった存在が頻繁に目撃されたっていうのなら説明できるけど、ここ何十年もそういった被害は確認されていないし、メルヴェール王国は隣国に恵まれているお陰で、ここ数百年は戦争とは無縁だったわ。
 そんな状況の中、ブラン領が急に騎士を募集し出したという噂が王都に届けば、必ず怪しいと騒ぎ出す者が出てくるはず。だから自由災害騎士団という名目で人を集め、本当に騎士になりたい人達を人知れず影でスカウトしているのよ」

 もちろん自由災害騎士団に参加している人達にも、有事の際には街の防衛に回ってもらう事になる為、入団時にはちゃんとした説明と毎日夕方に行われている訓練に参加してもらい、訓練に出た回数と実践に伴った報酬を支払うようにしている。
 内側から見れば色々突っ込みどころ満載の自由災害騎士団ではあるが、ブラン領は昔から独自の文化と領地愛に満ち溢れている人達が多く、最近では私がウィリアム王子に弄ばれた噂がブラン領まで広まっており、王家の人間を毛嫌いしている者も多いときいているので、表立って騒ぎ出す者はほとんどいないだろうと考えている。

 それにもし王都の人間に怪しまれたとしても、表向きは災害時の臨時騎士団という名目をとっているし、実際加盟しているほとんどの人達は普段昼間は普通の街の住人として働いているため、誤魔化し方はいくらでも用意が出来るはず。
 例え国から査察が入ったとしても、訓練所の拠点も小規模を多数に分けて行っているので、全ての訓練所や街中の人間に聞きに回らない限りは、その加盟総数を完全に把握する事は出来ない。もちろんこちらとしても馬鹿正直に情報を報告するつもりもりはないので、自分たちの足を使って調べない限りバレる可能性はまずないと思っている。

「あぁ、だから災害騎士団なんですね」
「そういうことよ、騎士団への参加と脱退は個人の自由だからね。私たちは常時その総数を把握出来ない、ということよ」
 私が自由と名前を付けたもう一つの理由がこれ、ブラン領に定められている200人という定員をあやふやにするために、自由に参加と脱退が出来るよう定めており、もし自由災害騎士団が国から正式な騎士団だと言われたとしても、事前に偽の書類で誤魔化しが出来るよう人数を調整している。

 まぁ本音を言うと本当はこんな事はしたくなかったのだが、この先もしブラン領が独立を宣言し、それをメルヴェール王国側が承認しなかった場合、最悪戦争に突入する可能性があるのだが、例え隣国のレガリア王国に救援を求めたとしても、既に出陣したメルヴェール王国軍に対し、救援依頼を受けてから騎士団をまとめて駆けつけてくれるまでに、最低でも3日……いや4日はかかってしまう。
 だからその間だけでも何とかブラン領の騎士団だけで防衛するために、最低数の戦力が必要となってくるというわけだ。

 おそらく国が定めた200人という数は、現在王国が保有している騎士団だけで対応出来る人数なんであろう。もし私が逆の立場なら最低でも敵の2倍から3倍、降伏を呼びかけるなら5倍の兵力で挑むのではないか。ブラン領がレガリアと友好な関係を保っている事は王都の貴族なら誰でも知っているのだ、攻め込むなら必ず短期決戦で挑んでくるはず。それを防ぐにはどうしても200人という数では足りないのだ。

「これはあくまでも私個人が行っている事よ、あなた達やお父様達には決して迷惑を掛けるつもりはないわ」
 お父様も私がここまで準備しているとは思わないはず、情報は王都に知られないように最善の注意をしているので、私以外の口からお父様達の耳に届く事はないだろうし、仮に王都の人間に知られた時の為にこの件はお父様に報告するつもりはない。
 流石にバレた時には伯爵であるお父様には何らかの処罰が下されるだろうが、私一人を切り捨てれば次期伯爵であるお姉様には何のお咎めもないだろう。

「お嬢様だけに責任を押し付けるわけにはいきますまい、その時にはどうぞ私を差し出しだしてください」
「そういう訳にいかないわハンス、領主代行の私が何も知りませんでしたでは通じないもの。それにそろそろ何かが起こる気がするの」
「何かが、ですか? それはどういったものなのでございましょうか?」
 サーニャちゃんから送られてくる手紙には、現在メルヴェール王国から逃げ出してくる国民の多さで、ラグナス王国では難民問題が浮上しているという。

 この事をメルヴェール王国側に抗議したところ、我が国は国民の流出を防ぐために国境沿いに検問所を作ったそうだが、肝心の問題解決には至っていないらしい。
 個人的には同じ国の民同士何とかしてあげたいのだが、国の取り決めで私達が他の領地に口を挟む事は出来ないし、国が検問所を作って何もしないと決めたのであれば、お父様達でも手が出せないのではないだろうか。

「恐らく領民のによる反乱……」
 国は国民の流出を防ぐために検問所を作ったが、これは現状で一番最悪の悪手だと言っても良い。
 領主が領民に対して厳しい政策をとったのなら、せめて国は救いの手を差し伸べるべきだったのだ。それなのに更に追い込むような対応を取ってしまったせいで、領民は国からも見捨てられたと思い一気に不満が爆発してしまう。
 こんな子供でも分かりそうな構図を行政府が気づかないとも思えないが、現状そうなってしまっているのだから呆れてものも言えない。
 
「これから国内は荒れるでしょうね」

 だけどこの数日後、私の予想は大きく裏切られる事となる。
 メルヴェール王国の二大公爵家が謀反を企んだとして、一族全員の捕縛令と公爵家解体の知らせが届く事によって。
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