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第4話 とりあえず復讐しちゃいますね
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「馬鹿者! 魔王がわざわざ人間の街に現れるわけがなかろう! そんな偽物の相手なんぞしておらずに、すぐに先ほど爆発の原因を調べろ! ワシにもしものことがあれば、この国がどうなるかはわからんのだぞ!」
国王と思しき男性の叱咤に、何人もの騎士達が慌てて玉座の間から走り去る。もし賢明なる王ならば騎士達の汚れた姿に真実を見抜き、多くの兵で玉座の間を防衛していたかもしれないのに……
「馬鹿どもが、魔王が王都に潜入したなどと騒ぎよって」
「あなた……いえ、陛下。魔王と一緒に現れたという女性。それってまさか……」
「馬鹿者、娼婦だったアイリスがこの街に戻れるはずもなかろう。どうせ勇者を差し向けたことによる何時もの嫌がらせに決まっておる」
「ですが……」
「そんなに心配するならアイリスに付けた奴隷の首輪で居場所がわかるだろう。どうせ魔王城で嘲笑っている違いないわ」
「そ、そうだったわ。探査魔法で調べればすぐに居場所が……」
うん、思いの外滑稽な様子に私の気分は最高潮。
今も足元で、私の居場所を探査魔法でしらべてた王妃の血の気が引く様子が見れて、若干興奮が抑えきれない。
そんな様子の私をお姫様だっこしながら、微妙な顔をする愛しの旦那様。
そろそろ良い加減次のシーンに移らなければ、私が旦那様に危ない女だと勘違いされてしまう。……いやまぁ、間違ってはいないんだけれどね。
「コホン。それじゃそろそろ良いかしら」
「まったく、どっちが魔王なんだか」
軽く呆れてしまった旦那様の発言をあえてスルーしつつ、私たちは憎っくき王と王妃目の前へと落りていく。
「どうした、アイリスは魔王城にいたんだろう?」
顔を真っ青にした王妃の様子に、徐々に焦りを表していく国王。そんな彼らの前に音もなくすっと地面へと降り立つ私たち。お姫様だっこなのはこの際軽く見逃して欲しい。
仕方がないじゃない、私はディメオラのように飛べないのよ!
「誰をお探しでしょうか、叔母さま」
「なっ、貴様はアイリス! 一体何処から入ってきおった!」
私の姿を見るなり完全に狼狽える叔父と叔母。そらぁそうでしょ。今や私は魔王様のお嫁さんで、向こうにしてみれば復讐のために悪魔に魂を売ったとでも思われているのだろう。
だが現実は私の一目惚れからの猛アタックで、めでたくディメオラのハートを射止めたわけだが、そこに復讐だとか利用しようだとかの考えは一切存在していない。
まぁ、結婚した後にあれやこれやと、愛されていることを利用して色々頼んだりはしているのだけれど。
「何処からと言われましても、直接ここへと転移しただけですが?」
「ば、馬鹿な。直接玉座の間に転移だと!? 城には魔物よけの結界が……ま、まさか先ほどの爆発は結界石の破壊か!?」
魔族が転移魔法を使えるというのは、一定の階級を持つ者にとってはわりと有名な話。そのため城や国の重要施設には結界石をいう特殊な石をつかって結界が張られている。だけどこの結界石は非常に貴重な石のうえ、その加工や術式が遥か昔の産物なので、今となっては作り直すことは勿論修復すら難しいとされているのだ。
つまりそれだけ貴重なものを壊したのだから、叔父たちが焦るのは同然のことであろう。
「地下牢に囚われている少女たちをた助けるのに、少々邪魔だったので壊させていただきましたが、何か問題でも?」
「ふ、ふざけるな! あの結界石がどれだけ貴重な物か、元聖女であったお前が知らないはずがないであろう! 城が落ちればこの国の民は路頭に迷い、挙げ句の果ては魔物たちの餌になってしまう。お前はそんな簡単な計算すら出来なくなったのか!」
ん~、まさか此処で自分達がやってきた行いを棚に上げ、私が行った破壊活動だけが悪いと言われるとは、正直思ってもみなかった。
確かに城が落ちれば統率が出来ずに騎士たちは散りじりになって戦いどころではなくなるだろう。その結果、国民達は守ってくれるべき対象がなくなってしまうわけだが、その守ってくれるべき騎士や上層部が国民を娼婦へと追いやっているんだから、別段それほどかわらないのではないか?
私を抱くために金を積んできたのは間違いなくこの国の男達。そんな国民も私を娼婦へと追いやった叔父達も、私に言わせれば死んで当然の人間達だ。
勿論多少は善良な市民達もいるだろうが、そういった人たちだけを助ける力が私たちにはあるわけだし、今更こんな腐った国など一度滅んしまった方が世のためになるのではないか。
「言葉を選べ、人間よ。我が妻を侮辱するならこの場で城ごと吹き飛ばしてもいいのだぞ」
「ひっ!」
あらやだ、ちょっと愛しの旦那様がかっこ良く見えてしまう。
いや、普段から十分すぎるほどカッコイイのだが、今はそれ以上に頼もしく思えてしまう。私って愛されているわねぇ。
「大丈夫ですよ。今の私にはただの負け犬の遠吠え程度にしか感じませんから」
私自身、ディメオラの愛を受け入れた時に大きな力を手に入れてしまった。これが人間をやめてしまった結果になったとしても、私に後悔という感情は一切存在していない。
だけどケジメだけはつけないといけないだろう。
私は予め決めていた次の行動を起こすべく、愛する夫の腕の中から抜け出し……抜けだ……抜け……
「むっ!」
「ん? あぁ」
私が頬を膨らませむっと睨めつけると、ようやく意図を察してくれて地面へと降ろしてくれる。
か弱い私が力任せに魔王様の腕から抜け出せるわけがないでしょ!
「コホン。これが何かはお分かりでしょう?」
気分を切り替え取りだしたのは私が今も付け続けている奴隷の首輪。これは私のお世話をしてくれているアンナとリリアが付けられていた物だ。
「これを今からあなた達の首に嵌めさせて貰うわ。あぁ、拒否権はないから無駄な抵抗はやめておくことね」
「ふ、ふざけないで! 王妃である私が奴隷の首輪なんて付けられるわけがないでしょ!」
「別にふざけてなんていないわよ。姫であった私が今も愛用しているんだから、おかしなことなんて何もないでしょ? なんだったら私のお母様のように付け後に無理やり外してあげましょうか?」
7年前のあの日、王の妹であり聖女であったお母様に無理やりこの首輪をつけ、私の命を助ける代わりに自ら首輪を外させた行為は今も昨日のように思い出せる。
「ま、まって、貴女の望みのものはなんだって用意してあげる。命を狙うのももう諦めるわ。だからそれだけは……」
まったく見苦しい。一体今まで何人の嫌がる少女達にこの首輪をつけてきたのだ。この首輪の恐ろしさを一番知っている王妃だからこそ、ここまで怯え震えるのだろうが、そんな姿さえも今の私には憎たらしく思えてくる。
「弁明や言い訳を聞くつもりわないわ」
私は一歩、一歩と後ずさる王妃の元へと歩み寄る。
やがて王妃が壁に行き当たると同時に、両手両足を魔力で大の字に貼り付ける。
「やめ、いやー」
嫌がる王妃に首輪を嵌め、その帰りに未だ震え続けている国王の首にも嵌めつける。
奴隷の首輪は元々外す事が想定されていない死の首輪。無理やり外そうとすれば首から上を吹き飛ばし、地の果てまで逃げようともその場所を瞬時に突き止める事が出来る絶対的な拘束具。しかも首輪という隠せないアクセサリーの為に、奴隷かどうかが一目でわかる優れものだ。
これで王妃は勿論、国王までもが二度と人前に出られる事はないであろう。
「そうそう言い忘れていたけれど、その首輪は改良型でね。私がその気になれば遠くからでも首を吹き飛ばす事ができるのよ。素敵でしょ?」
「い、嫌よ。こんなの付けてたら安心できる時なんて……」
「当たり前じゃない。その為の首輪なんだから」
これで王と王妃は寝る時も、お風呂の時も、えっちの時も、死という恐怖から二度と抜け出す事ができないだろう。
「覚えておきなさい、私はいつでも貴女達の行動を見ているわ。何処に逃げても、何処に隠れても、私は手に取るように居場所がわかる。あぁ、抵抗したければ好きなようにしてもいいよの? そうすれば」
私はそっと片手を前へと突き出し。
「な、なにを……うぐっ……がっ……」
急に首輪が黒く光ると同時に王妃が首元を抑えながら苦しみだす。
「なっ、貴様、王妃に何をした!?」
「ん? ちょっと首輪を締め付けているだけよ。言ったでしょ改良しているって」
私がただ居場所や遠隔で爆破させるだけにとどめておくワケがないじゃない。精神的にも肉体的に苦しませなくちゃ死んでいった両親や少女達に申し訳ないわよ。
「やめろ! やめてくれ!」
「仕方ないわね」
王が私の足元で泣いてすがってくるので、仕方なく首輪へ注いでいた魔力を止める。
「ぜはぁ、ぜはぁ、ごほごほ」
倒れ首を抑えて苦しむ王妃を上から見下ろしながら、私はさらに追い込む為に昨晩練習した演技と事前に用意していたセリフを言葉にする。
「簡単に死ねるワケないでしょ。貴方達はこれから私の言うことには逆らえないの。私が犬の真似をしろといえばワンと鳴き、ゴブリンに犯されろと言えば犯されるの。素敵でしょ?」
「ゴゴゴ、ゴブ……い、いやよ、お願い助けて。なんだって言う事を聞くから」
「言ったでしょ、貴女達に拒否権は存在しないって。忘れたわけじゃないわよね? 私の前で両親を殺し、無関係な少女達を無理やり娼婦へと追いやった。
叔父様には世の中の屈辱という屈辱を味わってもらって、伯母様にはそうね、大勢の人間や魔物に犯されてもらおうかしら。定期的に色んな指示を出してあげるから、頑張って奉仕するのね。あぁ、今から想像しただけで楽しくなるわ。一体どれだけに人や魔物に犯されるのかしら」
「いや、助けて!」
ふふふ、気分はまさに魔王様そのもの。これはちょっと魔王と名乗っている魔族の気分が少しわかる気がするわね。
そのまま必死に救いを求める王妃に背を向け愛する夫の元へと歩み寄る。これでやるべき事はあと一つしか残っていない。
私は王妃達に見せつけるよう旦那様に抱きつくと、ふと今思い出したかのような演技で軽く振り返る。
「うふふ。あぁ、そういえば貴女達が処刑しようとしていた勇者たちは私が殺しておいてあげるから安心しなさい。こんな程度で国民から締め上げられでもしたら私の楽しみが減ってしまうわ」
勇者様ご一行はいわば王と王妃の秘密を知る危険人物。彼らがこことは違う別の国や街で言いふらせば、第二第三の勇者様ご一行が今度こそ王と王妃を討伐へとやってくるだろう。そうなってしまえば私の壮大な計画も頓挫していまう。
果たして今の王妃達がどこまで言葉を理解できているか甚だ疑問も残るが、何時までも憎っくき仇を目にしていたら本当にこの場で殺してしまいそうなので、最後に頑張って練習した妖艶の笑みを見せて愛する旦那様と一緒に消えていく。
「精々残された命で私を楽しませなさい。うふ、うふふふ……」
「ま、まって。お願い助けて! いやよこんなの……おねがい……」
こうして魔王討伐に始まった一連の事件だけは終了した事となる。処刑台に立つ王と王妃はまた別の話ではあるのだが……。
「良かったのか? 殺さなくても」
ウェッジウッド王国の王城を足元に写し、遥か上空で再びお姫様だっこの状態で私に問いかける旦那様。
「良いのよ。簡単に殺してしまっては楽しみが減ってしまうでしょ?」
殺したいかと問われれば、私は迷う事なく殺したいと答えるだろう。それが悪い行為だと思っていないし、正しい行為だとも思ってはいない。
正直苦しめ続けたいという思いも確かに私の中に存在する。だけど、それでも私は……
「はぁ……良い加減自分を悪者に仕立て上げるのは辞めたらどうだ?」
「えっ?」
突然私の心の中を覗かれたように、ドクンと一つ心臓が驚きの鼓動をみせる。
「我れが気づいていないとでも思っていたのか? 今までお前が我れに頼んで来た事は何一つ自分の為には繋がらないであろう?」
「いや、だからあれは王妃達に嫌がらせを……」
「ならば聞くが、ワザワザ殺していい人間とそうでない人間のリストを事前に用意し、被害が広まらないように細かく指示してきたのは何のためだ? ただ嫌がらせをしたいのであれば娼婦の館や街を燃やさなくても良かったのではないか?」
「うっ、そ、それは……」
徐々に迫ってくる愛しの旦那様の顔が怖くて凝視できない。
そらぁ、ちょっと……いや、かなり細かく、こことここは燃やして、こっちの部屋には火が移らないようにしてだとか、この男は殺していいとか、こっちの人は無理やり働かされているだけだから見逃してあげてだとか、事前に調べて細かく指示してきたけれど、それって何処にでもある日常じゃない? まさかそんな処からツッコまれるとは予想もしていなかったわ。
「まったく、アンナやリリア達も呆れていたぞ。一人隠れて悪役の演技練習までしているんだと」
「うっ……」
やば、まさかあの秘密の特訓を見られていたなんて。二人も旦那様じゃなく私に言いなさいよね。
「さっきの王妃達への所業も勇者達の為であろう? 彼奴らがこれから先も安全な旅を送れるようにとワザと自分を悪役に仕立てて王妃達の目を自分だけに向けさせた。違うか?」
「うぐっ……」
「はぁ……まぁよい。我れはどんな時でもお前の夫だ。帰るぞ、我らの家に」
もう……、この魔王は結局最後は私の心を奪い去っていくんだから。
私はぎゅっと旦那様に抱きつき、そっとほっぺにキスをする。
「今夜は久しぶりにベットの中で温もりを感じたいなぁ」
「まったく、ワガママな姫様だ。しっかりつかまっていろ」
そう言うと私の愛する旦那様は何故か空間転移ではなくお姫様だっこのままで大空を駆け抜ける。
たまには二人きりの空のデートと洒落込んで。
後の伝承ではこう残されている。
魔王の妻となった聖女は数々の悪行でその名を歴史へと残す。
しかし何故か彼女を悪く言う者はおらず、時には正義の使者や神の使いのように崇め感謝されていたのだという。
聖女の名はアイリス。魔王の妻、アイリスと。
—— Fin ——
国王と思しき男性の叱咤に、何人もの騎士達が慌てて玉座の間から走り去る。もし賢明なる王ならば騎士達の汚れた姿に真実を見抜き、多くの兵で玉座の間を防衛していたかもしれないのに……
「馬鹿どもが、魔王が王都に潜入したなどと騒ぎよって」
「あなた……いえ、陛下。魔王と一緒に現れたという女性。それってまさか……」
「馬鹿者、娼婦だったアイリスがこの街に戻れるはずもなかろう。どうせ勇者を差し向けたことによる何時もの嫌がらせに決まっておる」
「ですが……」
「そんなに心配するならアイリスに付けた奴隷の首輪で居場所がわかるだろう。どうせ魔王城で嘲笑っている違いないわ」
「そ、そうだったわ。探査魔法で調べればすぐに居場所が……」
うん、思いの外滑稽な様子に私の気分は最高潮。
今も足元で、私の居場所を探査魔法でしらべてた王妃の血の気が引く様子が見れて、若干興奮が抑えきれない。
そんな様子の私をお姫様だっこしながら、微妙な顔をする愛しの旦那様。
そろそろ良い加減次のシーンに移らなければ、私が旦那様に危ない女だと勘違いされてしまう。……いやまぁ、間違ってはいないんだけれどね。
「コホン。それじゃそろそろ良いかしら」
「まったく、どっちが魔王なんだか」
軽く呆れてしまった旦那様の発言をあえてスルーしつつ、私たちは憎っくき王と王妃目の前へと落りていく。
「どうした、アイリスは魔王城にいたんだろう?」
顔を真っ青にした王妃の様子に、徐々に焦りを表していく国王。そんな彼らの前に音もなくすっと地面へと降り立つ私たち。お姫様だっこなのはこの際軽く見逃して欲しい。
仕方がないじゃない、私はディメオラのように飛べないのよ!
「誰をお探しでしょうか、叔母さま」
「なっ、貴様はアイリス! 一体何処から入ってきおった!」
私の姿を見るなり完全に狼狽える叔父と叔母。そらぁそうでしょ。今や私は魔王様のお嫁さんで、向こうにしてみれば復讐のために悪魔に魂を売ったとでも思われているのだろう。
だが現実は私の一目惚れからの猛アタックで、めでたくディメオラのハートを射止めたわけだが、そこに復讐だとか利用しようだとかの考えは一切存在していない。
まぁ、結婚した後にあれやこれやと、愛されていることを利用して色々頼んだりはしているのだけれど。
「何処からと言われましても、直接ここへと転移しただけですが?」
「ば、馬鹿な。直接玉座の間に転移だと!? 城には魔物よけの結界が……ま、まさか先ほどの爆発は結界石の破壊か!?」
魔族が転移魔法を使えるというのは、一定の階級を持つ者にとってはわりと有名な話。そのため城や国の重要施設には結界石をいう特殊な石をつかって結界が張られている。だけどこの結界石は非常に貴重な石のうえ、その加工や術式が遥か昔の産物なので、今となっては作り直すことは勿論修復すら難しいとされているのだ。
つまりそれだけ貴重なものを壊したのだから、叔父たちが焦るのは同然のことであろう。
「地下牢に囚われている少女たちをた助けるのに、少々邪魔だったので壊させていただきましたが、何か問題でも?」
「ふ、ふざけるな! あの結界石がどれだけ貴重な物か、元聖女であったお前が知らないはずがないであろう! 城が落ちればこの国の民は路頭に迷い、挙げ句の果ては魔物たちの餌になってしまう。お前はそんな簡単な計算すら出来なくなったのか!」
ん~、まさか此処で自分達がやってきた行いを棚に上げ、私が行った破壊活動だけが悪いと言われるとは、正直思ってもみなかった。
確かに城が落ちれば統率が出来ずに騎士たちは散りじりになって戦いどころではなくなるだろう。その結果、国民達は守ってくれるべき対象がなくなってしまうわけだが、その守ってくれるべき騎士や上層部が国民を娼婦へと追いやっているんだから、別段それほどかわらないのではないか?
私を抱くために金を積んできたのは間違いなくこの国の男達。そんな国民も私を娼婦へと追いやった叔父達も、私に言わせれば死んで当然の人間達だ。
勿論多少は善良な市民達もいるだろうが、そういった人たちだけを助ける力が私たちにはあるわけだし、今更こんな腐った国など一度滅んしまった方が世のためになるのではないか。
「言葉を選べ、人間よ。我が妻を侮辱するならこの場で城ごと吹き飛ばしてもいいのだぞ」
「ひっ!」
あらやだ、ちょっと愛しの旦那様がかっこ良く見えてしまう。
いや、普段から十分すぎるほどカッコイイのだが、今はそれ以上に頼もしく思えてしまう。私って愛されているわねぇ。
「大丈夫ですよ。今の私にはただの負け犬の遠吠え程度にしか感じませんから」
私自身、ディメオラの愛を受け入れた時に大きな力を手に入れてしまった。これが人間をやめてしまった結果になったとしても、私に後悔という感情は一切存在していない。
だけどケジメだけはつけないといけないだろう。
私は予め決めていた次の行動を起こすべく、愛する夫の腕の中から抜け出し……抜けだ……抜け……
「むっ!」
「ん? あぁ」
私が頬を膨らませむっと睨めつけると、ようやく意図を察してくれて地面へと降ろしてくれる。
か弱い私が力任せに魔王様の腕から抜け出せるわけがないでしょ!
「コホン。これが何かはお分かりでしょう?」
気分を切り替え取りだしたのは私が今も付け続けている奴隷の首輪。これは私のお世話をしてくれているアンナとリリアが付けられていた物だ。
「これを今からあなた達の首に嵌めさせて貰うわ。あぁ、拒否権はないから無駄な抵抗はやめておくことね」
「ふ、ふざけないで! 王妃である私が奴隷の首輪なんて付けられるわけがないでしょ!」
「別にふざけてなんていないわよ。姫であった私が今も愛用しているんだから、おかしなことなんて何もないでしょ? なんだったら私のお母様のように付け後に無理やり外してあげましょうか?」
7年前のあの日、王の妹であり聖女であったお母様に無理やりこの首輪をつけ、私の命を助ける代わりに自ら首輪を外させた行為は今も昨日のように思い出せる。
「ま、まって、貴女の望みのものはなんだって用意してあげる。命を狙うのももう諦めるわ。だからそれだけは……」
まったく見苦しい。一体今まで何人の嫌がる少女達にこの首輪をつけてきたのだ。この首輪の恐ろしさを一番知っている王妃だからこそ、ここまで怯え震えるのだろうが、そんな姿さえも今の私には憎たらしく思えてくる。
「弁明や言い訳を聞くつもりわないわ」
私は一歩、一歩と後ずさる王妃の元へと歩み寄る。
やがて王妃が壁に行き当たると同時に、両手両足を魔力で大の字に貼り付ける。
「やめ、いやー」
嫌がる王妃に首輪を嵌め、その帰りに未だ震え続けている国王の首にも嵌めつける。
奴隷の首輪は元々外す事が想定されていない死の首輪。無理やり外そうとすれば首から上を吹き飛ばし、地の果てまで逃げようともその場所を瞬時に突き止める事が出来る絶対的な拘束具。しかも首輪という隠せないアクセサリーの為に、奴隷かどうかが一目でわかる優れものだ。
これで王妃は勿論、国王までもが二度と人前に出られる事はないであろう。
「そうそう言い忘れていたけれど、その首輪は改良型でね。私がその気になれば遠くからでも首を吹き飛ばす事ができるのよ。素敵でしょ?」
「い、嫌よ。こんなの付けてたら安心できる時なんて……」
「当たり前じゃない。その為の首輪なんだから」
これで王と王妃は寝る時も、お風呂の時も、えっちの時も、死という恐怖から二度と抜け出す事ができないだろう。
「覚えておきなさい、私はいつでも貴女達の行動を見ているわ。何処に逃げても、何処に隠れても、私は手に取るように居場所がわかる。あぁ、抵抗したければ好きなようにしてもいいよの? そうすれば」
私はそっと片手を前へと突き出し。
「な、なにを……うぐっ……がっ……」
急に首輪が黒く光ると同時に王妃が首元を抑えながら苦しみだす。
「なっ、貴様、王妃に何をした!?」
「ん? ちょっと首輪を締め付けているだけよ。言ったでしょ改良しているって」
私がただ居場所や遠隔で爆破させるだけにとどめておくワケがないじゃない。精神的にも肉体的に苦しませなくちゃ死んでいった両親や少女達に申し訳ないわよ。
「やめろ! やめてくれ!」
「仕方ないわね」
王が私の足元で泣いてすがってくるので、仕方なく首輪へ注いでいた魔力を止める。
「ぜはぁ、ぜはぁ、ごほごほ」
倒れ首を抑えて苦しむ王妃を上から見下ろしながら、私はさらに追い込む為に昨晩練習した演技と事前に用意していたセリフを言葉にする。
「簡単に死ねるワケないでしょ。貴方達はこれから私の言うことには逆らえないの。私が犬の真似をしろといえばワンと鳴き、ゴブリンに犯されろと言えば犯されるの。素敵でしょ?」
「ゴゴゴ、ゴブ……い、いやよ、お願い助けて。なんだって言う事を聞くから」
「言ったでしょ、貴女達に拒否権は存在しないって。忘れたわけじゃないわよね? 私の前で両親を殺し、無関係な少女達を無理やり娼婦へと追いやった。
叔父様には世の中の屈辱という屈辱を味わってもらって、伯母様にはそうね、大勢の人間や魔物に犯されてもらおうかしら。定期的に色んな指示を出してあげるから、頑張って奉仕するのね。あぁ、今から想像しただけで楽しくなるわ。一体どれだけに人や魔物に犯されるのかしら」
「いや、助けて!」
ふふふ、気分はまさに魔王様そのもの。これはちょっと魔王と名乗っている魔族の気分が少しわかる気がするわね。
そのまま必死に救いを求める王妃に背を向け愛する夫の元へと歩み寄る。これでやるべき事はあと一つしか残っていない。
私は王妃達に見せつけるよう旦那様に抱きつくと、ふと今思い出したかのような演技で軽く振り返る。
「うふふ。あぁ、そういえば貴女達が処刑しようとしていた勇者たちは私が殺しておいてあげるから安心しなさい。こんな程度で国民から締め上げられでもしたら私の楽しみが減ってしまうわ」
勇者様ご一行はいわば王と王妃の秘密を知る危険人物。彼らがこことは違う別の国や街で言いふらせば、第二第三の勇者様ご一行が今度こそ王と王妃を討伐へとやってくるだろう。そうなってしまえば私の壮大な計画も頓挫していまう。
果たして今の王妃達がどこまで言葉を理解できているか甚だ疑問も残るが、何時までも憎っくき仇を目にしていたら本当にこの場で殺してしまいそうなので、最後に頑張って練習した妖艶の笑みを見せて愛する旦那様と一緒に消えていく。
「精々残された命で私を楽しませなさい。うふ、うふふふ……」
「ま、まって。お願い助けて! いやよこんなの……おねがい……」
こうして魔王討伐に始まった一連の事件だけは終了した事となる。処刑台に立つ王と王妃はまた別の話ではあるのだが……。
「良かったのか? 殺さなくても」
ウェッジウッド王国の王城を足元に写し、遥か上空で再びお姫様だっこの状態で私に問いかける旦那様。
「良いのよ。簡単に殺してしまっては楽しみが減ってしまうでしょ?」
殺したいかと問われれば、私は迷う事なく殺したいと答えるだろう。それが悪い行為だと思っていないし、正しい行為だとも思ってはいない。
正直苦しめ続けたいという思いも確かに私の中に存在する。だけど、それでも私は……
「はぁ……良い加減自分を悪者に仕立て上げるのは辞めたらどうだ?」
「えっ?」
突然私の心の中を覗かれたように、ドクンと一つ心臓が驚きの鼓動をみせる。
「我れが気づいていないとでも思っていたのか? 今までお前が我れに頼んで来た事は何一つ自分の為には繋がらないであろう?」
「いや、だからあれは王妃達に嫌がらせを……」
「ならば聞くが、ワザワザ殺していい人間とそうでない人間のリストを事前に用意し、被害が広まらないように細かく指示してきたのは何のためだ? ただ嫌がらせをしたいのであれば娼婦の館や街を燃やさなくても良かったのではないか?」
「うっ、そ、それは……」
徐々に迫ってくる愛しの旦那様の顔が怖くて凝視できない。
そらぁ、ちょっと……いや、かなり細かく、こことここは燃やして、こっちの部屋には火が移らないようにしてだとか、この男は殺していいとか、こっちの人は無理やり働かされているだけだから見逃してあげてだとか、事前に調べて細かく指示してきたけれど、それって何処にでもある日常じゃない? まさかそんな処からツッコまれるとは予想もしていなかったわ。
「まったく、アンナやリリア達も呆れていたぞ。一人隠れて悪役の演技練習までしているんだと」
「うっ……」
やば、まさかあの秘密の特訓を見られていたなんて。二人も旦那様じゃなく私に言いなさいよね。
「さっきの王妃達への所業も勇者達の為であろう? 彼奴らがこれから先も安全な旅を送れるようにとワザと自分を悪役に仕立てて王妃達の目を自分だけに向けさせた。違うか?」
「うぐっ……」
「はぁ……まぁよい。我れはどんな時でもお前の夫だ。帰るぞ、我らの家に」
もう……、この魔王は結局最後は私の心を奪い去っていくんだから。
私はぎゅっと旦那様に抱きつき、そっとほっぺにキスをする。
「今夜は久しぶりにベットの中で温もりを感じたいなぁ」
「まったく、ワガママな姫様だ。しっかりつかまっていろ」
そう言うと私の愛する旦那様は何故か空間転移ではなくお姫様だっこのままで大空を駆け抜ける。
たまには二人きりの空のデートと洒落込んで。
後の伝承ではこう残されている。
魔王の妻となった聖女は数々の悪行でその名を歴史へと残す。
しかし何故か彼女を悪く言う者はおらず、時には正義の使者や神の使いのように崇め感謝されていたのだという。
聖女の名はアイリス。魔王の妻、アイリスと。
—— Fin ——
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家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。
そして妹の婚約まで決まった。
特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。
※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。
※えろが追加される場合はr−18に変更します。
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