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序 章 入学編
第1話 私は普通の女の子
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「……ア…ス。よ……リス……。朝よ、アリス」
「ん~、ムニャムニャ、おはようミリィ……」
寝ぼけ眼を手で擦りながら、隣で私を起こしていた少女に起床の挨拶をする。
「もう、『おはようミリィ』じゃないわよ、いつまで寝ているのよ。早くしないとルテア達が来ちゃうでしょ」
「あぁ……うん」
なんとか恋しい布団から上半身のみを起こすと、ミリィが乱れてしまった私のパジャマを整えながら話しかけてくる。ついつい反射的に返事をしてしまうが、周りを見渡せば見慣れぬ景色。
二人で寝るには大きすぎるベットに四方を天蓋のカーテンに囲まれ、お布団は言われるまでもなく超が付くほどのフカフカ。おまけに清潔なシーツは甘く花の香りが漂っている。
これが何処ぞのお姫様なら朝の素敵な一時ともなりそうなものだが、生憎平民である私にはもったいないぐらい環境。だったら日頃のご褒美として寝坊の5分や5時間ぐらいは許されるのではないだろうか。
そこ! 5時間は寝坊の範疇じゃないでしょと突っ込んだあなた! 人生の半分は損してるわよ!
いや、まぁ、実はここまでは何時も寝ているベットと然程変わりはないんだけれどね……。
何はともあれ見慣れる景色と言ったのは、何時も飾ってあるぬいぐるも無ければ、私が取り付けた花の装飾品もない只の豪華なだけの天蓋ベット。次いでにシーツの色も汚れひとつない真っ白け。
「あれ、ここどこだっけ?」
「何寝ぼけた事を言ってるのよ」
ミリィの冷たい言葉がようやく動き出した私の脳に響いてくる。
「あらあら、これじゃどちらが王女様か分からないわね。ふふふ」
カーテンの一枚が開き、起きたばかりの私たちに話しかけてきたのは4つ年上のティアお義姉様。ミリィが私の乱れたパジャマを直している姿を見て、優しい笑顔で微笑みかける。
あぁ、そうだった。昨日の夜、お義姉様の部屋に押し掛けてそのまま三人で一緒に寝ちゃったんだっけ。
先ほどお義姉様が言った言葉、『これじゃどちらが王女様か分からないわね』と言うのは、目の前のミリィがれっきとしたこの国の王女様だから。因みに優しく微笑んでおられるティアお義姉様も同じくこの国の王女様。
ミリィとお義姉様は正真正銘血を分けた姉妹で、私とは全く血のつながりも無ければ国王夫妻の隠し子でもない。
そんな私が何故王女様達と一緒に寝ていたかと言うと、水溜りのように小さく浅い理由がある。
実は私のお母さんがこの国の王妃様に仕えていたメイドで、お父さんが国王様を守っていた騎士だったから。
聞いた話では二人とも王妃様と国王様とは古くからの友人だったらしく、私はお城で生まれ、お城で育った少々特殊なだけの普通の女の子。
ちょっと聖女と呼ばれている人の血が流れている関係で、少々精霊の声が聞こえたり他人の傷を直せたりとかするけれど、可笑しなところは何一つないとハッキリと断言できる。
でも、私を産んでくれた両親は8年前に起こった事件で亡くなってしまったのよね。元々二人とも天涯孤独だったらしく、身寄りのいなくなった私は施設か孤児院に行くしかなかったところを、国王様と王妃様が善意で引き取ってくださったって訳。
どう? 何も変なところはないでしょ?
「早くしなさいアリス、あなたの寝坊のせいで父様達を待たせちゃってるんだから」
「あぁ、ごめんミリィ。エレノアさんもう行くね」
お世話をしてくれているメイドさん達がワザワザ自室から持ってきてくださった服に着替え、髪を整えてくれていたエレノアさんにお礼を言って部屋を出ようとする。
「あ、まってアリス……はい、どうぞ」
「ありがとうございます、行ってきます」
曲がっていたリボンを直してもらい、待ってくれていたミリィとお義姉様と一緒に義両親達が待つ食堂へと向かう。
エレノアさんは私とミリィを小さな時からお世話をしてくれているメイドさんの一人で、昔は巫女をされたいたという少々異例の経歴を持つ人。
何でも亡くなったお母さんにお世話になった事があるんだとか言ってたけど、詳しくは教えてくれなかった。
「お早うございます、お義父様お母様。エリクお義兄様もお早うございます。遅くなってすみません」
「おはよう、今日は随分ゆっくりね」
「アリスが寝坊しちゃったんです」
朝の挨拶と遅れた謝罪を告げ、それぞれ決められた席へと座る。
ミリィの言う通り、何時もと違うベットで寝たせいか少し起きるのが遅かったのだろう。私たちが食堂に到着した時には既に義両親と、3つ年上のお義兄様がテーブルに着かれていた。
よく物語とかだと主人公が意地悪なメイドさんや兄妹に虐められるシーンを見かけるが、私が知る範囲では今まで一度もそんな経験をしたことがない。
今だって私が寝坊をした事をミリィが告げても、義両親はおろかお義兄様も気にする様子はなく、ただ優しく微笑んでくれているだけ。
メイドさんに至っても私たちのお世話をしてくれているエレノアさんを始め、メイド長のノエルさんや他のメイドさん達も、誰一人として私を悪く言う者はおらず優しく接してくれている。
これもひとえに幼少の頃からの顔なじみと、お母さんが築いたという数々の伝説がメイドさんの中で受け継がれているからなのだが……まぁ、話せば長くなるのでこの話はまた次の機会という事で。
ここで少し私の家族構成に触れてみたいと思う。
私の名前はアリス・アンテーゼ。出生の事は先ほど話した通り、お義母様の専属メイドだったセリカお母さんと、お義父様の専属騎士だったカリスお父さんの実の娘。
そんな私を現在進行形で育ててくださっているのが、この国の国王様にしてお義父様であるアムルタート・レーネス・レガリア様と、王妃でありお義母様であるフローラ・レーネス・レガリア様。別に養子になった訳ではないが、お義父様、お義母様と呼ばないと二人とも返事をしてくれないので、ここは深く追求しないでほしい。
その両親の隣にいるのがお義兄様であるエリクシール・レーネス・レガリア様と、先ほど紹介したお義姉様であるティアラ・レーネス・レガリア様。
私はエリクお義兄様とティアお義姉様と呼んでいるんだけどね。
そして最後に私の隣に座っているのが同じ歳のミリィ。本名ミリアリア・レーネス・レガリアと言って、私より2ヶ月ほど誕生日が早いってだけで、完全に末っ子扱いにしている。まぁ何だかんだと言って、私よりしっかりしているから何も言えないんだけどね。
「二人とも、明日の準備はもう出来ているの?」
「はい、大丈夫です」
「そのせいで、昨日は姉様の部屋で寝ちゃったんですから」
朝食を終え、サロンで口直しに女子会ならぬ女子トークを楽しみながらお茶を頂いていると、お義母様が明日の話を振って来られる。
今出てきた明日の準備というのは、私とミリィが明日から通う事になっている学校の話。昨夜は届いたばかりの制服をティアお姉様にお披露目したり、先月まで通われていた学園の話を聞いていたらすっかり夜が遅くなってしまい、結局そのままお姉様の部屋で三人一緒に寝てしまった。
この国の学園制度は三階級の6年制、普通に通えば12歳からの2年間は初等部と言われる階級に通い、文字書きや簡単な計算や歴史、地理などを学ぶ事になる。
でも貴族やお金持ちのご令嬢やご子息達って、12歳以前からそれぞれに家庭教師を付けられて学んじゃうのよね。だから14歳から学ぶ事が出来る中等部から入る事が多く、私たちが通う事になる学園も元々初等部は用意されていない。
だったらワザワザ学園に通わず家庭教師で全てを済ませればいいじゃないと思うかもしれないが、そこは階級を重んじる貴族社会。子供の内から色んな人脈を築き将来に生かそうとか、あわよくば結婚相手を自力で見つけようとか、そんな思惑がひしめき合っているのだと、昨夜お姉様が教えてくれた。
平民である私も育ててもらった環境のお陰で、幼少の頃より家庭教師の先生から一般教養を学んでおり、この度めでたく私はスチュワート王立専門学園へ通い、ミリィはヴィクトリア王国学園の中等部へと通う事になっている。
ん? なんで私とミリィが通う学校が違うのかって? それはね……
「失礼いたします。エンジウム家のルテア様とアルフレート家のリコリス様がお見えになられました」
あぁ、もうそんな時間か。
食後をお母様達とまったりと過ごしていれば、エレノアさんが私とミリィを呼びにサロンへとやってきた。
「ありがとう、すぐに行くから庭園の方へ案内してあげて」
ミリィが代わりに返事をし、私の手を掴んで椅子から立ち上がる。
「あらあら、相変わらず二人は仲がいいわね」
「お母様もそう思います? 昔はお姉様お姉様って、二人揃って抱きついてくれてたのに、最近はすっかりのけ者扱い。姉としては日々少し寂しい思いをしているんですよ。ううぅ」
そう言いながら、いつの間にか取り出したハンカチて目元を拭く仕草をするお義姉様。
ミリィと仲がいいのは否定しないけれど、お義姉様をのけ者扱いにした記憶はないんだけどなぁ。
「ごめんなさいお義姉様。私、そんなつもりは……」
お義姉様の様子が気になって近寄ろうとするが、ミリィが繋いだ手を離してくれず逆に引き寄せるように引っ張られる。
「もうアリス、何騙されてるのよ。姉様、そんな白々しい演技をしても誤魔化せませんよ」
「あら、ミリィはつれないわね。アリスはこんなにも純粋に育ったって言うのに」
そう言いながら顔を上げ笑顔を向けてくれるお義姉様。その頬には当然のごとく涙の跡は存在しない。
「アリスが純粋すぎるから私がしっかりしなきゃ行けないんです。ほら行くよ、ルテア達を待たせちゃうでしょ」
「あ、うん。それじゃ行ってきますね」
「はい、いってらっしゃい」
「楽しんでいらっしゃい」
お義母様とお義姉様に笑顔で見送られながら、ミリィに引っ張られサロンから庭園の方へと向かっていく。
私達が今暮らしている場所は、お城の中でも限られた者しか立ち入る事が出来ないプライベートエリア。ここはお義父様かお義母様の許可がなければ入る事が出来ない場所で、お城で働いている人たちもここへは簡単に近寄れない。
そんな厳戒態勢が敷かれている場所に、お義母様の実家であり公爵様の娘でもあるルテアと、お義父様の従兄弟であり侯爵様の娘のリコリスは、私たちと同じ歳の友達という理由から、幼少の頃から立ち入る事が許されている数少ない人物。二人とも私の事情を知りながら、その上で友達になってくれた貴重な友人。って言っても、この二人以外で同年代の子供といえば、ほんの数人しか面識がないんだけどね。
「そうだ。ごめんミリィ、庭園に行く前に部屋に寄っていいかな。この間騎士団長様にもらった茶葉があるの、せっかくだからルテア達にもっと思って」
「良いわよ、それじゃ先に部屋へ行くわよ」
庭園に向う途中、一旦二階にある私たちの自室へとミリィと一緒に立ち寄る。
そこで私専用に設けられたチェストの引き出しを開け、数々の茶葉が小分けされた瓶の中から、ピンクのリボンがついた小瓶と乾燥させた花びらが入った瓶を取り出し、部屋の外で待ってくれていたミリィとあたらめて庭園へと向かった。
「ん~、ムニャムニャ、おはようミリィ……」
寝ぼけ眼を手で擦りながら、隣で私を起こしていた少女に起床の挨拶をする。
「もう、『おはようミリィ』じゃないわよ、いつまで寝ているのよ。早くしないとルテア達が来ちゃうでしょ」
「あぁ……うん」
なんとか恋しい布団から上半身のみを起こすと、ミリィが乱れてしまった私のパジャマを整えながら話しかけてくる。ついつい反射的に返事をしてしまうが、周りを見渡せば見慣れぬ景色。
二人で寝るには大きすぎるベットに四方を天蓋のカーテンに囲まれ、お布団は言われるまでもなく超が付くほどのフカフカ。おまけに清潔なシーツは甘く花の香りが漂っている。
これが何処ぞのお姫様なら朝の素敵な一時ともなりそうなものだが、生憎平民である私にはもったいないぐらい環境。だったら日頃のご褒美として寝坊の5分や5時間ぐらいは許されるのではないだろうか。
そこ! 5時間は寝坊の範疇じゃないでしょと突っ込んだあなた! 人生の半分は損してるわよ!
いや、まぁ、実はここまでは何時も寝ているベットと然程変わりはないんだけれどね……。
何はともあれ見慣れる景色と言ったのは、何時も飾ってあるぬいぐるも無ければ、私が取り付けた花の装飾品もない只の豪華なだけの天蓋ベット。次いでにシーツの色も汚れひとつない真っ白け。
「あれ、ここどこだっけ?」
「何寝ぼけた事を言ってるのよ」
ミリィの冷たい言葉がようやく動き出した私の脳に響いてくる。
「あらあら、これじゃどちらが王女様か分からないわね。ふふふ」
カーテンの一枚が開き、起きたばかりの私たちに話しかけてきたのは4つ年上のティアお義姉様。ミリィが私の乱れたパジャマを直している姿を見て、優しい笑顔で微笑みかける。
あぁ、そうだった。昨日の夜、お義姉様の部屋に押し掛けてそのまま三人で一緒に寝ちゃったんだっけ。
先ほどお義姉様が言った言葉、『これじゃどちらが王女様か分からないわね』と言うのは、目の前のミリィがれっきとしたこの国の王女様だから。因みに優しく微笑んでおられるティアお義姉様も同じくこの国の王女様。
ミリィとお義姉様は正真正銘血を分けた姉妹で、私とは全く血のつながりも無ければ国王夫妻の隠し子でもない。
そんな私が何故王女様達と一緒に寝ていたかと言うと、水溜りのように小さく浅い理由がある。
実は私のお母さんがこの国の王妃様に仕えていたメイドで、お父さんが国王様を守っていた騎士だったから。
聞いた話では二人とも王妃様と国王様とは古くからの友人だったらしく、私はお城で生まれ、お城で育った少々特殊なだけの普通の女の子。
ちょっと聖女と呼ばれている人の血が流れている関係で、少々精霊の声が聞こえたり他人の傷を直せたりとかするけれど、可笑しなところは何一つないとハッキリと断言できる。
でも、私を産んでくれた両親は8年前に起こった事件で亡くなってしまったのよね。元々二人とも天涯孤独だったらしく、身寄りのいなくなった私は施設か孤児院に行くしかなかったところを、国王様と王妃様が善意で引き取ってくださったって訳。
どう? 何も変なところはないでしょ?
「早くしなさいアリス、あなたの寝坊のせいで父様達を待たせちゃってるんだから」
「あぁ、ごめんミリィ。エレノアさんもう行くね」
お世話をしてくれているメイドさん達がワザワザ自室から持ってきてくださった服に着替え、髪を整えてくれていたエレノアさんにお礼を言って部屋を出ようとする。
「あ、まってアリス……はい、どうぞ」
「ありがとうございます、行ってきます」
曲がっていたリボンを直してもらい、待ってくれていたミリィとお義姉様と一緒に義両親達が待つ食堂へと向かう。
エレノアさんは私とミリィを小さな時からお世話をしてくれているメイドさんの一人で、昔は巫女をされたいたという少々異例の経歴を持つ人。
何でも亡くなったお母さんにお世話になった事があるんだとか言ってたけど、詳しくは教えてくれなかった。
「お早うございます、お義父様お母様。エリクお義兄様もお早うございます。遅くなってすみません」
「おはよう、今日は随分ゆっくりね」
「アリスが寝坊しちゃったんです」
朝の挨拶と遅れた謝罪を告げ、それぞれ決められた席へと座る。
ミリィの言う通り、何時もと違うベットで寝たせいか少し起きるのが遅かったのだろう。私たちが食堂に到着した時には既に義両親と、3つ年上のお義兄様がテーブルに着かれていた。
よく物語とかだと主人公が意地悪なメイドさんや兄妹に虐められるシーンを見かけるが、私が知る範囲では今まで一度もそんな経験をしたことがない。
今だって私が寝坊をした事をミリィが告げても、義両親はおろかお義兄様も気にする様子はなく、ただ優しく微笑んでくれているだけ。
メイドさんに至っても私たちのお世話をしてくれているエレノアさんを始め、メイド長のノエルさんや他のメイドさん達も、誰一人として私を悪く言う者はおらず優しく接してくれている。
これもひとえに幼少の頃からの顔なじみと、お母さんが築いたという数々の伝説がメイドさんの中で受け継がれているからなのだが……まぁ、話せば長くなるのでこの話はまた次の機会という事で。
ここで少し私の家族構成に触れてみたいと思う。
私の名前はアリス・アンテーゼ。出生の事は先ほど話した通り、お義母様の専属メイドだったセリカお母さんと、お義父様の専属騎士だったカリスお父さんの実の娘。
そんな私を現在進行形で育ててくださっているのが、この国の国王様にしてお義父様であるアムルタート・レーネス・レガリア様と、王妃でありお義母様であるフローラ・レーネス・レガリア様。別に養子になった訳ではないが、お義父様、お義母様と呼ばないと二人とも返事をしてくれないので、ここは深く追求しないでほしい。
その両親の隣にいるのがお義兄様であるエリクシール・レーネス・レガリア様と、先ほど紹介したお義姉様であるティアラ・レーネス・レガリア様。
私はエリクお義兄様とティアお義姉様と呼んでいるんだけどね。
そして最後に私の隣に座っているのが同じ歳のミリィ。本名ミリアリア・レーネス・レガリアと言って、私より2ヶ月ほど誕生日が早いってだけで、完全に末っ子扱いにしている。まぁ何だかんだと言って、私よりしっかりしているから何も言えないんだけどね。
「二人とも、明日の準備はもう出来ているの?」
「はい、大丈夫です」
「そのせいで、昨日は姉様の部屋で寝ちゃったんですから」
朝食を終え、サロンで口直しに女子会ならぬ女子トークを楽しみながらお茶を頂いていると、お義母様が明日の話を振って来られる。
今出てきた明日の準備というのは、私とミリィが明日から通う事になっている学校の話。昨夜は届いたばかりの制服をティアお姉様にお披露目したり、先月まで通われていた学園の話を聞いていたらすっかり夜が遅くなってしまい、結局そのままお姉様の部屋で三人一緒に寝てしまった。
この国の学園制度は三階級の6年制、普通に通えば12歳からの2年間は初等部と言われる階級に通い、文字書きや簡単な計算や歴史、地理などを学ぶ事になる。
でも貴族やお金持ちのご令嬢やご子息達って、12歳以前からそれぞれに家庭教師を付けられて学んじゃうのよね。だから14歳から学ぶ事が出来る中等部から入る事が多く、私たちが通う事になる学園も元々初等部は用意されていない。
だったらワザワザ学園に通わず家庭教師で全てを済ませればいいじゃないと思うかもしれないが、そこは階級を重んじる貴族社会。子供の内から色んな人脈を築き将来に生かそうとか、あわよくば結婚相手を自力で見つけようとか、そんな思惑がひしめき合っているのだと、昨夜お姉様が教えてくれた。
平民である私も育ててもらった環境のお陰で、幼少の頃より家庭教師の先生から一般教養を学んでおり、この度めでたく私はスチュワート王立専門学園へ通い、ミリィはヴィクトリア王国学園の中等部へと通う事になっている。
ん? なんで私とミリィが通う学校が違うのかって? それはね……
「失礼いたします。エンジウム家のルテア様とアルフレート家のリコリス様がお見えになられました」
あぁ、もうそんな時間か。
食後をお母様達とまったりと過ごしていれば、エレノアさんが私とミリィを呼びにサロンへとやってきた。
「ありがとう、すぐに行くから庭園の方へ案内してあげて」
ミリィが代わりに返事をし、私の手を掴んで椅子から立ち上がる。
「あらあら、相変わらず二人は仲がいいわね」
「お母様もそう思います? 昔はお姉様お姉様って、二人揃って抱きついてくれてたのに、最近はすっかりのけ者扱い。姉としては日々少し寂しい思いをしているんですよ。ううぅ」
そう言いながら、いつの間にか取り出したハンカチて目元を拭く仕草をするお義姉様。
ミリィと仲がいいのは否定しないけれど、お義姉様をのけ者扱いにした記憶はないんだけどなぁ。
「ごめんなさいお義姉様。私、そんなつもりは……」
お義姉様の様子が気になって近寄ろうとするが、ミリィが繋いだ手を離してくれず逆に引き寄せるように引っ張られる。
「もうアリス、何騙されてるのよ。姉様、そんな白々しい演技をしても誤魔化せませんよ」
「あら、ミリィはつれないわね。アリスはこんなにも純粋に育ったって言うのに」
そう言いながら顔を上げ笑顔を向けてくれるお義姉様。その頬には当然のごとく涙の跡は存在しない。
「アリスが純粋すぎるから私がしっかりしなきゃ行けないんです。ほら行くよ、ルテア達を待たせちゃうでしょ」
「あ、うん。それじゃ行ってきますね」
「はい、いってらっしゃい」
「楽しんでいらっしゃい」
お義母様とお義姉様に笑顔で見送られながら、ミリィに引っ張られサロンから庭園の方へと向かっていく。
私達が今暮らしている場所は、お城の中でも限られた者しか立ち入る事が出来ないプライベートエリア。ここはお義父様かお義母様の許可がなければ入る事が出来ない場所で、お城で働いている人たちもここへは簡単に近寄れない。
そんな厳戒態勢が敷かれている場所に、お義母様の実家であり公爵様の娘でもあるルテアと、お義父様の従兄弟であり侯爵様の娘のリコリスは、私たちと同じ歳の友達という理由から、幼少の頃から立ち入る事が許されている数少ない人物。二人とも私の事情を知りながら、その上で友達になってくれた貴重な友人。って言っても、この二人以外で同年代の子供といえば、ほんの数人しか面識がないんだけどね。
「そうだ。ごめんミリィ、庭園に行く前に部屋に寄っていいかな。この間騎士団長様にもらった茶葉があるの、せっかくだからルテア達にもっと思って」
「良いわよ、それじゃ先に部屋へ行くわよ」
庭園に向う途中、一旦二階にある私たちの自室へとミリィと一緒に立ち寄る。
そこで私専用に設けられたチェストの引き出しを開け、数々の茶葉が小分けされた瓶の中から、ピンクのリボンがついた小瓶と乾燥させた花びらが入った瓶を取り出し、部屋の外で待ってくれていたミリィとあたらめて庭園へと向かった。
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