14 / 119
第一章 スチュワート編(一年)
第14話 その出会いは
しおりを挟む
イリアさんとの一件があった翌日、結局昨日は体調不良という事で早退されたイリアさんであったが、私の心配よそに今日は朝から元気に登校され、学園社交界当日の説明を聞くために、現在はパフィオさん達パーティー組と一緒にヴィクトリア側へと出かけている。
「それじゃ行ってくるね」
隣の席からココリナちゃんが声を掛け、クジ引き会場となっているホールへと向かうため、クラスの皆んなと教室から出て行く。
本日は当日の役柄を決めるための大切な日、いつも以上に気合が入っているココリナちゃんと、不安と心配で今にも倒れるんじゃないかと思わせるカトレアさんを見送り、只今クラスに残っているのはご指名を受けている私とリリアナさんの二人のみ。
普段は賑やかな教室も流石に私とリリアナさんだけでは、閑散として少し寂しい気分になってくる。
「アリスさんは結局パーティーには参加されなかったんですね」
二人っきりになった教室、ただボーッとして待っているだけでは退屈だということになり、空いた時間でリリアナさんが持ってこられたお茶でティータイム。
そこで最初に出てきたのがリリアナさんのこの言葉だった。
「私がパーティーにですか?……もしかしてエスニア様から何か聞いておられます?」
リリアナさんがエスニア姉様の支度役に指名されているのなら、私の事を聞いていても不思議ではない。
結局昨日は授業開始の鐘が鳴った為に詳しく聞く事が出来なかったが、恐らくリリアナさんはライラック公爵家に近い人ではないだろうか。
「そうですね、親友であり未来の姉になるティアラ王女様の大切な義妹だと、そうお伺いしておりますわ」
「あはは、ですよねー」
大方の予想は付いていたが、やはりリリアナさんには私の素性がバレていたようだ。
実は出会った頃から多少なりとは違和感があったんだ。当初リリアナさんは私に対してだけ様付で話しかけていたし、実習の時だってさりげなく準備や片付け等、授業に関係ない部分を私から遠ざけていた感じがあった。
エスニア姉様はエリクお義兄様と一緒に生徒会のお仕事をされているから、私がスチュワートに通っている事ぐらいご存知の筈だし、特徴とも言える銀髪を教えられていれば一目で誰だか分かってしまう。今まで黙っていてくれたのは恐らく私がパフィオさんに抱いていた想いと同じではないだろうか。
「やはり覚えてはおられませんか……私、以前に一度だけアリス様にお会いしたことがあるんですよ」
「えっ?」
以前に一度だけ?
意外な答えに頭の中で想い出のページをめくるも、該当する人物が……あっ
リリアナさんはお茶を一口飲み、ぽつりぽつりと語り出す。
「私の両親は共にライラック家に仕えている使用人で、母はメイド長、父は庭師と御者を兼業しおります」
メイド長……その名の通りお屋敷で働く侍女達の最高責任者。それも四大公爵のライラック家ともなると、その立場は他の貴族に仕えている使用人とは重みが一味違うだろう。
「そんな二人の間に生まれた私は公爵家で生まれ、公爵家で育ったんです」
それはまるで私が置かれた状況と一緒……ただ違うのは王家と公爵の違い、ただそれだけ。
「両親からは将来ライラック家にお仕え出来るよう、厳しく教育されていたんですが、幼い私は何もわからずただ優しくしてくださるエスニア……エスターニア様を本当の姉と慕っていたんです」
同じだ、私もティアお義姉様から本当の妹のように可愛がられた。それはお母さんが亡くなる前も後も変わらず、ただ本当の姉妹のように。
「ある日、エスターニア様がご親友のお茶会に招待されたことがあるんです。
当時の私は何も知らず、自分だけが置いていかれる事に不満と不安が混ざり合い、こっそり父が御者をする馬車に乗り込んだんです」
「それはまた……すごい事されたんですね」
にこやかに話されているが、例え子供とはいえ貴族のお屋敷に無断で立ち入ればどうなるか。当然のことながら責任は本人だけに留まらず、両親と不審人物を招き入れたとして公爵家にまで及んでしまう。
それにこの国の規則では貴族のお屋敷や重要施設に無断で立ち入った場合、警備上の問題から侵入者の殺傷が許されており、一歩間違えればその場で切り捨てられていてもおかしくないのだ。
「ふふふ、アリス様にお褒め頂けるとは光栄ですね」
リリアナさんが何やら意味深な言葉を投げかけて来るが、私が義両親やお義姉様達を困らせた事など一度も……いや、二度ぐらいなら……、うん、まぁ誰にでもそいう時期はあるよね。
ふと昔にミリィと行った数々の悪戯が頭を過るが、年頃の女の子ならそれぐらいあっても当然、だよね?
「それで、結局行き先はどこだったんですか?」
今回エスニア姉様からご指名を頂けているのなら、相手先や公爵家からもそれほどキツイお咎めはなかったのだろう。何といってもリリアナさんは公爵家側の人間なので、行き先次第では大目に見られる事もあるのかもしれない。
「ふふふ、何処だと思いますか? ……アリス様のよく知っている場所ですわ」
「私が良く知る場所? って、もしかして!?」
リリアナさんのちょっと意地悪そうな笑顔が、想い出の中にいる一人の少女と目の前の姿とが結びつく。
今のリリアナさんとはまるで雰囲気が違うが、昔たった一度だけ出会った一人の女の子。私とミリィ、そして黒髪の女の子の三人で、お城の庭を走り回って遊んだ記憶が確かにある。でもそれっきり再会する事もなかったし、あの頃はまだ幼かった事もあり、女の子の名前すらも覚えていない。
「あの時は子供ながらも本当に驚きました。だって着いた先がお城だったんですから」
「あは、あはは……」
やっぱりあの時の女の子はリリアナさんだったんだ。
今のリリアナさんしか知らない人からすれば想像も出来ないだろうが、当時はかなりやんちゃな女の子だった。
「結局お城に着いた後、馬車に隠れていた事がバレてしまって……。エスターニア様は笑って許してくださったんですが、御者をしていた父からは今まで見たこともない激怒で叱られてしまいましたわ。うふふ」
いやいやいや、軽く微笑んでおられるがエスニア姉様の行き先がお城だという事は、目的地は間違いなく私たちが暮らすプライベートエリア。
前にも言ったことがあるが、義両親の許可がない限り、例え子供であろうとも立ち入る事が許されない場所。しかも私の両親が亡くなった事件以降は警備もかなり厳しくなり、特に人の出入りは敏感になっている。
「それでその後どうなったんですか? リリアナさんが今ここにおられるという事はお咎めはなかったのでしょうが」
「ティアラ様に助けていただいたんです。エスターニア様の出迎えに来られていたところに私の泣き声が聞こえたらしく、ワザワザ表に出てまで助けに来てくださったんです。その子は私が妹たちの遊び相手に呼んだんだと言って」
現場を見ていないので何とも言えないが、ティアお義姉様が出ていかなければかなり大事になっていたのではないだろうか。まぁ、エスニア姉様の知り合いならば流血沙汰にまではならないだろうが、その場で拘束され公爵家まで送り返される事ぐらいはあり得るだろう。
「それじゃやっぱり、あの時の女の子がリリアナさんだったんですね」
「思い出していただけましたか? それが私なんです」
リリアナさんはそう言いながら何か懐かしいものを思い出すように、ふと表情に陰りを表す。
「すみません、忘れていた訳ではないんですが、どうしても昔出会った女の子と今のリリアナさんが結びつかず……髪も大分切られたんですよね?」
あの時遊んでいた女の子は私やミリィ同じで髪を長く伸ばしていた。だけど今のリリアナさんの髪は肩にかかる程度のセミロング。
「えぇ、あの時のケジメとして母にバッサリと切ってもらったんです。でもその後にエスターニア様と奥様から、年頃の女の子が髪を切るなんてって叱られたんですけどね」
リリアナさんは一言ケジメと言っているが、この出来事で両親から相当自分の置かれている環境を教え込まれたのだろう。
今まで姉として慕っていた人を急にご令嬢呼び、甘える事も一緒のテーブルに着く事も出来なくなるって相当辛かったのだと思う。今の私じゃ未来の事などとても想像できないが、いずれミリィやお義姉様達と一線を置かなければならない日が来ると思うと、何だか寂しい気持ちで心が締め付けられてしまう。
「リリアナさんはその……寂しくないんですか?(エスニア様をお姉様と呼べなくなって)」
一瞬未来の自分と被ってしまい、最後の言葉が思わず詰まってしまう。
「寂しくありませんわ、エスターニア様は今も変わらず私を妹のように可愛がって下さっていますし、アルベルト様は何かとつけて助けて下さいますし」
「アルベルト様? あぁ、エスニア姉様の弟さんですよね、確か私達の一つ下の」
一瞬誰かと思ったが、エスニア様にはアルベルトと言う名の弟さんが一人いる。他の公爵家なら全員仲良くしているのだけれど、エスニア様のライラック家だけは同じ年の子供がいなかったせいで、こちらからお屋敷に遊びに行った記憶がほとんどない。
「それじゃ来年はアルベルト様の支度役になるんですね」
エスニア姉様は今年で卒業されるからね、その代わり来年からアルベルト様が入学されるなら、リリアナさんは当然支度役に選ばれるのだろう。
「さぁ、それはどうでしょうか? アルベルト様は私がお手伝いすると恥ずかしがられますからね。ふふふ」
まぁ、その辺りは年頃の男の子なので複雑な気持ちもあるのだろう。もしかしてそれ以外の感情があるのかもしれないけど。
「そうだ、リリアナさん私の事は……」
「大丈夫ですわ、アリスさんの事は誰にも話しませんので」
「ありがとうございます」
どうせ学園社交界が始まればバレてしまうのだけれど、出来れば私の口から言いたいからね。
リリアナさんとの話が一息ついた時、教室の外がザワつきだしココリナちゃん達を含むクジ引き組が帰ってきた。
「お帰りー、クジの結果はどうだったの?」
「ダメだったよぉー」
ココリナちゃんが私の胸に飛び込んでくるので、優しく抱きしめながら頭をなでてあげる。
「仕方ないよー、こればかりは運しだいなんだから」
一年生が支度組に選ばれるのは10人に1人ぐらいだからね。ほとんどの生徒は接客組か料理補助に当ると聞かされている。
「それで、なんでカトレアさんも落ち込んでいるの?」
隣を見ればココリナちゃんと同じように、リリアナに慰められているカトレアさんの姿が。普通考えれば支度組に当りたくないのなら喜んでいてもいいはずなのに……って!?
「どうやら支度組に当ってしまったそうなんです」
ありゃりゃ、ココリナちゃんとは対照的になってしまったんだね。
一応公平を期すために、クジの結果を交換し合う事は禁止されているんだ。カトレアさんには申し訳ないが、クジ運だけはどうしようもないからね。
「まぁその。頑張ってね」
未だ暗い表情から立ち直れていないカトレアさんに軽いエールを送り、いよいよ私達は学園社交界を迎える事になる。
「それじゃ行ってくるね」
隣の席からココリナちゃんが声を掛け、クジ引き会場となっているホールへと向かうため、クラスの皆んなと教室から出て行く。
本日は当日の役柄を決めるための大切な日、いつも以上に気合が入っているココリナちゃんと、不安と心配で今にも倒れるんじゃないかと思わせるカトレアさんを見送り、只今クラスに残っているのはご指名を受けている私とリリアナさんの二人のみ。
普段は賑やかな教室も流石に私とリリアナさんだけでは、閑散として少し寂しい気分になってくる。
「アリスさんは結局パーティーには参加されなかったんですね」
二人っきりになった教室、ただボーッとして待っているだけでは退屈だということになり、空いた時間でリリアナさんが持ってこられたお茶でティータイム。
そこで最初に出てきたのがリリアナさんのこの言葉だった。
「私がパーティーにですか?……もしかしてエスニア様から何か聞いておられます?」
リリアナさんがエスニア姉様の支度役に指名されているのなら、私の事を聞いていても不思議ではない。
結局昨日は授業開始の鐘が鳴った為に詳しく聞く事が出来なかったが、恐らくリリアナさんはライラック公爵家に近い人ではないだろうか。
「そうですね、親友であり未来の姉になるティアラ王女様の大切な義妹だと、そうお伺いしておりますわ」
「あはは、ですよねー」
大方の予想は付いていたが、やはりリリアナさんには私の素性がバレていたようだ。
実は出会った頃から多少なりとは違和感があったんだ。当初リリアナさんは私に対してだけ様付で話しかけていたし、実習の時だってさりげなく準備や片付け等、授業に関係ない部分を私から遠ざけていた感じがあった。
エスニア姉様はエリクお義兄様と一緒に生徒会のお仕事をされているから、私がスチュワートに通っている事ぐらいご存知の筈だし、特徴とも言える銀髪を教えられていれば一目で誰だか分かってしまう。今まで黙っていてくれたのは恐らく私がパフィオさんに抱いていた想いと同じではないだろうか。
「やはり覚えてはおられませんか……私、以前に一度だけアリス様にお会いしたことがあるんですよ」
「えっ?」
以前に一度だけ?
意外な答えに頭の中で想い出のページをめくるも、該当する人物が……あっ
リリアナさんはお茶を一口飲み、ぽつりぽつりと語り出す。
「私の両親は共にライラック家に仕えている使用人で、母はメイド長、父は庭師と御者を兼業しおります」
メイド長……その名の通りお屋敷で働く侍女達の最高責任者。それも四大公爵のライラック家ともなると、その立場は他の貴族に仕えている使用人とは重みが一味違うだろう。
「そんな二人の間に生まれた私は公爵家で生まれ、公爵家で育ったんです」
それはまるで私が置かれた状況と一緒……ただ違うのは王家と公爵の違い、ただそれだけ。
「両親からは将来ライラック家にお仕え出来るよう、厳しく教育されていたんですが、幼い私は何もわからずただ優しくしてくださるエスニア……エスターニア様を本当の姉と慕っていたんです」
同じだ、私もティアお義姉様から本当の妹のように可愛がられた。それはお母さんが亡くなる前も後も変わらず、ただ本当の姉妹のように。
「ある日、エスターニア様がご親友のお茶会に招待されたことがあるんです。
当時の私は何も知らず、自分だけが置いていかれる事に不満と不安が混ざり合い、こっそり父が御者をする馬車に乗り込んだんです」
「それはまた……すごい事されたんですね」
にこやかに話されているが、例え子供とはいえ貴族のお屋敷に無断で立ち入ればどうなるか。当然のことながら責任は本人だけに留まらず、両親と不審人物を招き入れたとして公爵家にまで及んでしまう。
それにこの国の規則では貴族のお屋敷や重要施設に無断で立ち入った場合、警備上の問題から侵入者の殺傷が許されており、一歩間違えればその場で切り捨てられていてもおかしくないのだ。
「ふふふ、アリス様にお褒め頂けるとは光栄ですね」
リリアナさんが何やら意味深な言葉を投げかけて来るが、私が義両親やお義姉様達を困らせた事など一度も……いや、二度ぐらいなら……、うん、まぁ誰にでもそいう時期はあるよね。
ふと昔にミリィと行った数々の悪戯が頭を過るが、年頃の女の子ならそれぐらいあっても当然、だよね?
「それで、結局行き先はどこだったんですか?」
今回エスニア姉様からご指名を頂けているのなら、相手先や公爵家からもそれほどキツイお咎めはなかったのだろう。何といってもリリアナさんは公爵家側の人間なので、行き先次第では大目に見られる事もあるのかもしれない。
「ふふふ、何処だと思いますか? ……アリス様のよく知っている場所ですわ」
「私が良く知る場所? って、もしかして!?」
リリアナさんのちょっと意地悪そうな笑顔が、想い出の中にいる一人の少女と目の前の姿とが結びつく。
今のリリアナさんとはまるで雰囲気が違うが、昔たった一度だけ出会った一人の女の子。私とミリィ、そして黒髪の女の子の三人で、お城の庭を走り回って遊んだ記憶が確かにある。でもそれっきり再会する事もなかったし、あの頃はまだ幼かった事もあり、女の子の名前すらも覚えていない。
「あの時は子供ながらも本当に驚きました。だって着いた先がお城だったんですから」
「あは、あはは……」
やっぱりあの時の女の子はリリアナさんだったんだ。
今のリリアナさんしか知らない人からすれば想像も出来ないだろうが、当時はかなりやんちゃな女の子だった。
「結局お城に着いた後、馬車に隠れていた事がバレてしまって……。エスターニア様は笑って許してくださったんですが、御者をしていた父からは今まで見たこともない激怒で叱られてしまいましたわ。うふふ」
いやいやいや、軽く微笑んでおられるがエスニア姉様の行き先がお城だという事は、目的地は間違いなく私たちが暮らすプライベートエリア。
前にも言ったことがあるが、義両親の許可がない限り、例え子供であろうとも立ち入る事が許されない場所。しかも私の両親が亡くなった事件以降は警備もかなり厳しくなり、特に人の出入りは敏感になっている。
「それでその後どうなったんですか? リリアナさんが今ここにおられるという事はお咎めはなかったのでしょうが」
「ティアラ様に助けていただいたんです。エスターニア様の出迎えに来られていたところに私の泣き声が聞こえたらしく、ワザワザ表に出てまで助けに来てくださったんです。その子は私が妹たちの遊び相手に呼んだんだと言って」
現場を見ていないので何とも言えないが、ティアお義姉様が出ていかなければかなり大事になっていたのではないだろうか。まぁ、エスニア姉様の知り合いならば流血沙汰にまではならないだろうが、その場で拘束され公爵家まで送り返される事ぐらいはあり得るだろう。
「それじゃやっぱり、あの時の女の子がリリアナさんだったんですね」
「思い出していただけましたか? それが私なんです」
リリアナさんはそう言いながら何か懐かしいものを思い出すように、ふと表情に陰りを表す。
「すみません、忘れていた訳ではないんですが、どうしても昔出会った女の子と今のリリアナさんが結びつかず……髪も大分切られたんですよね?」
あの時遊んでいた女の子は私やミリィ同じで髪を長く伸ばしていた。だけど今のリリアナさんの髪は肩にかかる程度のセミロング。
「えぇ、あの時のケジメとして母にバッサリと切ってもらったんです。でもその後にエスターニア様と奥様から、年頃の女の子が髪を切るなんてって叱られたんですけどね」
リリアナさんは一言ケジメと言っているが、この出来事で両親から相当自分の置かれている環境を教え込まれたのだろう。
今まで姉として慕っていた人を急にご令嬢呼び、甘える事も一緒のテーブルに着く事も出来なくなるって相当辛かったのだと思う。今の私じゃ未来の事などとても想像できないが、いずれミリィやお義姉様達と一線を置かなければならない日が来ると思うと、何だか寂しい気持ちで心が締め付けられてしまう。
「リリアナさんはその……寂しくないんですか?(エスニア様をお姉様と呼べなくなって)」
一瞬未来の自分と被ってしまい、最後の言葉が思わず詰まってしまう。
「寂しくありませんわ、エスターニア様は今も変わらず私を妹のように可愛がって下さっていますし、アルベルト様は何かとつけて助けて下さいますし」
「アルベルト様? あぁ、エスニア姉様の弟さんですよね、確か私達の一つ下の」
一瞬誰かと思ったが、エスニア様にはアルベルトと言う名の弟さんが一人いる。他の公爵家なら全員仲良くしているのだけれど、エスニア様のライラック家だけは同じ年の子供がいなかったせいで、こちらからお屋敷に遊びに行った記憶がほとんどない。
「それじゃ来年はアルベルト様の支度役になるんですね」
エスニア姉様は今年で卒業されるからね、その代わり来年からアルベルト様が入学されるなら、リリアナさんは当然支度役に選ばれるのだろう。
「さぁ、それはどうでしょうか? アルベルト様は私がお手伝いすると恥ずかしがられますからね。ふふふ」
まぁ、その辺りは年頃の男の子なので複雑な気持ちもあるのだろう。もしかしてそれ以外の感情があるのかもしれないけど。
「そうだ、リリアナさん私の事は……」
「大丈夫ですわ、アリスさんの事は誰にも話しませんので」
「ありがとうございます」
どうせ学園社交界が始まればバレてしまうのだけれど、出来れば私の口から言いたいからね。
リリアナさんとの話が一息ついた時、教室の外がザワつきだしココリナちゃん達を含むクジ引き組が帰ってきた。
「お帰りー、クジの結果はどうだったの?」
「ダメだったよぉー」
ココリナちゃんが私の胸に飛び込んでくるので、優しく抱きしめながら頭をなでてあげる。
「仕方ないよー、こればかりは運しだいなんだから」
一年生が支度組に選ばれるのは10人に1人ぐらいだからね。ほとんどの生徒は接客組か料理補助に当ると聞かされている。
「それで、なんでカトレアさんも落ち込んでいるの?」
隣を見ればココリナちゃんと同じように、リリアナに慰められているカトレアさんの姿が。普通考えれば支度組に当りたくないのなら喜んでいてもいいはずなのに……って!?
「どうやら支度組に当ってしまったそうなんです」
ありゃりゃ、ココリナちゃんとは対照的になってしまったんだね。
一応公平を期すために、クジの結果を交換し合う事は禁止されているんだ。カトレアさんには申し訳ないが、クジ運だけはどうしようもないからね。
「まぁその。頑張ってね」
未だ暗い表情から立ち直れていないカトレアさんに軽いエールを送り、いよいよ私達は学園社交界を迎える事になる。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる