正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー

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第二章 スチュワート編(二年)

第64話 トラブルメーカー

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 ざわざわざわ。
 私は何故この様な場所にいるのだろう。

 一学期に起こった学園社交界の事件で、私は一人長年住み慣れたクリスタータ家へと戻った。いや、この場合引き取られる事になったと言う方が正しいか。
 元々連れ子であった私たち兄妹は、クリスタータ家の敷地内にある別邸で暮らしていたのだけれど、再び戻ってきた私に与えられた部屋は、今はご結婚されて他家に嫁がれたシャロンお義姉様が使っていた豪華な一室。
 
 以前は男児である兄の存在が継承問題に絡んできた為、クリスタータ家の親族から圧力が掛かっていたらしいが、今回は私自身が女性であることから、政略結婚にでも使えると思われたのだろう。
 私がアルフレート家のリコと親しくしている事は、情報が早いとされているご婦人方の耳には届いているに違いない。その上、エンジウム公爵家の別荘に招かれたとなると、私の利用価値は一気に上がると言うもの。
 お義父様達までがそんな事を考えているとは思わないが、わざわざ親族達の間違いを正してまで、余計な波風を立てたくないといったところか。


「イリアがこの部屋を使うのを姉さんが強く希望してね。少々窮屈かもしれないがどうか使ってやってくれないだろうか」
 クリスタータ家の血が流れていない私がお義姉様の部屋を使うなんてと、慌ててお断りするも、お義兄様から丁寧にお願いされては断れる訳もなく、有り難くお姉義様の部屋を使わせていただく事になったのだが……。
 未だに私なんかがお義姉様の部屋を使わせて頂いていていいのかと、自問自答している日々がつづいている。

 はぁ……。
 それにしてもこのドレス、やっぱりちょっと派手じゃないかしら? 
 私の髪色に似合うからと淡いブルーの下地に、レースや刺繍、花やリボンの飾りやらで、これでもか! ってほどの豪華な一着。先ほどから貴婦人方の視線が妙に痛い。

「どうしたんだいイリア?」
 私のエスコート役をかって出てくれたお義兄様が、私にだけ聞こえるように尋ねてくる。
「いえ、私のような者がこの様な豪華なドレスを着てはなんだか申し訳なくて」
「そんな事はないよ。そのドレス、イリアによく似合っていると思うよ」
 お義兄様は一度私を足元から見上げ、ニコやかな笑顔で返してくださる。
 これがもしキザな女ったらしならヒールで足を踏んずけてやりたいところではあるが、お義兄様が言うとついつい頬を赤く染めてしまい慌てて視線を逸らしてしまう。
 って、なんで義理の兄相手にドキドキしているのよ私は。
 そらぁ血の繋がりは無いけれど、何年も一緒に兄妹として暮らしてきたのだ。本当の兄よりも兄妹として過ごして来たって言うのに、ちょっと離れて暮らしていたからって今更なに動揺しちゃってるのよ。

「それに姉さんがこの日の為にってプレゼントしてくれたんだから、イリアがそんな顔をしてちゃ姉さんが悲しんでしまうよ」
 これが悲しい顔で言われたのなら慌てて否定するところではあるが、お義兄様の顔は先ほどから変わらないニコニコ笑顔。私とお義姉様が仲がいい事を知っているので、大方私の恥ずかしがっている反応を楽しんでいるのだろう。
 だけど別に不愉快だという気持ちは起こらず、むしろ私自身の赤面が広がるばかり。お義兄様からすれば可愛い妹とのスキンシップ程度にしか思っていないのだろうが、2年近くも離れて暮らした結果、私は女性として心も体も大きく成長してしまった。
 そんな私が久方ぶりに再会した義兄を、異性として見てしまうのは仕方がないじゃない。

 ざわざわざわ。
「お、お義兄様、なんだか向こうの方が騒がしいようですわ」
 思わず赤面した素顔をごまかす為に、会場内の様子を理由に話を切り替える。
「ん? ほんとだね。なんだろう、向こうの方で誰かが騒いでいるようだけれど……」

 今日のこのパーティーは年に一度の聖誕祭。
 昨夜に催された国の重鎮や来賓を招いての夜会に比べれば、今日のガーデンパーティーは著名人や功績が認められた国民が招待され、貴族の身分であれば比較的に誰でも参加はしやすい。
 まさか良い意味でも悪い意味でも目立つあの子が、このパーティーに参加しているとは思えないが、騒ぎと聞くとどうしてもあの可愛らしい顔をしたトラブルメーカーが頭を過る。
 お陰で先ほどまでの赤面は何とか落ち着きを取り戻したけれど。
 ……さすがにそれは……ないわよねぇ……。





「なんですと? ……様、そのドゥーベ国の様子がおかしいというのはまさか?」
「……殿、まだ確定した訳ではございませんのでこの話はまだ……」

「……様、少し耳にしたのですがドゥーベ国の様子が何かおかしいと」
「えぇ、今上層部はその話で持ちきりです。詳しくはお話できませんが、もしかすると近いうちに……」

 彼方此方から貴族たちの話し声が聞こえて来る。

 夏休みの終わり頃、突如持ち上がった隣国ドゥーベの国内情報。
 前々から不穏な動きがあるとは聞いていたけれど、ここに来て一気に情勢が変わりつつある。

「ミリィ様、どこも例の話で持ちきりですわね」
 リコが隣に来て私に小声で話しかけてくる。
 私の事を敢えて様付で呼んでいるのは公の場で自身の立場を理解しての事だろう。その上でミリアリアではなく、敢えて愛称であるミリィと呼んで来るのは彼女なりの友達に対しての一線といったところか。
 気にしなくていいって言ってるのに妙に頭が固いのよね、リコは。

 今、貴族達が話しているのはドゥーベ国内の情勢。
 兼ねてより険悪な仲であったレガリアとは戦争の歴史と言っても過言ではないだろう。
 あの国は国土こそ広いが、多くの山脈が続き農作物の育ちが悪いと聞く。

 それでも聖女の祈りがあればそれなりの生活が送れていたのだろうが、現聖女であり王妃でもあるマグノリア・A・ドゥーベは、ろくに聖女の仕事をしない上に国費を無駄に使い込んでいるという。
 まぁ、あの国の聖女は現在我が国にいると言ってもよい状態なので、聖女の力を増幅させるという聖痕がなければ、まともに儀式も執り行えない。
 現に耳に入ってくる情報では国民が貧困の状態になりつつあるとの事なので、豊かなレガリアの地と、国民に対するガス抜きの意味で我が国に攻め入ろうとでも考えているのだろう。
 あの国もまさか王妃の妹がレガリアへと逃げ延び、さらにその娘が強大な力を持って存在しているとは露にも思っていまい。

 現在我が国が知りうる情報では、ドゥーべ国の聖女に聖痕は確認できていない。一代前の聖女であり、セリカさんの祖母に当たる方までは継承されていた可能性はあるのだが、今の代になってからは豊穣の儀式を聖女自ら行った噂もなく、ここ近年で聖女の力を見た者も確認できていない。
 もっともあのセリカさんの姉と言うのだから、全く力がないと言うわけではないだろうが……。


「その様ね、まぁ父様達も完全には隠そうとしていないからね。予め心の準備をしておけって意味で強くは口止めされていないそうよ」
「それでミリィ様は本当に……なるとお思いで?」
 敢えて「戦争」と言う言葉を濁しながら再びリコが尋ねてくる。
「まだ何とも言えないわね。常識のある者がいれば馬鹿な事をするなと止めるでしょうけど、あの国の国王って家臣の意見を聞かないって話だから……
 そもそもマトモな国王なら今の聖女を何とかするでしょ?」
 リコも侯爵家の跡取りという立場とアリスの親友と言う事で、その辺りの情報は下級貴族よりも把握しているだろう。
 アリスにとって叔母に当たる人物であり、現王妃で現聖女。その王妃の噂はどれも信じがたい内容ばかり入ってくるのだ。

 本当にセリカさんの姉かと耳を疑いたくなる内容ばかりだが、次期聖女として期待されていたセリカさんを国から追い出し、他国で身分を隠してメイドなんかをやる羽目になった原因と聞けば、ある程度納得が出来るというもの。
 もちろんこの事は絶対アリスに気付かれてはいけない。

 ざわざわざわ
「ん? 何かしら? あちらの方が何か騒がしいけれど……」
 一人思いに耽っていると、会場内の一角から女性達の言い争う声が聞こえて来る。
「何でしょうか? まさかアリスがこっそりパーティーに来ている、って事はありませんわよね?」
 顔をしかめながら恐る恐るといった感じでリコが私に尋ねてくる。
「流石にそれは無いはずよ。昨夜の夜会だって半ば無理やり参加させたのよ? 第一こんな大勢のパーティーに参加させるなんて、父様が許しても他の貴族達が止めるでしょ」
 経験上、騒ぎの原因が全てアリスだった、って事は私やリコにとっては日常茶飯事。
 だけど流石に今日のパーティーには爵位持ち以外の貴族が大勢参加しているので、アリスの重要性を知らないものがほとんどと言ってよい。そんな中にあの目立つ髪色のアリスを護衛も無しに参加させるなんて、賛成する者はいないだろう。
 伯爵以下の貴族からすれば、アリスの存在を大勢に触れさすと言う意味は、危険から避けると言う理由より、これ以上花婿候補のライバルを増やしたくないと思う者が大半。
 別にジークとの間が既に決まっている訳でもなければ、付き合っている訳でもないので、あわよくば未来の聖女を我が息子にと考える者も少なくはない。

「ですが今日のパーティーにはジークとアストリアも参加してるのですよね? それにイリアも……」
「あっ……」
 忘れていた……
 本来なら私もリコも参加する予定はなかったのだが、急遽参加する事になった理由は貴族達にドゥーベの話が何処まで伝わっているかを確かめるため。
 リコはそんな私に付き合ってくれたのだが、ジークとアストリアはご婦人方から情報収集するという意味で、今もこの会場の何処かにいることだろう。それに……

「そういえばイリアが今日のパーティーに参加するって言ってたわね。すっかり忘れていたわ」
「えぇ、デイジーはあの一件以来パーティーでは見なくなりましたが、他にも注意しなければいけないご令嬢は大勢いますから」
 ん~、盲点だった。
 だからと言ってこのパーティーにこっそり参加しているなんて考えは、エレノア達メイド部隊が阻止するだろうし、予定では今頃ルテアやユミナ達と楽しく茶会の最中のはず。
 さすがに幾ら何でもアリスがこのパーティーに……いや待てよ。聖誕祭の茶会と言うことで、アリスの姿はいつも以上の豪華なドレス。
 その点は私と姉様がノリノリでアリスを着飾ったのだからよく覚えているし、ルテアやユミナはアリスのお願いにめっぽう弱い。もしアリスがジークに会いに行きたいとか、イリアの様子が心配だとか言えば、ルテア達は間違いなく手を貸してしまうだろう。

「なんだかわたくし、不安になって参りましたわ」
「奇遇ね、私も丁度不安になってきたところよ」
「「はぁ……」」
 同時に深いため息をつきながら二人で騒ぎの方へと足を運ぶのだった。
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