精霊術師の交響曲(シンフォニア)

みるくてぃー

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桜花爛漫

第27話 厄災再び(3)

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「止まれ、何者だ!」
 北条家の正門へとだどり着くなり、見張り役の一人が警棒を片手に詰め寄ってくる。
 全く、しばらく見ないうちに警備の質も落ちたものね。

 私はいま自分の正体を隠すために、変装&怪しさ100倍のマスクを付けているが、それでも第一声がコレとは正直嘆かわしい。警備の都合上、近寄る者全てへ警戒するなとは言わないが、正規の術者ならば殺気が出ているかどうかぐらいは見極められるだろう。
 そもそも害をなす者が、明るい太陽の下、正々堂々と正面の入り口から来るわけがないじゃない。もし私が北条家を潰そうと思うなら、まず間違いなく人目のつかない塀をよじ登るだろう。

「退きなさい、私たちは結城家の人間よ」
「なに、結城家だと? 何故結城家の人間がこの様な場所にいる!」
 やれやれ、其方が私たちを呼びつけたと言うのに、肝心の門番にもそれを知らせていないとは、呆れを通り越して哀れとしか言いようがないわね。
「そんな口を聞いてもいいのか? 俺たちは其方の当主に呼ばれたんだが」
「蓮也、どうやら私たちは歓迎されていないみたよ。もともと乗り気じゃなかったんだから、救援の必要が要らないという事で帰りましょ」
「!? ま、待て!」
 その場で回れ右をして乗ってきた車へ向かおうとするも、蓮也から当主の名が出たことで、偉そうに吠えた門番が慌てたように止めに入る。
「それは本当か!?」
「はぁ……、こちらは結城家だと名乗っているのよ? 嘘をいってなんの得になると思っているのよ」
 嫌がらせをするならもっとマシな方法があるでしょうに。
 私の話を聞き、二人の門番が互いの顔を見合わせ。
「わ、わかった。すぐに確認を取る、それまで待て。いや、お待ちください」
 そういうと門番の一人が私たち置いて、大慌てで本邸の方へと消えていく。
 まったく、初めからそうしていればいいのよ。
 そして待つこと約10分、そろそろ本気で帰ってやろうかと思い始めた矢先、先ほどの門番が息を切らせながらやってきた。

「はぁ、はぁ、お、お任せしました。将樹様の確認が取れましたのでご案内いたします」
 ん? 将樹様?
 門番からでた兄の名に、何となく違和感を感じる。
 先ほど蓮也は当主に呼ばれたと確かに言った。ならばここは当主である父に、直接確認と取るべきところだろう。
 たまたま忙しい父の代わりに兄が対応したとも考えられるが、あの気難しい兄が、結城家の人間にわざわざその様な対応をするとは思えない。精々『待たしておけ』と一言言い放つぐらいではないだろうか。

(なぁ、俺たち何処へ連れて行かれるんだ?)
(たぶん本邸の広間じゃないかしら)
 タワーマンション暮らしが当たり前になっている蓮也にとって、やはり昔ながらの屋敷作りは珍しいのだろう。辺りをキョロキョロと眺めながら、隣で歩く私にだけに聞こえるよう小声で尋ねてくる。
 北条家が所有する敷地面積は非常に大きい。正門から本邸への距離はもちろんのこと、ここには術者が修行をする場所や、割り当てられた組織が管理する建物もあり、敷地の内部だけで全てが完結するよう設計されているのだ。
(なるほどな。これだけ広けりゃ、確認一つにも時間がかかるわな)
 やはりこの暑い中、門の前で10分も待たされたことを根に持っているのだろう。正直私も本気で帰ってやろうかと思ったので、この意見には同意してしまう。
(悪かったわね。此処は結城家と違って近代文明を激しく嫌っているのよ)
 恥ずかしながら、私はこの年になるまでスマホを持つような事態には遭遇しなかった。
 一応本家にも電話なるものは設置されているが、北条家内部を繋ぐ内線はもちろんのこと、外部へ繋ぐインターネット設備すら用意されていないのだ。

 やがて門番の案内のもと、一つの大きな部屋へとだどり着く。

「結城家の代表の方をお連れしました」
 開かれた襖戸をくぐり、大広間へと入る私と蓮也。
 そこには上座に座る兄の姿と、周りを取り囲むように整列された20名ほどの術者達が、一斉に視線を此方の方へと向けてくる。
「お初にお目にかかります。結城家より参りました、討伐隊隊長の結城蓮也」
「同じく副長のシスティーナといいます」
 普段は鬱陶しそうに挨拶をする蓮也だが、流石に結城家の代表を名代するだけはあり、今日ばかりは片膝をつきながら丁寧な挨拶を兄へと送る。
 しかし蓮也の名前を聞いた途端、兄の様子が一気に変貌。
 本来なら救援に駆けつけた私たちに対し、多少の労いがあってもいいのだが、出て来た言葉が……。

「なに、結城蓮也だと? 七柱はどうした、こちらは七柱を呼んだはずだぞ」
 遠くから駆けつけた人間に対し、何という失礼な言葉か。
 別に言い訳をするつもりはないが、北条家から齎された内容には、庄吾様の名前はもちろんの事、七柱を寄越せとは一言たりとも書いていなかった。
 そもそも敵の詳細が詳しく書かれておらず、文面から鬼の可能性が高いと判断して私と蓮也が選ばれたのだ。それを一方的に七柱の庄吾様ではないからといって、この扱いは余りにも失礼ではないだろうか。

「えぇい、追いかえせ! こんな小者を寄越されては、北条家の名に傷がつく!」
「お、お待ちください!」
 私と蓮也のことを小者ときたか。
 昔から人を見下すことしか出来ない人間だとは思っていたが、ここまで最低のクズだとは思ってもいなかった。
 父の性格も大概だったが、それでも一族をまとめる技量と、他者への礼儀はわきまえていた。それがどうだ、次期当主であると言うだけで、救援に駆けつけた他家の人間に対してこの言いよう。
 唯一の救いは周りの人間が必死に諌めていることだが、流石の私もこの兄の態度だけは許せなかった。

「蓮也、どうやら舐められているようね」
「見たいだな」
「なに?」
 本音を言えばこのまま帰りたいのだが、ここまで馬鹿にされたままでは紫乃さんへの申し訳がたたなし、何より相棒と認めた蓮也が小者扱いされた事が許せない。
 私は体内に秘めていた霊力を解放するとともに、契約精霊でもある白銀を呼び出す。
「いらっしゃい白銀!」
 ドゴォォォーーーー!!

「な、なんだこのバカでかい霊気は!?」
「バカな、あの大きさの精霊が人間に従うだと!」
「ありえん、結城家は一体どれだけの術者を隠しているのだ」
 術者達が私の霊気と白銀の姿を目の当たりにして、各々驚きの声を上げる。
 私は更なる追い討ちをかけるべく、もう一段霊気を解放。
「くっ、まだ上がるのか!」
 流石にこれ以上は周りへの影響を考え、私自身は自重するものの、代わりに白銀がその身に雷を纏いながら、一歩、また一歩と前へと歩み出る。

『聞き間違いでなければ、我と我が主人が小者と言ったように聞こえたが?』
「しゃ、しゃべった!?」
「人型でもない精霊が言葉を話すなど、まるで神獣ではないか」
「バカな、ありえん。この娘は一体何者なのだ」
 白銀の言葉を聞き、術者たちの誰かしらから再び驚きの言葉が飛び出す。
 私たち術者の中では、獣姿の精霊は人の言葉を話せないのが一般的な常識。
 ただ例外は何処にでも存在するように、獣姿の精霊が人の言葉を話したという事例が、ほんの僅かだが確認されている。
 そしてその事例すべてが、1000年もの年月を生きた神獣だと言われており、内包された霊力は精霊術師が契約する中級精霊を軽く上回る。

「間違いじゃないわよ白銀。そこで偉そうに座っている人間が、私たちを小者だとバカにしたのよ」
「ほぉ……」
 白銀も人が悪い。
 私にその気がないのを知っているはずなのに、徐々に霊気を放ちながら、ゆっくりと上座に座る兄の方へと向かっていく。
 流石にこの事態に危機感を覚えたのか、北条家の術者達が兄を守ろうと前面に展開するも、その大半が白銀から溢れ出る霊圧に気圧されている様子。
「ぜ、全員で将樹様を守れ!」
「む、無茶だ、我らに止められる筈がない」
「嘘だろ、精霊が怯えて呼び出せない」
 何だかあちら側で、想像していたこと以上の出来事が起こっているようだが、そんなのどうなろうと私の知ったことではない。
 ただ予想以上の効果に、この後の展開をどうフォローしていいのかが思いつかず、若干の冷や汗が流れ落ちる。

(おい、一応確認するが、この後のことは当然考えているんだろうな?)
(うぐっ)
 まさに私がいま考えていたことを指摘され、思わず声を失ってしまう。
(ったく、どうせそんな事だろうと思ったぜ)
 やや呆れ気味に、蓮也が私の隣でため息を落とすも、まさしくその通りなので言い訳のしようが見つからない。

 だ、だって仕方がないじゃない。いくら温厚な私だって、あそこまでバカにされては黙っていられないわよ。
 でも現状、この先の落とし所がまるでわからない。
 ここで「てへ、冗談です」と言えば少しは笑いが取れるかもしれないが、あちら側は現在進行形で生死が決まるような状況だし、中には腰を抜かした者や仲間を見捨てて逃げ出した若い女術師もいる始末。
 いっその事、このまま北条家を壊滅させて、私たちだけで妖魔退治に出向くというのはどうかしら。
 若干本気でそう思いかけた時、突如奥の大広間の襖が開き、一人の付き人を引き連れた若い女の子がが乱入する。
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