聖女の代行、はじめました。

みるくてぃー

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悲しみは出会いの始まり

第2話 疑惑の旅立ち

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「お姉ちゃんどうしたの? 何だか家を出て行けとか言われていたみたいだけど」
 居間に戻ると心配そうな顔でリィナとライムが待っていた。
 フランシュヴェルグの名前までは聞かれていないとは思うが、この家がどうなるのかぐらいはこの部屋まで届いていたのだろう。
 私は叔母の存在を誤魔化し、お母さんがお金を借りていた事だけをリィナ達に伝えた。

「そんな、それじゃこの家を出ていかなきゃいけないの?」
 リィナにとってもこの家は特別な居場所だ、お母さんの事を恨むなんて的外れな事は思わないが、出ていくとなるとやっぱり寂しいのだろう。
「大丈夫よ、お姉ちゃんに任せない。しばらくこの家から離れないといけないけれど、必ずお金を貯めて取り戻してあげるから」
 私が不安がればリィナも塞ぎ込んでしまう、こんな時だからこそ姉である私がしっかりしないといけないんだ。

「うん、お姉ちゃんを信じる。私も頑張るからお姉ちゃんも頑張って」
「ありがとうリィナ」
 ギュッとリィナを抱きしめて肌に温もりを感じる。
 こんな状況だと言うのにうちの妹の可愛さは、そんじょそこらの王女様とは比べもににならないぐらい可愛い。そこ! もっと褒めてもいいのよ。

「それでこの後どうするの?」
「明後日にはこの家を出ていかなきゃいけないの、それまでに家の物で売れる物は全て売るわ。残して置いてもどうせ取り上げられるか捨てられるだけだもの」
 とは言っても売れる物なんてほとんどないし、もって行ける服なんかも精々4・5枚が良いところだろう。

「わかった、すぐに整理するね」
「お願いね、私はちょっと必要なものを買い揃えてくるから」
「うん、いってらっしゃい」
 私はリィナに家の整理を任せ街へと向かう。
 帰ったらリィナを連れてご近所さんに挨拶はしておいたほうがいいだろう。借金の辺りは心配させてしまうので誤魔化した方がいいとは思うが、お母さんが亡くなってからは色々お世話になっているので、このまま黙って行くと言うのも忍びない。それに一年後には再びこの家に戻って来るので、その時はもう一度暖かく迎え入れてもらうんだ。
 

 二日後、叔母の遣いだという人に家の鍵を渡し、私たち姉妹はご近所さんに見送られながら思い出の詰まった家を後にする。
 私もリィナも涙は出さず再びこの家に戻る事を改めて誓い、一度たりとも振り向かず前へと進む。絶対にこの家を取り戻すんだと心を熱くして。



「すみません、王都行きの乗り合い馬車はどちらでしょうか?」
 ここは乗り合い馬車の集合所。
 この街は宿場町という事もあり、いろんな地方に向かう馬車が多く集まっている。

「王都かい? それなら向こうの方だ」
「ありがとうございます」
 あれから二日間、家の整理をして売れる物は全てお金に変え、リィナ達に相談して王都へ向かう事を決めた。
 理由はこの街にいる限りではとても一年間で金貨100枚なんて稼げないと考えたからだ。

 私はお母さんのおかげで平民では珍しく中等部までの学業を終えている。
 今更ながら何故私を中等部まで通わせたのか、何故私たち姉妹に髪を切る事をさせなかったのか。もう二度とお母さんに聞くことはできないが、私は一人こう考えている。
 もしかしてお母さんは私たち姉妹に謝りたかったのではないだろうか、自分の勝手で家を飛び出し、苦しい生活を強いられる状況に追い詰めてしまった。だからもし侯爵家に戻るような事になれば、その時恥を晒さない様に学業とこのブロンドの髪を残してくれたのではないかと。

「待ちな嬢ちゃん達、見た感じ王都に出稼ぎに行くように見えるが違うか?」
 王都行きの馬車を訪ねたおじさんが、立ち去ろうとする私たち姉妹を止めてきた。
「そうですが……」
「だったら辞めときな、今更王都にいってもロクな仕事に有り付けねぇぜ」
「えっ?」
「よく考えてみな、王都は貴族達の屋敷やデッカい商会が幾つもあるが、王都の人間はそれ以上に多いんだ。今更嬢ちゃん達のような世間知らずが行ったところで精々娼婦にでもなるしかねぇぜ」
「娼婦!?」
 リィナはその言葉に聞き覚えがないのか頭に?マークが浮かんでいるが、私とポケットに隠れているライムは明らかに反応してしまった。

 この方法は考えなかったわけではないが、一年で金貨100枚なんて稼げるという保証はないし、一度入ると抜け出すのに大変苦労するとも聞いた事があり、候補からは除外していた。
 そもそも私の目的はお金を稼ぐ事以前にリィナの成長を見守るという大事な役目があるんだ、こんなところで道を踏み外すなんて事は絶対に出来ない。

「いい事教えてやろうか嬢ちゃん、今金を稼ぐならソルティアル領がいいぜ」
「ソルティアル領? 確かあそこってこの国の南東の方ですよね?」
 通っていた学校でこの国の領地名を習った事がある。記憶が確かなら地図上で中心に位置するのが王都、そこから南東にソルティアル領があり、私たちが暮らすこの街は王都から西側に位置しているので、移動距離で言えば王都よりも遠い位置にある。

「よく知ってるな、あそこは王都から半日の距離にある関係で、最近じゃ王都から溢れた住民でデッカい街が出来てるんだ。今金を稼ぎたいんなら絶対ソルティアルがおすすめだぜ」
「そうなんですか? あそこの街って特に目立った特産物もないし、珍しい野菜や果物、鉱山なんかもなかったはずですが?」
 学校で習った知識では確かそんな事が書かれていたはずだけど。

「そ、それは一昔前の事だろ? 今じゃすっかり街の風景も様変わりしてるんだ。それにあそこの領主様は気さくな人でな、よく平民に混じっては街中で困った事がないかを見回っているって話だぜ」
「領主様が?」
 街が栄えるのはひとえに領主様の腕次第と言われている。もしこの話が本当なら街が急激に発展する、なんてこともあるのかもしれない。そもそも学園で支給された教材なんて何時の時代を指しているのかも分からないんだ。

「あの、そのソルティアル領行くにはどうすればいいのでしょう?」
「嬢ちゃん運がいいな、ちょうど今からソルティアル領に向かうところなんだ」
「そうなんですか!」
「あぁ、あそこはこっからじゃ遠いせいで、うち以外じゃどこも直通は運行していないからな。ちょっとばかり値は張るが、一旦王都に向かってから改めてソルティアル領に向かう事を考えると安くつくぜ」
 この大陸では乗り合い馬車の料金は非常に高い。
 それと言うのも地方によっては道が舗装されていないため車輪の磨耗が激しく、また山では山賊や盗賊、獣といった危険な目にあうなんてことも数々《しばしば》。だから独自で雇った傭兵を護衛役につけなければならなく、料金もそれにともなって高くなってしまう。
 これが乗り合い人数が多かったり、比較的安全だと言われている王都周辺や平地ならばもっと安いかもしれないが、この田舎の宿場町から南東のソルティアル領まで直通で行くとなれば、それなりの料金が必要になってしまうだろう。

「その、料金はおいくらでしょうか? 私たちそんなにお金を持っていなくて」
「そうだなぁ、俺もソルティアルに着いたらすぐに王都へと向かうルートになっているから、こんなもんでどうだ?」
 定時された金額は、何とか二人分を支払って数日程度なら宿で休める程度のお釣りがくる。
「分かりました、よろしくお願いします」
 お金が入った布袋から二人分を支払い、安全のためにカバンへとしまい込む。

「よっしゃ、商談成立だ。すぐに出発するから馬車に乗り込んでくれ」
「えっ、もうですか?」
「なんだ、何か用事でもあるのか?」
「いえ、そう言う訳ではないですが、私たちの他にお客さんが見えないもんですから」
 以前何かで読んだことがあるが、乗り合い馬車はお客の人数が集まらない時、1・2日はその土地で止まる場合があるんだとか。

「ん? あぁ、それはだな……言っただろ嬢ちゃん達は運がいいって。丁度この街に客を運び終えてソルティアルに戻るところだったんだ。今回は臨時便でたまたまこの街に来だけで、俺の本来のルートは別なんだよ」
「そうですか、何だか私たちだけって申し訳ないですね」
「き、気にすんな。お代はちゃんと貰ったんだ、しっかりソルティアルまで送り届けてやるぜ」
「よろしくお願いします」
 こうして私たちは住み慣れた街を離れ、新な新転地へ向かうことになる。
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