聖女の代行、はじめました。

みるくてぃー

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悲しみは出会いの始まり

第12話 戻らぬ過去

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「えっと、それじゃユフィーリア」 
「はい、ティナさん」
 うん、やっぱり変だ。
 あの後、突如沸いた王妃様に脅さ……コホン、頼まれ王女様の事を呼び捨てにする事になったが、私がユフィーリアと呼び、王女様がティナさんと呼ぶ。もう一度言うがやっぱり変だ。

「ねぇ、そのティナさんってのは止めない? ティナでいいわよ」
 慣れない敬語で必死に話していたら、これまた王妃様からいつも通りでいいわよと許可を頂いたので、こんな砕けた話し方をしている。
「ですが、私の方が年下ですので敬うのは当然だと思いますが」
「いやね、私がユフィーリアって呼んで、王女であるユフィーリアがティナさんって呼ぶのはどうかと思うのよ」
「そうでしょうか?」
 天然か、この子は天然なのか!

「出来ればティナって呼んで、その方が私の精神上助かるのよ」
「ティナさんがそう言われるのでしたら」
「それじゃ改めてよろしくねユフィーリアって、ちょっと呼びにくいわね……うん、よろしくユフィ」
「はい、ティナ」






「ユフィ大丈夫? 肩かそうか?」
「ありがとうございます、ティナ」

「ほぉ、珍しく庭園の方から声が聞こえるかと思えばユフィーリアか」
「えぇ、ティナが付き添ってくれているので心配いりませんわ」
 久しく見ていなかったな、あんなに笑う娘の姿を。

 バルコニーから見下ろす庭園で、ティナがユフィーリアに肩を貸しながら散歩をしている。
 今までもよく庭園で花を愛でている姿は何度も見たが、あんなに楽しそうにしている姿はいつぶりだろうか。

「あの二人を見ているとなんだか昔を思い出しますわ」
「昔? あぁ、そうだな」
 王妃であるラーナが隣に来て昔を懐かしむ。
 そういえば昔はよく三人でいるとこを見かけたものだ。

「私は今でも思う時があるんです。あの時親友のヴィクトーリアから離れなければ、もし私に聖女の力が現れていれば、同時に二人も大事な親友を無くす事はなかったはずなのにと」
「彼女の事か、君たち三人はいつも一緒にいていたからな。あんな事さえなければ彼女も今頃は幸せに過ごせていただろうに」
 あの頃、当時はまだ婚約者であったラーナには二人の大切な親友がいた、一人は妹であるヴィクトーリア、もう一人は私の従兄妹である彼女。
 結局ラーナには聖女の力が現れなかったが、いつも三人仲良く母上の元で修行に明け暮れていた。だけど彼女はヴィクトーリアの死がキッカケで我らの前から姿を消した。


「あんな光景、二度と見たくないと思っていたのにな。お前もそうであろう?」
「えぇ、そうですね。あんな事さえなければ今頃ヴィクトーリアは……」
 25年前、今回と同じように妹が何者かに襲われた。しかも聖女である母上が不在の時を狙って。
 世間には病で亡くなった事にしているが、実は何者かによって殺害されてしまった。あんな思い二度と繰り返すまいと誓っていたのに、我はまた同じ事を……

「あの子、自分がその場にいなかったせいでヴィクトーリアを助けられなかったって、自分は幸せになんかなっちゃいけないんだって。近くで見ていても痛々しくて、とても見ていることさえできなかった」
「今でも何処かで自分を責めているのかもしれないな」
「えぇ、一体どこで暮らしているのかしら、出来ることなら今すぐ見つけて抱きしめて上げたいのに、私は……」
「大丈夫だ、必ずどこかで生きているさ。だからまずは」
「えぇ、ヴィクトーリアを殺害して、今度は娘を殺害しようとするなんて絶対に許さない」
「今は情報を集めておる、とにかく今はユーフィリアの安全と聖女である母上の安全を第一に考え黒幕を突き止める。話はそれからだ」

「陛下、聖女候補生達の護衛を増やされてはいかがでしょうか? 特にティナに関しては個別に護衛をつけてもよいと思います。幸い今回はティナの存在がイレギュラーだった為に事なきを得ましたが、もし敵の目的が聖女の力を排除することであれば狙われる可能性が」
 確かに、ラーナの言う通りヴィクトーリアにしろユフィーリアにしろ、二人とも聖女の力が非常に高い。未だ敵の目的が何かは分からない今、このまま聖女候補生達を無防備に晒すのは危険であろう。

「分かった、すぐに警備の強化を指示しよう。だがティナだけを特別扱いにするのは他の貴族の手前いささか問題が出てしまうな」
 ティナの重要性は我とて十分に理解しているが、彼女だけを特別視するのは後々要らぬ火種になりかねない。

「ですがティナの力は陛下もご覧になられたでしょ? 出来ることならあの子にユフィーリアの役割を務めて欲しいんです」
「どうした? お前がそこまで固執するのは珍しいな。そんなにティナの事が気に入ったのか?」
 王妃という立場上、ラーナは今まで誰かに固執するような事はしてこなかった。いつも冷静な判断で一歩下がり周りを見渡していたはずなのに。

「すみません、自分でも何故だかわからないのです。もしかすると私が勝手にティナに昔の彼女を照らせ合わしているだけなのかもしれません」
 ラーナが時折見せる悲しみの表情。確かに何処となく彼女の面影があるが……

「分かった、明日にでもティナの件は何とかしよう。公爵達にさえ話を通しておけば何処からも文句はでるまい。裏で操っておる者が分からぬ以上、無闇にティナの話を広めるのは些か危険じゃからな」

「よろしくお願いします、陛下」
 さて、後は聖女である母上にあの子はどう映るのであろうな。




「ねぇユフィ、一つ聞きたいんだけれどいいかなぁ」
「はい、なんでしょう?」
 ずっとベットに寝ているだけでは退屈だろうと思い、王妃様に許可を頂きお城の庭園へとやってきた。

「ユフィって聖女の力が使えるんだよね? それってやっぱり聖女様から直々に教わったの?」
 庭園に設置された東屋カゼボでお茶を頂きながら聞いてみたかった事を尋ねてみる。

「はい、幼い頃からお婆様から色々教わってまいりました」
 幼い頃からか……やっぱりユフィも同じなんだ。
「それって辛くはなかった? 生まれた時から聖女になる事が決まっていたんでしょ?」
 聖女の力が宿っているからといって、誰もが最初から完璧に力が使えるかと言うとそうではない。力の仕組みをしっかり把握し、精霊と会話を出来る術を得て初めてその力を行使する事が出来る。人によっては最初こそは力が無くても、修行を行う事によって使えるようになる人もいるんだと、以前お母さんから聞いた事がある。
 だから陛下が各領主へ通達を出された際の条件に『聖女の血を引く者』と定められたんだと思う。
 まぁ、聖女の力が使えない人からすれば自分に聖女の血が流れているか何て分からないからね、それを探す人も大変なんだろう。

 私の場合、物心がつく前から力の片鱗が見えていたらしく、聖女の力を学んだのだって何の予備知識もなしに放置しておくのが危ないから、ってだけの理由からだ。ユフィのように生まれたその時から聖女になる事が義務づけされ、自分の意思とは関係なしに運命に従わざる得ない、なんて環境とはほど遠かった。


「もちろん辛かったですよ、甘えたい時期に甘えられず、毎日毎日神殿でお祈りをするだけの日々でしたから。でもそれ以上に辛かったのは私の体の弱さですね、もっとこの体が強ければって、何度も何度も悔しい思いをしてきましたから」
 強いなぁ、私なんかと違いちゃんと自分の意思を持って運命に立ち向かっている。それに比べて私は自分勝手の理由だけでこの場にきている。とてもじゃないけど私では彼女の代わりは務まりそうにない。

「私、ちょっとだけティナに嫉妬しているんですよ」
「私に嫉妬?」
「はい」
 ユフィが少し悲しそうな顔つきで話を続ける。

「昨日、ティナが私を救ってくださった様子をお母様から伺ったんです。ライムちゃんに手伝って貰ったとはいえ、解毒と傷の治療を同時に行い、傷跡一つ残さず完璧に治療をこなして見せた。多分、今の私にはそこまでの力は使えないんです。精々一つの工程を頑張って出来るって程度なんで」
「まさか、私なんてお母さんの足元にも及ばないんだよ? ユフィはただ体が弱いから今は出来ないだけで、ちゃんと学べは私なんかと比べ物にならないぐらいには力が強くなると思うよ」
 聖女の力は使用者の体調とかにも関わってくるからね、今の聖女様がご高齢で代行を探しておられるのだってこれに関係するんじゃないかなぁ。
 昨日レジーナ達も体調が悪いって言ってたから、結果的にユフィに癒しの奇跡を施せなかった。もしかして女性なら月に一度は体調が悪くなるから、偶然その日に当たったせいかもしれないけれど。

「ティナのお母さんってそんなに凄いんですか?」
「凄いってもんじゃなかったよ、お母さんに治せない傷はなかったし、同時に三つの工程を平然とこなしちゃうんだから」
「三つもですか!」
「そうなのよ、しかも私に同じ事を求めるもんだから毎朝草むしりから始まり、学校から帰ったら鶏の世話でしょ? 妹と遊ぶ暇さえなかったわよ。酷いと思わない?」
 あの頃は大変だったけれど毎日が楽しかった。お母さんがいて、お父さんがいて、リィナとライムがいた。今はこんなに遠くまで来ちゃったけれど、必ずあの家に戻るんだと明確な目標が目の前にある。

「私もよく草むしりはさせられましたよ、草むしりは……」
「大地の精霊と触れ合うのに丁度いいんだ、でしょ?」
「ふふふ、はい。その通りです」
 どちらともなく自然と笑いが込み上げてくる。そういえばお母さんが亡くなって以来声を出して笑った事なんてなかったけ?

「そんなお母さんだって聖女様には敵わないって言ってたんだから、幼い頃から聖女様に教わってきたユフィが私より劣るなんて事はないわよ、だからもっと自信をもって、笑顔でいなきゃ精霊たちは寄ってこないわよ」
 お母さんはどんな時だって笑顔を絶やさなかった、沈んだ顔では精霊たちが悲しむんだと言って、無理に心を殺し私たち姉妹を優しく包んでくれた。
 そういえば時折見せる寂しそうな顔は、私たちには見せないようにしてたっけ。

「私からも一つ質問してもいいですか?」
 今度はユフィが私に対して質問してくる。
「いいわよ、答えられる範囲なら答えるから」
 お母さん名前を教えて、とかでなければ別に隠す必要もないだろう。

「ティナの妹さんってどんな方なんですか? 私には兄がいるんですが、姉妹ってなんだか憧れていて」
「ふふふ、それを聞いちゃいますユフィさん? いいわよ、リィナの可愛さをたっぷり語っちゃうわよ」

 そのままリィナの可愛さを語る事数時間、意気投合してしまった私たちは日が落ちるまで庭園で語り合った。
 ユフィはリィナに会いたいと言って、調子に乗った私は二つ返事でokもした。もちろん敵わないであろう事は二人ともわかっている。
 楽しい時間は過ぎ去り、やがて明日がやってくる。翌日も、その翌日も私はユフィの元へと足を運んだ。
 そして、私は運命を変える日を迎える事になる。
 
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