36 / 45
第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編
36、女王、牢屋にて処刑を待つ。
しおりを挟む「なんだよもー! なんでアチキまで捕まるんだよぉおお!!」とチルリンが隣で叫ぶ。キャロラインは大きなため息をつき、目をつぶり、この狭く暗い牢屋のひんやりする壁に背を預けた。
キャロラインとチルリンは“テテルテン”より更に西の港町“キンコーナー”の刑務所に移送され、牢獄の中に押し込められていた。
この港町には沢山の船が停泊しており、当然その中にはミッドランド行きの船もあった。
そして更に敵国から攻撃されることを前提に作られているこの港町では、沿岸の所々に大砲が設置されており、物々しい雰囲気を醸し出していた。
「もーなんだよ! 顔変えれば大丈夫っていったじゃねーかよキャル!」と叫ぶチルリンを無視してキャロラインは物思いにふける。
一体誰がビアンキお兄様をお父様殺しの犯人に仕立て上げたのだろう。
パナは違う。恐らく違う。この一連の出来事はわたくしをどこかに飛ばすこととセットになっている。
ならば、パナが王宮に来る前から暗殺騒ぎがあったわけだから、パナだけは違うはずだ。
まてよ。
もしかすると順序が逆なのかもしれない。
暗殺騒ぎがあったからパナを雇い入れたのではなく、パナを王宮に呼び寄せるために暗殺騒ぎを起こしていたのかも。
それなら、わたくしが消えてパナをそのまま女王として君臨させ、意のままに操ることができる。
だとすると、そのすべてをコントロールできる人物は一人しかいない。
イエロー。
行政の長であり、身代わり作戦を考えパナをつれてきた、そしてなにより、わたくしとパナのことを知る数少ない人間……
そうだ。間違いない。
あいつが、お父様を殺したのだ。
あいつが……
あいつがぁああ!!
キャロラインは怒りで我を忘れてしまいそうだった。
「なぁ、おい聞いてるのかよキャル!」とチルリンが隣で叫ぶ。「どうにかしろよ! このままだと殺されちまうぞアチキ達!」
「どうしろったって……」と言いながらキャロラインは正面を見る。
正面には鉄格子と、通路と、通路に落ちているバナナの皮と、そして更に向いの牢獄に繋がれた年配の男がいるだけだった。
年配の男はバナナをむしゃむしゃ頬張り、そして、その皮を通路に投げ捨てていた。
そういえば向いの年配の男は見たことがあるぞ、と思った。盗みをしようとしていたときに遠くの方で若い男に激怒していたオッサンだ。
「あ~あ、ここの見張りがあのバナナの皮に足をとられて頭でも打って、そんで鍵までこっちに転がってきてくれないかな~」とチルリンが言った。
そのありえないシュツエーションに期待するチルリンにキャロラインは思わず鼻を鳴らした。
そんなことなど、まずありえるはずがない。
キャロラインは鉄格子に近づいて、左右を眺めると、そこには捕まっている沢山の囚人が見えた。隣の獄や、更にその隣の獄までずらりと囚人がいた。
「二人の獄でよかったわねチルリン」
「よかないやい!」とチルリンは叫んだ。「アチキはただ良い服が着たいだけだったんだ! それなのに……なんでこんなことになったんだ! もうお前なんかについていかなきゃよかった! 失敗した!」
「なによ……そこまでいうことないじゃない」
「ここで言わなきゃいつ言うんだ! もうすぐアチキ達殺されちまうぞ!」
「順番があるはずよ。それまでに逃げれば問題ないでしょう?」
「どうやって逃げるんだ! どうやって!」
「うるさいわね! それを今考えてるんじゃない!」
「この無計画女! なにが女王だ! 無鉄砲な無能女!」
「ふざけんじゃないわよこのモンスター! あなたはわたくしとの取引を自分で選んだんじゃない! そうでしょう? なのに今更なによ!」
「これだから人間は信用できねーんだ!」
チルリンがキャロラインのほっぺを引っ張り、キャロラインもやり返す。そのあともお互い更にボルテージがあがり、互いを罵り合い、殴り合う。
ここの牢獄すべてが見渡せる通路の奥で、キャロラインとチルリンがもめている状況に溜息をつく男がいた。帽子を深くかぶったここの刑務官だ。彼の腰にはここの全牢獄をあける鍵がついていた。
今はちょうど昼時で、皆出払い、彼だけが通路の奥に設置された小さな椅子に座りこの状況を眺めていた。
彼は憂鬱だった。
囚人たちの争いに割って入りたくなかったのだ。
でも、この騒動を放っておいたままだと上に知れたら、最悪クビになるかもしれない。
だから彼は刑務官の武器である木の棒を持ち、椅子から腰をあげた。
自然とため息が出てきた。
鉄格子のすぐ傍まで来たのだが、二人の女(キャロラインとチルリン)は訳の分からぬ言葉を喋り、まだキャットファイトイトを続けている。
「ホウエ! イカネグゲタ! ――おい! やめるんだ!――」と刑務官は二人に呼びかける。
二人は言葉なんて聞こえていないかのようにまだ争い続ける。
「ゲケマエタウガウ! ――お前ら落ち着くんだ!――」と言い刑務官が木の棒を置き、鉄格子の隙間から二人の肩に手を伸ばした。
すると、片方の女がその手を弾き飛ばす。
そのせいで刑務官のバランスが崩れ、後ろに足をついた。
そして、そこには運悪くバナナの皮があった。
刑務官の体は思い切り宙を舞い、そして通路の石の床に思い切り後頭部を打ち付けた。
シャー、という音と伴に刑務官の腰のベルトから外れた鍵がキャロラインとチルリンの牢獄の中に滑り込んでいった。
殴り合っていたキャロラインとチルリンの二人は、互いの胸ぐらを掴みながら、目を合わせた。
「逃げるわよチルリン!」
「分かってる! アチキに任せな!」チルリンはそう言うと、鍵穴に鍵を刺し込み、それを右に回す。
すると、カチンという音をたて牢獄の扉が開かれた。
扉から飛び出したチルリンはすぐさま階段を駆け上がりここから逃げ出そうとするが「待って!」とキャロラインはチルリンを止めた。
「なんだよキャル! 早くしねーと他のヤツがきちまうだろ!」
「いや、それじゃたぶん逃げきれない。だから……わたくしに考えがあるわ」
「なんだよ!」
「ここの囚人全員を逃がすのよ! この鍵でね!」
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
悪役令嬢は断罪の舞台で笑う
由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。
しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。
聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。
だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。
追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。
冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。
そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。
暴かれる真実。崩壊する虚構。
“悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる