悪役令嬢キャロライン、勇者パーティーを追放される。

Y・K

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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編

41、執政官、策謀を振り返り、全ての準備を整える。

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 イエローは王の間の前で声を張り上げる。


「イエローでございます」


 すると扉の中からいつも通り女王に成りすましたあの女の声が聞こえてくる。


「そう、入りなさいイエロー」


 ギギギ、と王の間の扉が開かれてゆく。



 キャロラインと瓜二つの赤毛のその女は王の間の玉座に座っていた。



 イエローは王の間へと入ってゆき、扉が閉まるのを見計らってから傍らの机の書類に目を落とす。


 そこにはサインが書き込まれていた。


 イエローは無言でそれを手に取り、そして鼻を鳴らした。


「ふふふ。上手くなってるじゃないか。ほとんどあのアバズレと変わらん感じのサインができているな。パナ、褒めてつかわす」


「それはどうもありがとう」と玉座に座る女は言った。


 イエローはその言葉を聞くと、書類を放り投げ、ズカズカと玉座までたどり着くと、無言で女の頬をぶった。


 女の赤い髪が乱れ、頬が赤くなる。


 その姿を見てイエローは微笑む。


「どうもありがとうございます、だろパナ。言葉遣いを間違えるな。お前の今の主人は誰だ? うん? 誰だと思うパナ? 答えなさい」


「イエロー様です」


「その通りだ。私の方が上でお前が下。それが私とお前の関係性だ。いいか? お前が息をしている時、食事をとっている時、お前がベッドの中に足を滑り込ませる時、そのすべての瞬間、お前は私よりも下の存在なのだ。分かるな?」


「はい……」


「家族を殺されたくなければそのルールに従うことだ」


「はい……」


「そうそう。重要なことを伝えようと思ってここに来たのだ。忘れていたよ」


「……」


「ビアンキがもうすぐこの城に到着する」


「!!」


「繰り返すが、ビアンキを裁く場で妙な真似はするなよ。お前が妙な動きをした場合、すぐにお前の家族を殺すように手配している」


「……」


「いいかハッタリではないぞ。私の傍らに常に通信魔法士を置いて、いつでも外部に指示できるようにしておく。その合図は簡単だ。私の傍らにいる通信魔法士の頭を撫でればよい。それだけでお前の家族は簡単に――」


「わかりましたわイエロー様。わたくしはビアンキ様の処刑を公の場で命じれば良いのですね?」


 ふふふ、とイエローは鼻を鳴らす。


「その通りだパナ。ずいぶん物分かりがいいじゃないか。それに――ようやく言葉遣いも直ってきたようだな」


「随分苦労いたしました。どうすればオラのような農民の――」と、言った瞬間またイエローは女の頬を引っ叩く。また赤毛が宙を舞い、頬が更に赤く腫れた。


「言ったはずだ。もう二度と“オラ”というな。まったくお前の物覚えの悪さは折り紙付きだな」


「すみません……。その……ではよろしいでしょうかイエロー様……」


「なんだ?」


「わたくしにアルバトーレ様を殺した理由をお聞かせ願いたいのです……」


「なんだと? 聞いてどうする?」


「いえ……その……」


「……」


 まぁ話しても問題ないか、とイエローは思った。しかし不思議だ。アルバトーレも言っていた気がする。何故だ、と。皆どうして理由など知りたがるのか……。そんなもの一つしかないだろうに……


「うーん、そうだな。私は元々そうやって生きてきたからだ」


「あの……理由がよく分からないのですが……」


「だから言っただろ。私は元々そうやって生きてきた。それが理由だ。目の前に山があればのぼる。それだけだ。別に特別な恨みもなければおかしな思い込みもない。

 欲しくなったんだ、この玉座が。それだけだ。

 小さい子供が色々欲しがるのと同じようなものだ。あれがほしい、これもほしい、あの女を抱きたい、富を得たい、玉座が欲しい。
 だれだって、そのような願望ぐらいもったことがあるだろう?
 私だってそうだ。だからそうしたまでのことだ。

 まぁ常人は大概思うだけで終わるがね。私が常人と違うところは、それを実行に移したところだ。そこだけが、私と常人が違うところだ。

 まず父を殺し、イエロー家の家督を継いだ。
 もちろん理由は家督が欲しかったからだ。
 次にイエローの領地にいたとてつもない美人の人妻を犯したくなった。だから、そこに出向き、その人妻を手籠めにした。だが、彼女の夫が私に怒って抗議しようとしたものだから、さすがに面倒くさくなってね。やむなくその一家ごと抹殺した。もちろんその人妻もだ。あいつらさえ殺してしまえば不名誉な噂は広がらない。
 次に私はガインス家の領地が欲しくなった。お前は知らんだろうが、ガインス領はドンスターで最も豊かな土地の一つなのだ。だから私は噂を流し、ガインス家の兄弟同士を殺し合わせた。私はガインス家の一番下の妹とその時点では結婚していたから自動的にその領土はその妹の所に転がり込み、そして、私のものとなった。もちろん用済みになったその妹……つまり我が妻だが、しっかり首を絞めて殺しておいたよ。
 次に私はミッドランドの玉座がほしくなった。
 だからまずキャロライン陛下と瓜二つの女……つまりパナ……お前を探し出し、操り人形とすることですべての権力を手中に収める計画を考えた。
 そして……それを実行した……
 わかるだろう? だから……、こう……、欲しくなった。それが理由さ。
 私が皆と違うところはただ実行しているだけ。そういうほんの少しの違いがあるだけさ。
 最近楽しんでいる遊びは王都にお忍びで出かけ、その日限りの女を捕まえることだ。その女を犯し、そして散々楽しんだあとに証拠を残さないように殺す。これもほんのお遊びだが結構楽しい。王都のよいところは腐るほど人がいるところだ。まるで雑草のように人が生えてくる。だから私がすこしぐらいその雑草を抜いたところでなんの問題もない。
 ああ、そうそう。お前とは良好な関係を保っているし、特に殺す必要はないと思っている。だから私もここまで正直にしゃべった。
 ああ、なんだか胸のつかえがとれた気分だよ。やはり正直に喋るというのは大切なことだな」

 そう言ったあと、イエローは優しく女王の頭を撫でた。


「遅かれ早かれ、我らは子を作る。そして、千年続く王朝を私たちの子が受け継ぐのだ。
 だからパナ。今後も仲よくしよう。
 今以上に私に従順になりなさい。そうすれば私も悪いようにはしない。いいな?」


「はい……イエロー様……」


 その言葉を聞き嬉しくなったイエローは座る女王の手をとり、その手の甲にキスをした。


 そして、一人だけで女王の寝室に入ってゆく。


「別に今すぐに抱いてやっても良いが、ビアンキを始末したあとの方がより気兼ねなく楽しめる。だから、そうしようか」


「はい……」


 イエローは寝室を眺めた。相変わらず綺麗な部屋だった。


 白を基調とした壁にピンク色のカーテン。

 いい香りのするお香の匂いに、黄金の燭台がベッド脇に置かれている。

 そして、壁に立てかけられた時計の針がカチリコチリと鳴っていた。

 以前ベッドサイドテーブルに置かれていた表示の読めないおかしな時計は、今は枕元に置かれているようだった。


 イエローは微笑むと、王の間を後にした。


 とにかく、明日で決まるのだ。


 ビアンキを殺しさえすれば、あとはもう敵などいない。



 いや、と思い留まる。そういえばキャロラインがいた。もちろん生きていれば、の話だが……



 まぁどちらにせよ、見つければ暗殺者を送り込めばいいだけだ。


 今度は小難しいことはしなくていい、殺すだけで良い。


 前は、本物が死んでしまえば兄のビアンキに王位が移る可能性が高かったので敢えて殺さない選択をしたが、パナが女王と信じられている今ならキャロラインを殺しても特に支障はないだろう。


 そのためにも明日、まずは確実にビアンキを処刑する。


 ふふふ、とイエローは微笑んだ。明日が楽しみで楽しみで仕方が無かった。
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