放課後はファンタジー

リエ馨

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第25話 消えない過ち・後編

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 フェレナードの溜息は深く、沈黙が少しだけ続いたが、話はおもむろに再開された。

「……けど、ある時王子が熱にうなされてるのを見て、体が勝手に助けてしまったんだ」

 そう言ったフェレナードの声色は複雑だった。
 優貴も不思議に思った。それまでは王子を殺めることしか頭になかったはずなのに。
 と言いたそうな優貴の視線に気付き、彼は困ったように笑って、助けた理由を付け足した。



 城に住み込むまでは、ずっと妹の世話をしてた。妹も体が弱かったからね。それが重なって……反射的に。
 そしてその時、生きようとしてる命を奪おうとしていたことにようやく気付いたんだ。
 塔にたった一人で高熱の中、ベッドから小さな手を伸ばしているのを見てしまった。
 同じように苦しんでた妹は助けたのに、王子を助けないのはおかしいんじゃないのかって我に返ったんだ。
 そこから王子に忠誠を誓った、という昔話さ。



 話し終え、ようやくフェレナードは飲み物に口を付けた。
 それから、今の彼の一連の話はダグラスとインティスしか知らないと言うことを補足された。
 日本に生きている限り、空想の世界でしか聞かないような話を聞いてしまった。

「……何で俺に話したの?」

 優貴は遠慮がちに尋ねてみたが、返事は実にあっさりしていた。

「もう一人くらい、知ってるやつがいてもいいかなと思ってさ」

 そんな理由?

「ダグラスの子供の頃の話を聞いたろ?」
「それは聞いたけど……」

 フェレナードの問いかけに優貴は答えたが、それが何を意味するのかがわからなかった。
 小さい頃、故郷の内紛に巻き込まれて、自分だけが生き残ったという話だったはずだ。

「……ああ、ダグラスは言わなかったのか。だったら俺がわざわざ言うことじゃない。気にしないで」
「余計気になる言い方……」

 溜息混じりの優貴に、インティスは目を細めた。
 ダグラスの子供の頃の話は、インティスも高校生たちと一緒に聞いていたが、確かにダグラスは彼らに言わなかったことがあった。
 それが今フェレナードが言い掛けて濁した、ダグラスが貴族たちを嫌っていたという事実だ。それはインティスも、フェレナードからたまたま聞いて知った。先日の話だ。
 内紛の首謀者は統治する側である地位の高い連中で、彼らが平民であるダグラスの身近な住人たちを戦禍に巻き込み、その命を奪っていった。それがダグラスの貴族嫌いの所以だと。
 ただ、インティスと高校生たちにその話をした時に、ダグラスがそれを言わなかった理由はわからない。フェレナードは、十年も前のことだからいい加減考えも変わっているだろうとは言っていた。彼の言う通りだったり、たまたま言わなかっただけなのかもしれないが、妙に引っかかるな、とインティスは思った。
 話題を戻したフェレナードが溜息をつく。

「あの時の自分は子供だったとはいえ、人を一人殺そうと本気で考えてたのは……今となっては恐ろしいことだと思ってる」

 フェレナードはそう言うと、椅子に横向きに座り直して片膝を立てた。余り行儀がいいとは言えないその座り方は、彼にしては珍しいように優貴には見えた。

「……でも、今はそうは思ってないんでしょ?」

 膝の上で頬杖をついたフェレナードに優貴が尋ねると、彼はそのまま笑って答えた。

「そうだね。けど、そういうことを考えてたという事実はなかったことにはできない」

 頬杖のせいで、複雑に流れる銀の髪がさらさらと揺れる。

「……この後ろめたい気持ちは、きっと一生忘れられないんだろうね」

 いつも上から目線で物を言ってくる彼の青い目が、今はただ後悔ばかりを映していた。
 普段は堂々としている姿しか見たことがなかったから、背中を丸めて片膝を抱える目の前の彼は、まるで別人のようだ。
 視線に気付き、フェレナードが頬杖を外す。

「いきなり重い身の上話をするなって? まあ、信じるかどうかは任せるよ」
「し、信じるってば」
「それはありがとう」

 突然上から目線が戻って来て、優貴は慌てて頷いた。信じるかどうか、なんて、先ほどの後悔をたたえた目を見てしまったら疑いようがない。
 優貴はカップを両手に持つと、聞いた話をもう一度頭の中で思い出しながら、その登場人物の行方が気になった。

「ねえ、フェレのお母さんと妹さんは……」
「二人は故郷の西の群島に今もいるよ」
「そっか……」

 父親以外の家族はまだ生きている、という事実を確認すると、少しだけ安心した。

「……そんなきっかけがあったなんて、全然わかんなかった」

 何も教えられなければ、イメージはいつまでも上から目線の王子の教育係でしかなかったはずだ。

「言わなきゃわからないことは沢山あるからね。そこにいるインティスだって、実はこの世に一人しかいない伝説の賢者を呼び起こせるっていう特技があるよ」
「えっ!? 何その無敵スキル……!」
「あんたは余計なことは言わなくていい」

 壁側からツッコミが飛んで来て、フェレナードが苦笑した。
 こうして見ると、二人とも普通の友人同士のような感じさえする。
 あれ? ということは、今まで気品があるように見えていたのは、あえてそう見せていただけ……?
 わからない。大人ってわからないぞ。
 多少の困惑はあったが、少しは彼らのことがわかったように思えた。



 十年も前のことを実は今でも引きずってました、なんて、確かに言われなければわからない。
 今までこちらからは話しかけにくいとさえ思っていたが、今回のことでそれは大分和らいだ気がした。
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