運命の恋人〜その記憶は必要ですか〜

ちー。

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 私、フォーラティアの日常生活は、あの日あの時に大きくかわってしまった。

 公爵令嬢として何不自由なく過ごし、幼馴染の王子とは、母親同士が仲が良く、一緒に遊び、時には競い合いながら成長した。時には喧嘩もしたけれど、生来素直な2人は不機嫌が長続きせず、すぐに仲直りをして……。年頃になるとお互い意識し合い、恋仲になり、身分も釣り合う事から、今から1年前ーー王子のフェラベリートが17歳・フォーラティアが16歳の時に婚約が成立した。

 いつも側にいた。どんな時も一緒にいた。お互いに対する恋心を少しずつ、少しずつ大切に育ててきた。
 このまま、お互いを思いやりながら、結婚して最期の時までずっと一緒にいるのだと、当たり前に思っていた。
  
 あの日、フェラベリートが18歳の誕生日を迎えた日、王宮の庭にある祈りの泉が一面まばゆい光に包まれた。湖が真ん中を中心に弧を描く様に水面が揺れる。その数センチ上に、黒髪の少女が祈るように手を組み浮かんでいた。
 王子の誕生日パーティーに集まっていた人々は、その神秘的な光景に釘付けで。フォーラティアもその光景に見惚れていたが、横から「うっ」と小さなうめき声が聞こえたかと思うと、隣にいたフェラベリートが膝から崩れるように座り込んだ。

「フェラン!」

 焦って愛称で叫んでしまう。慌ててフェラベリートを支えたけれど、フォーラティアの力では支えきれず同じようにしゃがみ込んでしまった。その時、小さな小さな声だったけれど、はっきりと

「彩……」

 と口にし、王子は意識を失った。

(「アヤ」と言うのは人の名前かしら……?)

 私が王子に気を取られている間に、泉に浮いていた少女も助けられたらしい。ふと気付くと、王国騎士団団長に抱きかかえられていた。どうやら意識が無いらしい。


「フォーラティア様、お怪我は?」

 王子の側近二人が、王子を抱え私を起こしてくれた。

「ありがとう。カイルライト様、ジークラード様。私は大丈夫。それより王子を……」

「王子は部屋までお連れします。あなた様も手当を。」

 ジークラードに言われて初めて自分の手首の痛みに気づいた。どうやら支えきれなかったときにひねったらしい。

「お供します。」

 カイルライトが怪我をしていない方の手を取り、エスコートする。

「フェラベリート様をお願いね!」

 真っ青なフェラベリートの顔に後ろ髪を引かれながらも慌ててジークラードにお願いする。
 必死な姿にフッと微かに笑ったジークラードは

「お任せ下さい」

 とだけ言い、王子を抱えて去って行った。

「あいつも笑うんですね。珍しい」

 豆鉄砲を食らったような顔をしたカイルライトは、そう言うとフォーラティアを促した。

(大口を開けて笑っているのは見たことないけれど、割と頻繁に微笑むわよね?)

 と、暢気なことを思いながらも痛みを増す手首に眉をしかめた。
 この後、手首の痛みなど比べものにならないほどの胸の痛みを抱えることになるなど、この時はまだ何もわかってはいなかった。
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