運命の恋人〜その記憶は必要ですか〜

ちー。

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「……前世の記憶、って?」

 フェラベリートが目を覚ました、と言うので急いで向かったフォーラティアは、人払いがなされ、2人きりの部屋でフェラベリートに前世の記憶を思い出したことを告げられた。
 ちなみに、フォーラティアの手首は王宮医療術師により完治済みだ。

「ティアが驚くのも無理ないね。ごめんね。大切なことなんだ。彼女がここに来ているし。」

「彼女、とは、祈りの泉に現れた方の事、よね?あの方とお知り合いなの?」

「うん。いや……私、と言うかフェラベリートの知り合いじゃない。先程話した前世での知り合い……だね」

 苦渋に満ちた顔で、絞り出す様な声で話すフェラベリートは痛々しい。握りしめた拳が微かに震えている。フォーラティアはそっと手を取り、手を撫でながら気になっていた事を問いかけた。

「……アヤさん、と言うお名前?」

 フェラベリートは僅かに目を見開く

「なぜ……」

「そうなのね。フェランが倒れる直前に呼んでたの」

「……そう、か。」

 フェラベリートはそっと目を逸らすと、撫でていたフォーラティアの手をギュッと握り、震える声で説明する。

「彼女は、その、……前世での、恋人、なんだ」

「ーーっ。……。」

 ……こんな時、何と答えれば良いのか、何と思えば良いのか。
 浮気相手、と言われれば酷いと詰れる。
 元恋人なんだ、と言われれば、知りたくなかったと言うか、どんな人か探ってみるか、色々あると思うけれど、「前世の恋人」。
 例えば前世からの想いが、消えずに今もあるとするならばーー。

「フェランは、つい先程前世を思い出した、のよね?」

 今度は震えるフォーラティアの手をフェラベリートが優しく握る。
 
「そうだね。泉に浮かぶ彩を見て、いきなり膨大な記憶が入ってきて意識を失ったから……。」

「そうよね。……前世のお名前、聞いて良い?」

「颯太。……斎賀 颯太。だよ。」

「今の意識は、想いは、フェランの方が大きいの?それとも、思い出したソウタの意識が大きい、の?」

 声があまりでない。でも大事な事だから、しっかり聞かないと。でも胃の辺りが重い。

「うーん。主軸はフェラベリートだね。颯太の記憶は……そうだね、長編の物語を読んだ気分、に近いかな?感情移入はするけど、私じゃない。考え方や行動も共感する部分はあっても、フェラベリートである私とは違うね。……ティア、何か勘違いしてない?」

「かん、ち、がい?」

 少し安心した私を見て、正確に私の懸念を把握したフェラベリートは握っていた手を離し、フォーラティアの頬をそっと撫でる。

「ティアが好きだよ。何よりも誰よりも愛おしいと思っているよ。私の唯一だ。他はいない。ーーそれは、前世の記憶を含めても、だ。」

「え?で、でも、恋人……」

「うん。確かに彩は前世で恋人だったし、好きなんだと思ってたんだけど……ティアと恋人になって、毎日際限なく愛しい想いが溢れ出て、ふふっ、今だって溢れ出てる最中だよ?ーーこんな想いがあるんだと、今世で初めて知ったんだよ。上手く伝えられなくて悔しいな」

 フェラベリートは頬を撫でながら、そっとフォーラティアの唇に自分のそれを重ねた。優しく手を引き抱きしめる。

「ごめん。伝え方が悪かったね。君は聡い人だから、黙っててもいずれ気付くんじゃないかと思って。その時に間違えた情報が伝わるなら私から、と思ったんだけど、ティアに君以外に恋人が、なんて、前世の事でも言いたくなくて、それに、それが原因で少しでも嫌われたら、君の気持ちが少しでも冷めたらって、ウジウジしてしまった。ははっ。情けない」

 フェラベリートの言葉に安心して涙が止まらなくなったフォーラティアはここぞとばかり、フェラベリートにギュッと抱きつく。安心する香りに包まれ、ホッとする。

「良かった」

 フェラベリートが小さな声で呟く婚約者を蕩けそうな瞳で見つめ、強めに抱きしめなおした時、前触れもなく、いきなり部屋のドアが開いた。
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