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しおりを挟む貴族の除籍届にサインをするのが自分だと言われた旦那様は驚いて息まで止めて固まってしまったわ。
そもそも、なぜ私がお義父様の指示で平民になるという発想になるのかしら。
離婚すれば普通は実家に帰るから、『離婚されて出戻ってきた娘などいらない』と実の両親から除籍を言い渡されるならまだわかるわ。
何も悪いことをしていない嫁を義父が平民にしたとすれば、私の実家が許すはずがないのに。
不思議なことをおっしゃるわね。
旦那様はようやく息を吸うことを思い出したようね。言葉が出てきたわ。
「なっ……どうして僕が。僕はこの伯爵家の跡継ぎなんだ。何かの間違いだ。
あ、それこそ脅しだろう?君と結婚を続ければ貴族で、彼女と再婚するなら平民になれって。
だが父は本気じゃないはずだ。僕がいなくなれば困るからね。僕は何年かかっても父を説得する。
だから、君は早いうちに離婚して実家に戻れば再婚も可能になるだろう。それがいい。」
旦那様は一人で勝手に納得して頷いているわ。
思い込みの激しい方だとはお義母様からも聞いていたから、驚くより呆れるけれど。
「旦那様、お義父様は脅しではなく本気で望んでおられますよ。
元婚約者の方がこの伯爵家に受け入れられることは決してありません。何があろうとも。
お義父様は遺言にもしたためられたそうですので、万が一のことがあり旦那様が伯爵家を継がれることになっても、元婚約者の方は妻にはできません。彼女との関わりが認められた場合でも、旦那様は除籍となります。」
つまり、愛人になるのも許さないってこと。旦那様、わかってるかな?
「そんな馬鹿なっ!僕を除籍にしたら、誰が跡を継ぐんだっ!」
「旦那様しか継げないというわけではございませんよ?我が子であっても相応しくなければ継がせない親もいますからね。」
また固まってしまわれたわ。
今までわりと我が儘を許してもらってきたものね。今回も折れてくれると思った?
いつまでも子供でいないで、責任を持たなければならない時期が来ているのを忘れたのかしら。
「旦那様の名義で元婚約者の方を住まわせている家ですが、再来月の家賃を支払う今月末、この期日に旦那様が家賃を支払われた場合は関係を続ける意思があるとみなし、伯爵家から除籍となります。
月末までに元婚約者の方と別れた場合、そのまま彼女が自分で家賃を払って住み続けるのは自由ですが、契約者の名義は必ず変更して下さいね。何かご質問は?」
旦那様が頭を振るったので質問はないのかと思ったけれど、単に正気に戻るための動きだったようだわ。紛らわしい。あ、それとも何で部屋を借りたことを知っているか驚いたのかしら?
「今月末ってあと21日しかないじゃないかっ!そんな簡単に決められるものじゃないだろっ!」
あら。元婚約者に未練タラタラで3年間も結婚した妻を避けていたから迷いなく彼女を選ぶのかと思っていたわ。
やっぱり貴族から平民になるって未練たっぷりでも愛だけでは無理なのかしら。
「旦那様、まだ21日もありますのよ?十分時間はあるではないですか。
ですが、騎士としてお忙しい旦那様に助言をして差し上げますわ。
元婚約者の方がいつこの国に戻ったか、調べられてはいかがかしら。もちろん、ご本人に聞いては意味がありませんよ?学園を今年卒業された令息あるいは来年卒業される令息など、若い方はご存知かもしれませんわ。」
若い令息方に聞けばわかると言えば、旦那様でも何となくわかったかしら?
まぁ、どの程度を想像なさっているかは不明だけど。
本当は駆け落ち後のことから調べさせるといいんだけど、旦那様はお忙しいし時間をかけるのも面倒なんだもの。
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