元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?

しゃーりん

文字の大きさ
2 / 20

2.

しおりを挟む
 
 
貴族の除籍届にサインをするのが自分だと言われた旦那様は驚いて息まで止めて固まってしまったわ。

そもそも、なぜ私がお義父様の指示で平民になるという発想になるのかしら。
離婚すれば普通は実家に帰るから、『離婚されて出戻ってきた娘などいらない』と実の両親から除籍を言い渡されるならまだわかるわ。

何も悪いことをしていない嫁を義父が平民にしたとすれば、私の実家が許すはずがないのに。
不思議なことをおっしゃるわね。

旦那様はようやく息を吸うことを思い出したようね。言葉が出てきたわ。


「なっ……どうして僕が。僕はこの伯爵家の跡継ぎなんだ。何かの間違いだ。
あ、それこそ脅しだろう?君と結婚を続ければ貴族で、彼女と再婚するなら平民になれって。
だが父は本気じゃないはずだ。僕がいなくなれば困るからね。僕は何年かかっても父を説得する。
だから、君は早いうちに離婚して実家に戻れば再婚も可能になるだろう。それがいい。」


旦那様は一人で勝手に納得して頷いているわ。
思い込みの激しい方だとはお義母様からも聞いていたから、驚くより呆れるけれど。


「旦那様、お義父様は脅しではなく本気で望んでおられますよ。
元婚約者の方がこの伯爵家に受け入れられることは決してありません。何があろうとも。
お義父様は遺言にもしたためられたそうですので、万が一のことがあり旦那様が伯爵家を継がれることになっても、元婚約者の方は妻にはできません。彼女との関わりが認められた場合でも、旦那様は除籍となります。」


つまり、愛人になるのも許さないってこと。旦那様、わかってるかな?


「そんな馬鹿なっ!僕を除籍にしたら、誰が跡を継ぐんだっ!」

「旦那様しか継げないというわけではございませんよ?我が子であっても相応しくなければ継がせない親もいますからね。」
 

また固まってしまわれたわ。
今までわりと我が儘を許してもらってきたものね。今回も折れてくれると思った?
いつまでも子供でいないで、責任を持たなければならない時期が来ているのを忘れたのかしら。


「旦那様の名義で元婚約者の方を住まわせている家ですが、再来月の家賃を支払う今月末、この期日に旦那様が家賃を支払われた場合は関係を続ける意思があるとみなし、伯爵家から除籍となります。
月末までに元婚約者の方と別れた場合、そのまま彼女が自分で家賃を払って住み続けるのは自由ですが、契約者の名義は必ず変更して下さいね。何かご質問は?」


旦那様が頭を振るったので質問はないのかと思ったけれど、単に正気に戻るための動きだったようだわ。紛らわしい。あ、それとも何で部屋を借りたことを知っているか驚いたのかしら?


「今月末ってあと21日しかないじゃないかっ!そんな簡単に決められるものじゃないだろっ!」


あら。元婚約者に未練タラタラで3年間も結婚した妻を避けていたから迷いなく彼女を選ぶのかと思っていたわ。
やっぱり貴族から平民になるって未練たっぷりでも愛だけでは無理なのかしら。


「旦那様、まだ21日もありますのよ?十分時間はあるではないですか。
ですが、騎士としてお忙しい旦那様に助言をして差し上げますわ。
元婚約者の方がいつこの国に戻ったか、調べられてはいかがかしら。もちろん、ご本人に聞いては意味がありませんよ?学園を今年卒業された令息あるいは来年卒業される令息など、若い方はご存知かもしれませんわ。」


若い令息方に聞けばわかると言えば、旦那様でも何となくわかったかしら?
まぁ、どの程度を想像なさっているかは不明だけど。

本当は駆け落ち後のことから調べさせるといいんだけど、旦那様はお忙しいし時間をかけるのも面倒なんだもの。



 





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

皇帝の命令で、側室となった私の運命

ぱんだ
恋愛
フリード皇太子との密会の後、去り行くアイラ令嬢をアーノルド皇帝陛下が一目見て見初められた。そして、その日のうちに側室として召し上げられた。フリード皇太子とアイラ公爵令嬢は幼馴染で婚約をしている。 自分の婚約者を取られたフリードは、アーノルドに抗議をした。 「父上には数多くの側室がいるのに、息子の婚約者にまで手を出すつもりですか!」 「美しいアイラが気に入った。息子でも渡したくない。我が皇帝である限り、何もかもは我のものだ!」 その言葉に、フリードは言葉を失った。立ち尽くし、その無慈悲さに心を打ちひしがれた。 魔法、ファンタジー、異世界要素もあるかもしれません。

年上令嬢の三歳差は致命傷になりかねない...婚約者が侍女と駆け落ちしまして。

恋せよ恋
恋愛
婚約者が、侍女と駆け落ちした。 知らせを受けた瞬間、胸の奥がひやりと冷えたが—— 涙は出なかった。 十八歳のアナベル伯爵令嬢は、静かにティーカップを置いた。 元々愛情などなかった婚約だ。 裏切られた悔しさより、ただ呆れが勝っていた。 だが、新たに結ばれた婚約は......。 彼の名はオーランド。元婚約者アルバートの弟で、 学院一の美形と噂される少年だった。 三歳年下の彼に胸の奥がふわりと揺れる。 その後、駆け落ちしたはずのアルバートが戻ってきて言い放った。 「やり直したいんだ。……アナベル、俺を許してくれ」 自分の都合で裏切り、勝手に戻ってくる男。 そして、誰より一途で誠実に愛を告げる年下の弟君。 アナベルの答えは決まっていた。 わたしの婚約者は——あなたよ。 “おばさん”と笑われても構わない。 この恋は、誰にも譲らない。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです

睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?

君を愛する事は無いと言われて私もですと返した結果、逆ギレされて即離婚に至りました

富士山のぼり
恋愛
侯爵家に嫁いだ男爵令嬢リリアーヌは早々に夫から「君を愛する事は無い」と言われてしまった。 結婚は両家の父が取り決めたもので愛情は無い婚姻だったからだ。 お互い様なのでリリアーヌは自分も同じだと返した。 その結果……。

貴方は何も知らない

富士山のぼり
恋愛
「アイラ、君との婚約は破棄させて欲しい」 「破棄、ですか?」 「ああ。君も薄々気が付いていただろう。私に君以外の愛する女性が居るという事に」 「はい」 「そんな気持ちのまま君と偽りの関係を続けていく事に耐えられないんだ」 「偽り……?」

エレナは分かっていた

喜楽直人
恋愛
王太子の婚約者候補に選ばれた伯爵令嬢エレナ・ワトーは、届いた夜会の招待状を見てついに幼い恋に終わりを告げる日がきたのだと理解した。 本当は分かっていた。選ばれるのは自分ではないことくらい。エレナだって知っていた。それでも努力することをやめられなかったのだ。

処理中です...