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12.
僕は両親と妻が待っている伯爵邸へと戻った。
ひょっとして、今度は妻から『離婚してほしい』と告げられることになるのだろうか。
そう言われれば、僕は認めるべきなのだろうか。
ロザリーへの未練がなくなった僕は、あれだけ離婚を口にしておいて今更だが妻とやり直すべきだと思っている。
もちろんそれは僕の勝手な思いだ。
だが、純潔を奪った僕には責任があるのだ。……これも今更だが。
両親とも話し合いが必要だが、まず妻に謝らなければならない。
そう思いながら中に入ると、両親と妻ロザリアが待っていた。
「……ただいま帰りました。」
「お帰りなさい。」と母が。
「逃げずに戻ったか。」と父が。
「言いませんでしたね。」と妻が父に話しかけた後、「お帰りなさいませ。」と言った。
妻は僕が何を言わなかったと思ったのだろうか。まさか『離婚してほしい』か?顔が引きつった。
確かに、妻への第一声は『離婚してほしい』ばかりだったのは間違いない。
自分がいかに不誠実な夫であったかを改めて認識した。
その時、妻のドレスの後ろから出てきたものに驚いた。
「かーたま、だっこ。」
幼い男の子が妻に向かって両手を差し出している。妻はその男の子を抱き上げた。
「エルビス、あなたのお父様よ。」
「とーたま?」
「そうよ。上手に言えたわね。」
「はぁ?な……何だって……?」
今、僕に向かって『あなたのお父様』と言ったか?そんなわけ……あっ初夜か。初夜なのか?
でも気づかないわけが……
「アドバス、お前、自分の子供なわけがないとか思っていないか?」
いや、初夜のことがある限り、絶対にないとは言わない。でもなぁ。
「とりあえず、部屋に行って座りましょう。」
母に従い、ひとまず座ってお茶を飲むことになった。
母と妻の間に座っている子供をじっくり見た。……僕に似ている。やはり初夜の子か。
「旦那様は不思議に思っておいでなのでしょうね。ですが思い返してくださいませ。結婚式の翌朝に1回目の離婚を口にされました。それと、先日の15回目は私の部屋でした。その間の2回目から14回目はどこで離婚を口にされましたか?」
「どこって。君が朝食を食べている食堂で。」
っていうか数えていたのか。15回か。知らなかった。いつも、気合を入れて食堂に入っていた。
気合が入らない日はそのまま仕事に行った。月に1度くらいしか帰らなかったが、割合からすると少ないな。
「そうですね。旦那様が入ってきて離婚を告げ、私が断り、出ていくまで15秒ほどでしょうか。もちろん、私は座ったままお答えしていましたので、テーブルに隠れて膨らんでいたお腹にも気づかなかったのでしょうね。」
言われてみれば、離婚を告げることに精一杯で妻がそこにいるという認識しかしていなかったように思う。
「アドバス、お前には座っているリアの記憶しかないんじゃないか?」
そうかもしれない。父はロザリアのことをリアと呼んでいるんだな。知らなかった。
「あなたがあまりにも気づかないから、こちらからも何も言わないことにしたのよ。」
母が笑いながらそう言った。
そう言えば、いつだったか母が庭で小さな子を抱いているのを見かけた。その時はどこかの夫人が孫と一緒に来たのかと思っていた。泣き声が聞こえたこともあったが疑問にも思わなかった。
そして重大なことに気づいてしまった。
「まさか、僕が平民になっても構わないと除籍届を用意していたのは………」
「もちろん、エルビスがいるからだ。それに離婚するならリアを養女にするつもりだった。」
へ……?嫁から娘にする気もあったのか?本気で僕を要らないと?
離婚を断られていたのは、エルビスがいたからだろうと今はわかる。母として息子から離れたくなかったのだろう。
除籍届が用意されていたのはロザリーと再会して彼女を囲ったことを知られたからだ。
つまり、離婚に同意どころか僕を追い出す気だったのだ。エルビスの父親がいなくなるので母親であるロザリアをこの家の養女にしてこのまま一緒に暮らすつもりだったのだ。
……帰って来たものの、僕は次期伯爵になれるんだろうか。
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