初恋は沼、あるいは闇

しゃーりん

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マリアローズは素晴らしい淑女だと称賛されている公爵令嬢である。

彼女が王家に嫁ぐことを反対する者などおらず、国の未来は今後も明るいと国民は思っている。
だがただ一つ、誰も口にはできないが、不釣り合いに思えるもの。

それは、マリアローズの夫となるグレンザー王太子殿下。 
 
彼は、ぽっちゃり王子だ。 
 
美男美女の両親から生まれたグレンザーは、もちろん顔は整っている。
しかし、子供の頃から甘い物が好きで体を動かすことが嫌い。
 
それでも、マリアローズとの婚約が調うまでは、隠れぽっちゃり程度で治まっていた。
痩身マッサージや衣服のデザインなど、周りで仕えている侍女侍従の努力の成果で。

だが、婚約が成立してからは周りが気を抜いたことと、グレンザーの成長期に伴い食事量が増え、隠れていないぽっちゃり王子となってしまった。

そのため、マリアローズと並ぶと同い年の二人には見えない。
 
見た目は不釣り合いではあるが、グレンザーは王太子としてしっかりと学んでおり、マリアローズとの会話は国に関することばかりで、いかにも政略結婚の相手といった関係らしい。 

高位貴族になるほど恋愛結婚など難しくなるのだから、仕方のないことである。


 
そして、15歳になったジャレッドにも婚約の話があがった。

 
「近々、お前の婚約する相手を紹介する。」

「もう相手は決まっているということですか?」

「ああ。よほどのことがない限り、反故にはならない。」


性格が合わない程度では、家同士、親同士の決定を覆すようなことにはならないということか。


「ワイズモア侯爵家の次女リリーベルだ。今、11歳だな。」

「4歳下、ですか。」


まだ子供じゃないか。 


「リリーベルはマリアローズの従妹だ。」
 

従妹と聞き、そうだったと思い出した。
ワイズモア侯爵家はケイトリン母上の実家で、母上の弟が現侯爵だ。

マリアローズにとって、ジャレッドは父方の従弟で、リリーベルは母方の従妹だ。


「リリーベルを選んだのはマリアローズだ。」

「姉上が……そうですか。」

 
マリアローズの従妹ということは、似ているのかもしれない。
ひょっとして、リリーベルをマリアローズの代わりにしろということなのだろうか。

リリーベルがいれば、マリアローズが嫁いだ後もジャレッドが寂しくないだろうと。
マリアローズに似た子なら、大切にするだろうという優しさからではないか。 



マリアローズはあとひと月で学園を卒業する。

そのひと月後、今度はジャレッドが学園に入学する。

そしてその三か月後、マリアローズは王太子殿下に嫁ぐのだ。

別れの日は、近い。
 

 

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