初恋は沼、あるいは闇

しゃーりん

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マリアローズが嫁いで八か月目のことだった。

クレセント公爵の妻、ケイトリンが亡くなった。

ジャレッドが公爵夫妻の養子になってこの七年、月に一度ほどしかケイトリンとは顔を合わせていなかったが、ずっと変わった様子も見られなかったのでこのままの状況が続くのだと思っていた。

風邪を拗らせた肺炎で亡くなったそうだ。


数日後の葬儀には多くの者が参列し、人が途絶えた後、マリアローズがやってきた。


「お母様……」


マリアローズはケイトリンと二人で最期の別れをしていた。 
 

「お父様、屋敷にあるお母様の形見をいただきたいのですが。」

「……好きなものを持っていきなさい。」

「ありがとうございます。」 


マリアローズがクレセント公爵家に戻るのは、結婚後、初めてのことだった。


別々の馬車で屋敷に戻る。

少しは話をする時間があるのだろうか。

ジャレッドはそんな浮かれたことを考えてしまった。
 
 

 
マリアローズはケイトリンの部屋へと向かって行った。

公爵は執務室へと向かう。
ケイトリンの棺は、明日、領地へと運ぶ手配になっていた。

ジャレッドはマリアローズが姿を見せるのを待っていたが、彼女はなかなか現れなかった。
母親の部屋で泣いているのかもしれない。

王宮からの侍女がいるため、ジャレッドが付き添うこともできなかった。
 

「姉上はどうしている?」

「少し体調を崩されたようで、おやすみいただいております。」

「大丈夫なのか?」


マリアローズは……妊娠中なのだ。
結婚後、早い時期に妊娠したらしく、現在は妊娠六か月ほどといったところか。

優秀なマリアローズはそんなところまで優秀だった。


「体は問題ないとのことです。しかし、御母上を亡くされた心の痛みは時間の経過が必要だろうと医師のお言葉です。」

「それは、そうだな。」


マリアローズと話ができるのではないかと浮かれていた自分が恥ずかしくなる。
 

今日はそれぞれ部屋で夕食を済ませ、明日は領地へと向かうため、ジャレッドも早めに寝ることになった。

しかし、なかなか眠りは訪れず、真夜中になった頃、コンコンと扉がノックされた。


「ジャレッド?」


寝室の扉を開けたのはマリアローズだった。


「姉上?」

「よかった。起きていて。」


ジャレッドはベッドから下りた。


「ここに来てはマズイのでは……」

「大丈夫よ。侍女は寝てるもの。」 


実家であっても、王太子妃が誰にも見つからずにウロウロできるのだろうか。


「ねぇ、ジャレッド。わたくし、あなたの初めてをもらいに来たの。」
 
「初めてって、なんの?」

「お願いしたでしょう?他の女性に触れないでって。」


まさか……


「わたくし、もう純潔ではないから一線を越えても大丈夫よ。」

「いや、でも、それは……不貞になる。」


王太子妃が不貞などしたら罪は重いはずだ。

いつの間にかジャレッドに触れるほど近くにいたマリアローズが囁いた。


「誰も見ていないわ。あなたの初めては全てわたくしが欲しいと言ったでしょう?」


マリアローズが望むことは叶える。

以前、そう心に決めた。
 
 

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