初恋は沼、あるいは闇

しゃーりん

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朝早く、マリアローズは王宮に戻り、クレセント公爵とジャレッドもケイトリン母上の埋葬のために領地へと向かった。

クレセント公爵領は王都から近く、朝早く出れば馬車でも夜には着く。 
 
ジャレッドは公爵とは別の馬車にマーカスと乗った。


「王太子妃殿下、いえ、マリアローズお嬢様は大胆なことをなさいましたね。」


やはり気づかれていたか。

王太子妃殿下としてではなく、公爵令嬢としての振る舞いだったと言いたいのだろう。
公爵令嬢としても問題だが。


「……姉上と共に屋敷に泊まった者には気づかれていないか?」 
 

侍女と騎士が泊まったはずだ。


「問題ございません。ですが公爵様は二度とマリアローズお嬢様の滞在をお許しにならないでしょう。」

「ひょっとして、父上はこうなるとわかっていたのではないのか?なのに僕の部屋に来る姉上を止めなかったのは何故だ?」
 
 
公爵はずっと、マリアローズとジャレッドの関係を黙認してきた。
最後の一線を越えなければいい、と。

しかし、マリアローズが嫁ぎ、もう純潔ではない今、滞在を許せば今度こそジャレッドと最後まで関係を持つことがわかっていたのではないだろうか。


「妊娠されている今だから、許したのでしょう。」

「どういうことだ?」
 
「不貞を犯しても、ジャレッド様のお子を妊娠なさることはないのですから。」


確かにそうだが。


「ジャレッド様はご存知ないでしょうが、本来、マリアローズお嬢様はとても我が儘な御方ですので。」 

「我が儘?」

「はい。公爵令嬢という立場から、手に入らないものなどほとんどありませんでした。ですので、納得しなければ諦めるということがないのです。ジャレッド様をねだったのもマリアローズお嬢様です。その代わり、王太子殿下の婚約者になることを受け入れられました。」

「姉上が僕をねだった?」


マリアローズを王太子妃にするために、公爵が代わりの跡継ぎを必要としたのではないのか?


「そうです。ですので、公爵様はマリアローズお嬢様がジャレッド様と戯れることも嫁ぐまでのことだとお許しになりました。ですが、お嬢様はジャレッド様の最初の相手になることを諦めていなかった。今回が無理なら、また次の機会を狙っていたでしょう。」

 
公爵はそれがわかっていたから、マリアローズがジャレッドの部屋に行くのを止めなかったということか。
 
一年、他の女性に触れるなと言ったのは、その間に屋敷に来るつもりだったからだ。

マリアローズの望みはできる限り叶えてあげたいとジャレッドは思っていた。
それは逆に言うと、我が儘を聞いてあげていたということでもある。

自主的に動いていたと思っていたが、動かされていたともいえる。

マリアローズにとって、年下のジャレッドを操ることなど簡単だったのだろう。

だが、自分が選んで行動してきたことばかりであるため、腹が立つこともない。


「つまり姉上は、僕に対してやり残したことはもう無くなったということだな。」

「そういうことになるかと。」
 
 
ジャレッドの初めての女になった。
だから、もう満足した。

そう言うことか。 

ジャレッド自身も、初恋の熱などすっかり冷めていた。
罪悪感で目が覚めたからだ。


「王都に戻ったら女性を手配いたします。」


早く忘れろということだろう。
二度と抱けない女の記憶を塗り替えろと言われた気がした。

 

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