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リリーベルの実家、ワイズモア侯爵家は人気が多いせいかクレセント公爵家より賑やかだ。
離婚してここに戻りたいとリリーベルは思っている気がして、腕の中のサフィルを下ろせばもう会えなくなるような感覚に陥った。
「ちちうえはおむかえにきてくれたんだよね?」
サフィルのその言葉に縋りつくように、頷いた。
「そうだよ。一緒に帰ろう。」
「うん!」
サフィルを懐柔したように思われただろうか。
だが、この機会を逃すことはできなかった。
「リリーベル、一緒に帰ってくれるか?」
ジャレッドの懇願に、リリーベルは苦笑して言った。
「サフィルはあなたがお迎えに来ると知って待ち構えていました。ひとまず帰ります。帰ってから話し合いましょう。」
「わかった。ありがとう。」
そんなやり取りを見ていた侯爵夫人が言った。
「リリーベルの出産が近づいてきましたら、屋敷にお邪魔させていただいてもよろしいですわよね?」
「もちろんです。子供の誕生を共に喜んでいただけたら嬉しく思います。」
侯爵夫人はサフィルの遊び相手に他の孫も連れて行くことも公爵に伝えてくれと言った。
つまり、侯爵夫人は離婚はないと言っているのだ。
娘と孫が正しい立場に戻るに越したことはないと。
しかし、侯爵夫妻は、ジャレッドの父としての公爵に腹を立てているらしい。
それは当然だろう。
リリーベルを蔑ろにしたのだから。
マリアローズが嫁いだ時点で、クレセント公爵家の跡継ぎはジャレッドであるべきなのだ。
それなのに、我が子だからとマリアローズの我が儘を受け入れようとしたのだから。
リリーベルの母として、侯爵夫人は公爵に嫌がらせをする気のようだが、それくらいで戻ってきてくれるのであれば大歓迎だ。
もう二度と離れたくない。
リリーベルとサフィルを連れてクレセント公爵家に戻ると、使用人たちは喜んでいた。
マリアローズに加担した使用人はもういない。
残っているのは、ジャレッドとマリアローズの関係も知らない者だけだ。
リリーベルを不満に思っていた者も排除した。
マリアローズの頼みで、彼女の侍女をしていた者たちがそのまま働き続けていたが、彼女たちがマリアローズに情報を漏らしていた者たちだからだ。
リリーベルが流産したことも、今更ながら彼女たちの仕業ではないかと思ってしまう。
夜、ジャレッドはリリーベルと話し合うことになった。
「本当に申し訳なかった。姉上の思惑に振り回されて間違った判断をした。何を言われようと、僕はリリーベルと子供たちを選ぶべきだった。」
「私も妊娠していたから、逃げてしまったわ。逃げるならあなたも連れて行くべきだった。」
マリアローズが次期公爵になると言っても、アリシア王女がジャレッドの子だと言われても、自分たちは離れるべきではなかったのだと、お互いが冷静になってから気づいたようだ。
王家とクレセント公爵がマリアローズの勝手な振る舞いを許すはずがないと。
「戻ってくれるということでいいんだよな?」
「ええ。でもね、知りたいの。私が出て行ってからあなたは何度マリアローズ様を抱いたの?」
その言葉にジャレッドの息が止まった。
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