好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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エドモンドが雇ったレイフォードの教育係がやってきた。

50歳を過ぎた男に見える。エドモンドが教育を受けた20年ほど前は30歳くらいだったのだろう。

正直言って、不安でしかなかった。 


「レーゲン公爵家エドモンド様から、依頼されて参りましたコベール・グランと申します。
聞くところによると、私が受け持つお子様は将来レーゲン公爵家の養子になられる可能性があるとか。
私はエドモンド様を立派に教育したと自負しております。どうぞ、ご安心ください。」


……いや、不安でしかない。
 

「では早速、始めさせていただきたく思います。」


挨拶もそこそこにコベール・グランはレイフォードと部屋に向かった。
熱意は感じられても、どうしても懸念してしまう。
 

コベール・グランについて、リゼルとエヴァンは調査をした。
彼は先代グラン侯爵の弟で独身。
 
確かに多くの教育実績はあったものの、そのほとんどが伯爵家だった。
公爵家・侯爵家ではエドモンドの他、数人だけなのだ。

事実上、クビになったと思われる数は少なくない。

伯爵家での実績は、おそらく兄であった前侯爵の手前、断れなかった、あるいは、押しつけられたのであろうと思われた。 

前侯爵の息子である現グラン侯爵は、叔父コベールがグラン家の名前を利用して仕事を得ることを嫌がり、近々その権利を無くすつもりで動いていた。

そこに打診したのがエドモンドだった。公爵家からの依頼だが、行先は伯爵家。
それならば、とグラン侯爵はエヴァンに会うことにした。

エヴァンはグラン侯爵から、叔父コベールと教育方針が合わなければすぐさま解雇してほしいと言われた。 

むしろ、こちらが解雇することを望んでおり、バーナー伯爵家からの苦情によって叔父コベールの教育係としての仕事に引導を渡したいとのことだった。

詳しいことは聞けなかったが、いったいどんな教育を施すつもりなのか、非常に不安だった。


しかし、それはわずか1日目にして発覚した。




「いやぁ、利発なお子様ですが少々振る舞いが下位貴族のようで困りますねぇ。ですが、私が責任をもって厳しく教育致しますのでご安心ください。」


振る舞いが下位貴族???いったいレイフォードは何をしたのだろう。

珍しく少し不機嫌そうな顔をしているレイフォードに聞いてみた。


「レイ?先生のご指導、どうだった?」

「僕、先生が指示するような貴族になんてなりたくない。僕はお祖父様や父様みたいになりたい。」


あら。エヴァンは嬉しいでしょうね。お義父様も。


「先生がおっしゃることに納得がいかないのね。なら無理に教わる必要はないわ。
先生、どうやら息子との相性が悪いようですので今後の教育はお断りいたしますわ。」

「なっ!勝手に断るとはエドモンド様の顔に泥を塗るようなことだとお分かりか?
それに、たかが伯爵家が我がグラン侯爵家も愚弄する行為なのだと理解が及ばないらしい。」

「何をおっしゃっているのかわかりませんわ。
失礼ですが、先生は雇用される側。あなたを雇うも雇わないも権限はこちらにあります。」

「私を雇ったのはエドモンド様なのだぞ?」

「確かにそうですが、お断りする権限は伯爵家にあるのですよ?」


当然のことだと思うけど。エドモンドは伯爵家にはいないのだから。
 


 
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