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エイダン様の屋敷は、騎士団の分所からほど近い場所にあった。
エイダン様の次兄が辺境伯屋敷のそばにある本部で、エイダン様は街中の分所で働いているという。
いるかいないかもわからないジョーダンの追っ手と、辺境伯の屋敷で会った騎士たちに万が一にも顔を見られたくないと思ったリリィは自ら進んで外套についているフードをかぶって屋敷の中に入った。
「リリィ、みんなを紹介する。
執事兼侍従兼その他諸々を任せているマイク、それから、メイド長兼その他諸々を任せているラン、そして、2人の孫のメイジー、料理人のエリック、護衛兼侍従兼御者は3人いて今日はトミーだ。」
メイジー以外は40歳より上に見える。みんな、笑顔で迎え入れてくれた。
「リリィと申します。使用人のお仕事は初めてでご迷惑をおかけするかと思いますが、頑張って覚えますのでよろしくお願いいたします。」
思わず貴族風の挨拶をしそうになったが、頭を下げて挨拶を終えた。
「よろしくお願いしますね。もう少し気楽にしてくれていいですよ。
エイダン様、本当に使用人として働かせていいのですか?婚約者や奥様でもいいと思いますが?」
メイド長ランの言葉にリリィは驚いた。
しかしエイダン様はそう言われると予想していたように淡々と答えた。
「リリィが今後どんな選択でもできるように、まず自分のことは自分で、更に家事全般を覚えるに越したことはないと思うんだ。
縫い物や刺繍の腕は確からしいが、それで稼いだ金で家事をする使用人を雇っていたら生活などできないだろう?
たくましく生きる力を身に着けてほしいんだ。」
なんか、似たようなことをカーラさんにも言われた気がする。
お金に貪欲に生きないと路頭に迷うことになるのだと。
何もできない元貴族であるリリィは、どうやらたくましさと貪欲さを身に着けなければ独り立ちなど不可能ということだろう。
物事は絵に描いたように簡単には進まないのだ。
「さあ、今日は荷物の整理などなさって、ゆっくりお過ごしくださいね。お仕事の方は明日からお教えしますので。」
「私がお部屋まで案内してあげる!」
メイジーがリリィの手を取って連れて行ってくれた。
「リリィお姉ちゃん、お仕事がない時はお勉強教えてくれる?」
「ええ。いいわよ。メイジーもこの屋敷のこととか街のこととか私に教えてね。」
「うん。」
ご両親を亡くしていてもメイジーはとても明るくて前向きな女の子のようで気が合いそう。
でもそっか。
今のリリィは天涯孤独の身。ひとりぼっち。
だけど、お姉ちゃんと呼んでくれたメイジーを妹のように思えば、ひとりぼっちじゃない気がする。
エイダン様はお兄様?……雇い主にそれは失礼よね。でもそう思えばちょっと楽しい。
マイクさんとランさんが祖父母で、エリックさんとトミーさんが叔父さん。ちょっと変な家族ね。
エイダン様のお屋敷の使用人になることを決めた時、実家の両親に手紙を書いてはどうかと言われた。
実は、辺境でお世話になり始めの頃にも同じことを言われたけれど、断った。
リアンヌは死んだのだから。
辺境に来るまでの道中では、こっそり知らせるつもりでいたけれど、どの道、両親の元へは戻れない。
リアンヌが生きていたと知られるわけにはいかないから。
ならば、死んだと思ってもらった方がいいと思った。
だけど、よく考えたら結婚してからちゃんと会えたことがなかった。
手紙を送っても返事が来ない。両親からも送られてこない。
でもおそらく、ジョーダンの指示で止められていたのだと思う。
結婚していた時も両親に会えなかったのだから、領地に戻れないからといって死んだままの必要はない。
むしろ、辺境にいる今なら、両親と手紙を送りあえるんじゃない?
そう思うようになり、自分が生きていることと平民のリリィとしてエイダン様の使用人になることを手紙に書くと、エイダン様が届ける手続きをしてくれるというので手紙を渡した。
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