24 / 46
24.
妻アイリスの浮気相手であるはずのエリオットがどこの建物に現れてもいいように、数名ずつ配置をし、ディーゼルもすぐに駆け付けられるように近くにいた。
そして、報告が来た。
「ディーゼル様、エリオットが酒場に現れました。」
「そうか。」
ディーゼルはその酒場へと向かった。
酒場に入ると、昼間から酒を飲む男たちがこんなにいることにまず驚いた。
ディーゼルはカウンターに座っている自分の騎士ニックの隣に座った。
「エリオットは店の主人にオーダーをした後、あの扉に入っていきました。まだ出てきていません。」
「奴は何を頼んだんだ?」
「ダブルスタンダード、と聞こえました。」
「……そんな酒あったか?まぁ、暗号のようなものだろうが。注文してみるか。」
ニックが店の主人を呼び、男が前に立った。
「見かけない旦那ですねぇ。いろいろ揃っていますよ。何をご注文で?」
「ダブルスタンダード、というのを。」
店の主人は顔を引き攣らせた後、笑顔で言った。
「申し訳ないです。ひょっとしてお貴族様専用の酒の名前ですかね?聞き覚えがなくて。」
ここにはないから用意できないと言う。
そこでニックが身を乗り出して店の主人に囁いた。
「あの扉に入っていった男、それを注文していたと思うが?まだ出てきていないが入らせてもらってもいいか?」
「何のことだか……見間違いでは?あそこは使用人の休憩場所ですから。」
冷静に答えるが、額には汗が滲んでいる。
酒飲み場を提供していながら、あまり修羅場の経験はなさそうだ。
「あの男、さっき引ったくりをした犯人だと思うぞ。騎士を呼んであの中を捜索させてもいいぞ?」
おいニック、それはでまかせだよな?
「勘弁してくださいよ。うちは何も悪いことはしていません。」
「地下通路、あるんじゃないのか?」
ディーゼルは時間が惜しくてストレートに聞いた。
「通路の途中はお前の一族の土地ってわけではないよな?公有地も私有地もあるから不法侵入していることと同じだ。罪に問われたいか?」
店の主人は顔色が悪い。
「だがお前を捕えようと思って来たんじゃない。あの扉の向こうに消えた男が向かった先にいるのが誰なのかを確かめたいだけだ。お前は私たちがそこに入っていったのを知らなかった。それでどうだ?」
「……本当にそれで許してくれるのですか?」
「ああ。」
男女の密会だけにあの屋敷が使われているのであれば、だが。
もし、よからぬ輩の落ち合う場所や打ち合わせ場所になっているとしたら、摘発されるかもしれないが。
「……部屋の右奥の床のマットを除けると床下に行けるようになっています。あの男が向かったからマットはどけてあるのですぐに見つけられると思います。」
店の主人は扉が視界に入っていないというように背を向けて、他の客の元へと向かった。
……足が震えて躓いていたが。
ディーゼルは、通路を確認してくるというニックに首を振り、すぐさま中へと入った。
一緒に向かったのはディーゼルを含めて四人。
部屋の中に一人、扉が見える位置に二人残して、地下通路の先を急いだ。
あなたにおすすめの小説
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
『紅茶の香りが消えた午後に』
柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。
けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。
誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。