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実は、ディーゼルがベルと街で会い、二人がベルの家に入った後、つけていた馬車があったことに護衛が気づいた。
「どこの者か後を追ってくれ。」
「はい。」
ディーゼルがつけられたのか、ベルがつけられたのか、どちらかわからなかった。
しかし、どちらにせよ、この家のセキュリティは問題である。
またしてもカイルは昼寝中で、起きるのを待っていると護衛が戻ってきた。
「オックス伯爵家に入りました。夫人が乗っていたようです。」
「そうか。」
帽子をとった時にベルの顔を見られてしまったのだろう。
ベルがどこに住んでいるのか、後をつけたのだ。
「ベル、この場所がオックス伯爵にバレた。街に伯爵夫人がいたようで、後をつけられていたんだ。」
「そんな……どうすれば。」
「うちに来い。両親からも二人に会いたいと言われていたからちょうどいい。」
「いきなりご迷惑よ。今日明日に兄がやって来るわけでもないと思うし。」
「いや、逆だ。今日明日にでもやって来るだろう。前のことがあるから逃げられないように捕らえに来るはずだ。」
「では宿に。」
好色爺にベルの純潔を売ったのに、純潔を失っているどころか妊娠までしていた彼女に、伯爵は怒り心頭だっただろう。
ベルに対し、恨みが増したはずだ。
今度は娼館か奴隷商にでも売りつけるつもりで、手元に置いて逃げられないようにしそうだ。
「カイルはまだ小さい。宿で泣くと苦情がきて追い出されるかもしれないぞ。侯爵家には部屋がたくさんある。住み込みの使用人たちにも一緒に来てもらったらいい。」
カイルと使用人のことを言うと、巻き込むわけにはいかないと思ったのだろう。
ベルは侯爵家に来ることを受け入れてくれた。
屋敷にはベルとカイルを連れて戻ることを先に連絡し、ベルは自分とカイルの荷物を準備し始めた。
「ベル、念のためにソレイユの作品を数点だけ運んでもいいか?運びやすいサイズのものだけ。」
「まるでここで乱闘があるかのようなんですけれど?」
「万が一に備えてだ。放火なんてされてみろ、全部燃えてしまうぞ。」
放火をして外に出てきた所を捕まえるつもりの可能性だってあるんだ。
早く二人を安全な場所に保護しないと落ち着かない。
「わかったわ。……私も、もう少し荷物を纏めてきます。」
ベルも、オックス伯爵である兄がそこまでしないとは思いたいが、しそうでもあると考えたようだ。
バタバタしているうちに、カイルが目を覚ました。
「やあ、カイル。前に一度会ったが覚えているか?」
ようやくカイルの名を呼べた。
カイルはディーゼルを覚えていないようだったが。
……あの時はすぐに眠ってしまったしな。
「私はカイルの父親だ。父上と呼んでくれ。」
「ちちうえ?」
素直にそう呼んでくれたカイルを抱き上げた。
可愛い子だ。……自分に似ているのに何故か可愛く見える。
準備をし終えたベルが、ディーゼルがカイルを抱いているのを見て、ダメだとも言えないという風に眉を下げて笑っていた。
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