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37.
ディーゼルがベルとカイルを連れてヘミング侯爵家の屋敷に戻ったのは夕方に差し掛かる頃だ。
馬車の中で、カイルはディーゼルの膝の上に座ってご機嫌だった。
「カイル、お前のお祖父様とお祖母様もいるぞ。」
「おじーしゃまとおばーしゃま?」
「そうだ。そう呼んでやると喜んでくれるぞ。」
カイルに夢中になること間違いなしだ。
「ディーゼル様、それって大丈夫ですか?」
ベルはまだ認知すると決まったわけでもないのにそんな呼び方をさせると両親の機嫌が悪くなるのではないかと思っているようだが、そんなことにはならないだろう。
「問題ない。カイルは私の子だ。両親の孫だ。」
ベルとの結婚も認めさせたいが、時間がかかりそうなのでカイルの認知だけは先にするつもりだ。
オックス伯爵が何を言って来ようと、ベルとカイルが侯爵家の庇護下にあれば何もできないだろう。
ディーゼルがカイルを抱いて馬車を降りると、執事のジョンと侍女長マーサは嬉しそうな顔をしていた。
「おかえりなさいませ。」
カイルは自分が言われたと思ったのか、『ただいま!』と答えて和ませてくれた。
「リザベル様、お部屋の準備も整っております。荷物はそちらにお入れしておきますね。」
「ありがとうございます。お世話になります。」
リザベルは二度目といえども、前回は両親に会っていないため、緊張しているようだった。
「ベル、両親に会うのは少し休んでからにしようか?」
「いえ、大丈夫です。お世話になるのでご挨拶させてください。」
「わかった。」
こうして思いがけず、ベルを両親と引き合わすことになったが、思った通り、カイルにはメロメロになり、ベルのことも気に入ったらしい。
「リザベルさんはお母様似なのね。」
「母を覚えておられるのですか?」
「ええ。私より少し年上だったけれど。伯爵と仲睦まじいご夫婦だったわ。」
「そうですね。とても仲が良かったと思います。」
「前カトレス伯爵夫人もお亡くなりになったのね。」
「はい。祖父が亡くなってから祖母が私を助けるためにカトレス伯爵家を出て、一緒に暮らしてくれていました。」
前カトレス伯爵夫人とは、ベルの母方の祖母で五年間一緒に暮らした人だ。
マシェーリ子爵位と財産があったから、ベルを助けられたのだろう。
前妻アイリスは顔も性格もキツく、母ともこんな穏やかな会話にはなっていなかった。
ベルは美人でしっかりしているが、本来は穏やかな気質だろう。
母とも合いそうだった。
父はカイルを膝に乗せて嬉しそうだ。
カイルのよくわからない話に頷き、『そうか』『よかったな』とニコニコしている。
カイルの『おじーしゃま、おばーしゃま』攻撃は一撃だった。
ベルとカイルを両親に取られた感じがしたが、見合いをセッティングされる前に二人を連れて来られてよかったのではないかと、オックス伯爵夫人に密かに感謝したいほどだ。
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