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40.
父が提案した二択に、ベルはまたしても三つ目の選択肢を出した。
伯爵にも、伯爵令嬢にもならず、マシェーリ子爵でいることを。
だが、ベルはマシェーリ子爵の身分ではディーゼルに嫁げないのかと確認したのだ。
まだ望みはあるはず。
「そうではない。君がそれを望むなら、子爵として嫁いでくれても構わない。
だが、カイルと、今後生まれるかもしれない子供たちのことを考えてみてほしい。
母親が伯爵家か子爵家か、それだけで見方を変えるのが貴族だ。親の知らないところで子供が母親の出自を貶められるのを聞くのは可哀想だ。」
侯爵家の嫁に子爵令嬢というのはあまりないことだ。
ベル自身が子爵であるということは爵位を持っているということで好ましいことだが、領地がないのではあまりうまみはない。
子供もそうだ。
領地があるか、ないか。
高位貴族か、下位貴族か。
同じ侯爵令息で、同じような成績でも、差をつけるのであれば両親の格で見下すということがある。
本人が気にしていなくても、言われると腹が立つだろう。
「子供のために……そういうことですか。わかりました。
私は学園を卒業していないので領地のあるオックス伯爵家を継ぐことはできません。ですので、叔父を指名し、養子にしていただいて、伯爵令嬢としてディーゼル様に嫁がせていただくことが確かに一番望ましいことだろうということはわかりました。
ですが、私に侯爵家の嫁が務まるとは思えません。私は……画家でもあるのです。」
「画家!?」
「はい。カイルを産んでからは、年に数点しか描けていませんが。」
ここ数年、作品数が減った画家。
あの家に飾ってあった、いくつもの出回っていない絵画。
アトリエで過ごした時期があったから、というわりには、他の画家の作品はほとんどなかった。
「まさか、ベルがソレイユ?」
「そうです。素性は全く公開していませんが。私は絵を描くことが好きです。やめるつもりはありません。
積極的に社交をする時間があるのであれば、絵を描きたい。
ですので、次期侯爵夫人として相応しい嫁にはなれないと思います。」
「いや、ベル。ちょっと待ってくれ?君がソレイユ、なんだな。そのことは……また後でにして、社交なんて別に最低限で構わないぞ?夫人同士にも付き合いだの何だのってあるだろうが、行きたい時だけ行けばいい。というか、あんまり一人で外出されるよりも一緒に外出する方がいいし。」
ディーゼルがそう言うと、父が呆れたように言った。
「お前の前の妻はしょっちゅう外出していたが一緒に行く気もなかったのに、リザベル嬢だと一緒に行きたいんだな。むしろ家から出したくないから、社交よりも絵を描いてくれる方が嬉しいんだろう?」
そして母がニコニコと言った。
「ディーゼルの言うとおり、社交なんて最低限で構わないのよ。嘘っぽい話ばかりなんだから。まだまだ私も表に出るし、好きな時に絵を描けばいいわ。でも、できたら孫がもう一人いてくれたら嬉しいわ。」
「本当によろしいのですか?」
ベルは驚いていたが、両親もディーゼルも構わないと言った。
「よろしくお願いいたします。」
ベルがディーゼルの嫁になることを受け入れ、両親は嬉しそうだ。
ディーゼルも喜んだ。
だが、一つ言い出せないまま、胸に閉まってしまった。
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