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ここは王城内にあるゼクランの部屋らしい。
宰相室に勤務する者は、その仕事内容からすぐに呼び出せる場所にいなければならないため、全員の部屋が王城内にある。
他の部でも役職のある者は王城内に部屋が用意されている。
それ以外の者は、少し離れたところにある独身寮か、街中から通って来ている。
王城内の部屋は夫婦で暮らすことは可能だが、子供がいる場合は街中に家を用意し、王城内の部屋は当直の時だけ使われるということが多い。
「宰相補佐の仕事を続けるつもりでいるのかしら。」
そこをちゃんと確認しなければならない。
マーラー侯爵家に戻るというなら、ゼクランとの再婚を考える余地など全くないから。
「結局、こうして悩んでいるのは私もまだあの人に気持ちが残ってるからなのよね。」
アンリエッタは自身に苦笑した。
9年前、離婚を言い出したのは自分からだった。
もうあそこにはいたくなかったから。
当時は、ゼクランにも腹を立てていた。
でも、後で冷静になると自分も悪かったと思うところがあった。
「ちゃんと話を聞いてから、自分の気持ちに正直になりたいわ。」
愛があっても、結婚は破綻するのだから。
女官に体を拭いてもらって着替えた後、診察に来た医師に傷口を消毒してもらい、薬湯を飲んだアンリエッタが再び眠って目が覚めると、熱はほとんど下がっていた。
「アン、食事だ。」
「ありがとう。」
先ほどの愛の言葉を忘れたかのように、ゼクランは普通の顔でアンリエッタの口に食事を運んでいた。
彼は昔から、表情を隠すことが上手い。
「君を襲った女は今になって自分がしたことに恐れおののいているらしい。君に謝罪の言葉を口にしているというが、罪は罪だ。正常な精神状態だったと見做され、相応の罰を受けることになる。」
「そう。正直言って、気の毒とも思えないわ。私を襲うなんて、思考が飛びすぎだもの。」
あの女性は、ゼクランを傷つけるために一緒にいるところを見ただけのアンリエッタを襲ったという。
本当にたまたまアンリエッタであっただけで、元妻だからというわけでもない。
他の誰かだった可能性もあり、女性の方が反撃されにくいという理由だったのだから。
「あの女は王宮の女官だった。」
「王宮の!?」
王宮は王族の住まいであり、女官は、身元や礼儀、知識、精神状態など厳しい審査をクリアした優秀な者のみが選ばれるため、非常に誇り高い職だと言われている。
「周りは、こんな事件を起こす女だとは思っていなかったと口を揃えたように言ったらしい。」
「そうでしょうね。」
まさか、王宮の女官だったなんて。
貴族として過ごしてきた者は、本心を隠したり周りを騙すのが上手い者が多い。
心の中までは覗けないのだから、採用担当者の責任にするには重すぎる。
もちろん、ゼクランに責任があるとも誰も思わないわ。
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