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しおりを挟むブランシェは、義母がここまで腹を立てているのを初めて見た。
「リンゼをここに呼びなさいっ!」
義母は、息子アンゼムが後妻にと考えている女性なのだから、それなりに尊重して接していたのだろう。
愛人を侍女として屋敷で囲うアンゼムの対応には苦言を呈したいところではあったが、ブランシェが生死不明の状況にあったため、一定期間を置かなければ再婚が早すぎると噂されかねない。
リンゼのひととなりを見るいい機会でもあったのだろう。
なので、アンゼムの対応を『馬鹿じゃない?』と思いながらも何も言わないでいた。
それはブランシェという妻がいなかったから可能であったこと。
本来、妻と愛人が同じ屋根の下で暮らすことなどあり得ないのだ。
そして、夜の逢瀬の話を聞いても『後妻候補で愛人だから』と思って許容していた。
ある意味、外で性欲発散されるよりかはいいと思ったのだ。
それなのに、リンゼは愛人とも呼べない存在だった。
いわば、一夜の遊びの女である。
義母の怒りが爆発した。
「お呼びでしょうか?」
リンゼはうれしそうな顔をしてやってきた。
おそらく彼女は、自分をアンゼムの後妻にすると言われるのだと思っている気がする。
彼女は妄想癖でもあるのかもしれない。
「リンゼ、あなたはアンゼムから子供たちと仲良くなってほしいと言われて、それが後妻になる条件の一つだからと侍女にしてもらった。そう私に言いましたね?」
「はい。とても仲良くなっていると思いますっ!」
ニコニコしながら答えるリンゼが、怖い。
「僕はそんなこと言った覚えはないよ。」
「アンゼム様の心のうちを私が代弁させていただきました!」
心のうちを、代弁?
義母は深くため息をついてから、再び聞いた。
「リンゼは度々、アンゼムの部屋で夜を共に過ごしているということを侍女たちに話していたようですが、それは嘘だとアンゼムから聞きました。」
リンゼは首を傾げてアンゼムを見た。
「アンゼム様、奥様が戻られたからって隠さなくてもいいじゃないですか。何度も熱い夜を過ごして、奥様がいなくなって一年経ったら私と再婚するって言ってくださいましたよね?」
「全く、記憶にない。」
「ぐすん。奥様が可哀想だから私を遠ざけるのですか?わかりました。愛人でも構いません。このまま側に置いてくれますよね?奥様がいない間、私がアンゼム様を慰めてきました。追い出したりしませんよね?」
……どうしよう。
リンゼの演技が下手すぎて、笑いそうなんだけど。
「話にならないわ。あなた、虚言癖があるのね。気づかなかったわ。」
義母はそう言って首を横に振っていた。
「嘘じゃありません!アンゼム様、あんなに愛し合ったじゃないですか。本当のことを言って?」
……ちょっと、瞬きの回数が多すぎるわ。
そんな、上目遣いをしようとしても、あなたは立っていてアンゼムは座っているのだから無理よ。
「……この屋敷のどこで愛し合った、と?」
アンゼムの問いに、リンゼはパッと笑顔になって答えた。
「いつもアンゼム様の部屋のベッドだったじゃないですかぁ。夫婦の寝室はまだ早いって私が遠慮したから。最後はほら、奥様が戻る前日。思い出してくれました?」
……ダメだわ。思わず吹き出してしまったわ。
「僕の部屋にベッドはないよ。」
「…………え?」
「ブランシェと一緒に寝るからね。必要ないんだ。」
そう。アンゼムの部屋にはフレームしかベッドはない。寝転がることすら、できない。
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