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しおりを挟むラルゴ殿下は、少女を殺害したわけではないが、その一端は担っていると見做された。
拉致された少女を金を払って愛でていたのだ。
拉致だと知らなかったとしても怪しむことすらしなかった。
年齢的に興味がなくなった後のことは知らなくても、少女たちが家に帰れるわけがない。
幼女とは違い、男たちの顔を覚えているのだから。
いずれ娼婦になるか、殺されるかは明らかだった。
王族にも関わらず犯罪に加担したことでラルゴ殿下が自ら進んで毒杯を飲んだことは、あっという間に伝わった。
その時は既に、エスメラルダはラース公爵領に来ていた。
エスメラルダは、ラルゴ殿下が犯罪を犯したことで婚約破棄になったとだけ聞いた状態で、慌てて領地へと向かわされた。
そして、体調が落ち着いたのを見計らい、説明された。
「……少女の拉致・監禁に関わっていて、毒杯を飲まれたのですね。」
「ええ。婚約者だったあなたが醜聞に巻き込まれないように、領地にやってきた。というのが表向きな事情よ。」
「表向き、ということは裏があるのですね?」
「……ええ。エスメラルダ、あなたは妊娠しているわ。ラルゴ殿下の子供を。」
「……やはりそうでしたか。そんな気がしていたのです。ラルゴ殿下の子供かどうかは自信がありませんでしたが。」
「気づいていたの?!」
「症状が全て、妊娠によるものでした。月のものも来ないし。図書室の本で調べました。
誕生日の翌朝、下腹部に違和感があったことを思い出しました。少しだけ出血していたことも。
それに、胎動というものを感じました。もう、この子、動いています。」
妊娠は既に五か月に入っている。
ワンピースの膨らみで外見ではわかりにくいが、下腹部が少し膨らんできているという。
「そうよね。さすがに気づくわね。あの時に気づいてあげられなくてごめんなさいね。」
「いえ、私が迂闊だったのです。侍女もつけずに殿下と東屋に行こうとしたのですから。」
あの直前に飲んだ飲み物に眠り薬が入っていたに違いないとエスメラルダは思った。
ラルゴ殿下の可能性が高いが、別人の線も捨てきれなかった。
「私の妊娠のことを知っているのは?」
「医師とあなたの侍女だけ。お母様の侍女にも話して協力してもらうわ。妊婦のフリをするから。」
「……お母様の子供にするのですか?」
「あなたのためなの。そしてその子のため。わかってくれる?」
「はい。もちろん。ありがとうございます。」
その後、公爵夫人は妊婦のフリ、エスメラルダはお腹の膨らみが誤魔化せる時期までは屋敷内を動いていたが、その後は骨折したことにして部屋に籠った。
そして臨月になり、エスメラルダは男の子を出産した。ザフィーロと名付けられた。
エスメラルダが13歳と9か月のときのことだった。
「ザフィーロはいい子ね。エスメラルダの体に合わせて小さく産まれてくれて。でもとても元気。」
公爵夫人はエスメラルダが思いのほか安産だったことに涙した。
万が一の場合は、子供よりもエスメラルダを助けるように指示をしていたのだ。
母親でありながら姉となったエスメラルダ。
祖母でありながら母となった公爵夫人。
出産後、しばらくは領地で過ごしたが、二人とザフィーロが王都に戻る日は近づいていた。
14歳になったエスメラルダが学園に入学することになるからだ。
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