出生の秘密は墓場まで

しゃーりん

文字の大きさ
15 / 20

15.

しおりを挟む
 
 
エスメラルダが襲われたことに誰も気づかなかったからザフィーロは産まれた。

それは間違ってはいないだろう。

あの時、あの翌朝の違和感を、不正出血と分泌物があったことをエスメラルダが正確に伝えることができていれば、医師に診察されていたに違いない。そして避妊薬を飲んでいた。

そうなっていたら、ザフィーロが産まれてくることはなかった。

でも結局は気づくことができずに、何か月も過ごしてしまった。

エスメラルダは馬鹿ではない。公爵家の一人娘として真面目に学んでいた。
閨事の知識がなくとも、自分の体の異変には疑問を持った。
だから、自力で調べたのだ。 

一番疑わしいのは妊娠だった。
そして、最後に月のものが来た日から妊娠しやすい日を計算すると、エスメラルダの13歳の誕生日はその中に当てはまる。

そう思っていたところに、また医師の診察を受けることになった。
医師はエスメラルダに『お疲れなのでしょう。風邪が長引いているようですね。食べられる物だけを食べてよく休んでください』と言った。
長引く体調不良に、医師は疑問を持った様子ではなかった。妊娠を前提に診察したのだとわかった。

あぁ、やはり妊娠で間違いないのだろう。エスメラルダはそう思った。

相手は誰だったのだろうか。可能性として一番高いのは最後に会ったラルゴ殿下になる。
だが、その前にラルゴ殿下の友人にも会っていたので、正直わからなかった。

エスメラルダの専属侍女にも誕生日の行動を聞かれたので、同じことを答えた。

やはり、両親か侍女が妊娠を疑い診察することになったのだ。そう思った。

両親がエスメラルダに何も言わずに動いているのがわかった。
領地に行くようなので、そこで産むことになるのだろう。

他人事のようにそう理解していた。

エスメラルダは、お腹にいる子供を産みたくないとは感じなかった。
自分が望んだわけではなかったけれど、宿ってしまったからには産んであげたい。

そう思っていた。

それから少しして、ラルゴ殿下が犯罪を犯したことで婚約が破棄になったと聞いた。
醜聞に巻き込まれないように、しばらく領地へ向かうということも。 

ラルゴ殿下が犯罪?

両親が何かを暴いたのかとも思った。
だけど、エスメラルダが巻き込まれるとわかっていて、それはないと冷静に判断した。

エスメラルダの妊娠発覚とラルゴ殿下の犯罪が明るみになったことが同時期になっただけだ。

領地に行ってから少しして、ラルゴ殿下の犯罪の内容とエスメラルダの妊娠を聞いた。

妊娠は予想していたから驚かなかった。
ラルゴ殿下に少女を愛でる性癖があったことは驚いた。自分はその犠牲者の一人と言えるのだろう。

だけど、もう二度と会うこともない人だと気持ちの整理はできていた。
誰が父親だろうと、お腹の子供は自分の子供なのだから。

そして両親の子供となることで、子供が醜聞になることを避けられる。

そのことに安心して、出産することができた。

産まれたザフィーロはとても可愛かった。
自分は母親なのに、これからは姉になる。
それは辛かったけれど、ひっそりとどこかに預けられることもなく母と一緒に育てることができるので嬉しかった。 
 
そう。毎日が楽しくて嬉しくて、ザフィーロを産んだことを後悔したことはなかった。

父が亡くなった時も母と2人だけでは心細かっただろうけど、ザフィーロがいたから頑張れた。

12歳になったザフィーロが7歳のリルベルに興味を示したことで少女趣味があるのかと性癖を疑い見張ってきたことは確かだ。その疑いからレイリーと結婚し妊娠しようと思ったことも間違いない。

そして万が一の場合は、ザフィーロを隔離しようとも考えていた。
隔離部屋にはリルベルに似せた人形とドレスを用意して、好きなだけ愛でさせればいいと考えていた。

それで満足するはずはないのだが、エスメラルダの思考は変な方向に振り切りかけていた。
 

エスメラルダの話をそこまで聞いたザフィーロは、腹をかかえて笑い出した。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

愛しているのは王女でなくて幼馴染

岡暁舟
恋愛
下級貴族出身のロビンソンは国境の治安維持・警備を仕事としていた。そんなロビンソンの幼馴染であるメリーはロビンソンに淡い恋心を抱いていた。ある日、視察に訪れていた王女アンナが盗賊に襲われる事件が発生、駆け付けたロビンソンによって事件はすぐに解決した。アンナは命を救ってくれたロビンソンを婚約者と宣言して…メリーは突如として行方不明になってしまい…。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

はずれの聖女

おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。 一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。 シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。 『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。 だがある日、アーノルドに想い人がいると知り…… しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。 なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

処理中です...