14 / 23
14.
しおりを挟む一方、プリズムに興味津々で愛妾にしようとして打診を断られた王太子は、まさかもうコンラッドの弟がプリズムに手を出していたということに驚きを隠せなかった。
王太子は一度だけ、プリズムの顔を見たことがあった。
社交デビューの時だ。
その年にデビューした令嬢の中でも群を抜いて美しかった。
視線を交わすことができないまま、彼女はあっという間に去っていた。
そばには婚約者であるコンラッドが威嚇するように張り付いていた。
ちょうど王太子妃が王子を産んだばかりの頃で、プリズムを側妃にするのは難しかった。
冗談交じりにコンラッドにも、
『彼女は私の妃になる方が嬉しいんじゃないか?』
と言ってみたが、鼻で笑うかのような嘲笑を返された。
『王太子妃様に王子様が産まれたばかりで何をおっしゃるのですか。
側妃は王太子妃様との間に王子が誕生しなかった場合に選考を経て決定されるのです。
妃とおっしゃいましたが、妃にはなれません。
未婚の伯爵令嬢を妃ではなく愛妾に差し出す親なんていませんよ。
それに私は何があっても婚約解消するつもりはありませんからね。』
警戒心を強めるきっかけになったのか、結婚式も身内だけで行い、その後もコンラッドは妊娠・出産を理由に全く社交場にプリズムを出さなかった。
溺愛の噂は誰もが知っていた。
プリズムを見たことがない令息やその親たちも、コンラッドの徹底ぶりに引くと同時に興味も増していく。
コンラッドが亡くならなければ、先日の夜会にプリズムを連れて来るはずだった。
その噂が広まり、プリズムを一目見ようと参加者がいつもより増えると思われていたほどに。
しかし、その機会はコンラッドの葬儀でベールを被ったプリズムを一目見るという状況に置き換わってしまったが。
子供がいなければ、実家に戻って再婚を考えるということになっていただろう。
しかし、既に男の子を出産しているプリズムがそのまま侯爵家に留まることは当然の権利である。
それに、ジュリアスがまだ未婚であったために婚約を解消して亡き兄の代わりに中継ぎになるという判断も間違ってはいない。
そして、ジュリアスが跡継ぎではないために結婚しても次期侯爵夫人にはなれないし子供も継げないとなると、妻となる女性はよほど無害だと判断されなければ受け入れられない。
それならば、まだ若く、美しく、魅力的な義姉と夫婦になることが侯爵家にとって一番いいことなのだ。
侯爵家がそう判断する前に、喪が明けていないとわかっていながらも愛妾になれと打診したのに。
ジュリアスとプリズムの関係が愛妾を断るための偽装ではないかと思い、調査した結果は事実だった。
夫を亡くしたプリズムに寄り添い、慰める。
若い男女の距離が縮まれば、体で慰めることになるのは想像に難くない。
男の性であり、女の処世術だ。
プリズムとの関係が徐々に使用人にもバレて、学園が休みの前の晩などはジュリアスは朝までプリズムの部屋にいるし、結婚後の2人の部屋の改装も始まっているという。
王太子の愛妾にはできないし、他の男の第二夫人や愛人にもならない。
喪が明けたら婚約し、ジュリアスが卒業したら即結婚でプリズムはまた表舞台に出てくることなく侯爵家に囲われるということだ。
「コンラッドみたいに監禁はしないだろうが、ジュリアスもすぐに孕ませそうだな。
姿を見ることができるのは、まだ先になりそうだ。」
王太子は諦めと共に深くため息をついた。
93
お気に入りに追加
743
あなたにおすすめの小説
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
妹の妊娠と未来への絆
アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」
オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話
七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。
離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる