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しおりを挟むランクス伯爵を見送った後、マデリーンの少ない荷物はひとまず客室に運び入れるように伝え、再び応接室へと戻った。
『おそらく驚くと思いますが、何卒広い心でお許しください』
そう告げて逃げるように馬車に乗ったランクス伯爵が何を言いたかったのか、それはこの後すぐにわかった。
ソファに座ってすぐ、口を開いたのは母だった。
「マデリーン、あなた、淑女教育を受けていないのではないかしら?」
そうか。違和感はそれだ。
彼女は常に笑顔だった。しかし、なんというか、口角が上がりすぎだったのだ。
口数が少なかったことも、あまり飲み物に手を出さなかったことも、失敗を避けていたのだろう。
「……クイン伯爵夫人のおっしゃる通りです。受けたことになっていますがほとんど何も。」
「マデリーン、呼び方が間違っているわ。あなたは私の息子の嫁になったの。」
マデリーンは目を伏せていた顔を勢いよく上げて、母に向かって聞いた。
「お義母様とお呼びしてもよろしいのでしょうか。」
「ええ。当然でしょう?」
「ありがとうございます。お義母様。」
マデリーンはとても嬉しそうに笑顔で答えた。母と呼べる存在が出来たことが嬉しいのだろう。
「マデリーン、君の領地での暮らしをランクス伯爵は全て把握できていなかったのではないか?」
父の質問はアークライトも同じように疑問に思っていたことだ。
この度、マデリーンを王都に連れて来ることになってようやくランクス伯爵は知ったことがあったのではないか、と。
結婚するかもしれないのに淑女教育を終えていないこと、そして、もう領地に戻ることはないというのに極端に少なかった荷物を見ると貴族令嬢として暮らしていなかったのではないかと思われること。
ランクス伯爵は、もしアークライトとの結婚がダメだった場合でも、もうマデリーンを領地に戻さないと言っていた。
妻に黙って領地からマデリーンを連れ出したことが妻の耳に入れば伯爵が逃がしたと思われるからだ。
また領地に戻せば、今度こそ後妻の望む不幸な結婚をさせられることになる。
ならば、王都に隠してその間に結婚相手を探すと言っていた。
まぁ、アークライトと即結婚することになったため伯爵は喜んでいたが、貴族令嬢として失格な状態で嫁がせることになってしまったことを詫びていたのだろう。
「そうですね。私も追い出されては衣食住に困るので黙っていましたが、今回もう戻ることがないと言われたので父には話しました。」
マデリーンは5歳で領地で暮らすようになり、一緒に向かった侍女が8歳までいろいろと教えてくれていたらしい。
だが、その侍女が退職することになると変わりがいなくなった。
それどころか、服が小さくなるとメイド服を渡されたそうだ。
『奥様のご指示です』
そう言って、領地のメイドたちはマデリーンを使用人として扱い始めたという。
部屋の場所は変わらなかったが、置かれていた物はほとんど無くなった。
毎年、父である伯爵が領地に来る前に服を3枚渡されて、父が領地にいる間だけはそれを着てメイドの仕事もお休みだった。
父の話から、家庭教師をつけてくれていたり月々の小遣いもあるはずだということがわかったが、マデリーンは何も知らない。だが、話を合わせていたという。
「今回、父は事前連絡なしに領地に来て、私に荷物をまとめるように言いました。もう戻らないと思って特に大事な物だけを詰めろって。残った物は可能ならば新しい住処に送るから、と。
でも私の荷物は昨年の服3枚だけです。」
だからあんなに荷物が少なかったのか。
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