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しおりを挟む結婚式当日は、晴天に恵まれた。
公爵家同士の婚姻は久しぶりで、豪華な挙式を見ようと招待されていない貴族や平民まで大聖堂前に溢れ、まるで王族の挙式のようだった。
急遽、交通整備が必要になるほどで、パレードをしてほしいという要望があったほど。
まぁ、王族ではないので実行されることはなかったけれど。
それほど、両公爵家は王都民に評判が良かったのである。
王太子殿下も『ベネディクトがあと10年待ってくれたら王女と結婚させたのになぁ』とボヤいたとか。
その頃にはベネディクトはもう30歳間近。
さすがに後継者が必要な公爵家の跡継ぎに王命での結婚を出すには憚られた。
一応、打診はしてみたが、嬉しそうにソレーユとの婚約の許可を求める両公爵とベネディクトに、国王陛下も王太子殿下も諦めるしかなかったのである。
念願の誓いのキスが2人の初めてのキス。
キスを終えた2人が幸せそうに微笑みあったことで、思い合っていることも知れ渡った。
もちろん、その夜の初夜も無事に終えることができた。
ソレーユは、ドキドキして恥ずかしくて気絶しそうだったけれど、ベネディクトが何度も愛を告げてくれて幸せな初夜となった。
一方のローザリンデは、ふと今日がベネディクトとの結婚式を挙げる日であったことを思い出した。
次期公爵夫人として、実家の兄ネルソンに嫁いだアメリーよりも上の立場になって貴族夫人の頂点に立つ予定だった。
しかし、貴族夫人よりも上の側妃を選んだことにより、その頂点に立って貴族夫人から崇められる未来を捨てたのだ。
側妃という、より高い位置から貴族夫人を見下ろすために。
だけど、側妃という立場は非常に孤立しており、閉塞された立場だった。
夜会やお茶会、友人にも会えず、ただ妊娠するのを待つだけ。
だけど、半年が過ぎようとしているのに、まだその兆候はない。
両親と手紙のやり取りすら許されないほどなのだ。
それは、外の世界が恋しくなるかららしいが……
こんなはずではなかった。ローザリンデはそう思うばかりだった。
いつもより愛想のいい侍女を疑問に思い、ローザリンデは聞いてみた。
「今日はどうしたの?何かあったのかしら。」
「ええ。今日はおめでたい日ですね。公爵家同士の結婚式ですもの。
素晴らしかったと耳にしました。
この王宮で働く者たちにもお祝いのお裾分けを頂きました。ありがとうございます。」
「……?どういうこと?どうして私にお礼を?」
「あ、花嫁になられた義妹様はローザリンデ様が側妃になられた後に養女になられたのでしたね。
養女になられたのはローザリンデ様の従妹のご令嬢ソレーユ様です。
本日、レジャード公爵家のベネディクト様とご結婚されたのですよ。」
「は?何それ。ベネディクト様と?ソレーユは王宮侍女になったんじゃないの?
私の侍女になるために研修してるんじゃないの?」
「ソレーユ様は、王宮侍女になられる前にタフレット公爵家の養女となり結婚が決まりました。
ですので、王宮侍女はご辞退されました。」
「どうして言わなかったのよっ!」
「……聞かれておりませんので。」
ローザリンデの機嫌取りのために、何度か雑談をしかけたことがある。
その度に、そんな話は不要だと切り捨てられたので聞かれたこと以外は答えなくなっていたのだ。
「私が結婚するはずだった日にソレーユが結婚?ベネディクト様と……私の代わりじゃない!」
「そうかもしれませんが、とても仲睦まじい様子でお似合いだという噂です。
ローザリンデ様は自ら望まれた側妃になられ、婚約解消されたベネディクト様も幸せな結婚。
ソレーユ様が義妹になられたことで、両公爵家も円満ですね!」
侍女は、少し皮肉を込めて言った。
代わりだろうが、公爵家の嫁になるということは貴族夫人の中では格上。
会うことも叶わないローザリンデ様がソレーユ様を見下そうとしても意味はないのだ。
呆然としているローザリンデに頭を下げて、侍女は部屋を出た。
直後、ローザリンデが絶叫する声が聞こえて、物にあたっている音も聞こえる。
一体何度目だろうか。
割れ物は徐々に減らし、ランプも見栄えが良い安物に変えた。
怪我をされる前に片づけなければならない。侍女キャロルは深くため息をついた。
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