1 / 16
1.
ルーチェは2年半ぶりに実家の伯爵家に戻って来た。
夫が事故で亡くなり、子供もいないルーチェは嫁ぎ先には必要なくなったから。
両親も兄夫婦も甥も姪も、出戻りのルーチェに優しくしてくれる。
しかし、当然ながら以前とは違うことも感じ、どことなく肩身の狭い思いをしていた。
再婚か、家庭教師か、修道院か。
いずれ、どれかを選ぶ必要がある。
領地管理を手伝えるわけでもなく、手に職があるわけでもない未亡人の行く末はそんなところだった。
ルーチェが甥姪と遊びながら将来を考えていたある日、ルーチェに面会をしたいという人が訪れた。
両親や兄夫婦もいない中、自分に会いに来た来客を不思議に思ったけれど、王宮からだということで会う選択しかなかった。
「ルーチェ・マロイエ様でしょうか?」
「はい。そうですが。私にご用ですか?」
「ええ。短期間ですが、王宮で働く気はございませんか?数日間で、破格の金額をお支払いします。」
胡散臭くて仕方がない。
「……犯罪などに加担する気はありませんが?」
「とんでもございません。ご了承いただけるまでは詳しい内容はお話できませんが、合法的なものです。
既婚者であったあなたに頼める仕事なのです。」
既婚者だったから頼める仕事って?未婚の令嬢ではダメってことよね?
なんだかよくわからないけど、王宮が絡む仕事なのだから怪しいわけではないのね?
「それは短期間なのですね?
例えば、その後に王宮か王城かで私にでも働けるお仕事をいただくことは可能でしょうか?」
「あぁ、なるほど。ご自身の今後の生活をお考えということですね。
……そうですね。まだお若いですし、侍女教育を受けていただくのはどうでしょうか。
通いではなく宿舎をご希望の場合は一人部屋ですが、侍女はつけられません。
身の回りのことはご自身になりますが、食事と洗濯については担当がおります。」
侍女か。嫁ぎ先でもほとんど自分でしていたし、教育を受ければ出来るようになるわよね?
「わかりました。お受けします。侍女の方も宿舎でお願いします。」
「ありがとうございます。それでは詳しい内容は王宮に来られた時にお話しします。
特にご準備いただくものもありませんし、侍女は制服もありますので。
自分で着られる普段着くらいでよろしいかと思います。
1週間後、受付でビリーに面会だと言えば案内するよう伝えておきます。」
「ビリー様ですね。わかりました。よろしくお願いします。」
胡散臭い仕事内容はまだ教えてもらってはいないけど、それは数日間。
その後は自分で働いて過ごせる居場所が見つかったことに安心していたので気にしないことにした。
その夜、両親と兄夫婦に来週から王宮で働くと伝えた。
急な話にみんな驚き、何かの間違いではないのかと詳細を聞かれた。
数日間、結婚経験者が必要なことを話すと、父と兄は微妙な顔をした。
しかし、侍女として宿舎に住める話をすると正式なものであると理解できたのか微妙な顔はなくなった。
「ルーチェ、そんなに急いで働かなくてもいいんだぞ?」
「ですが、いい機会だと思いましたので。
このまま何もしないよりも働くことができる場所に行きたいのです。」
「わかった。好きにしなさい。無理だと思えば帰って来ればいい。」
「ありがとうございます。」
両親も兄夫婦も、2年半もの間妊娠をしなかったルーチェが普通の再婚を望まれることはないとわかっている。
再婚を望まれることがあるとするならば、跡継ぎが既にいる歳の離れた男に若い体目当てで望まれるだろうということも。
そして、相手が亡くなった時に放り出されるのであれば、確かに今から自立して働いた方が幸せなのかもしれない。
そう思っていた。
あなたにおすすめの小説
売られた先は潔癖侯爵とその弟でした
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。
潔癖で有名な25歳の侯爵である。
多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。
お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。
代理で子を産む彼女の願いごと
しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。
この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。
初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。
翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。
クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。
フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。
願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました
春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました
ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。
けれどその幸せは唐突に終わる。
両親が死んでから何もかもが変わってしまった。
叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。
今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。
どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥??
もう嫌ーー
「離婚しよう」と軽く言われ了承した。わたくしはいいけど、アナタ、どうなると思っていたの?
あとさん♪
恋愛
突然、王都からお戻りになったダンナ様が、午後のお茶を楽しんでいたわたくしの目の前に座って、こう申しましたのよ、『離婚しよう』と。
閣下。こういう理由でわたくしの結婚生活は終わりましたの。
そう、ぶちまけた。
もしかしたら別れた男のあれこれを話すなんて、サイテーな女の所業かもしれない。
でも、もう良妻になる気は無い。どうでもいいとばかりに投げやりになっていた。
そんなヤサぐれモードだったわたくしの話をじっと聞いて下さった侯爵閣下。
わたくし、あなたの後添いになってもいいのでしょうか?
※前・中・後編。番外編は緩やかなR18(4話)。(本編より長い番外編って……orz)
※なんちゃって異世界。
※「恋愛」と「ざまぁ」の相性が、実は悪いという話をきいて挑戦してみた。ざまぁは後編に。
※この話は小説家になろうにも掲載しております。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?